魔法少女始まりました?
魔法少女、それは小さな女の子の憧れ。
魔法少女、それは大きなお友達の憧れ。
魔法少女、それは一種の萌えである。
魔法少女、それは、強さと可愛さの両立である。
アカネは転生者である。
彼女は魔法少女のアニメを見て育ちオタクと呼ばれる分類にまでどっぷりと浸かっていた。
魔法が当たり前の異世界に転生してから魔法少女に少し期待していたのだが、
実際に魔法少女と呼べるような存在はいなかった。
マハの手紙によりシロエールが自分だと悟られぬよう動き回るという方法を考えていたのを切欠に、
「なら、私に任せて魔法少女になってよ!」
という事態へと進展していた。
完成した衣装は現在3着、自分とシロエールとエクレールである。
アカネは、コスプレを前世からしてみたいと思っていたが外見的理由で遠慮していた。
しかし、今の自身の姿は申し分ないし実際に魔法使える状況である。
イメージ通りの魔法少女が目の前に立っており若干興奮気味であった。
シロに鍵魔法でわざわざアーレスまで戻って贔屓の仕立屋に内密に作ってもらったのだ。
素材はなんと、シロ提供のオリハルコン繊維という豪華なものだ。
仕立屋は素材をみて手が震えながら渾身の作品を作らせていただきますと土下座までしていた。
精神感応性金属という名前負けせずマナを送り、イメージを込めれば色々な効果を発揮するらしい。
3人がそれぞれ衣装に着替えると残りの3人がおーっと好奇の声を上げる。
衣装は軽い
しかし、アカネはエクレールの方を見ると首をかしげ、ある結論に至った。
「うん、エクレールはちょっとアウトだわ」
「な、何故でしょうか!?」
エクレールは多分この中で、一番ノリノリで魔法少女の振り付けと名乗りをしているのだが、
如何せん外見が魔法少女とは言い難いのである。
19歳まで魔法少女だとある事例はあるのだが、アカネ個人的意見ではやはり、小中学生が限度だ。
エクレールはどう見ても童顔の女子高生にしか見えない背丈と胸が原因だ。
アカネの駄目だしにエクレールの巻き尻尾はしゅんと垂れる。
別に好きで大きくなったわけじゃないと落ち込みながら手招きされたエクレールの膝に転がり込む。
シロエールに撫でられていると、垂れていた尻尾はぱたぱたと振り出しており、ちょろかった。
「さて、次はフレイヤの採寸をしよっか~」
アカネは嬉々としてメジャーを片手に残りの採寸に取り掛かろうとする。
フレイヤは渋々採寸に協力する為服を脱ぐ。
衣服にこだわっていない為、安値で売ってるインナーシャツとパンツのスタイルである。
そして、隣で既にスタンバイしているリーゼロッテは圧倒的だった。
フレイヤとリーゼロッテの背丈はほぼ同じくらいなのでその大平原と山脈の違いが顕著にでていた。
下着も最高級品で少しフリルの入った可愛らしいブラとショーツである。
「あ、うんリーゼロッテ先輩はちょっと下がってください」
胸囲の格差社会にフレイヤはハイライトの無い目でリーゼロッテの胸を凝視していた。
リーゼロッテ本人は全く気づいていないのか首をかしげてシロエールの隣に座る。
ヒュッケはというとドロワースのみであった。
上は何も着ておらず堂々としている為、その様をアカネは潔さを感じる。
なお、胸に関しては彼女の髪の毛で隠れている為見えない。
メジャーを脇に通すと んっ と擽ったそうな声をあげるフレイヤ。
アカネが少し悪戯しようと耳に息を吹きかけて見ると ひゃん と可愛い声を上げる。
シロエールと違ってフレイヤは容赦しなかった。
「何すんのよ!このエロドラグーン!」
「イダダダダダダダ、ゴメン、ゴメンナサイッ!モウシマセンッ」
フレイヤは振り向きざまにアカネの顔面を掴みアイアンクローの要領でそのまま持ち上げたのだ。
ミシミシと頭の中で頭蓋骨が軋む音が響き、足をばたつかせながら悶える自業自得のアカネだった。
開放されるとフローリングで頭を押さえながらゴロゴロと転がり悶えるアカネ。
自分が竜人種族じゃなければ死んでいたんじゃとすら思う。
次はリーゼロッテという計測し甲斐のあるスタイルである。
アカネはリーゼロッテ先輩なら笑って許してくれるよねーっと懲りずに悪戯し様と画策していたが、
彼女は測る瞬間にさり気なく呟いたのだ。
「おいたは駄目ですよ~」
「ア、ハイ」
のんびりとした口調だったけど威圧感を感じた。
多分、本当に悪戯したら何をされるか分からないという警鐘がアカネに降りかかる。
渋々と測定だけ済ませ、正確な数字を知ったアカネは予想以上だった。
「妾の3サイズといってもアカネかシロエールと同じくらいのサイズで問題ないとみるがのう」
「まぁ、そこは全員だから」
シロエールと同じ位真っ白な肌でほんのりとささやかな膨らみ、
毎回蘇生するたびにシミとか傷とか綺麗に綺麗になるのかな?
悪戯すると逆に生気を吸い取る意味で仕返しを喰らうと察したアカネは今回も大人しく測定する。
まだ子供だから一応、可能性はあるがフレイヤがこの中で一番かつ完全なまな板だった事は黙っておこうと思ったアカネであった。
シロエール、エクレール、アカネの3人は魔法少女姿で夜の街を屋根の上を移動する。
魔法少女の衣装は身体能力も強化してくれるのか、ただのジャンプが倍近くにもなり軽々と屋根から屋根へ飛ぶように進んでいた。
「うわっこれ便利だわ」
「姿かたちはどうであれ、神話級ですからね」
「何処かアテはあるのです?」
犯人に鍵魔法師がいるという事は拠点がこの街では無いという可能性もでてくる。
国内の鍵魔法師はともかく、国外となると秘匿する国が殆どだ。
この学園に入学した他国の生徒の中にも業と鍵持ちを記載せずに入学する生徒だっている。
他所に自分達の手札を見せる馬鹿は居ないという考えだろう。
馬鹿正直に鍵を持っていると公言している奴か、自国の身分証明で分かっている生徒がピックアップされている。
この学園には入口で認証を得た人間しか入れない。
それは鍵魔法で入っても同じ事である。
生徒及び卒業生、営業を許可された一部の人間の中に今回の件の犯人がいるのは間違いない。
学園を流れる水路の下水入口に不審な人間をみつけた。
慌てて走ってきて水路から出ようとするところを見て3人は屋根の上から飛び降りる。
地面に付く瞬間ふわっと重力から開放されるような感覚をえてから綺麗に着地する。
「ナ、ナンナンダヨオマエラッ!」
行き成り現れた謎の3人組に狼狽する男。
全員が奇抜で、夜に似つかわしくない可愛らしい衣装を身に纏っているからだ。
彼の態度がシロエールは気になった。
何かから逃げようとした、そんな素振りだった。
エクレールが覚えた名乗りとポーズをとる前にナイフで切りかかってくる。
オリハルコン繊維の衣装にはナイフ程度じゃ傷一つつかなかい。
軽々払いのけたエクレールだが、ノリノリだった名乗りを邪魔されて大変御冠だった。
「まだ、自己紹介の、最中、で、ありま、しょう」
言葉を紡ぐ毎に相手への見事な連打、連打、連打。
相手の手足の関節を狙い、臓器や筋肉が薄そうな部分を徹底的に痛めつける。
こういうところが魔法少女じゃないんだってと突っ込みたくなるアカネは、
溜息をつきながらその様子をみている。
シロエールが鍵魔法で痛めつけられボロボロになった哀れな男の心の鍵を開ける。
中にはある組織から金を貰っただけの下っ端中の下っ端だった。
「情報は全然得られませんでしたが賊は地下にいるという事だけなのです」
「まぁ後はこれを誰かに引き渡してかなー?」
「いっそ、今から討伐なさります?」
話をしている間に巡回の部活達が此方にやってきた。
マハの情報と時間帯の巡回ルートに食い違いが発生したのだ。
ミスなのか別の事情かはともかく魔法少女3名は目撃されたのだった。
「誰だお前等は?」
エクレールがくるりと回りポーズを決める。
それにあわせてアカネもシロエールもポージングをとり
「愛と正義の魔法少女ですっ」
とウィンクをする、まだ顔の判別を困難にする魔道具がないため仮面をつけている。
後ろの男子がきゅんっと萌えに反応して可愛いと声を漏らしていた。
シロエールはエクレールがぼこぼこにした下っ端を差し出す。
「悪人さんを貴方達に」
「何時か名前が決まったら教えてあげるね~」
「さらばです」
軽やかにジャンプして壁を蹴るように屋根の上に立ち立ち去る。
一瞬の出来事にぽかーんとしていた巡回のメンバーは取り合えず、
渡された下っ端を捕縛するのであった。
しかし、その後すぐ下水の方から奥から悲鳴が上がる。
全員が其方を向くと一人の学生が現れた。
その学生服を赤く染め、その手には鍵をもった誰かの手を握っている。
巨大な剣を背負い、ガタイも良い普人種族の高等部生徒。
その剣からは異様な気配を感じさせ、神話級には至らぬとも伝説級の武器だと思わされる。
金属も3大金属ではなく長年使い続けられ、マナやオドがこびりつき鍛え抜かれた代物だった。
「あ、貴方はブルータス先輩っ」
彼の名前はブルータス・マグナス。
二つ名『完全破壊』と呼ばれその戦いっぷりはまさに鬼神の如く。
そして、武芸科高等部3年にして全武芸科総合1位の男である。
「…これが賊の証拠品だ」
鍵魔法の鍵を手に握り締めた腕を手渡し、地下の方に視線を向ける。
手を受け取った少年は少し吃驚して一瞬手を落としそうになるが何とか堪え、それを布に包む。
顔のいたるところに傷をつくり、制服の上からでも分かるその余計なものを絞りきった筋肉の体躯。
その肉体美に眼を奪われる女性に一部の男子達。
ブルータスは下水の簡単な地図を書き記しそれを渡す。
「ここに賊が使っていた拠点がある、死体がゴロゴロ転がってるから注意して確認しろ」
ブルータスは報告しにいくと伝え学園の方に向かっていった。
その後ろ姿は無骨な兵士といった印象だろう。
その後、彼の報告に学園側は流石はブルータスだと褒め称え、
次の日の学園新聞の殆どの見出しが武芸科最強の男スピード解決など、
彼の事を称賛する記事ばかりであり、魔法少女の名前は小さな記事になるだけで終わった。
だが、この件に関してまだ腑に落ちない生徒は数名いた。
犯人の拠点には結局証拠品となるモノが売りさばいていた薬の入った箱が見つかった程度だったのだ。
これで全部が終わったのか?と疑問を残したまま一旦この話は幕引きとなってしまった。
表向きは、の話だが。
「魔法少女意味あったのでしょうか?」
「まぁ、機会は何時でもあるよ~」
デビューが小さな記事となり不満げのアカネと、
むしろ注目を其処まで集めなくて良かったと思うシロエール。
二人は朝食を食べながらゆっくりと余裕のある時間を過ごしていた。
はじめたら終わりました。
まぁ、まだまだ魔法少女がでる機会はあるんですけどね




