ジェネレーションギャップ
私ことシロエールは3歳になったのです。
会話もでき自由に歩きまわれるようになった今、私は何をしているかというと……。
「ゆっくり息を吐いて体を曲げる~~……」
エクササイズである。
人間の身体は幼少時から継続して柔軟体操とかしておくと良いという知識を元に身体を鍛えているのだ。
まだ庭にも出して貰えないから走りまわれないし休憩を挟みつつ毎日1~2時間位。
次に手ごろな足のサイズと同じくらいの箱の上に立ちボールという丸いのを投げる構えをとる。
最初は凄いふらついて何度か倒れちゃったのです。何をしてるかというとこれは体幹バランスの強化で姿勢も良くなるし身体のバランスや力を綺麗に伝えられる為、鍛えおくにこした事がないとか。
次に頭の上に本を乗せて歩く練習。之はお嬢様らしい歩き方という知識から始めてみたけど中々難しい。
田舎領主様がうちのパパの立場であるけど貴族である事は間違いないからこういった社交的な事は覚えておいて損はないと私は考えたのです。
動体視力の強化、これは結構大事で外の風景で動くものを観察したり1~25の数字を適当に並べたのを素早く順番に指差していく等、これは暇つぶしにもなったし半分遊び感覚で出来るのが嬉しい。
午前中はこういった感じで小さいうちからの肉体作りに勤しむ。知識が正しいのかは分からないけどバランスについては効果を感じてるので続けていく予定。
今日のお昼はシーフードパスタとサラダにアリプス(りんごのようなもの)のジュース
テーブルマナーも知識にあったので私の食べ方に教えることが少ないせいかちょっと寂しそうだけど上品に食べる娘が可愛いのでそれはそれでよしらしい『親馬鹿』というのは単純である。
「本当にお嬢様は手の掛からない子でいらっしゃいますね……」
「いやぁ~、教育がよかったのかなあ」
「した記憶がないのよね……」
『親馬鹿』の両親はお上品な娘に惚気ているのでさほど気にしてないけど。年長のメイド『クラリス』は乳母の経験がある。私のようなケースは極めて稀というか見たことがない模様。
それはそうだ、私には既に知識があるのだから。
午後は書庫の魔法や世界史・歴史の勉強に当てている。
ここ最近分かった事はこの膨大な知識は全部が全部役に立つとは限らないという事だった。
一つ、ガーランド?(声の主)が生きていた時代の歴史はこの世界では大昔にあったという伝承、御伽噺程度しか残っていない。つまり検証も出来なければ立証も出来ない。
建国日と年数は間違ってないのは幸いかな、流石にこれすら違うとなると困りものだし。
知識譲渡は魔法を使う事に必要な記憶だけしか譲渡されていない。
記憶までコピーするとそれはもはやシロエールではなくなってしまう可能性を危惧したのかもしれない。
ガーランドの知識の中に生まれたばかりの赤ん坊に記憶を移し変えて擬似的な若返りという狂気の話しがあるらしい。そう考えると記憶を譲渡されなくて良かったと私は思う。
二つ、塩の作り方や味噌、醤油とかいう今では普通に流通している食材の作り方。
記憶の主が広めた事はわかったけど当時は凄い反響だったんだろう。でも今では一般家庭にも普及されている事だったので必要のない知識ともいえる。
そういえば何でこんな調味料を開発出来たのだろう?記憶が無いのでそれを知ることは出来ない。
三つ、地理情報。知識上の世界地図と今現在の最新地図では形状が異なっている。
大まかな形は変わっていないけど数々の戦争の傷跡や災害によって領土や森、地形が変化しているのだ。もしかしたら何か役に立つかもしれないけど現状では使い道がない知識といえる。
四つ、製造技術。中には可也貴重な知識もあるけど職人達の手によって技術は受継がれている。ただ製造法をしっかり引き継いでいるだけで何故こうなるのかという理屈は分かっていない。
私の持っている知識ではちゃんと理屈も説明されているのでこれは重宝できる。
ガーランドの知識は確かに素晴らしいものも沢山あるけど、『時代が違いすぎる』のだ。
彼の時代の常識は此方の時代では必ずしも常識ではないといえる。
こういった無駄となる知識もあるけど其れすら気にならないほどの恩恵がある。
私は【魔法講座基礎知識編】とよばれる本を開く。
魔法。
この世界の魔法は全部で7種類+1 各5段階評価に分かれる。
魔法使いは基本的に1系統の魔法に特化する。勿論相性も存在し自分に合った魔法を鍛えるしかない。
複数の魔法を使える人間も居ないわけではないけど体内で相殺しあい弱体化に繋がる。
これは知識の方でも説明されており下手に複数の魔法を溜め込むとマナが暴走して廃人と化す事もある。
魔法使い以外にもサブスキルとして魔法を使う人達も存在するらしい。
炎獄魔法とは攻撃系に特化した魔法が多く、副作用に熱や引火もあるので軍でも使い手が多い。
炎弾 炎鞭等
水氷魔法とは天候にも変化を与える為、農作業や冒険でも使えるので可也役に立つらしい。
水弾 氷壁等
大地魔法とは土木建築から農業に戦闘まで幅広い活用方法のある魔法。
岩壁 岩弾等
風乱魔法とは風を操り、中には空も飛べるほどの力もある魔法。
風弾 疾風加速等
雷鳴魔法とは敵を殺さず麻痺させたり、水魔法とあわせて使うと可也危険な魔法にかわる。
これは感電というもので水に電気が通るかららしい。理論純水なら電気は通らないらしいけど……。
雷弾 拡散雷撃
光霊魔法とは腐敗者 不死者 と呼ばれる魔物化した死体を浄化したり補助・治癒魔法に特化した分野。魔法使いの総数で一番少ないとか、需要一番高いのに。
特に治癒能力に関しては何にしても必須スキルなので職に困らないとか。
ママがここに該当する。
治癒光 死者昇天
闇纏魔法:吸血種族に使える人が多いとか。
死体を操ったり 影を移動したりと他の魔法とは可也異種的なスキルが多い。
腐敗再誕 影移動等
そして鍵魔法
7系統魔法とは一線を越える不可思議魔法。生まれつき鍵を持っていることが前提条件となる。
ただ本に載っていることと知識では有る決定的な違いが存在した。
移動するのに座標を固定するための魔法陣が必要だとか、召喚するには特別な儀式と契約が必要だとか、人間の心をよむのは不可能に近いとか色々説明が記されているけどそうではなかった。
空間認識力があれば近くなら好きなように移動できるし、座標も世界地図や細かい地図で座標を覚えておいてその風景を認識できていれば移動用の門を開く事は難しくない。
出来ないと思っているだけでマナの消費量を調整すれば心理掌握も可能であると。
他の魔法は正統的に受継がれてきたのに鍵魔法だけは圧倒的に劣化しているのがわかる。
極めつけは、鍵魔法は鍵を使って開ける事が大前提。
これはそのままだけど、必ずしも鍵穴が門にある必要がないという点、門を開き手元に鍵穴となる媒体を持ち其れを解錠すれば効果は発動するのだ。
更に門の形状はイメージさえすればどんな形にもなる。鍵魔法に一番大事なのは発想力だと。少しでも出来ないとか理屈を捏ねると失敗するだけ、これが無いと本に書いてある程度の使用方法しか出来ない。
他にも複数の門を作れる事や、そもそも鍵の使い方を変える事で更に異彩な使い方も出来るらしい。
例えばベルトや手持ち出来る専用の錠前をつくって鍵で開けば鎧の騎士に変身したり、透明な門や鏡のような門、ただ聞いて使えるものではない。
普通に考えて鍵からこの様なイメージを関連する事は普通なら無理だと思う。だけどガーランドにはそれができた。
ガーランド自身もそういったものを見たという知識があるただそれは御伽噺の映像記録であるがそういった元があるからこそイメージ出来て使えたのだと。
私も現状ガーランドの知識とその記憶あるから出来なくは無い。
問題はマナの保有量。他の魔法と比べてマナの使用量が飛躍的に上がる。
節約術も知識にあるけどまだ私には再現できない事が多い。
マナとは空気中に漂っているエーテルを体内に取り込み循環させる事で作られる魔法の原料。
魔法使いになるには生まれつきマナが多くないと認められない、才能なのだと本には記されている。
マナの最大保有量は強化できる、之を分かっていないと魔法使いの数が少なくて当然である。
魔法を成功させて1日分のマナを消費すること、これが強化方法なのだ。
大きな魔法を成功させたりすることで修行とかいって強化できたせいで勘違いした人達がいたせいらしい。
魔法失敗して無駄にマナを消費した分は経験値にならない。つまり出来るか分からない大技を使ってギャンブルするより自分が安定して使える魔法を1日分全部使い切るまで使用すれば自ずと最大保有数が増える。
適齢期が成人を迎える前頃までやると効果的との事。今も昔も15で成人なので其れを目安に上げていく事が私の課題。
今のご時勢で一般的に魔法を学ぶには10歳で学園に通う頃になる。つまり今の私がきたえるとして7年分を無駄にするという事になるのです。
昔の偉大な魔法使いは皆マナの保有量が化け物だったとか記されてる意味が良く分かる。今の魔法使い達は幼少時から修練していないからそうなるんだと。
無論。貴族の中には魔法が得意の家系で小さい時から家庭教師を雇って修練するところもある。だけどこの強化法を知らないから若干無駄になっている模様。
現在の知識と昔の知識のギャップに私は椅子の背もたれに身体を預けため息をつく
「これが時代相違かぁ……」
可也説明文が多いです。次から物語が進んでいきますのです。
ガーランドの知識は凄いですね(すっとぼけ