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少年達の聖戦~1日目~

 話は遡る事1日前――。

 船内のとある一室での出来事だ。彼らは内密に人を集め、この大部屋に集まっている。

 大部屋には部屋一杯ギリギリの数の男子生徒で多い尽くされていた。

 集めた首謀者の意向により初等部だけの集まりとなっていた。

 全員集まった事を確認すると風乱魔法ハスターの生徒が鍵をかけた扉に防音の魔法を唱える。

 準備は整った。部屋の一番奥に座っていた生徒が立ち上がる。


「本当にやるのかダイキ」

「ああ、俺はやる」


 立ち上がったのが今回、彼らを集め計画の首謀者であるダイキ・トゥーサカだ。

 その少年の決意に満ちた目、声に周囲がざわめく。

 今回の事は学園の歴史の中で1度でもあるかないか位のものである。

 そんな事をダイキはやろうと言うのだ。


「なぜ初等部の連中にだけに声をかけたんだ?」


 集まった生徒達は不思議に思いダイキに質問をする。

 ここにいる全員、1年から3年の初等部の男子生徒だ。

 もっと成功確立をあげるなら洗練された魔法を使える上級生が必要なのではないか?と。

 ご尤もと言いつつもダイキは重々しく首を横に振った。


「皆、よく考えてくれ……俺達がやろうとしている事は所謂、軽犯罪だ」

「中等部だと良くてもボコボコにされ高等部でやったら確実に半殺しにされるだろう」


 少年達は身近の女性陣で強い生徒を思い浮かべる。

 一瞬で意識を奪われた者からその言葉通りボコボコにされた者達は身震いする。

 本気で怒りをあらわにした彼女等に攻撃されたら死ぬ事は無くても責め苦を受けるのは確実だ。

 消沈する彼らを見てダイキはここまでは予定通りだと内心思っていた。


「だが、俺達はまだガキだ。せいぜい悪戯程度で済む可能性は充分にある」

「だ、だけどよぉ……」

「大人になってからじゃ遅い、一生に一度、ガキである今しかチャンスは無いんだ」


 確かに子供の悪戯という方向で片付く可能性はある。

 中には故郷で知り合いのお姉さんの風呂を覗いて叱られた事のある生徒もいた。

 エロガキと言うことでゲンコツをくらったりお説教を受けるだけで済んだのが殆どだった。

 そういった思い出がある生徒達は次第にいけるかもしれないという気持ちが生まれ始めていた。


「臨海学校が終わればすぐ夏休みだ、長期の休みで新学期が始まる頃には色々治まっているだろう」

「だ、だけどもし王族クラスの奴に見つかったら最悪極刑だぞ?」


 この学園には王族や大貴族が何人も在籍していた。

 実際1年にも数人そういった生徒が入学している。

 彼女達を覗いて見つかった日には、庶民の生徒の命はかなり危ぶまれるだろう。


「いや、気位の高い奴は個別の温泉にいくだろう」

「余程の事が無い限り庶民と一緒の温泉なんて、となるはずだ」


 ダイキは何処かで見たかのような推理作品の主人公みたいなポーズをとりつつ皆に語る。

 彼の推測には一理あり、確かにと一同頷く。


「じゃ、じゃあ何時やるんだ?」

「まずは初日にルートの確認。覗きスポットがあるかないか調べないといけない」

「次の日以降は班分けと工作、対覗きトラップもあるかもしれないから其れの調査もだ」


 全員が頷く。ダイキは全員の顔を見て決意が固まったのを確認してから次の言葉を発した。


「そして、最終日に決行する」




 そして1日目の夜に戻る――。


 3人1組、スリーマンセルで各自バラバラに行動を開始する。

 馴染みのある面子、偶然ここに集まっただけの面子、能力を照らし合わせて組んだ面子。

 様々な形であれど、目的の為に一致団結したパーティは動き出した。

 夜目の効く生徒が森の入口に立つと背筋がムズムズする。

 対、不法侵入者用『 魔法罠マジックトラップ 』が張り巡らさされていた。

 雷鳴魔法シヴァによる麻痺系の罠、大地魔法オシリスによる鎖を形成し捕縛する罠。

 完全氷結させる水氷魔法シヴァの罠。

 他にも幾つもの罠が森中に仕掛けられており一歩足を踏み入れたら最後。

 明日の朝惨めな姿を晒す羽目になるだろう。


「うわ…えげつねぇ」


 幾ら上位成績者の彼らでも本職の罠をまだ初等部の彼らには把握すら仕切れないだろう。

 安易地図に一帯を危険地帯として記すだけに留めておいた。おそらくソレが正解である。

 非戦闘協定地帯とはいえ、VIPを迎えるこの場所は防衛に関しては徹底している。


 同時刻、他の班が露天風呂の確認を行っている。

 湯気に水氷魔法シヴァを加えた濃霧により外側からは覗けないようになっていた。

 向こう側からは外を見られるようになっているらしく風乱魔法ハスターで音をかき集め温泉に入っている女子生徒達の声をかき集めたのだ。


「これ……どうする?」

「解除も透視も難しそうだなぁ」


 警備に見つかる前に一旦諦めて大人しく此処は撤退しようと動いた瞬間。

 パキンッと木の枝を誰かが踏んで音をたててしまう。


「誰!?」

「やばいやばいやばい」


 少年達は一目散に逃げた。捕まってはいけないと全速力で走る。

風乱魔法ハスターを使える生徒は仲間も風でサポートする。

 しかし、視界の開けた道では何れ捕まってしまうであろう。

 一人の生徒が意を決し方向を森の中に切り替える。


「馬鹿!森の中は自殺行為だ」

「このまま捕まるより一人でも犠牲を減らすのが大事だ!」

「……そう、だな」


 一人は森へ走り、もう一人は走るのを止めた。

 走るのを止めた少年は教養科の生徒だった。

 残りの生徒達は悟った。故に振り返らず、全速力で走った。

 少年は彼らを見送ると膝をついて倒れる。

 初日で捕まるとは思ってもいなかった。

 しかし、彼らが助かればそれでいいと本心から思いつつ警備に取り押さえられた。

 教養科文学部2年ニルス・ベルリッヒ脱落。残り26名


 彼は運が良いのだろうか、今の所罠に引っ掛からずに森の中へと進んでいた。

 どれ位走ったのか思い出せないが周囲を見渡し、誰もいない事を確認する。

 そのまま足を止め、その場に座り込んだ。

 ほとぼりが冷めたら今通った道を同じように戻れば無事に帰れる。

 そう安心仕切っていた為か木の枝から自身を眺めている梟の存在に気付かなかった。

 有羽種族ハーピー固有特性ユニークスキルで従えられていた梟から彼の位置は唯漏れだった。

 彼が元の場所に戻ってきた際に警備の人間に簡単に捕縛された。

 武芸科武器総合学部3年ザビーネ・ツェルニッヒ脱落。残り25名



 ダイキらは海岸沿い、真っ暗な海を照らす灯台の下に立っていた。

 灯台の下は影が濃く、暗闇に身を包んでいるかのようだ。

 ダイキ、カノン、部活仲間ギルドメンバーのレグルスの3人は


「ここからじゃ角度的にも厳しそうだな」

「そうだね、遠視系つかっても難しそう」


 灯台の一番上はどうだろうと考えたが、やはり女子の露天を覗くのは難しいという結論に至った。

 ダイキ的には意外と隠しスポットかと思いきや中々上手くはいかないものだ。

 既に幾つかソレらしいスポットを確認しているが悉くダメだったのを地図にカノンが記載していく。

 ダイキはそう簡単にはいかないかと軽く溜息をついた。


「そろそろ門限だし帰ろうよ」

「もうそんな時間なのか?」


 こういったことは過程も楽しむものだと考えていたが時間が経つのが早かった。

 もう少し探そうと思いきやなにやら女子風呂周辺で何かがあったらしい。

 警備が動いているのをダイキは察知し空から有羽種族ハーピーが巡回しているのに気づいた。


「カノン、急いで扉を開いてくれ。誰かやられたようだ」

「う、うんちょっとまってね」


 カノンは灯台の扉をみつけ鍵穴に自分の鍵を差込む。

 カチリと音を鳴らし空間と空間を繋げる。

 予めホテル本館の人気の無い扉の位置を幾つも把握していた。

 アリバイ作りや同室に怪しまれないようにする為である。

 無事に門限時間内に中に入り込んだ3人は何食わぬ顔で部屋へと戻る。

 この時点で何人の生徒が戻ってきたのかはメンバー全員知らない。


「あ、おかえりー」

「門限ギリギリまで何をしていたのですか?」


 温泉に行っていたのかほんのり赤く艶の在る肌。

 しっとりとした髪に浴衣姿のクノンのルーチェがソファに座っていた。

 うなじやら肌やら少しドキッとくるものがある。

 しかし、下手をすると二人が覗く対象となりかねないので若干複雑な気分になるダイキだった。


「ああ、この島結構広いから散策してたんだ」

「だからあちこち汚れてるんだねー」


 夜だから気づかなかったがズボンとかが結構汚れていた。

 マジだーとあちこち確認するダイキとカノン。 

 汚れが気になって仕方が無いのかクノンは二人を見ながらシャワールームを指差す


「早くシャワーでも浴びてきてください」


 ご尤もな意見だし確かにシャワールーム2人位入っても問題はない。

 だが結局カノンを先に入れさせ終わるまで適当にベランダでくつろぐ事にした。

 何故かって?聞くなよ……。


「あがったよーダイキ」


 カノンの寝巻き姿はぱっと見女の子に見えた。下手な女子よりは多分可愛いと思う。

 実際カノンのせいでもう男でもいいやと鞍替えするのも少なくは無い。

 ダイキはそういった事にはならずルーチェとクノンでバランスをとっていた。


「じゃ、俺もシャワー浴びるけど覗くなよクノン」

「覗きませんよ」


 軽く一蹴されつつダイキは脱衣所で服を脱ぎシャワーを浴びる。

 中々作戦はうまくいかないが、だからこそ燃えるというものだ。ダイキは昔を思い出す。

 女子のプールの着替えを覗こうとして失敗して結構な日数変態扱いされた。

 男子からは勇者とか言われ結構楽しんでいた。

 今回はちょっと下心がある感じだが楽しい思い出になればいいやと思う。

 そんな事を考えながらシャワーから上がるとクノンがフルーツ牛乳を差し出してきた。


「風呂上りはこれなんでしょう?」

「イクザクトリー」


 わざわざ買ってきてたのだろうかクノンは気が利いていい奴だ。

 腰に手を当てぐっと一気飲みをするダイキ。

 飲み干すと瓶を洗いごちそうさまでしたと手を合わせる。


「ダイキって時々タカマガハラ式の作法するけどどうしてなのかしら」

「さぁ?私も物心付いたときからダイキはああしてたよ」


 ダイキは箸も上手に使うしタカマガハラの食事が好みだったりする。

 しかしダイキは中央、カールディア大陸の出身だ。

 ルーチェがいうにはダイキは向こうに行ったことは無いらしい。

 クノンのダイキに対しての妙な引っかかりは少しずつ大きくなっていた。

各自の1日目を進めて2日3日となる予定です

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