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おいでませリゾート地

 クロノス王国から出航して2日目の昼過ぎ――。

 白い砂浜、美しい珊瑚礁が透き通って見えるほどのエメラルドグリーンの海。

 操舵士は浅瀬で座礁しないように造られた、木製の長い桟橋に船を寄せ錨を降ろす。

 ここ一帯はリゾート地であり名目は環境保護も入っているが、貴族達からお金を落とさせ循環を促させる為に完全中立地帯として各国から協定を結ばれている。

 

 次々と船から降りていく生徒達、初めてきた1年達は大はしゃぎしながら桟橋を走る生徒もいた。

 『清楚の白蛇』一行も船から降りていく。

 楽しみにしていたフレイヤは始終綺麗な海に眼を輝かせ、シロエールは日傘を差して海を見つめている。

 エクレールは少々雑にヒュッケの入った棺桶を引きずりながら船を降りた。


「確かに実際に見ると、とても綺麗な海なのですね……」

「シロエールのところの海も綺麗だけどここには珊瑚礁とか熱帯魚もいるからね~」


 色鮮やかな魚が海の中で泳いでいる。

 ここ近辺は昔から魔物の発生率が可也低く強さも然程ないので1年生でも軽々やれる程度しかいない。

 先導役の先生の指示に従い、ホテルへと移動する。

 木で出来たアーチ状のトンネルを潜ると木陰と流れてくる風が涼しさを感じさせる。

 見上げると魔法により強化、開発された素材によって建造されたホテルが高々と聳え立っていた。


「たっか!?」

「あー中々、凄いねぇ……」


 驚くフレイヤや他の生徒達を尻目にアカネには然程感動は無かった。

 東京育ちだった彼女には良くある光景だったし、記憶の片隅にあるビルと造形が似ている気がした。

 でも、それが何処だったか思い出そうとするが霞がかかった様に答えが浮かばない。

 自分自身もその原因に心当たりがある。

 決して記憶力が悪いわけではない。

 既にあの世界は彼女の主観時間で10年近く昔の出来事なのだ。

 意識して覚えていない物は段々を薄れてゆく。しかし、アカネはそれを辛いとは思わない。

 今の生活がとても楽しいからだ。


「……」

「ん、シロどっかしたの?」

「どうしたのシロエールちゃん?」


 じーっと上を見上げるシロエールに気づいたアカネとリーゼロッテがシロエールに声をかける。

 興味深そうにシロエールの眼は子供らしい好奇心を帯びていた。

 シロエールはずっと上を見上げながらポツリと呟いた。


「……最上階に泊まってみたいのです」

「「……」」 


 ニコッと二人が笑みを浮かべたと同時にホテルのロビーへと向かう。



 ホテルのフロント――。

 この日、フロントを担当していたのは王都から高級リゾート地勤務に移ったばかりの入社3年目のそろそろ仕事が板についてきたといっていい青年であった。

 クロノス王国のエリート学園の中の更にエリート達が今日から滞在する事となり緊張していた。

 遠目に団体客を眺めていると列を外れて二人の女の子が此方に向かってくるではないか。

 真直ぐにフロントカウンターまでやってきた。


「あ、あのどうなさいました?」

「「ホテルの最上階の部屋をあけて(ちょうだい)(くださいませ)」」


 既に学校からホテルの部屋割りは打ち合わせしていたはずだ。

 彼は出来るだけことを荒田立てぬように配慮を心がける。


「申し訳ございませんお嬢様方、既に学校の方と打ち合わせ済みでございまして……」

「そんな事知ってるわよ?」

「その上でお部屋の変更を申請しているんですよー」


 え、何この二人笑顔だけど凄い怖い。

 そういえばこの学園の生徒って凄い偉い人の子供とかいるんだよなぁ……。

 何処かの貴族なのかな?いるんだよなぁクレーマーじゃないけどこういうの。


「そ、そう申されましても……」

「支配人呼びなさい」

「お願いしますねー」

「は、はぁ……少々お待ちください」


 フロントスタッフの青年は後ろの事務室へ向かう。

 学園の生徒達の件で皆がピリピリしているのが分かる。

 一番奥の席に座っている支配人に青年は声をかけた。


「あ、あの支配人」

「ぁ?どうした」

「えっと、学園の生徒が2名屋上の部屋を用意しろと……」


 支配人の男は肩をすくめる。


「ったく、お前何年仕事してるんだっ、そういうのは出来ないって強くでろっつってんだろ」

「だ、だって二人とも凄いいいとこのお嬢様っぽいんですよ!?」

「ちっ、俺が手本を見せてやるからついてこい」


 支配人はこの仕事に就いてから20年のベテランだった。

 時折貴族とかが文句を言う時があるが、その際は他のもっと上の生徒をちらつかせて黙らせるのだ。

 しかしそんな彼が二人の顔を見た瞬間ドッと冷や汗が流れる。

 支配人の只ならぬ狼狽っぷりをみた青年は彼女達が可也立場が高い人物だと気付いた。


「すみません、どうしても最上階のお部屋に泊まりたいんだけど」

「だめかしら~?」


 笑顔で語っているが二人からしたら半場脅しに近いオーラを醸し出していた。

 二人がフロントで話している事に気付いた引率の先生の一人が大慌てで此方に駆け寄る。


「ど、どうなされたのですか」

「い、いえ少々部屋の変更で話をしたいのですが宜しいでしょうか?」

 

 先生と支配人が慌しく応接室へ移動する。取り残された青年は緊張した。

 支配人があんなに急変するような人物なのだから迂闊な事は言えない。

 二人はじーっと此方見ている。愛想笑いしか浮かべれなかった。

 数分後、二人が帰ってきて低姿勢な態度でペコペコしながら新しい部屋割りを手渡す。

 二人は満足気にありがとうと感謝をしてから外にいた日傘をさしている白い少女の方へ駆けていった。


「支配人あの二人は?」

「大国のアーレスのお姫様とアルテミスの公爵令嬢だよ。冗談抜きで格が違いすぎる」

「……それは、下手すれば一瞬でクビ飛びそうですね」


 毎年あんなVIPがここに来ると思うと少し胃が痛くなってきた。




 ホテル最上階の一室――。

 組み合わせと連絡事項が終わり、部屋についたシロエールは真っ先にベランダの戸を開ける。

 桟橋で眺めていたものとはまた違った風景が広がっており、シロエールは手摺の上に立つ。

 シロエールの髪を風が優しく包まれる。

 其処から見える景色は、遥かな水平線まで見渡せた。


「思っていた以上にいい景色なのです」

「いやーシロが喜んでくれて何より」

「ですねぇ~」


 シロエールの素っ気無い声に反して手摺の上に立つくらいはしゃいでいる姿に満足気なアカネとリーゼロッテの二人であった。


「……(この二人は躊躇無くやるなぁ本当に)」

「シ、シロエールさん危ないよ?」


 先程、これだけの為に特権階級を躊躇無く使う二人を思い出しつつ遠い眼をするフレイヤと手摺の上に乗っているシロエールを心配するミルク。


「お嬢様でしたら問題ございませんよ」


 最上階まで棺桶を運んでいたエクレールが部屋の隅っこに棺桶を放り投げる。

 中からぶつかる様な音とピギャッと声がしたがエクレールは気にとめなかった。


「も、もちっと優しく扱ってくれんかのぅ」


 少しだけ開き日陰なのを確認してからヒュッケが棺桶から出てくる。

 エクレールの扱いによって少し頭をぶつけたらしく擦っていた。

 部屋は貴族ご用達のスイートといっても過言ではない部屋造りとなっていた。


「ふむ、随分豪勢な部屋に決まったのじゃなぁ」

「いや……其処の二人が無理やり最上階にさせたのよ」


 シロエールが最上階の景色を見たがっている話をきかされあー、それでかと直ぐ納得するヒュッケ。

 フレイヤはアカネに頼まれベッドを軽々と持ち運びし連結しだした


「あ、あの何をなさってるのですか?」

「ん?いやーベッドの数足りないし一纏めにして一緒に寝ようかと」

「私達の所では何時もそうしてるんですよ~」


 無理やり部屋を変えてもらった成果、ベッドの数が少し足りなくなっていた。

 大きさから、一つのベッドに二人一緒に寝ても問題は無い。

 いっそ何時ものように一つにしてしまおうという流れになったのだ。

 

「い、いいのかなぁ」

「だいじょーぶだいじょーぶ」

「帰りに戻しちゃえばいいんじゃない?」


 空きができたスペースに各自荷物を置き、中の着替えをクローゼットに収納していく。

 一通り準備が終わった頃には夕暮れ時となっていた。

 海と空がオレンジ色に染まっている。

 再び手摺の上からその風景を眺めるシロエールとその隣で付き従うエクレールだった。


「綺麗ですねお嬢様」

「そうですね……これだけでも着てよかったかもと思えるのです」

「お嬢様、まだ初日でございますよ?」

「それもそうなのです」


 手摺に座り、足をゆらゆらと揺らしながら沈むまで二人は景色を眺めていた。


「そういえばここって温泉があるんですよ~」

「へぇ、露天風呂もあるんだ、早速今晩行ってみよう」

「ううーん、かけ流しじゃと妾は無理じゃな……」


 ベッドの上にのり、パンフレットを広げながら他のメンバーはワイワイと話を進める。

 明日には海で泳ごう、プールもあるからどうだろうか等。

 臨海学校は一週間、それまでに何処まで楽しめるであろうか?

 皆は期待に胸を膨らませていた。




 太陽が沈み夜になる頃――。

 少年達はホテル近くの浜辺にある崖下に集まる。

 星空と月の光で辛うじて見える状態だがホテルからは死角となっていた。

 女性陣に気付かれぬ様。志を共にしない他の男子達にも悟られぬ様。

 バラバラにホテルを出てから遠回りして集合するほど徹底している。

 ダイキ・トゥーサカが岩の上に立ち真剣な眼差しで集まってくれた同士を見つめる。

 途中、ルーチェとクノンに怪しまれながらカノンを無理やり連れ出し、鍵魔法で二人撒いた。

 部活ギルド『ペンドラゴン』のメンバーの男達はほぼ全員参加。

 中には初等部の上級生から彼をライバル視しているものから彼を毛嫌いしている人物までいる。

 だが、この瞬間は皆心を一つに一致団結していた。

 ダイキは一礼してから皆に声をかける。


「ありがとう皆、俺達はこの今この瞬間だけでも兄弟だ」

「ああ、やってやろうぜっ」

「『ペンドラゴン』だけにいい格好思いせませんよ」

「やってみる価値ありまっせ」


 総勢27名、生まれも育ちも違えど志は皆同じ、彼らは円陣を組む。


「女湯を覗こうぜ」


 少年達のどうしようもない助平心が今動き出す。

やらなきゃいけないときがある男の子には

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