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ヘルブラウのお嬢様

 切欠はマハがシロエール達の拠点に顔を出してきた所から始まる。

  

「いやー、シロエールさんこの間は御疲れ様ニャー」


 何時もの愛想笑いをしながら挨拶をするマハの後ろに何人か人がいる。

 マハの事はそこまで信頼しているわけじゃないが、マハがどうしても合わせたい人がいるという事で仕方なく招き入れた。

 連れて来たのは森守種族エルフだった。

 一人は高等部の人でもう一人はマハの同級生だそうだ。

 同級生のほうはシロエールを見てまるで念願の剣を見つけたような子供っぽい顔をしていた。


「まぁまぁ、本物のシロエールちゃんです!」

「お嬢様落ち着いてください」


 蒼い眼を輝かせ、ふんわりとした水色の髪は揺れる。

 そして歳相応の背丈に不釣合いな、胸である。

 巨乳になることを約束された胸といわんばかりに存在感があった。

 ある意味エクレールよりギルティの対象となった。


「この人は誰なのです?」

「にゃーこの方は」

「私、リーゼロッテ・アクア・ヘルブラウですわ」

「ヘルブラウ……」


 シロエールは恨めしそうにマハを見る。

 彼女の姓、ヘルブラウ公爵家に覚えがあったからだ。

 アルテミス大公国の重鎮の一人で今現在シロエールも伯爵家の第一後継者なのだ。 


「ねぇねぇシロエールちゃん」

「何でしょう…」


 面倒な事になったら最悪の場合、鍵魔法でなんとかしようかとすら思った。

 もしかしたらグーデリアン家の事で何か話があるかもしれないのだから。

 しかし彼女の眼からはそういったものとは全く違う感じ雰囲気を醸し出している。


「あの、ですね、私を『清楚の白蛇』にいれて欲しいのですわ」

「……うちに、ですか?」


 てっきり、リーゼロッテの要求は自分の所に入らないかとか、同盟を持ち込むかと思っていたシロエール達は本人が入部を希望するとは思っておらず面を食らった。

 すると、一緒に来ていた高等部の生徒がシロエールに向かって会釈をする。


「リーゼロッテお嬢様が驚かせてしまい、申し訳御座いませんシロエール・ブランシュ様。私はメーレと申します、貴女の母君であるグレーシア様にはお世話になった事がございます」


 ヴァイスカルトの名前をさり気なく省かれたのは恐らく、シロエールの父でありグレーシアを駆落ちという原因を作ったクロノワールに対する反感だろう。

 それでも、シロエールにとってはあまりいい気分ではない。

 それを察したのか、リーゼロッテがメーレをぺしぺしと叩く。


「駄目じゃないメーレ、貴女わざとヴァイスカルトの名前ぬいたでしょ?」

「……失礼致しました」


 シロエールに向かって謝罪するメーレ。

 リーゼロッテも御免なさいねっと謝ってくる。

 彼女自身はほんわかとしたオーラを漂わせており無害な感じを醸し出していた。

 だけど、シロエールは彼女に対して完全に無害という気分にはなれなかった。


「んー、こればかりは少し考えさせてもらえないですかね?ヘルブラウ先輩」

「同じく、で御座います」

「異議なしじゃのう」

「わ、私も異議はないわ、リーゼロッテには悪いけど…」


 4人の反応は芳しくなかった。

 メーレもリーゼロッテも予想の範囲内だったのか特に気にしていない様子である。

 シロエールも今回はどうするか少し悩んでいた。

 他人から入れてほしいといわれたのは初めてだった。

 さらに、相手がアカネという例外を除き自分より立場が上な相手となると悩んでしまっていた。


「そうですよねぇ、普通なら可笑しいと思いますものね」

「そうですね、わざわざ格下の人のところに入りたいという人は珍しいと思うのです」


 シロエールははっきり言ってみた。

 彼女の行動は裏がある可能性は捨てきれないしこのままなら実力行使も在り得る。

 リーゼロッテはというと、はっきりものを言うシロエールに対しまぁまぁと嬉々としていた。


「やっぱり凄く可愛くて凄く強くて凄く面白い子ですねっ」

「シロエール様。リーゼロッテお嬢様は単刀直入に申しますと、貴女を一目見て大変御気に召されたようなのです」


 一目見て気に入るというのは自分にも良く経験があるので納得してしまうシロエールであった。

 が、一瞬シロエールの背筋が凍った。

 リーゼロッテに対してじゃない、自分の周囲にいた女子達からだ。

 全員が様々な感情をこの場に募らせ一種の修羅場のような感覚に陥る。

 しかし、そんな雰囲気をものともせずリーゼロッテはあらあらといった笑みを浮かべていた。


「他の女の子達が焼餅を焼いていらっしゃるので今日の所はこれで失礼いたしますわ」

「よいご返事をお待ちしております」


 二人が帰っていくと大分落ち着いてきたのか嵐が過ぎたかのように静かになった。

 マハはというと、一番早く真っ先に逃げていた。

 修羅場の責任を取らされる前にホトボリが冷めるまで待つつもりだろう。


「シロ、どうするの?」

「妾的にはお主より上の立場が入るのはあまりよくないと思うがのう」

「ギルティ?」

「だけど無碍にすると後が怖いんじゃない?」


 確かに彼女を入れた場合下手をすると彼女の部活ギルドに成り代わる可能性も0ではない。

 入れるとしても、先ほどの雰囲気からして皆あまり歓迎ムードではなかった。

 試してみるかなぁとため息をひとつつくシロエール。


「今晩、ちょっとリーゼロッテさんの所にいってきます」


 夜0時頃、此処の所眠りっぱなしだったシロエールはこの時間でも問題なく起きていられた。

 服装はなぜかファンタジー要素溢れる、白色のクノ一衣装を身に纏っていた。

 アカネが潜入するならこれが定番の服なの!と言いながら無理やり着せたのだ。

 髪もポニーテールにされアカネの拘りを見せられた。

 着せられたシロエール本人は、他の皆にも好評だったのでいいとしましょうと納得した。


 複数回鍵魔法を繰り返して、屋根から屋根へと移動する。

 シロエールは特別区画に入った事がない為、視界内の範囲で移動を繰り返す。

 丁度彼女の住んでいる場所の向かいの屋根に足をつける。

 マハから取り寄せた地図とメモ書きによると彼女の所は警護が厳しいようだ。

 ありがたい事にリーゼロッテの部屋のカーテンが開いていた為、部屋の中が見えたのでシロエールは楽に鍵魔法による移動ができた。


 扉くぐって移動すると綺麗な部屋で天蓋付きのベッドに眠っている彼女の元へと向かう。

 人間は眠っている最中は無防備といってもいい。

その状態なら鍵魔法で心を覗き見るのも負担が減るので直ぐに終わらせられる。

 リーゼロッテの元に近づく、警護の気配がないのは部屋の中まで気にかけていないからだろうか?

 彼女の寝顔を覗き込むと月夜に照らされる青い髪は艶やかで幻想的だった。

 年上だけど子供っぽい外見のフレイヤとも同い年だけど背丈のあるエクレールとも違う。

 一つしか違う歳の差なのに感じる僅かな大人っぽさにシロエールはその顔を数秒か数分か分からない中見つめていた。

 自分の思考が停滞している事に気付いたシロエールは首を横に振りつつ彼女に鍵を使おうと手を伸ばすと、その手を掴まれた。


「いらっしゃいませ、シロエールちゃん」


 ペロッと舌を出しウィンクをするリーゼロッテ。

 シロエールは気付いた、今夜私が来ることも全部察知したうえで、彼女はわざと私が入りやすいようにしていたのだと。


「私が困らせるような事言ったみたいだから、シロエールちゃんは早めに対処しようと此処にやって来るかな~と思って待っていました」

「流石ですね…お見事なのです」


 初めてあった時から何かあると思ったけど可也抜け目ない人だった。

 手を引っ張られ、ポフンっと彼女の胸に顔を埋められる。

 ギューっと抱きしめられ、急なことなのでシロエールは驚いたが下手に暴れて警護が来ると、侵入者である此方が不利になるのでとも言えない状態になってしまった。

 

「それで、私に何のご用件でしょうか?」

「貴女の真意を知りたくてやってきたのです」

「あら、言ったとおりなのですけどねぇ」


 彼女は本当にただ自分に興味を持ったから入りたいだけなのだろうか。

 シロエールに少しだけ彼女に対して興味を持った。

 頭を撫でられていると香水の香りか彼女自身の香りなのか、ほんのりと甘く良い匂いがシロエールの鼻孔を擽る。


「その衣装、アーレス帝国のかしら?凄く可愛いですねー」

「え、あ、はいそうですね私も可愛い衣装だとは思うのです」


 先ほどからリーゼロッテのペースに引き込まれているシロエール。

 彼女自身からはやはり悪意の類は感じられない。


「私は何れ、国の為に有益になる相手と結婚するでしょう」

「ですからこの学園にいる間に相応の相手を見つけないと、強制的に婚約させられると思います」


 彼女の言葉から自分への興味と好意は、鍵魔法と戦闘力も見込まれていると悟るシロエール。

 しかし、その理由も考えると納得出来るものだしそんなに不快に感じなかった。

 それ以上にリーゼロッテという人間が暖かい人だとシロエールは思ってしまったのだ。


「それにね、私もああいった普通の暮らしってしてみたいなって思うの」


 目を輝かせて私に熱弁するリーゼロッテ、普通の暮らしに憧れる事に関してはアカネもそうであったため、すんなりとその言葉を受け入れられた。

 リーゼロッテ対して鍵魔法を使おうと思っていたシロエールは今ではもう使う気も起きていなかった。

 

「…確約は出来ませんが成るべく善処したうえでリーゼロッテさんを部活ギルドに入れるようにしようと思います」

「本当に?嬉しいですわっ」


 リーゼロッテが喜んでいる中、シロエールは彼女の手から抜け出して帰ろうとすると服を引っ張られた。

 シロエールが振り返ると、少し不満そうで寂しそうな表情のリーゼロッテがいた。


「折角来たのですから、このままお泊りになっては如何ですか?」

「そう言われましても、もしメ―レさんや他の人に見つかっては面倒になるのです」

「大丈夫、朝まで誰も来ませんから」


 リーゼロッテの言葉に少しだけため息をつき、隣で眠ることにした。

 すでに眠気はなかったはずなのに、いつもと違う暖かさにうとうとと瞳を閉じるシロエールであった。

 それから数日後、拠点に住人がもう一人増えた。


さらに増えました

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