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乙女達のバカンス~1日目~

 1日目夕方――。


 ホテルの夕食の時間となり、各自部屋から宴会場へと集まっていく。

 シロエール達も宴会場へ向かう最中、アカネとリーゼロッテが呼び止められた。

 シロエールには両方とも見知った顔だった。


「あ、レイヴン兄だ。そういえば船も別々だったし話しそこねたよー」


 アカネは非常に人懐っこい。

 学友から聞く限り、兄妹とは一定時期から不仲になる確率が高いといわれている。

 しかし、アカネにはそういった予兆はない。

 住んでいる場所も学科、学年も違う為会う事は少ない。

だがこうして対面すると色々話しを聞かせてくれるし質問してくる。

 兄としては喜ばしい事だ。


「あら、メーレどうかなさったのです」


 リーゼロッテお嬢様は強かだ。

 最初はどうなるかと思ったが、エクレールと言うメイドの技量は中々悪くなく、料理に関しても問題が無い模様。

 シロエール様はお嬢様に対してどんな感情を抱いているのだろうか?

 彼女は国家間における一人で抑止力に成り得る実力者だ。

お嬢様に関係なく我が国に収めておきたい。

 

 色々考えながら二人を呼び止めたのはアカネの兄であるレイヴンとリーゼロッテのお付であったメーレの二人である。

 レイヴンとメーレもそれぞれ仲間と一緒に来ており二人と雑談を交わしている。

 フレイヤとミルク、ヒュッケは先に席へと移動していった。

 シロエールとエクレールは二人に挨拶し会話に加わった。


「シロエールか…この間の試合見事だった」

「有難う御座いますなのです」


 レイヴンの中でシロエールの異常な強さは脅威に感じている。

 反面、アカネに非常に懐いている事から頼もしさも覚えていた。

 


「お嬢様、部活ギルドでの暮らしはどうでしょうか?」

「大丈夫ですよ~」


 そこには各自テーブルの上に既にいろんな国の料理が並んでいた。

 普段お目にかかれない高級食材も使われているため豪華といっても過言ではないだろう。

 全員が各自指定されている席に座り担当の先生の挨拶を聞く。

 一部、既にフライングして食べている連中もいなくはない。

 乾杯の音頭をとり皆食事に入る。



「オハシって使いづらそうですよね~」

「慣れれば結構使いやすいよ?」


 アカネはオハシで器用に食事を食べているのを興味深そうにリーゼロッテがみていた。

 基本的にアマツガハラ大陸以外は殆どナイフとフォークを使う。

 この世界のテーブルマナーは異文化に対して寛容だった。

 その為、よほど悪くなければ食べ方は自由で堅苦しくない。

 シロエールは機会があればオハシを使って食べようと試みる。


「んぅ~……」


 アカネと出会って以来、実に数年の年月が経つ。

 掴みやすい食材は出来るようになったものの小さなものや滑るモノはまだ掴めなかった。


「シロ、また持ち方が雑になっているよー」

「アカネみたいに綺麗に持てるには後どれくらい掛るでしょうか?」


 ここをこう、とアカネがシロエールの持ち方を矯正する。

 エクレールもシロエール同様オハシを扱う努力はしている。

 アーレス帝国の食事の際も普通にナイフとスプーンで食事しても問題はない。

 やはりオハシが使えたら良いなとシロエールは考えていた。


「私には無理そうです」

「ん~。何かまどろっこしいのよねオハシって」


 フレイヤとミルクも刺身をフォークで食べていた。

 時折これ食べられるの?というような食材が出てくる。

いくつかの生徒がその料理に躊躇、驚く最中アカネは問題なく食べている。

 日本じゃこれくらいグロテスクなのしょっちゅう出回っている。


「シロエールちゃんこのお料理美味しいですよ~」


 リーゼロッテがシロエールにあ~ん、と料理を口元に差し出す。

 シロエールは特に躊躇せず、料理をパクッと口にしてモグモグと食べた。


「本当、美味しいのです」


 もきゅもきゅとほおばるシロエールをほんわかと眺めるリーゼロッテ。

 釣られてアカネやエクレールまでシロエールにあーんしてきた。


「シロエールさんってモテモテですねぇ」

「何よ、デレデレしちゃってさ」


 フレイヤは頬を膨らませ食べる事に集中しだした。

 西にあるゲルボルグ大陸の南側に存在するヘスティア首長国は鉱山都市だ。

 故に、魚介類の食文化が余り発達していない。

 フレイヤ自身もこの学園にきてからも積極的に魚を食べようとはしなかった。

 シロエール達と暮らす事で焼き魚や煮魚は食べるようになったけど刺身を食べるのが初めてだった。

 フレイヤはその味に舌鼓していた。

 ミルクは何かフレイヤ先輩ってわかりやすい人だなぁと思いつつ食事を続ける。

 ふと、ミルクは一人だけ殆ど食事に手を付けてない人物に気付く。

 のんびりブドウジュースを飲んでいるヒュッケだった。


「ヒュッケさんは食べないのですか?」

「ヒュッケはそれが普通なのですよ」

「妾は小食じゃからなぁ」


 笑いながらちびちびブドウジュースを飲むヒュッケ。

 普段食卓に並ぶ料理もヒュッケだけ半分以下の量だ。

 血とかは遠慮なく飲むくせにとエクレールが皮肉をいう。

 上質なマナと血さえあれば問題なく生きていける。


「では後で血飲ませてあげます」

「おぉ、ありがたいのう」

「シロエールさんが時々ぐったりしているのってヒュッケさんが原因じゃ……」


 楽しく食事をしているシロエール一行を遠巻きに見ているのが何名かいる。

 『艶麗の貴婦人』のギルドメンバーだ。今現在、彼女達の地位は落下の一途を辿っている。

 キュリディーテを倒したシロエールに復讐する事も嫌がらせすら出来なく歯痒い気持ちを抱いていた。


「何時かきっとお姉様が復活してくださるわ……」

「その時まで我慢するのよ」


 キュリディーテの復活の兆しは今の所……ない。

 



「早速、お主の血で妾の乾きを癒してくれたもう」


 食事が終わり部屋に戻ると早速ヒュッケがシロエールに飛び掛るように抱きついてオネダリをする。

 シロエールはいやな顔せずソファに座り指先をヒュッケの口元に差し出す。

 ヒュッケは嬉々と舌なめずりしてシロエールの指を咥える。


「ん……ちゅ……チロ……ペロリ」


 指を丁寧に舐めつつ何度か甘噛みをしていく。其れを擽ったそうにするシロエール。

 ゆっくり口を大きく開きカプッと細い指先に牙を立てる。

 シロエールは痛みを感じ少しピクッと震え指先から紅い血が流れる。

 チュウチュウと溢れる血を吸い、喉を鳴らしながら味わっていく。

 今日、出されていたどんな食材よりもシロエールの血が最上の味だとヒュッケは思う。


「っ……ちょっと……ヒュッケ……吸い過ぎ…なのです」


 何時もよりおおめに血を吸っていたのかシロエールの表情が険しくなる。

 様子を見かねたエクレールがヒュッケを引き剥がす。

 少し不満げだが満足したヒュッケはご馳走様と手を合わせた。


「何か……見ていてドキドキしちゃった」

「私はもう慣れたわ」


 シロエールはぐったりとベッドに倒れこみ寝息をたてる。

 ヒュッケの吸血はマナも吸い取る。

何時もより多めに吸われたせいで体力を奪われたようだ。


「あ、そうだ露天風呂入ろうよ~」


 フレイヤは折角来たのだからと温泉に入る事を提案する。

貴族でもないから個別温泉の利用は難しい。

 しかし、一般開放の温泉では一人で入ることを躊躇していた。

 

「初日じゃし、部屋に備え付けでよいでわないか」

「まぁ、結構はしゃいでいたからねぇー」

「じゃあ私先にシャワー入りますねえ~」


「入ろうよぉ~」


 フレイヤ以外は余り温泉に興味がないらしい。

 残念そうにションボリするフレイヤをみていたミルクは私でよければと名乗りを上げる。


「本当?ホントに?」

「え、えぇフレイヤ先輩がよければ……」


 嬉々としてミルクを引っ張るようにフレイヤは温泉へと向かう。

 温泉の入り口で上級生と出くわし軽く会釈する。

 向こうも2人がシロエールに縁のある生徒だと分かっているのか少し緊張気味だった。

 脱衣所にて褐色のエルフと兎耳の少女と出くわす。

 ミルクは兎耳の少女に見覚えがあった。


「あ、確かクノンさんですよね?」


 ミルクの猫耳がピコッと動く。

 つられる様にクノンの兎耳も動く。


「……貴女は?」

「あ、ごめんなさい。私、同じ第七魔法学部1年のミルク・ブレンダっていいます」

「クノン・アインツェルンです。見覚えがないという事は隣のクラスですか」


 ペコリと会釈をして手を差し出すミルク。

 クノンも会釈を返して手を握る。

 褐色のエルフの少女は二人の動く耳を眺めている。

 フレイヤも同様に耳の動きを追っていたら褐色のエルフの少女と眼があった。


「私はルーチェ・エミーニャです。よろしくお願いします」

「ルーチェか、可愛い名前ね。私は……」

「確か、其方はフレイヤ先輩ですよね」

「……そうだけど」


 自分が名乗りを上げる前に名前を言われてフレイヤは少し嫌な予感がした。

姉の事を知っている人は皆フレイヤを避ける。

 現に、彼女達以外は私に近づこうともしないから。


「貴女の錬金術で造られた装飾品がとても綺麗だったのを覚えています」

「クノンが前言っていた錬金術の人?」


 そうよ、とクノンが頷く。

 フレイヤは予想外の言葉に目を丸くする。

 災厄の妹、裏切り者の妹と蔑まされてから初めてのことだった。

 自身の作品を褒められたのは何時以来だろうと。


「え、えっとありがとう。何か久々に褒められた気がするわ」

「そうなのですか?そういえば先輩は……魔法科代表さんの部活ギルドでしたね」

「シロエールの事?」

「あはは、クノンってばシロエールさんにライバル心を抱いているのですよ」


 余計な事は言わなくていいのとムスッとした視線をクノンがルーチェに向ける。

 凄いなーという視線を向けるミルク。

 其れはご愁傷様だなぁとほろりとするフレイヤであった。


「っと、脱衣所で立ち話もなんだし温泉入ろっか」

「賛成ですっ」


 周囲は湯気で囲まれているはずなのだが魔法の効果のせいかはっきり星空が広がっていた。

 他の生徒達も温泉に浸かりながら談笑していた。

 フレイヤに気付くと周囲の生徒はなるべく関わらないよう距離をとる。4人は少し隅の方に入った。


「なんか、御免ね、私あんまり歓迎されないから」

「別にフレイヤ先輩が悪いわけじゃないですよね?」

「そうですよー、気にしちゃダメですよ」


 後輩達に励まされ少し元気を取り戻したフレイヤだが3人を見てふと思ってしまった

 それは考えてしまってはいけないことだった。

 私が一番まな板になるのかな……と。

 外が少し騒がしい気がしたが今のフレイヤにはそこまで気が回らなかった。

バカンスいきたいですね。

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