臨海学校へ
夏もモウ終わってしまいましたね、セミから鈴虫にかわってきました
試験の結果が中庭に掲示されて生徒達が一喜一憂し、土日を加えた試験休みが始まる。
結果は1年2年の学年首位はシロエールとリーゼロッテが取得。
続いてエクレールやアカネ、ヒュッケも学年10位以内に入っている。
一応、上位でもフレイヤはギリギリなので順位に関しては差し控える。
一方ダイキ・トゥーサカは学部首位と学年10位以内を飾っている。
1年の10位以内は『ペンドラゴン』と『清楚の白蛇』のメンバーが多く、現在の1年生のギルドはこの二つが抜きん出ていた。
「……何と言うかもう試験で無理に手抜きするの諦めた感じでございますね」
「だって、アレだけ目立ったらどうしようもないのです」
「あらあら、シロエールちゃんと御揃いですねー」
シロエールは自分がブランシュ家の跡継ぎだと宣言してしまった。
キュリディーテを倒したシロエールがわざと成績を落とすという事は、後々さらに面倒な事になると判断したからだった。
彼女が首位をとることに誰も違和感を感じえぬほどシロエールの実力は白昼となっているのだから。
余談だが武芸科1位の男である『完全破壊』は学年1位ではない。
高等部3年の学年首位の名前は……。
上位成績者となった生徒達は試験休みに羽を伸ばすと同時に各々買い物に勤しむ。
この時期になると王都への定期便が増え、それぞれ臨海学校の準備に入るのであった。
「ねぇねぇ!水着買いに行きましょうよ!」
拠点にて一人、去年の雪辱を晴らし無事に上位として参加する事が可能になったフレイヤは何時もの3割り増しなテンションで新作発売の記事をテーブルの上に広げている。
「あ~そういえばそうだねぇ、新作とか見てみたいな」
「あらあら、私も新しいの買おうかしら?」
アカネとリーゼロッテはフレイヤの話に乗り、椅子に座り記事の内容を眺める。
転生する前のアカネは友達と着ていく水着の話題なんてしたことがなく、漫画やアニメのワンシーンでしかなかった事を自分が体験できる事を少し喜んでいた。
「いや、水着なんて買っても海はいれんしのう」
「私は別に前買ったのが着れるので構わないのです」
「私はメイドなのでメイド服のままで結構です」
割と大真面目に海に入ると死んでしまうヒュッケ。
無論、何時ものように再生させる事も可能であるが昼間の海は別である。
灰となった身体が海に拡散してしまうと本当の意味で死ぬ可能性が高くなるのだ。
こういったイベントや格好に無頓着なシロエール。
そもそも何時もアカネに着せ替えさせられているせいか自分で選ぶ事を若干放棄しているのだ。
そして、その主人に付き添うかのようにエクレールも我関せずでいた。
「「「ダメにきまってる(でしょ)(ますわ)(じゃない)」」」
こうしてシロエールご一行は鍵魔法によって王都へと向かう事となった。
試験が終わった後は街が今までの静寂を打ち消すかのように賑わい、活気に溢れていた。
水着専門店に入ると女子生徒達が賑わいを見せている。
彼女達に気づくと一斉に視線をこっちに向けてきてしまいシロエールはささっと後ろに隠れた。
話しかけようと思うが躊躇してしまう者から、完全に関わりたくない者まで反応は様々であるが会釈したりして遠巻きに見ているだけだった。
「もう少し空いている時間にしたほうがよかったかしら?」
「ヒュッケさんが日光に当たってしまい灰になってしまったので奥に運びますね」
流石に学園都市のせいかある程度スタンダードな水着が中心となっている。
皆で選んでいる中ふと、アカネの目に留まった水着は見覚えのある独特な形状をしていた。
アカネはすぐさま其れを手に取り確認する。
「店員さん、これをください。後、製作者の名前も教えていただけたら嬉しいです」
「其方で宜しかったですか?」
さらさらと数人分のサイズを書き記して購入するアカネ、彼女の対応をした店員の証言では彼女の表情は可也ほっこりしていたそうだ。
皆で選んだ水着とアカネが買った謎の水着の2種類を持っていくこととなった。
大海原に船が数隻、帆を掲げ進んでいる。
天気は晴れ、日差しが強く照りつけ海の香りが風とともに運ばれてくる。
メインは帆による移動であり、風乱と自然の風を用いている。
また不完全ながら近年、炎獄を用いた運用システムの開発が急がれている。
ディアナ(7)の月、クロノス王国から出発した船達は学園のリゾート地へと向かっている。
ある生徒はデッキから海を泳ぐ生物達を眺めて、ある生徒は風乱魔法や自身の翼で海の潮風と戯れながら空を舞い、ある生徒は船酔いでグロッキーと化している。
成績の差、部活の差、身分の差はやはり現れており部屋の等級があった。
それでも学科、学部、学年別にそれぞれの成績上位者の生徒達であるため最下級でも下手な宿より良い。
『清楚の白蛇』もまた貴族用の1等級の客室に部屋を構えていた。
「えっと……私も良かったの?」
「問題ないのです」
「気にしないでいいと思うわよ、どうせベッド一つ余ってるんだし」
「ギルドマスターのシロエールちゃんのお友達なんですから別にいいと思いますよ?」
「……私に異存は御座いません」
「エクレール、尻尾が逆立ってるって」
この部屋には現在、ギルドマスターのシロエール、ギリギリ参加のフレイヤ、公爵令嬢リーゼロッテ、メイドエクレール、龍姫アカネ、そして棺桶で静かに眠っているヒュッケ、そしてミルク・ブレンダである。
今回の試験でエクレールから勉強を習ったミルクは上位組に入ってしまったのだ。
本人は予想もしておらず、部活にも参加していないミルクは準備も何もしていなかったから集団部屋で寝泊りになるところをシロエールがあっさりと決めてしまった。
「だけど船なのに高級感溢れてるよね……ここ」
「元々客船ですからねぇ」
客船の中ですら自分の部屋とは比べ物にならない状況であり、場違い感をひしひしと感じつつもベッドの寝心地の良さに彼女は丸まるように身を沈めていく。
夜、シロエール達とは別の船の看取の先――。
一人の少女が先端に座り足をぶらつかせながら海を眺めている、彼女の名前はスズノ・パストーリ。
『不可視』と呼ばれる彼女は夕暮れ頃からここに座っているが誰にも気づかれない。
唯、静かに海風をその一身に受けていた。
「スズノ様、そんな所にいたら髪の毛が痛みますよ?」
「あぁ、君も同じ船にいたのか?奇遇だね」
そんなスズノに対して唯一、存在に気づき声をかける少女。
スズノにとっては何時もの相手であり彼女の薄らと、夜なのに輝きを感じさせる瞳に視線を合わせる。
「そうですね、貴女は何時も一人ですから割り振りも余った場所に放り込まれたのでしょう?」
「確かにそうだが、リノ君折角の海なのだから偶には良いと私は思うのだけどね」
「だからといって一晩中此方にいらっしゃるつもりですか?」
「流石にそこまではしないがね……」
スズノは周囲をキョロキョロと見渡す。
自分達の会話を盗み聞きするもの読唇できる位置にいるものはいない。
リノの方に向きを変えたスズノは眼を細め顎に手を添える。
「なぁリノ君、『交響楽団』が今回の試験で上位に名前が無かった話は知ってるだろう?」
「ええ、点数の悪化ではなく試験そのものを受けてないとの情報です」
「幾らなんでもあの出来事があったからって試験を休むものなのかい?」
『交響楽団』キュリディーテ・グーデリアンは傍若無人な性格だが、それが一般的な貴族であり極めて優秀な生徒の一人だった。
ギルドから離れる人間は少なくはないだろうがそれでも彼女の実力は本物でありそれ以前に上に立つのが好きな彼女が試験を受けずに順位を暴落させる理由が分からなかった。
「よほどショックだったのでしょうか?何やら彼女は実家の方から色々言われているらしいですし最近は屋敷にも録に帰ってきていないとの内密な情報も入ってますしね」
「……リノ・リズレット君、君は探偵業が向いているんじゃないかい?」
「いやだなぁ、私は探偵を名乗るには戦闘力不足ですよ」
「君は探偵を何だ思ってるんだ」
キュリディーテが今どこで何をしているのか知っている者は殆どいない。
第二種魔法学部生徒達も彼女の名前を殆ど口にせずにいた。
「戦闘狂の『完全破壊』や狂錬金術師の『魔術工房』も臨海学校不参加のようです」
「ああ、あの二人は納得だ。むしろ羽を伸ばしにきたら逆に天変地異の前触れかと思いそうだ」
あの二人の顔を思い浮かべるスズノ。
二人とは何度か対面した事があるが研究や鍛錬に生涯をささげてるような存在だった。
クックックと二人の事を思い浮かべながら笑うスズノの手をリノが掴む。
「とにかく、その髪の毛を洗いましょうスズノ様」
「あーわかったわかった」
また別の船の3等級の個室――。
ベッドが4つ並んでおり較的グレードの高いホテルの部屋を感じさせる。
不自然にベッドを左右に寄せてその真ん中をカーテンで仕切りが作られていた。
「なんつーか、少し狭いな」
「狭いと思うのでしたらもっとギルドランクを上げるなりしてください」
「僕は別にこれでも問題ないけど」
「私もなんかお泊りって感じがして嫌じゃないよ?」
ダイキ・トゥーサカは庶民である。
ルーチェ・エミーニャは庶民である。
クノン・アインツェルンは庶民である。
カノンベルト・ベルモンドは庶民である。
つまり全員が庶民であり、1年生の為ダイキの武芸科1年トップと部活『ペンドラゴン』の評価によって何とか3等級の部屋を得ている。
「稼ぎが悪いダイキがもっと活躍してメンバーを増やせば来年はもっと良い所に泊まれますよ」
「がんばれダイキー」
「うう、すまんなぁ俺の稼ぎが悪くてよぉ」
「それは言わないお約束だよー」
これでも『ペンドラゴン』は1年がギルドマスターの部活では最大手である。
その後、ダイキ等は大部屋で寝泊りしている仲間達の所へ遊びに行き、修学旅行の生徒みたいに他愛のない話で盛り上がっていた。
夜も更けて船員以外寝静まり、水と風の音だけが響き月夜と星空が船を照らす。
吸血種族は夜空を眺める。
ああ、もう直ぐ満月だ――。
大分更新が遅れてしまいました時間が欲しい。




