乙女達のバカンス~2日目~
冬でも市民プールで泳いだりします。
朝、日差しがカーテンの隙間から照らされる。
少し寝ぼけた表情のシロエールがベッドから抜け出しシャワールームへと足を運んだ。
服を脱ぎ、シャワーのノズルを回すと程良い熱さのシャワーをシロエールは頭から浴びる。
あれからずっと眠っていた為か、身体にダルさを感ていた。
少しずつ頭にかかった靄が晴れ、意識がはっきりとしてくる。
シャンプーを使用している最中、誰か入ってきたのか物音がし後ろからギュッと抱きしめられた。
「んゅっ?」
後ろから伝わる感触、それは何時も感じているものであったため誰か直ぐにわかった。
「アカネおはようございますなのです」
「あ、ばれた?」
アカネはシロエールの銀色の美しい髪の毛の手入れを手伝う。
髪の毛の手入れが終わるとボディタオルを身体にまいたアカネはシロエールを押したおす。
シロエールは少し驚きつつもアカネのやる事を受け入れてしまう。
アカネはボディソープをヌルヌルとボディタオルに塗りこみながら全身を使ってシロエールを擦る。
ゴシゴシと洗うたびにシロエールは擽ったそうに身悶え、んっ、と声を出す。
「アカネ、くすぐったいのです」
「ふふふ、隅々まで綺麗にしてあげる」
キャッキャと風呂でいちゃつく2名。
そのせいで浴室のドアにもたれ掛り座るフレイヤがいた。
(何をやっているのよ、あの二人は……うらやま……不埒だわっ)
少し頬を赤くして、むすーっと座り込みながら2人が上がるのを待つ。
そんな様を見降ろすようにタオルと着替えを手にしたエクレールが前に立った。
「何をしてらっしゃるのです?」
「だって、中で二人が……」
邪魔ですと言わんばかりにフレイヤを横にずらし、何事もないようにエクレールは中に入って行った。
ドアの隙間からフレイヤは覗き込む。
「おはよう御座います。アカネ様、シロエールお嬢様」
「うん、おはよー。エクレールも混じる?」
「おはようなのです。すぐったいので出来ればソロソロ止めて欲しいのです」
エクレールにとっては2人の様子を見なれた光景だ。
特に何事もないようにシャワーのノズルを回して2人の身体を洗い流す。
「そろそろ、良い時間ですので遊びはそこまでにして下さい」
「はーい」
洗い流すと2人の身体を丁寧に拭いていく。
終わった方は自分でササッと着替た。
2人が着替え終わり外に出ると覗き見していたフレイヤと鉢合わせした。
「あ、あはは……お、おはよう2人とも」
「フレイヤってばムッツリねー」
「むっつり?」
「違うわよっ!?」
フレイヤの声で残りのメンバーも起き始める。
ちょうど良い目覚ましでしたね。エクレールの言葉に真っ赤になって洗面台に行くフレイヤであった。
先生達が昨日7人の初等科の男子が森の中や監視に驚いて逃げ出した事を伝える。
今後、このような事が無いように門限と暗くなったら無暗に出歩かないよう注意される。
何人かの男子生徒は心の中で彼らに対し敬礼した。
宴会場にはバイキング形式で朝食が準備されており、皆好きなものをとってきた。
シロエールは紅茶とクロワッサンにベーコンエッグ。
エクレールはシロエールと同じものを選ぶ。
アカネは珈琲とフレンチトーストにサラダ。
リーゼロッテは紅茶とBLTサンド。
フレイヤは紅茶にハム、ベーコン、ソーセージ、魚のフライ、タマゴサンドにカツサンド。
ヒュッケはチョコレートを一欠けら。
ミルクはご飯に味噌汁に焼き魚を選んだ。
「私だけアマツガハラ料理だ……」
「相変わらずフレイヤは良く食べるのぅ」
「別に私だけじゃないし。炭鉱種族はそういうものよっ」
バイキングだからといってフレイヤは大皿盛で食べている。
他の炭鉱種族は大柄が多いためフレイヤの大食いは可也目立つ。
シロエールはゆっくり食事を口にしながら皆を眺めている。
旅行は其処まで深く考えてなかったけどみんなで行くと楽しいなって思えていた。
本日も晴天。浜辺に走る生徒達。
浜辺でボール遊びをしたり、崖からダイビングをする生徒。
一部の生徒は船で沖合いに出て魔法によるシュノーケルや釣りをしている。
女性陣達も真夏の太陽の下ではしゃいでいる。
光霊魔法の魔法で日焼けしても治癒すれば元通りになる為気にするものもいない。
アカネやフレイヤ達も浜辺に立つ。
それぞれフリルスカートの付いたワンピース水着やフリルセパレート、ワンピースである。
そして、エクレールはというとビキニにパレオという初等科らしかぬ水着だ。
背丈とそのスタイルのせいで皆と同じコーナーの水着が選べなかったという。
「もっと可愛い水着がいいのですが……」
「それ、人前で言わない方が良いよー」
自分の体つきを恨めしそうに見るエクレール。
本人はこのメンバーの中でも特に子供的な思考を有している。
魔法少女然り、日常での格好然り、皆と同じような可愛い服を好んでいる。
己の成長してしまった身体では中々思うとおりにいかない事を歯がゆく思う。
しかし、エクレールのボディラインは綺麗に整っており、一部の女性陣から反感を買うだろう。
フレイヤ辺りが特に彼女の胸を見ながらもげろと心の中で呟いていた。
「エクレールも十分可愛いのですよ」
「後数年もすれば皆も同じように成長すると思うがのう」
シロエールとヒュッケが着ている水着はアカネが用意してきたものだ。
白と紺色で、現代では旧スクール水着(現在、旧々スク水)と呼ばれるものであった。
アカネはこの世界でこの水着に出会えるとは夢にも思わなかった。
この旧スクの製作者に話を聞いたところ彼もまた日本からやってきたという。
大体20台後半程の年齢の男は、転生前でも水着の制作会社に勤めていたらしい。
彼の話を聞いているとある事に気づいてしまった。
私より十数年前に転生した彼がリルのついた新スクール水着の事を知っていたのだ。
アカネが転生した時期と彼が転生した時間が噛み合わない。
転生する際いつの時代に飛ばされるかランダムの可能性を考慮した場合。
前生きていた世界を訪れる機会があっても自身がいた時代ではないかもしれない。
向こうの世界に未練はないが少し胸の奥にざわめきを覚えた。
「どうしました、アカネ」
「んん、なんでもないよー!」
この件を考えるのを止め皆がいる浜辺へと走る。
今の私はアカネ・ロートフェルトだと心に刻みながら。
リーゼロッテの水氷魔法により全員水中で優雅に泳ぎだす。
まるで自身が魚になったかのようにスムーズに動き熱帯魚達と戯れる。
風乱魔法がいれば空気を作りシュノーケルができるのだが仕方が無い。
皆が楽しく遊んでいる中、ヒュッケは棺桶経由でパラソルの下、ビーチチェアに寝そべっている。
「ヒュッケも遊ぼうよー」
「じゃから、日光でとるし海入ったら冗談抜きで妾死ぬわっ!?」
自然のエネルギーの流れに巻き込まれると吸血種族は自己を保てなくなり分解され消えてしまう。
プールなら水の循環を止めさえすれば入ることは可能だ。
「大昔に即死無効の秘宝とやらがあったらしいが今は噂じゃ何処かの迷宮の最下層らしいかのう」
「即死無効ですか」
「うむ、呪殺など光霊魔法の天級でも蘇生出来ぬものを防ぐやつじゃな」
不死鳥の真紅眼と呼ばれるそのアイテムは今現在所在不明である。
遥か昔に真祖の吸血鬼の一人が所有しており即死の弱点を克服したソレは猛威を振るったという。
その男の名はアルカード・ノクターン・シュバルツと呼ばれていた。
「じゃー、今からビーチバレーするからヒュッケ審判ね」
「いきなりじゃな!?まぁ構わぬぞー」
いつの間にか全員海からあがっておりボールで遊んでいた。
エクレールはその間にネットの調整をしている。
調整が終わるとアカネ提案により裏表によってチーム分けをすることになった。
「「「「「「うーらーおーもーてっ」」」」」」
エクレール、シロエール、アカネの3人。
リーゼロッテ、フレイヤ、ミルクの3人のチームとなった。
先手はリーゼロッテチームから開始。
「いっきまっすよー」
リーゼロッテがボールを高くあげる。
高々と上がったボールの周囲に水が集まる。
ウォーターボールを纏わせたビーチボールをリーゼロッテが打つ。
『アクアブラスト~』
サーブは唸りを上げシロエール達のコートへ飛んで行く。
この世界の球技は魔法の使用が問題ない。
故に遊びのビーチバレーですら魔法合戦となる。
「ちょ、エクレール。ブロック、ブロック」
身体能力の高いエクレールは自身の手に雷鳴魔法で作った障壁をぶつける事でブロック。
シロエールが難なくトスを上げるとアカネがエクレールの手を借りてネットの遥か上までジャンプする。
炎を纏い、横回転するアカネ。
「フレイムトルネード!」
身に纏っていた炎がボールへと移りまるで隕石のようにフレイヤ達に降ってくる。
リーゼロッテはすかさず『アクアフィールド』を唱える。
アカネの炎の球は『アクアフィールド』の壁に阻まれそのまま消火。
勢いを殺されたボールはミルクのレシーブで舞い上がりフレイヤがトスをあげる。
次の詠唱を既に唱えていたリーゼロッテがジャンプする。
『ブリザードランス』
今度はボールを氷槍に取り込み射出した。
勢いのある氷槍が今度はアカネの作り出した『フレイムピラー』によって氷解される。
互いに魔法を駆使して激しいラリーが続く。
不意にアカネがブロックし損ねて相手側へいい高さで飛んでいく。
「アターーーック」
フレイヤが自身の桁外れの身体能力で浜辺に関わらず高く飛び上がる。
そのフォルムは美しいがリーゼロッテとエクレールの揺れる胸を見続けフレイヤの怨念がこもっていた。
渾身の力を込めた魔法関係ない一撃がシロエール達を襲う。
普通にブロックすると恐らくビーチボールなのに骨に影響が出るかもしれない勢いだ。
カチリッ
が、無慈悲な鍵魔法がフレイヤを襲う。
「ひゃぶっ!?」
シロエールは別に狙ってやったわけではない。
鍵魔法の門に吸い込まれたボールは偶然にも見事にフレイヤの顔面へと直撃した。
完璧な不意打で己の渾身の一撃をくらったフレイヤはそのまま落下した。
「シロー!?鍵魔法NO、ダメ!」
「フレイヤさんしっかりーっ!?」
ミルクが慌てて回復魔法を唱える。
エクレールは倒れるフレイヤに対し静かに合掌した。
フレイヤ回復後、魔法は禁止という事で比較的平和なビーチバレーになった。
小舟で沖合にでて釣りを開始する生徒が数名、移動しながら、島の周辺を回っている。
彼らはホテルの排水溝を探していた。
ある程度の大きさならそこから侵入出来るかもしれないと考えたのだ。
しかし、それらしいものは発見できずにいた。
「やっぱ海の中とかじゃねーの?」
「洞窟とかあったりしそうなんだけどなあ」
その後、彼らは進入禁止海域の魔術機雷に引っかかり沈没。
トラップに何か引っかかったのを察知したホテル側から救助された。
その代償として先生にこっぴどく叱られる事となり反省文提出と一定の監視が付く事になった。
武芸科武器総合学部2年以下略総勢6名脱落、残り19名。




