誰かを助ける覚悟2
「お姉様、伝書梟が届いております」
「あら、何かしら?」
『艶麗の貴婦人』は女性しかいない部活だ。
基本的に森守種族がギルドマスターになるとその傾向が強い。
ギルドマスタールームに学校からの手紙が届く。
キュリディーテ・グーデリアンは髪の毛のセット、爪のケアをさせながらソファに座っている。
特徴的なドリルヘアーを作る為だけに業炎魔法の魔法師を引き込むほどのである。
彼女は手紙を受け取り開く。
「……馬鹿馬鹿しいですわね」
軽い舌打ちと共に手紙を破り捨てる。
彼女は、一言で言うならばお嬢様だ。
綺麗にまかれた金色縦ロール、金積んで作ったボディスタイル、サドッ気の強い釣り眼。
性格も傍若無人で自分より下の存在はとことん見下す、悪役お嬢様そのものだ。
彼女の機嫌を損ねないよう皆が皆必死だった。
機嫌を損ねたせいで脱退させられた子は何人もいる。
この女帝は暴君であり強者であった。
手紙の内容はギルドリーダー同士の一騎打ちの通知だった。
『清楚の白蛇』より『艶麗の貴婦人』との一騎打ちの申請。
聞いた事もない名前のギルドだった。
初等部1年と高等部1年の戦いは学園の全新聞が取り上げ騒ぎとなった。
魔法科の乱心と馬鹿にするものもいれば彼女のファンが猛攻するなど一部乱闘になったりもあった。
第八魔法学部初等部が一番混乱している。
ミルクは彼女がいない事を伝えつつ、自分すら数少ない友人として引っ切り無しに話しかけられる。
「シロエールさん、一体何が会ったんだろう」
彼女の性格からしてこういった目立つ事を率先してするタイプじゃない。
何も知らないミルクも質問してくる相手に申し訳なさそうに答える。
こんな状況の中、当の本人であるシロエールは学園にはきていない。
シロエールと同じ初等部1年の部活『ペンドラゴン』のギルドマスターであるダイキ・トゥーサカは号外の新聞を読みながらお昼を食べていた。
「なぁ~これってどうなってんだ?」
「知らないですよ、そもそも魔法科代表さんってこういうの興味なさそうでしたよね?」
ダイキのシロエールの第一印象は病弱系ヒロインだった。
ただ、はっきりと意見の言えるタイプだと演説を聞いた際思った。
名前ではなく代表さんと呼ぶのは『ペンドラゴン』の光霊魔法師のクノンだ。
シロエールとは別クラスらしく、自分が一番という自信を持っていたのにその座を奪われて皮肉を込めてそう呼んでいる。
「そもそも光霊魔法は攻撃魔法が殆どないから1対1何て馬鹿げてる」
「そう言うなよクノン。もしかしたら高等部の先輩が弱いって事もあるんだし」
ため息をつきつつ、少しずれた眼鏡をくいっと直し馬鹿なの?という視線をダイキに向ける。
何時もの事なのでダイキはその視線に慣れきっていた。
「新聞最後まで読みなさいよ」
次元の狭間にある空間、シロエールの『知識』はこれを『倉庫』と呼んでいた。
『倉庫』には様々な武具から『 魔法具 』まで揃っている。
そこにシロエールはいた。
勝負に使う武具を選別しており、幾つかの候補がの残った。
時限式転移石、これは通常のルートでも入手出来るアイテム。
マナを注いで時間を調節し時間が経つと石と使い手の位置を入れ替えるというものだ。
一度使ったら壊れ途中で止めることも出来ず、範囲も最大20mと狭い。
『フレースヴェルグ』既に仲間の前で出しているこの神話級レイピアを携帯。
そしてもう一つ、この武器庫の中で最もシロエールが気に入っている武器の手入れを行う。
決して、今他の人と会話すると緊張とか色んなモノが出てダメになりそうというわけではない。
決戦の日、武道館には『艶麗の貴婦人』や他の上位ギルドに初等科多数が見ていた。
人数が其処まで多くないのは大抵の人間がキュリディーテの圧勝で終わると思っており、わざわざ見ようとすら思わなかったのだ。
しかし、会場を埋めるは軽く千を越える人数。
最初に姿を現したのはキュリディーテの方だ。
特徴的な髪を揺らし、優雅に歩くその様は確かに貫禄がある。
ああ、この人は貴族なのだと、傲慢で高飛車で自信に溢れていた。
「まだ来ておりませんの?」
下級生が自分を決闘に呼び出しておいてまだ規定無い事に憤慨した。
部下に聞くところによると相手は半森守種族らしい。
今は半森守種族と黒森守種族はアルテミス大公国では正規の扱いを受けているが、今でも極一部の貴族は穢れた血等と蔑んでいるでいる。
グーデリアン伯爵家がそうである。
当のシロエールだが、入口まえでエクレールの尻尾をもふもふしていた。
観客の声だけで動悸や眩暈を起こし尻尾のもふもふで落ち着かせているらしい。
「お嬢様、そろそろ出ませんと」
「わかってるー…」
「本当に大丈夫なのかえ?」
「シロ頑張れー」
「ちょっと!本当にこの子大丈夫なの!?」
シロエールの状態に不安に駆られる2名と、自分の尻尾で落ち着かれて喜んでいる者、信頼しているもの4人の反応は様々であるが誰一人負けないと信じていた。
カチリッと音を鳴らし銀髪碧眼の少女はゆっくり立ち上がる。
その表情は落ち着きを取り戻し、ゆっくりと歩き出す。
白銀の髪を揺らし、穏やかに歩く、その様は逆に貫禄があった。
ああ、彼女も貴族なのだと、可憐で優雅で高貴さに溢れていた。
二人がリングに並ぶ、中央にはレフェリー兼審判の高等部の有羽種族のルクシャナ・アルノー先生が担当する事になった。
彼女は千里眼という固有特性を持っており回避に関しても一流の為上位組みが決闘をする時は大抵審判役になっている。
「一体なんのつもりかしら」
「フレイヤさんの件で。嫌がらせをやめて欲しいのです」
私は眉を顰める、この小娘の後ろをみると龍姫、犬耳メイド、吸血鬼と全員可愛い。
そして、私の事をすっかり忘れてた嫌味なあの炭鉱種族がいる。
で、この女の為にこんな事をする何て無性に腹立たしい。
この半森守種族を倒せば全員頂けるわけならこの際問題ないわ。
「別によくってよ、まぁ、私に万が一でも勝てたらですけどね。覚悟はいいかしらこの穢れた血は、オーッホッホッホ」
「キュリディーテ、貴族だとしても私はその単語を使うようなら許さんぞ」
「……」
シロエールが眉を顰めた。
彼女がわざと大衆に聞こえるようにルクシャナ先生の手にある音響石に向かって喋ったのだ。
遠まわしに両親を侮辱された気分だった。
二人はとても優しくて幸せそうで沢山、愛情を注いでくれた。
シロエールは悪人達よりも彼女の事嫌いになれそうだ。
だから言い返した、母から習ったとおりに。
「流石グーデリアン家はぐるぐる髪の毛も回ってますが、良く舌も回るのです」
ピシッと場の空気が凍る。
シロエールも音響石に向かって言ってのけたのだ。
ルクシャナは面白いといった顔で、キュリディーテは高笑いのポーズをとったまま固まる。
周囲はよく言ったという顔、命知らずだという顔で、終わったなという顔が会場内に広がる。
「い、いい度胸ですわね!このっ」
「キュリディーテ、この…の次は何だ?」
「ぐっ」
ルクシャナはひと睨みでキュリディーテを抑え込む。
彼女は学園内でも階級を無視した対応をする人気の教師である。
アカネの申請を最初突っぱねるつもりだったが理由を聞いて了承した。
だが、彼女もキュリアーデの敗北を微塵に思っていなかった。
終わった後、十分に話し合いをさせイジメも辞めさせようと考えていたのだ。
「いいな、今からフィールドを作る場所はランダムだ」
「構いませんわ」
「同じくなのです」
フィールドも契約迷宮同様の契約で形成される。
これは会場の人間や備蓄されたマナの結晶を用いて発動させる。
ルクシャナが契約の魔法を唱えている中、ある一団が観客席にきた。
「ねぇ、この試合どうなさったのかしら?」
「ニャ~君が帰ってくるのがもう少しはやければこんな事にはならなかったかもしれにゃいにゃ」
「あら?私が原因なのかしら?」
「それは違うニャよただ、君がいたらの話ニャ」
マハ・エネコロと青い髪に水色の瞳の長い耳が特徴の少女がいた。
少女の方は少し衣服等が汚れておりつい先程迷宮から出たばかりであった。
残りのメンバーもボロボロなのは変わらず開いている席に座り中には眠りこけるものもいた。
「ねぇマハさん、あの銀髪の子は誰かしら」
「彼女はシロエール、私の今一番お勧めの子ニャよ」
「まぁそれは楽しみですね」
「お嬢様、このような余興を見なずとも早くお部屋に戻られては…」
彼女達は実に1ヶ月以上も迷宮の中にいたのだ。
途中泉等で体を洗う事はできても流石に限度がある。
彼女の御付である高等部の女性は、今の身だしなみを彼女にさせたままにするのははまかり通らぬ事である。
「メーレ、ダメよ。これは見ないときっと後悔するって私の勘はそう告げていますわ」
「私にはそうは見えませんがね」
メーレは少女の自信満々の勘に呆れつつも彼女の勘は良く当たる。
それ故に全員この場にわざわざ来ているのだった。
出来上がったフィールドは平野。
岩や土、そして隠れる場所が少ないという完全にキュリディーテに有利なステージとなった。
お互いの武器は偶然にも同じレイピアだ。
「これより、『艶麗の貴婦人』と『清楚の白蛇』のギルドマスターの決闘を始める」
試合開始の合図が鳴ると同時にお互いの間合いをはかる。
レイピアを構え、互いの切っ先が相手へと向けられた。
いざ斬り込もうとしたが、シロエールは動けなかった、動こうとしても足が動かなかったのだ。
足元を見ると腕だけのゴーレムが地面から生えてきてシロエールの足を掴んでいた。
「オーッホホホホ、おバカさぁん本当におバカさんね、貴女!」
彼女はまるで早口言葉のように小声で詠唱を唱えていたのだ。
全力を出すまでもないと高をくくっていたキュリディーテはシロエールへ突っ込む。
シロエールに攻撃魔法はない、レイピアで叩き伏せれば屈辱的に終わると考えていた。
そこが彼女の最初のミスだった。
シロエールは『フレースヴェルグ』にマナと彼女への敵意を込めて力に変える。
「近くまで来ていただきありがとうなのです」
キュリディーテの斬撃を刃で軽くこそぐ様に受け流しながら削る。
シャンッ と金属の綺麗な音が鳴る。
2撃3撃4撃と絶え間ない剣捌きを、エクレールは全て綺麗に受け流していく。
手と腰を必要最低限に動かしながらの行動は全ての人間に圧倒的な力量差を見せ付けた。
まるで刃で奏でているかの様にも見える。
キュリディーテは内心焦りだす、この剣捌きに少し覚えがあったからだ。
アルテミス大公国の一部の貴族が愛用している技が彼女の動きに酷似していた。
途中で角度を変えてレイピアの刃を立て、パキンッと軽快な音が鳴る。
キュリディーテのレイピアの刃が斬れたのだ。
ミスリル製のレイピアを簡単に斬られてしまったキュリディーテは頭の中で警鐘が鳴った。
ストーンウォールを詠唱する、だが頭の中で響くウォールごと貫かれると。
だが詠唱は止められない、だから自分の足元に顕現させる。
「土の精霊よ我の声を聞き、妨げる壁を作りたまえ! ストーンウォール」
キュリディーテはシロエールの突きより速く地面が隆起し壁を作り、
その反動で後ろへと飛び距離をとった。
シロエールはこの第一段階で決着がつくなら、それに越したことは無かったがやはり簡単にはいかないようだ。
落ち着いて足をつかんでいるゴーレムを突き刺し破壊する。
キュリディーテの表情は険しくなる、近接銭湯は危ない、なら圧倒的力でねじ伏せる。
小さく、かつ速く詠唱を唱えていく。
「さぁ、出なさいグランドゴーレム!」
地面が隆起し、形を作っていく。大きさ5m程の巨大なゴーレムが2体姿を現す。
その一体の肩にキュリディーテは立っており折れたレイピアをタクトの様に振ると、もう片方のゴーレムがゆっくりとシロエールの元へと歩みよってくる。
グランドゴーレム、上級の大地魔法だ。
シロエールは距離をとるが体格差がありすぎて間合いがうまくいかない。
「レイピアではこのグランドゴーレムを破壊するなんて不可能ですわっ」
追い詰められたシロエールはレイピアを構える。
観念したと思ったキュリディーテは高笑いする。
「さぁさぁ、ごめんなさいって泣いて謝れば寛大なお姉さんはちょっとは許してあげてもいいわよ」
「随分小さい寛大なのです」
高笑いをしながらキュリディーテはシロエールを見ていたが、彼女の表情は恐ろしいくらい普段通りで淡々と答えるので不気味だった。
減らず口をとグランドゴーレムに命令する。
踏み込みをいれて、巨大な手が振り下ろされる。
観客はわっと声をあげ中には目を隠すものもいる。
カチリッという音はゴーレムの足音にかき消された。
ドゴォッ!!
地面を叩きつける音ではなく、キュリディーテのゴーレムの頭が叩きつけられ粉砕する音だった。
シロエールの前で手が消えていて、消えた手はもう一つのゴーレムの上に。
キュリディーテの乗っていたゴーレムは崩れ落ちていく。
シロエールは開いた扉に石を投げ込む。
キュリディーテは大地魔法で土を紙粘土のように柔らかくしてその上に落下する。
全員が一体何が起きたのかわからなかった。
誰かが言った。
「鍵魔法師」
その言葉は感染するように周囲に広がりどよめきが走る。
しかし扉はない、だが本等で語り継がれている。
ランクの高い鍵魔法師は扉も自分で作り上げる存在なのだと。
周囲のザワメキの中で、ガチャリと音が鳴る。
彼女はレイピアを納めその手に持っていたのは銃だった。
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