思春期の少年達~3日目~
更新が遅れるたびに原稿を落とした漫画家さんみたいな気分になる私です
「残り人数は?」
此処は夕暮れのホテルの一角。
昼に学園側から特に注意を促されたのだ。
単独行動をなるべく控えられ、上級生の部活にいる生徒は特に行動に制限がかかった。
理由は不明だがおそらく俺達の行動が原因かもしれないとダイキは考える。
実際、付き合いもあるだろうし連日は厳しかったかもしれない。
「先輩達に連れてかれたり、先走って説教送りになったりで残り7名になっちまった」
「無茶しやがって……」
周囲には殆ど見知った仲間と一部の先輩だけとなっていた。
しかし、ここにいるメンバーはそれでも参加してくれているいい意味で馬鹿の集まりだ。
ダイキは下心丸出しというより冒険心がある連中だと思っていた。
「ダイキ、いったい何人の仲間が犠牲になったかわかるか」
「漢の浪漫の為に犠牲となった仲間は、全て記憶している……」
「ザビーネ、ニルス、ワーカー、オットー、ブンドー、皆大切な仲間だった。カノン今日の脱落者は?」
「えっと、アクシア、ルーデンス、リディ……(省略)の12名だよ」
「そうか……本当に残念だ」
ダイキは悲しそうに彼らを思い浮かべながら言った。
別に死んだわけでもないので大袈裟ではある。
しかし、彼らがもたらした情報は全て女子風呂を覗くなんて事は不可能。
ただそれだけの残酷な真実だけだった。
二人を除く誰もが解散を考えていた。
しかし、ダイキの表情は違う。
彼の表情は宛ら山頂へ見つめ挑まんとする登山家のようなものだった。
「大分減ってしまったが諸君らに朗報だ」
「カノンの潜入により女子風呂エリアの鍵付の扉は全部掌握した」
「そういやカノンって……」
全員がカノンを見やる。
カノンは苦笑いしながら鍵魔法師の証である鍵をみせる。
シロエールという規格外のせいでほかの学園在籍の鍵魔法師は陰りをみせる。
しかし、十分に鍵魔法師は希少の存在である。
そして誰かがポツリと呟いてしまった。
「……最初からそうしていれば良かったんじゃ」
一瞬の静寂……。
そして皆顔に両手を当てた。
「俺達は馬鹿だ」
この光景をもし、クノンが見ていたらこういうであろう。
イクザクトリー。
それ以前に目的からして馬鹿です……と。
夜、ダイキ達の部屋――。
ダイキがゴロゴロしているとルーチェとクノンがお風呂の準備をしていた。
「ダイキ達、こっちに着てから何時も何処かふらついているね~」
「何か良からぬ事をたくらんでいたりしていないでしょうか?」
「ナイナイ」
若干わざとらしい位のジェスチャーを交えてダイキは答える。
そんなダイキを見てルーチェとエミーニャは少し怪しい名と思いながら温泉道具を抱え出て行く。
2人が部屋を出たのを確認してからカノンは軽いため息をつく。
「ダイキ、本当にいいの?このままだと時間が被っちゃうんじゃない?」
「カノン……それは他の皆にも言える事だ、むしろ2人を覗くという事もスリルの一つさ」
ポンポンとカノンの肩を叩いていると部屋のドアをコンコンコンと叩く音がする。
ダイキは同じようにドアをコンコンと2度叩くと、向うが1回ノックをした。
合図を確認したダイキはドアの鍵を開け同志達を招き入れる。
「さて、今からカノンの鍵魔法で女子露天風呂にある清掃用具入れのドアを繋げてもらう」
「まさに最強の侵入経路だな」
「用具入れのドアから覗けるだろうか?」
「見づらいけど一応温泉側を向いていたよ」
おお、と声を上げる仲間達にダイキはあるものを配る。
それはウィッグだった。
「今からこれを被って身体にタオルを巻くんだ」
「これは?」
「最悪の場合を考慮して……な?」
カノン以外の全員がウィッグが配られる。
まだ年齢的にも誤魔化しが効いているのだろう。
全員服を脱ぎ、パンツ一丁になってからタオルを巻く。
すると何人かは女の子っぽくなっていた。
「ねぇ僕の分は?」
「いや、お前はいらないだろ」
「必要性皆無だな」
「えぇぇ」
カノンは納得しない顔でブツブツと愚痴りながら浴室のドアの鍵穴に鍵を差し込む。
まずは脱衣所の清掃道具の扉とリンクさせる。
カノンはイメージし、ゆっくり鍵を回すとカチリと音が鳴った。
オオッと周囲が声をあげ、静かに開くと女子たちの声が聞こえてきた。
カノン以外の全員が隙間から覗き込むと高等部の女子達が脱いでいる最中であった。
「あまり、押すなって」
「気配悟られるなよ?」
「あの人すげぇナイスバディだなっ」
後ろ姿だから際どいところは見えないがボディラインがくっきりと見える。
ダイキ以外の男子には刺激が強いのか興奮気味になっていた。
もっとも一番興奮しているのはダイキである。
不意に、女子の何人かが此方を向いた。
ダイキは一瞬で不味いと悟り扉をしめた。
「何すんだよぉダイキ。いいところだったのに」
「多分、3人位が俺たちの視線に気づいたと思う」
「っやべー、武芸科の生徒だったら俺らの視線位すぐ察知される可能性あるな」
「どうする?目標は達成したけど」
「達成?何を言っているんだ、俺たちは入浴中の女子を見る為に集まったのだろう?」
ダイキの言葉に一同沈黙する。
確かに自分達は女風呂を覗くために集まった。
それなのに着替えを覗だけでは初日にやられた仲間達に申し訳がつかない。
「そうだな……俺達は危険を承知で始めたことだ」
「やってやろうじゃないか」
「カノン、後どこの場所を把握している?」
「えっと……露天風呂入口と露天風呂の清掃道具の棚かな?」
ダイキは一度深呼吸する。
周囲の顔をみてカノン以外の顔は覚悟を決めていた。
「湯気とかのタイミングを見計らって潜入するぞ」
「もうこれ覗きってレベルじゃないと思う」
「色んなものをすっ飛ばした未知の領域だな」
ダイキは行こうぜとカノンの背中を叩く。
彼の真っ直ぐなまでの笑顔にカノンは答えてあげないといけない気になってしまった。
ダイキからしたらちょろい女ではなく、男であるカノンが再び鍵を開ける。
すると、温泉には誰もいなかった。
「あれ?誰もいないな」
「でもさっきまで脱衣所には人いたよな?」
「場所間違ってないよな?」
「う、うん」
思ったよりも広く、湯気が立ち込める温泉にまで足をつけ周囲を見渡すが誰もいない。
彼らが帰ろうと考えたその瞬間だった。
周囲を見渡そうとせず、中に入らず、すぐにその場で諦めていればよかったのだ。
脱衣所側からのドアがガラララと音を立てる。
ダイキ達は温泉内にあるオブジェの岩影に思わず隠れた。
「いや~、貸切温泉って何かわくわくするわね」
「いいのかな?私達が……そのご一緒しても」
「大丈夫ですよー」
「……その、ありがとうございます」
背筋が凍った。
何故なら声の中にダイキ達には見覚えのある声があるからだ。
決意して恐る恐る岩陰から覗いてみる。
そこには、湯気でよく見えないが間違いない。
「このタイミングでルーチェとクノンか」
しかも全員タオル巻いてるし。
訂正、問題はそこじゃない、他の声にも聞き覚えがある。
ダイキは二人がフレイヤ先輩と話をしたと言っていたのを思い出す。
彼女の繋がりのある地位のある人間といえば彼女だ。
ダイキの推測の通り、清楚の白蛇ご一考とリーゼロッテの護衛を務めるメンバー全員であった。
覗きをするに至り相手が上級生である事と貴族ではない事を考えていた。
今、この場にいるのはその条件を全部裏返す一番危険な相手であった。
シロエール・ブランシュ・ヴァイスカルト。
アカネ・ロートフェルト。
自分達の学年ではアイドル扱いであり、大国の姫と伯爵令嬢だ。
ダイキは頭をフル回転させる。
逃げ場は脱衣所への入り口か清掃用具入れの2か所のみ。
しかし、どちらにしても彼女達を突っ切らねばならない為、実質不可能だ。
かといって彼女達が上がるまで隠れ続けるのも無理だろう。
ほぼ万策尽きた状態の中、とにかく声と気配を押し殺し岩陰に隠れる。
不意に一人、岩陰の方を目を細めて見つめる人物がいた。
エクレールだ。
「何かいるような……」
隠れた7人がドキっとする。
半獣種族の嗅覚故か彼女の修練故か定かではないが何かを感じ取っていた。
ダイキは彼女の速さを思い出す。
試験の際の隠しだまは見れなかったが、彼女の戦闘力だけ考えても自分以外が逃げれる確立は皆無だ。
(万策尽きたか)
ダイキが諦めて出てこようとした所で急に脱衣所のドアが開かれる。
「すみませーん、ホテルの物なんですが」
「どうなさいました?」
「ええ、先ほど出られたお客様からちょっと温泉から何か出てきたという報告がありまして少しだけ確認致しますので脱衣所の方でお待ちいただけませんか?ほんの1~2分ですみますので」
申し訳なさそうに清掃員の格好をした人がペコペコと謝る。
皆も仕方ないなーといった感じでゾロゾロと脱衣所のほうへ戻る。
これはチャンスだと思った。
一人だけならやり通せるかもしれないと。
しかし、清掃員の格好をした人は温泉を確認する素振りはせずただ此方の方を見ていた。
「ほら、之で借りは返したということでいいかな?」
不意に声質も口調も変わった。
この声には聞き覚えがある。
ダイキ達が温泉から出ると彼女が誰かはっきりわかった。
「あんた…スズノ先輩」
「ほら、時間ないのだから急ぎたまえ」
「あ、ありがとうございます」
カノンが清掃用具のロッカーへかけより鍵を開ける。
ダイキが彼女の横を通り過ぎる時こっそりダイキにだけ聞こえる程度の声で囁いた。
「ふふ、海岸で面白そうな事を話しているなとずっと見ていたよ」
「マジですか……」
部屋に生還したダイキ達は数秒の静寂の後、深いため息をつく。
助かったのだ。
目標は達成しきれなかったのが悔やまれる。
しかし、不意に笑ってしまった。
結果はどうであれ何かやり終えた感じがしたからだ。
皆も一緒に笑い出す。
そしてまた来年もやってみるかと口にしてしまった。
後日、船で武勇伝を話をするのだが、ファンクラブのメンバーが何人もいた。
覆面を被りだしたメンバーに引きずられ異端審問を受ける羽目になるのはまた別の話。




