誰かを助ける覚悟3
その銃は、レバーアクションと呼ばれる形状のモノのライフルで、白銀色をしている。
既にストックのパーツとバレルもパーツを取り外して、ショートバレルに変えたモノを構える。
その銃をみたアカネは魔砲少女という単語を思い浮かべる。
ライフルには金色の装飾が施されており武器というより芸術品に見える。
マナを流すトリガーとバレルの内部分はマナ伝導率の高いアダマンタイト。
機関部とストックの内部は両立のとれたオリハルコン。
外装をマナ伝達が鈍いが最も硬いヒヒイロカネで構築。
ストックにマナの出量を記憶させ自動化させる為の魔石。
バロールの魔眼とよばれる宝石をとりつけてある。
『知識』からの情報によるとガーランドが昔、炭鉱種族の鍛冶王と協力し作ったとされる三大金属製聖魔銃『ブリューナク』である。
どんなに多くのマナを注ぎ込んでも壊れず100%伝達させるその銃はシロエールにとって好都合な武器であった。
「何を出すかと思えば銃なんて暗殺にしか使えないような玩具じゃありませんの!このグランドゴーレムには無駄無駄ですわ!」
彼女の声を意に介さず耳栓をつけるシロエール。
その態度はまるで彼女の言葉を無視する為に付けているように見えたため、更に彼女を煽らせた。
ガギンッ!
一瞬、爆発したかのような凶暴な音が響きわたる。
シロエールの近くにいたグランドゴーレムに巨大な穴が開き、核を壊されたのか崩壊していく。
銃の音は恐怖を駆り立て、その威力を見せ付ければ相手は萎縮し動けなくなる。
銃の音も武器の一つなのだ、耳栓を外しキュリディーテへ『ブリューナク』を構える。
彼女は耳を抑えつつも落ち着いていた、むしろ開始前の時とは打って変わって真剣な眼をしていた。
この世界の銃の技術は発達しておらず、ヒュッケの銃剣を除いて大半が単発式なのだ。
カシャンとレバーを動かしクルリと銃を回転させる。
スピンコックというリロード方だ。
しかし他の人間には何をしたのか分からない。
トリガーを引き銃声が鳴り響く。
「ま、まさか連射できるというの!?」
弾は僅かにそれてキュリディーテの髪を掠める。
連射式という異様な銃に警戒心がさらに高まる。
すぐさま破壊されたジャイアントゴーレムの残骸からガーディアンゴーレムを作り上げる。
防御力、硬質化のみに特化したこのゴーレムは上位魔法でもびくともしない硬い守りである。
それを自分の周囲二配置させて守りを固めた。
「まさか本気で相手するとは思ってもみませんでしたわ」
初級の簡易ゴーレムを埋め尽くすかのようにどんどん作り上げていく。
シロエールの銃がどんなに火力があろうと多勢に無勢。
あの強大な銃撃を使うのにどれだけ、大量のマナを消費しただろう。
何度もそう撃てないと考えていた。
それ故に、大量に作り上げた簡易ゴーレムで包囲網を作り上げる。
折れたレイピアをまるでタクトのように振りながら指示をだしていく。
圧倒的物量戦で相手を潰す『交響楽団』これが彼女の二つ名。
大地魔法第二種魔法学部の総合3位の実力なのだ。
シロエールはマナをこめた銃をキュリディーテへ撃ち込む。
最初の1撃よりは威力も音も劣っていたが威力は十二分にあった。
しかし、ガーディアンゴーレムの守りに皹を入れる事は出来ても破壊することはできなかった。
周囲は悟った、マナが切れたのだと。
そして、もう少し近ければ貫通して彼女に届いたと。
キュリディーテは鍵魔法を警戒してガーディアンゴーレムとは別に迎撃用のゴーレムを作り出す。
もし鍵魔法で扉が開いたらそこを通る前に此方が突き刺す為だ。
彼女に死角は無くシロエールはジリ貧となっていた。
「だ、大丈夫なの?ほ、本当に」
「問題ないない」
「問題御座いません」
「そうじゃのう」
『清楚の白蛇』一行は一人を除き、微塵も不安を感じず戦いを眺めていた。
この一行の態度を見ていた一部の生徒は戦慄していた。
だからなのか、一部の生徒はどんでん返しを期待した。
実弾に切り替え撃っていくシロエール何体も貫通して消失していくがどんどん追加されていく。
普通ならこんな事をすればあっという間にマナが枯渇するだろうが、このゴーレムには工夫があった。
シロエールを襲っているゴーレムの9割がほんの形を保ち歩けるだけのゴーレム崩れなのだ。
しかし近づいて抱きつけば崩れても土がどんどん彼女を埋もれさせていく。
残り1割を無視すれば予想外な位置から一突きで倒す事も容易い。
この技法を編み出すのに彼女はこの学園での学びをこれ一つに費やしてきた。
故に彼女のゴーレムの扱いは学園で右に出るものはいない。
カチカチッと引き金を引くがもう弾が出ない、リロードしないあたり弾が尽きたのだろう。
もう敵は完全にシロエールを取り囲んでいる。
誰もが彼女の敗北を感じ取っていた。
油断はしていない。
だが、敗者の顔を見ようとキュリディーテはシロエールの顔を遠眼にみる。
シロエールは、見透かしたような半目で少しだけ微笑んでいたように見えた。
ぞくっとキュリディーテの背筋が凍る。
この圧倒的状況で笑っているなんてありえないと。
どうせ恐怖で動転しているんだと言い聞かせ、深呼吸をしつつ油断しないよう最後の一手を決める。
「これで閉幕ですわ!」
簡易ゴーレム達の手が槍のようにかわりシロエールを突きざしに、出来なかった。
今、確かにいたはずの場所にシロエールはいない。
何かを使った形跡もなかった。
じゃあ、何処に?
シロエールはガーディアンゴーレムの隙間にいた。
キュリディーテは気づくのに一瞬遅れ、迎撃用ゴーレムがシロエールの肩付近と突き刺すのと同時に、シロエールの『フレースヴェルグ』はキュリディーテの心の臓を貫いていた。
「っ…」
「な、ナンデ……?」
シロエールは剣を引き抜き血があふれつつも回復魔法で傷を癒していく。
彼女が光霊魔法使いだと思い出すがシロエールのマナは枯渇…。
キュリディーテは悟った、彼女はマナなんて枯渇していなかった。
銃の威力も、私をこの位置から動かさない為の布石だったのだ。
同士討だとしてもその時点で負けは決定していた。
致命傷により、キュリディーテは転送されようとしている。
その前にシロエールは彼女にトリックの種をあかした。
「ジャスト10分です」
時限式転移石を彼女の目の前に落とす。
鍵魔法を使った際、ジャイアントゴーレムが崩れ瓦礫の中に放り込んでおいたのだ。
そのため彼女をその場に留めるのと時間を稼がないといけなかった。
「しょ、勝者!シロエール!」
ルクシャナの宣言が響き渡り観客の大歓声が響き渡る。
大番狂わせがおき、周囲は大はしゃぎだ。
『艶麗の貴婦人』のメンバー達は信じられないといった感じの顔から気絶するものまで続出した。
フィールドが消え傷も無くなった二人が対峙する。
シロエールは彼女との戦いをもっと楽に終わらせられると思っていた。
彼女は強かった。
今まで戦ってきた中で一番冷静で一番強かった。
あと少し包囲が早ければ次の手を出さなければならなくなる所だった。
「わ、私が負けるだなんて偶然だわ!いや何か仕掛けましたわね!」
彼女は自分が負けたのを理解はしているが納得できなかったのだ。
今から更にのし上がり磐石のものとするはずがこんなぽっと出の新入生に負けてプライドをずたずたに切り捨てられ形振り構ってられなくなっていた。
その態度をみたエクレールは乗り込んで切り捨ててやろうかと身体に電気を纏い今にも切りかかりそうになっているのを全員で抑え込んでいた。
「キュリディーテ!いい加減にしろ!お前は彼女に負けたんだ」
「五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!グーデリアン家の総力をあげでてでも貴女を許しませんわ!」
ルクシャナを跳ね除け喚き散らす。
家の権力を使う、表立ってそれを行うのは学園の暗黙のルールだった。
それを彼女は大衆の前で言ってしまったのだ。
しかし、権力は権力だ。大国の伯爵家を敵に回したい人は少ない。
「ええ、お好きにどうぞなのです」
あっさりとシロエールは言ってのけたその目はキュリディーテには完全に見透かした様な感覚に囚われまるで蛇に睨まれているかのような錯覚を感じた。
「ふ、ふざけないで!!」
折れたレイピアをシロエールに向ける。
その瞬間、シロエールの『フレースヴェルグ』は鞘から引き抜かれ、彼女のドリルを全て切り捨てた。
「え、あ、あ、わ、私の髪がああああああ!?」
その光景を見ていた全ての生徒が驚く。
特に、迷宮帰りの一団は全員アルテミス大公国の出身で、グーデリアン伯爵家については詳しい。
あの家は新参で権力を使いたがり陰湿な傾向があったからだ。
このままでは本当に冗談ではすまなくなる。
しかし、青髪の少女とメーレと呼ばれる御付の生徒は他とは別に髪ではなく剣技に注目していた。
「あの剣捌きに私は見覚えがございます」
「あら、アルテミス大公国の剣術なんだから私も判りますわ」
「いえ、あれはそれにアレンジが加えられております」
幼い頃、ある年上でメーレの憧れだった女性がその剣舞を見せてくれたことがあった。
その女性はあろう事か男と駆け落ちをしてしまった。
とても高い身分なのに跡継ぎが生まれるかも解らない衝撃的な事件だった。
「ニャー?シロエールはクロノス王国の出にゃよ」
「フルネームはなんという?」
「シロエール・ヴァイスカルトにゃ」
「ヴァイスカルト……そういう事ですか」
その名を知っている。
だって、その名前は、あの人を連れ去った男の姓だから。
「グーデリアン家がどうするっておっしゃりました?」
「あ、貴女、ほ、本気で私を怒らせましたわね」
「失礼ながら私も本気で怒っておりますので」
シロエールは指輪をはめ、首飾りをみにつける。
家紋の刻まれたモノだ。
間近で見たキュリディーテの目の焦点が揺れる。
へたりと座り込み震えだす。
「う、うそよだって……あっ……だ、だから半森守種族っ」
「ねぇ、私が何でしたっけ?」
「え…あ…っ」
「私への件はまた今度ゆっくりお話しましょうね」
「ひっ」
周囲がざわめく。
シロエールの言葉に彼女は自分の数々を思い出し、返ってくるであろう報いを想像する。
病弱で儚げ?とんでもない、この子は蛇だ。
美しく、人を惑わす魔性の蛇。
キュリディーテは恐怖のあまり、大衆の前にも関わらず失禁してしまった。
シロエールがルクシャナの音響石を借りて彼女に、大衆にむかって言う。
「改めて、自己紹介いたします。私の名前は、シロエール・ブランシュ・ヴァイスカルト」
「アルテミス大公国、ブランシュ伯爵家の第一後継者なのです」
ブランシュ伯爵家はアルテミス大公国でも古い歴史のある名家だ。
同じ爵位でも新参のグーデリアン家とは発言力も名声も権力の差も歴然だった。
そして一昔前、この学園の女性達の中心人物となったグレーシア・ブランシュ。
『清麗の蛇』のギルドマスターであり、今でもその名は有名だった。
今、『清楚の白蛇』という名前でブランシュ家の名が学園に復活した。
「グーデリアン家はブランシュ家を対立するという事が総意という事でよろしいのです?」
真っ青になっているキュリディーテは横に首を振り気絶した。
これで、シロエールの圧勝は確定した。
しかし、彼女はさらに追い討ちをかけたのだ。
「皆さん、フレイヤさんは私のギルドメンバーです…後はわかるですよね?」
身に覚えがある人間は凍りつく。
彼女は今後彼女に何かしたり陰湿な行為をすれば敵になるといったのだ。
誰も彼女と敵対はしたくない、中には無理して行っていた者もいる。
これでフレイヤは大丈夫だろう。
「わーっ、いいですね、あの子素晴らしいです」
「お嬢様のお気に召したみたいですね」
「どうにゃ、リーゼロッテ。だからお勧めといったにゃ」
青髪の少女、リーゼロッテ・アクア・ヘルブラウだけは純粋にシロエールのことを気に入った。
メーレは彼女の癖を把握していた、今度は可也熱をあげそうだと。
シロエールは皆の待つ所へ戻っていく。
マナの消費は予定よりは大く消費したが特に問題はない。
丁度入り口付近に皆がいた。
「あのマキマキはギルティです」
「いえ、もうあれ以上やったら流石にアレなのです」
「お帰りシロー見てたけど中々ピンチだった?」
「ん~、妾からいう事ではないが自分の身は大事にするのじゃよ」
和気藹々としている中、一人だけもじもじとスカートの裾を掴みながら少し後ろでシロエールを見ているフレイヤがいた。
その顔は真っ赤で少し涙を浮かべていた。
そんなフレイヤに駆け寄るシロエール。
「フレイヤさん、勝ちましたよ」
「ば、ばかっ最後の方なんて痛かったでしょ!?」
「すぐ魔法をかけたので其処までは痛くなかったですよ?」
「そういう問題じゃない!」
彼女はどんどん真っ赤になっていく、年下の少女が本当に御伽噺のように救ってくれたのだ。
鼓動が熱くなる、彼女が平気そうな顔をするのが少しチクっとくる。
「あ、あの…あのね……そのね」
声のトーンがどんどん小さくなる。勇気をだせと自分に言い聞かせる。
そして頑張って声をだしてシロエールに伝える。
「お、お友達からよろしくお願いします!」
本当は好きって言いそうになったが一瞬だけ、メイドの目が怖かったのでこっちになってしまった。
当のシロエールはぱぁぁと目を輝かせて喜んだ。
「はいっお友達なのです」
「う、うん宜しくね」
この子は素直に喜んでくれる、なんというか可愛い。
ちょっといい雰囲気になったのを感じた3人はある行動にでた。
一人は腕を組み、一人は後ろからだきつき、一人は耳たぶをかんでいた。
「わわっちょ、ちょっと皆なにをするですか」
「えーだって、シロってばデレデレしちゃってさー」
「妾もそろそろ血が欲しいのう」
「お嬢様がそろそろ精神の限界の時間な気がしましたので」
台無しされたのもあれだけど、何だろうこのハーレム。
吸血種族の子が何かキスしようとしてるし、竜神種族の子は耳をはむはむしてるし、狼耳尻尾科のメイドはあのたわわな胸を押し付けてる。
色んな感情が交じり合ったフレイヤは感情に身を任せ叫んでしまった。
「こ、この誑しエロフゥゥゥーー!」
この日、拠点にもう一人新しい住人が増えました。
10万文字を達成いたしました。
嬉しい限りです。




