恐怖の牛男、対するは
今回は『ペンドラゴン』のダイキに視点が向いております。
学園の全男子へ夜間帯の一人での外出は控えるようにするよう警告が出された。
原因はここ数日の事件が原因だった。
バイトの掃除に時間がかかり帰りが遅くなった中等部の猫耳尻尾科の少年。
今回は仮にA君としよう。
そのA君なのだが住んでいる場所は可也安い地域であり入り組んでいた。
A君は早めに帰れるよう近道をするために裏道を通ることにしたのだ。
時々ここを通っているが柄の悪い連中を見た事もないし、お腹が好いていたのだ。
しかし、ソノ日は違った。
裏道を走っていると急に後ろからがしっと手を引っ張られる
後ろを振り返ろうとしたら巨体の手が押し付けられ無理やり組み伏せられてしまう。
「な、なんだよっ!だ、だれ――」
口を布で塞がれて身の危険を感じたA君は暴れる。
しかし組み伏せている巨体はがちゃがちゃと何か聞き覚えのアル音を出していた。
そうベルトを外してズボンを脱ぐような
「グヒヒヒッ可愛い子猫チャンダネエ、イケナイナァ、コンナ時間にデアルイチャ」
「んんーんんんーーーーーー!!」
身の危険を感じた、これはやばい、と。
だが刃物を持っているらしく簡単にズボンを切裂かれ、巨体のテクニシャンな指遣いに悔しいけど悶える。
不思議な液体を塗られながら痛恨の一撃によりA君は無残に散った、色んな意味で。
「そのA君なのですが同じアルバイトの友人に、近々告白しようとしていた女の子がいたらしいのですが今では興味がなく男色に目覚めたそうです」
「マジか……」
聞くんじゃなかったと顔に手を当てながら、ギルドマスタールームの椅子に座りぐるぐる回る少年。
部活『ペンドラゴン』のリーダー、ダイキ・トゥーサカである。
彼のいた所では男同士の行為なんてネタ程度の話題だった。
初等部、中等部を狙うこの犯人は牛頭人科という説が濃厚なのだが。
しかし、当学園には牛頭人科の生徒はいない。
「私達も初等部では有名になったものなので、是非この犯人を捕まえるのに協力して欲しいとの事です」
「マジかー……」
「ね、ねぇダイキが酷い眼にあうのは嫌だよ?」
淡々と依頼の説明をするのはクノン、兎耳尻尾科で赤縁フレームの眼鏡が似合う黒髪紫眼の美少女だ。
うちの部活の纏め役として頑張ってくれている。
出会いは些細な事だったんだが、入ってくれと頼んだらすんなり了承してくれた。
結構ズケズケと言ってくるけど悪口とかは言わないタイプだ。
で、俺を心配してくれているのは幼馴染の黒森守種族のルーチェ。
両親が俺達の住んでいた町で宿屋をやっている。
特に勉強ができ、昔は俺が教えていたんだけど今ではすっかり勉強好きになってしまった。
そして奨学金枠を得て、教養科の商業学部に所属していてうちの会計を担当している。
まぁ二人の話はこれくらいにしても、俺達だけでやれと言われても困る。
相手が未知数で男を襲う奴なんてとてもじゃないが相手にしたくない。
なら、相当の実力者を助っ人に呼ぶなら最適な人物がいるのだが。
「なぁ~、だったらあっちも呼ぼうぜ」
「あちらとは?」
「え、えーっと」
クノンは分かっているのに不機嫌そうにしている。
多分、ルーチェも気付いているがクノンの方をみて視線を逸らす。
いい加減、向こうに変なライバル心を抱かなくてもいいと思うのだが。
「『清楚の白蛇』さんだよ、彼女達にも協力してもらえばいいじゃないか」
「言い忘れていました、犯人は女性の臭いに敏感で女性が居ると出て来ないとの噂です」
「マジで?」
「イクザクトリーです」
クノンの奴にこの単語を教えたら結構使ってくる。
しかし、女の臭いに敏感ってガチ過ぎるじゃないですかーやだー。
「あれ、俺の周りにも結構女子がいるけど大丈夫なのか?」
「大丈夫、ダイキは童貞ですから」
「どどど、童貞ちゃうわ!」
クノンさん止めて下さい、ルーチェが童貞って何?って顔でこっちを見てます。
しかし、それなら打ってつけの奴がいるじゃないか。
「と、いうことで頼むカノン!お前ならきっと釣れる!」
「や、やだよぉ何で僕が」
一見ナヨナヨしく僕男の子だよ?が似合いそうな普通人種の美少年、カノンベルトは多分囮としてはかなりやってくれるんじゃないかと期待できる。
「お前なら鍵魔法で何とかできるかもしれないだろ?」
「そ、そんな簡単にできたら苦労しないってば」
頼りないように見えるかもしれないがこれでも
そう、こいつも学園内で数少ない鍵魔法師の一人だ。
カノンが言うにはシロエールみたいな鍵魔法は書物にも載っていない不可能な技術だと言っていた。
まぁ実際出来たやつがいるんだしなぁ。
「まぁ、お前ならやれるって俺は信じている」
「ほ、ほんと?」
俺が肩を叩くとカノンは少し頬を赤らめてもじもじしだす。
可愛いが、だが男だ、俺はそっちの気はないんだ、そろそろやめてくれないか?
それに二人の視線が痛いんだ、クノンまでじーっとみてるのは何でだろうな。
夜、カノンが男の子らしい格好をして夜道を歩く。
引っかかると良いんだけど……。
女性の臭いがダメってんで野郎だけでパーティを組む。
ある程度距離をとってはいるが、一向に現れる気配がない、警戒してるのか?
「こないな?」
「そうっすねー」
「今日そろそろ帰るか?」
「」
「どうした?」
振り向くと一緒にいたはずの仲間がいない、背中からぞわわわっと悪寒を感じる。
別のグループに急いで合流する。
一人一人減っていく。
ホラーってレベルじゃねえ!
「リーダー!これマジでやばいって!?」
「わかってる!せめて対峙しねえとどうしようもねえよ」
周囲を警戒しつつカノンと合流する。
まるで狩猟宇宙人に襲われてる気分だ、その時一瞬の気配に気付き俺は剣を振るう。
「ふむ、すまない犯人は集団という可能性を考慮したが君は確か初等科の1年だな」
「い、今、姿が見えなかったぞ」
「あんた、『不可視』のスズノか?」
『不可視』のスズノ・パストーリ。
中等部2年の狐耳尻尾科のお姉さんだった。
話を聞く限り、どうやら俺らを今回の犯人候補として一人ずつ捕縛していたようだ。
そして、話をしているうちに俺は気づいた、気付いてしまった。
「あの、先輩」
「ふむ、何かね?えっとダイキ君だったかな?」
「今回の犯人、女性がいると出てこないんすけど」
「……それは真か?」
「マジです」
どうやら風の噂を聞いて捕まえようと思ったらしい。
今日の捜索は取越し苦労だなと俺は心の中で溜息をついた。
先輩は素で知らなかったらしく、後輩である俺に平謝りしてきた。
なんと言うかこの人根が凄い真面目で良い感じなんだろうなぁ。
「この侘びは必ずお返ししよう、では去らばだ」
少し影のあるほうに下がっていったら既に消えていた。
あの人一体何の魔法を使ってるんだ?それとも技術なのだろうか。
全員解散となり夫々帰路へと歩く。
この時気が抜けてすっかり忘れていた、今自分が一人出歩いていることを。
後ろから鼻息が聞こえ手を伸ばされそうになり、俺は後ろを向く。
全長2mくらいか?
犯罪的なフォルムのパンツをはいて、牛のマスク被っていた。
筋肉ムキムキの変態だ、さっきから大胸筋をピクピクさせている。
「ヒトリデ、ヨミチヲアルイチャダメダヨボク」
「うわぁ…」
俺は色んな意味で恐怖の対象に剣を抜き構えた。
どうやら奴さんは武器は持っていない、体術に自信があるのだろう。
落ち着け、ここで負けたら色んな意味で死ぬ。
「マナよ収束し、我の剣に宿りたまえ!フレイムブレイド!」
剣に炎を纏わせ踏み込んで斬りつけるっ。
相手もほんの僅かに下がって回避しやがった。
「オオオオオオオオウッイエスッ」
しかし、炎の切っ先が奴の胸を焦がしたらしい悶えながら腰を振っている。
誰か助けてくれ……。
一頻り悶えた後腰を低くして構えてきた、まるでレスリングみたいだ。
「ツギハコッチカライキマスヨ」
奴が一蹴りで間合いを完全につめてきた、奴の豪腕が俺の身体にふれ…させないっ。
剣で弾いて詠唱を唱える、体内のマナじゃなく外からマナを収束させるっ。
「風よ我の言葉に耳を傾け敵を吹き飛ばせ!エアロスプラッシュ!」
突風が変態の巨体を吹き飛ばす。
変態はマスクの中からでも驚きを隠せていなかった。
そりゃそうだろう、俺だってこの固有特性は異常だって思うしな。
外の素のマナを属性マナに変換して魔法を唱える。
「雷よ!槍となりて我が敵を貫けっ!サンダーブレイク!」
「アビャビャビャビャビャ」
「氷よっ地面より出でて敵の動きを封じたまえ、アイシンクルフリーズ!」
変態の足元を凍らせ動きを封じる。
これで避けれないはず、俺はマナを収束させてトドメの一撃に入る。
正直トントン拍子だったから俺は奴を舐めていた。
「フンンンンッ」
奴の身体が間近にあった、無理やり粉砕して突っ込んできたんだ。
どうやら強化魔法を使っている、詠唱が間に合わないっ。
剣でこの巨体の突進を受け止める覚悟で構えるが、変態は膝を突いた。
俺は構わず膝を付いた変態に向け魔法をぶっ放す。
「灼熱の炎よ!爆ぜろ!敵を業火に包み込み灰燼の柱と化せ!フレイムピラー!」
業火が舞い上がり変態を燃やす、死ぬほどのダメージは多分追わないはず。
フレイムピラーのおかげで異変に気付いた人達が集まってくる。
中には部活メンバーもおり、カノンが行き成り抱きついてきた。
「ごめんよ!僕がちゃんと囮を出来なかったからダイキがこんなピンチに!」
涙目になりながら抱きついてくる。
俺はお前が女の子だったらどんなに良かったかと心底思うよ、周囲に勘違いされるからどいてくれ。
ふと、変態の膝裏を見ると矢が刺さっていた。
角度からしておそらく上から…と上を見上げると屋根の上に確かにいた。
真っ白なドレスを身に纏い、仮面に弓を持つ魔法少女という単語が相応しい女の子がいた。
彼女で間違いないだろう、凝った演出かのように月が背景となっていた。
しかし、あの姿は何処かで見たような?
すると屋根から飛び降り姿を消していった。
まったく、この学園の女子は皆末恐ろしい奴ばっかりだぜ。
こうして俺の純潔は守られた。
犯人は高等部の先輩だったらしいのだが、本来の彼は細身の男だったのだ。
後々判明した情報によると謎の薬により巨漢へと変貌したらしい。
この学校で一体何が起きているんだ?
彼も彼でチートですね。
仮面の魔法少女は一体ダレナンダ




