猫耳の友人と犬耳メイド
クラスメイトのミルク視点になります
カーテンの隙間から朝日が射しこみ、囀る小鳥の声に耳がピクピクと反応する。
日差しが朝だ、起きろと頭に、身体へと伝えていく。
「んぅ……朝?」
ベッドの中で耳の先から尾の先まで身体をグッと伸ばし、目を開ける。
時刻はセットしてある目覚ましが鳴る5分前、徳をしたのか損をしたのか微妙な気分になってしまった。
私は半分寝ぼけたまま、フラフラと立ち上がり覚束無い足取りで洗面台へと向かう。
バシャバシャと顔を洗うと、微睡みから目が覚めた。
「ふぅ……」
猫耳がピンっと立ち、尻尾がゆらゆらと揺れる。
寝癖が酷く、何度セットしなおしても、何時ものはねっ気のある髪の毛は治らない
今日も何気ない毎日のはずだけどおめかしをしなくちゃ、という気持ちになっていた。
今日からウェイトレスのアルバイトもお休みになり、試験勉強期間と言う単語に憂鬱になりつつも少しだけ感謝もしている。
それは、何とシロエールさんと一緒に試験勉強をする事になったからです。
何時もは部活の人達と一緒だから中々、お昼や放課後一緒に何かをする機会が作れなかったけどこの間ダメ元で誘ってみたらあっさり承諾して貰えたので浮かれている。
「何かデート前の乙女みたいねあんた」
いつの間にか起きていたルームメイトに言われて首をかしげる。
彼女は同じバイト先の同級生で第五種魔法学部の竜人種族のリズレット。
入学してからの付き合いだけど関係は可也良好で今もこうして朝食を交代性で作っている。
別に私はただ一緒に勉強するから気合を入れているだけ何だけど。
「そんな事ないよー?シロエールさんとお勉強何だから気合いれなきゃ」
「しかし、あんたもよく恐れ多いとか言われている人と親しげに出来るね」
カリカリに焼いたベーコンエッグをパンに乗せてほお張るリズレット。
確かに隣の席じゃなかったら今でも会話すらろくに出来なかったかもしれないけど。
「最初は普通のお嬢様ってだけ、だったのだけれど何時の間にかねー?」
ファンクラブがあって、学園で一番有名な1年生の彼女と数少ない言葉を交わす相手。
あんたみたいな庶民風情がと、陰湿な嫌がらせを受ける可能性があるって言われた時にはどうしようかと思ったけど、そういった心配事は一切起こらなかった。
シロエールさんが虐めをやめさせる為だけに有名な先輩を大衆の前で倒したからにある。
もし、そんな事が発覚したらどんな事になるか分かるいい見本となってしまったのだ。
私も椅子に座りテーブルの自分の分の朝食を食べる。
この国、この街には全大陸の人間が集まってきているから自然と食文化も多彩だ。
リズレットが作ってくれた初めてのご飯と味噌汁を食べた時は新鮮な味で美味しかった。
「まぁ、勉強見て貰うのだから、精々上位成績組みになれるといいわね」
「リズレットも頑張ろうよ」
「下から数えたほうが早いのに頑張っても無理ム~リ~」
リズレットの成績は下の中くらいで赤点ギリギリ、実技は中の上と冒険者希望の見本なステータスだ。
「そろそろ勤勉なミルク・ブレンダ女史はそろそろ通学したらどうだい?」
「もうっ、リズレットも授業ちゃんとでなよ~」
のんびり珈琲を啜りながら手をふるリズレットにミルクは少し溜息をつきながら寮を出た。
同じ寮生の人達と足並みを揃えながら学園へと向かう。
空を飛ぶ人、水路をすべるように進む人、馬車通勤をする人様々だけど私は徒歩だ。
光霊魔法に移動とかに使える魔法がないから少し羨ましい。
クラスメイトと途中で出会い他愛無い世間話をしながら校門にたどり着くと周囲がざわついていた。
どうやら学園に忍び込み試験問題を盗もうとした人達を『魔法少女』が成敗したらしい。
最近学園に現れた可愛い衣装を身に纏った女の子達が悪い奴らをやっつけるという事で目撃情報があると情報系部活が走りまわる状況だったりします。
「私、魔法少女ちらっとだけ見た事あるんだー」
「えー、本当?」
「確か5人位いるって聞いたけどー」
『魔法少女』が時折名前募集中です♪と言っているらしく私もちょっと考えてみようかな?
教室に入ると窓際の席で何時ものように大量の本を読んでいる彼女の姿が……あれ、ない?
「シロエールさんまだ来てないの?」
「そういえばまだ見てないよ」
呼び鈴が鳴り出した頃、いつの間にかシロエールさんは机に座っていた。
行き成りでびっくりしたけど多分、鍵魔法を使ったのだと思う。
シロエールさんは鍵魔法師だと周知の事実になってからは隠す素振りをなくし普通に鍵魔法を使っています。
「お、おはようシロエールさんっ」
「はい、おはようございます」
今日は何時もの本を出さず、教科書とノートを取り出すシロエールさん。
私に寄り添うように座り、肩を並べて授業に入る。
魔法式とは魔法陣とも言える詠唱とは別の魔法を使う為のキーである。
昔、言葉を発する事ができない魔法師が開発したと言われる技法で、魔法式を書き込んだ特殊な紙にマナを注ぎ込む事で発動できる。
但し、詠唱よりマナのコントロールが難しく、大抵は下級から中級の魔法を使う。
「そこのスペル間違っているのです」
「え、どこどこ?」
ずずいと、顔がより彼女の真っ白な肌、綺麗な銀髪が私の眼に映り、頬が重なりそうになった。
花かシャンプーの香りかそれとも彼女自身のものなのか甘い香りが私の鼻腔を擽る。
ドキドキと鼓動が高鳴った。
私は別に同性派ではない、だけどシロエールさんを間近でみるとやっぱりドキっとしちゃう。
気恥ずかしいし授業中だけど先生はシロエールさんが勉強を教えていると分かっているので何も言わない。
ドキドキとは裏腹に彼女の教え方というか教科書の範疇を抜けて、実践的かつ画期的だった。
魔法式の把握を前提とした、幾つものショートカットを造りだし発動時間のタイムラグを減らしていた。
多分、実技の授業でこの方式を使えば上位組も可也現実味を帯びるかもしれない。
その後も光霊魔法の授業も中級をマスターしている彼女は、詠唱の練習に加えて無詠唱の唱え方の仕組みを教えてくれた。
彼女が教えてくれる内容は、教科書や本じゃ不可能とか書かれてすらいない事ばかりだった。
(シロエールさんって何時も不思議な事を書いているけど実現させているんだ……。)
お昼休み、シロエールさんと一緒に食堂に向かう。
何時もは人混みで大変な道のりがシロエールさんを見るや否や、全員端に移動して道が生まれる。
こういう時って堂々と歩くものだと思うんだけど、シロエールさんは私の後ろにくっついている。
どうやら視線で気分が悪いらしく、ただでさえ白い肌が青ざめていた。
一度学食行ってみたかったらしいけど周囲の視線にシロエールさんがもちそうに無かったから、タイミングを見計らって一番近くのトイレの個室に駆け込んだ。
「シロエールさん有名人何だからそりゃこうなるよー」
「御飯時くらい平和に食事させて欲しいものです」
本当に苦手何だなとシロエールさんの背中を擦りながら実感する。
こんなに人前に出るのが苦手なのに壇上に立ったり、戦ったり出来たのだろう。
「シロエールさん、第二区の商業区開ける?」
「出来ますけど……」
うん、じゃああそこしかないかな。
少し楽になったのか分からないけど私の尻尾をサワサワしている。
くすぐったいよ、シロエールさん。
でも尻尾触っていたら段々血色良くなっているしいいかな?
「えっとね、私がアルバイトしているお店、そこにあるから行ってみない?」
少し考えてからこくこくと頷くシロエールさん、少し興味深そうな表情になっている。
シロエールさんは鍵を取り出すと、目の前に扉が現れた。
間近で見るのは初めてだけど本当に扉がでてきた。
鍵穴に鍵を通し カチャリ と音が鳴ると扉が開く。
シロエールさんが私の手を引いて扉をくぐる。
さっきまで学園のトイレにいたのに、今は見慣れた商業区の光景だった。
「凄い……」
「ミルクさんのアルバイト先はどちらなのです?」
「あ、うん!こっち、こっち」
今度は私が手を引いてシロエールさんをアルバイト先に連れていく。
レストラン、『フォーマルハウト』パスタやサンドイッチを主体としたお店で、昼はお手ごろ価格だけど夜はディナーコースも存在する。
もっとも、庶民向けのお店なのでシロエールさんのお口に合うかどうかわからないけど。
「おや、ミルクいらっしゃい。珍しいな昼にここで食べに来るなんて」
お店に入ると店長が何時もの自称渋いという微笑みで迎えてくれた。
「ちょっと理由があるのですよ、店長。気にしないでください」
「なんだ、彼女か?」
「怒りますよー」
きょとんとした表情で私達の遣り取りをシロエールさんが見ていた。
私はなるべく奥の席を選んで席に座る。
ここなら、入口付近からじゃシロエールさんが見えないから安心かも。
「なに、ミルク、自分のバイト先に女の子連れて来てー」
「クラスメイトですよーっ」
この時期は学園生徒ではなく、専業のアルバイトさんがシフトに入っている。
学園から少し離れている為、お昼は生徒があまり来ないからある意味穴場かもしれない。
シロエールさんはメニュー表と睨めっこしている。
あれ?というかシロエールさんってもしかして……。
「レストランとか初めて?」
「そうですね……外食自体あまりしたことがないのです」
(箱入りさんだ、箱入りさんがいるっ)
説明したほうがいいのかなと思ったけど料理名は分かるらしく、どれにしようか悩んでたみたい。
パスタ系を頼んで席に座っている、妙に落ち着きが無いシロエールさん。
「どうかしたの?」
「そうですね、身内がいなくて友達だけで食事するなんて初めてなので緊張しているのです」
えへへ、と少し困ったような笑顔を浮かべるシロエールさんが妙に可愛いのだ。
仕草にちょっとほっこりしてたら、何だろう、視線を感じる。
シロエールさんの死角になる席に見覚えのある人がいた。
バレバレの変装っぽいことしてるけど、あの人確かシロエールさんのメイドのエクレールさんだ。
すっごい私に視線を向けているけど、もしかして私、監視されている?
次回に続く




