順調?な生活と波乱の幕開け
「んちゅ…ちゅ…ちぅ」
鳥が囀り、暖かな日差しが照らす朝。
遮光カーテンで閉ざされた薄暗い部屋で黒髪の少女が銀髪の少女の差し出す指先に舌を這わせカプリと噛み付いた。
指から流れる血を、丹念に舐めて指ごと口の中でちうちうと吸い舐め取っていく。
こくこくと喉を鳴らす度、黒髪の少女は蕩けるように頬を赤らめてその甘美な味を堪能する。
口から指を抜くととろりと少し血交じりの唾液の糸が引きその糸を綺麗に舐めとっていく。
「本当にお主の血は極上なのじゃ」
「必要なのはわかってますが毎日これだと朝が貧血気味で大変なのです」
彼女がきてから半月、吸血種族のヒュッケがこの拠点に住むことになってから毎朝シロエールから血を貰っておりこれが朝の風景の一つとなっていた。
「生気を貰うほうは初めてじゃったのがのう。お主がいいのなら血よりもあっちのほうが……」
ぺろりと舌なめずりをし、血を提供して貰っているシロエールの頬へと指を滑らせ顔を寄せていく。
20年間竜帝種の骨にんて死に続けていた為、少々生気が必要となったので目の前にいたシロエールから生気をもらったのだが予想を遥かに上回るマナと生気にヒュッケは全快した。
彼女の唇に指をなぞりながら顔を寄せていく。
すると後ろからの殺気に気づいた瞬間、脳天に踵が落ちていた。
ぬぎゃ~と頭を抑えながらゴロゴロ床を転がるヒュッケ。
「朝食の準備ができましたお嬢様」
「最近は日光で殺さないで。痛みを与えるようにしてますねエクレール」
シロエールのメイドのエクレールははっきり言ってヒュッケの事を今でも若干、敵視していた。
大先輩の吸血種族なのは理解しているが、主人であり自分が恋慕しているエクレールの血を吸い、剰えその唇を奪いディープなキス(生気を吸う為の行為)を仕出かした彼女を警戒していた。
胸の奥底には自分はまだした事がないという嫉妬が眠っている。
当の被害者ことシロエールはキスの一件に関しては彼女にとって必要なことであり私は其処まで気にしてないという。
これはアカネが幼少時に過剰なスキンシップをしていたせいだとエクレールは考えていた。
しかし、アカネがそういった行為をシロエールとするのは許すというかそれが当然だと考えている。
二人は親友だしアカネは自分にとっても良き友人だ。
何れ二人が結婚するだろうと思っていたりもする、だってあんなに仲良しなのだ。
アカネ様が王位継承から外れれば問題はないとおもう。
「相変わらずお主のメイドはちと荒っぽいのが玉に瑕じゃのう」
「ご安心くださいお嬢様につく悪い虫だけでございます」
むーっと頬を膨らませシロエールをぎゅっと抱きしめてしっしとするエクレール。
身長差のせいでその豊かな胸に顔を埋めさせられやわらかい感触と空気が薄くなる感覚でもだもだとっするシロエールであった。
「ヒュッケさん仲間であり友達なんですからあまり無碍にしないでほしいのです」
「そうじゃそうじゃー」
「なら少しは慎みをもってくださいませ」
朝食を食べながら第二学園都市新聞を読むアカネ。
ちなみに第二学園都市新聞は猫頭人科のマハの部活『長靴の猫』の同盟先。
高等部の部活『鴉天狗』が製作している新聞だ。
「あ、今週もヒュッケのこと載ってる」
「大人気ですね」
「ほほう、どんな記事なのじゃ?」
20年間行方不明になっていた当時魔法科1年生徒代表だった吸血種族の真祖が発見される。
今までは彼女のプロフィール的なものばかりであったが、とうとう情報が漏れたらしい。
新事実!何と発見したのは偶然か否か、同じく現在の魔法科1年代表の半森守種族のシロエール・ヴァイスカルトであったと。
「…ばっちり名前のったねシロ」
「あの猫、情報規制ができてないじゃないですか」
実際、上位ギルドの『鴉天狗』が手に入れた情報をマハが規制する事は難しいのだけど今はあの猫を怨む事にしようとシロエールはため息をつく。
「なんじゃ、その人外クラスのマナをもっておきながら目立ちたくないというのかえ?」
「大衆の目が苦手なのですよ……」
鍵魔法で学園への扉を開き移動する4人。
ヒュッケはローブで全身を隠し怪しげな黒装束と化していた。
「さて、またお昼にのう」
今日も真っ黒なのが通路を通るたび周囲の色んな視線を浴びながらまるでモーゼのように人ゴミを割いて歩いていった。
ヒュッケは闇纏魔法の第六魔法学部出身だ。
学園内で最も生徒数が少ない限定的な魔法かつ、あまり戦場でも死神よばわりされている。
吸血種族の大半はこの魔法を使っていたため昔は恐怖の対象といってもよかったのだろう。
「シロエールさん、また凄いことになってるね」
「そう、ですね…」
数少ない友人こと、ミルクが声をかける。
周囲は声をかけようかかけないかでじーっと遠巻きに見いている感じだった。
彼女が元々人に囲まれるのが苦手だと以前知っているので配慮していた。
ここのクラスで良かったなぁと思うシロエールである。
昼休みに入るまで2~3人代表として質問しにきたので、ある程度ぼかして答えた。
「今日もお昼は何時もの皆と?」
「そうですね、むしろミルクさんも一緒にどうかなーと思ったりもするんですけどね」
「あはは、お姫様もいるしちょっと気後れしちゃうなぁー、でもそれも悪くないねー」
手を振りまたねーと言ってくれるミルクさん、いい人なのです。
一緒にお食事したいけど鍵魔法はまだ秘密にしているから実際OK貰ってもどう連れて行けばいいか。
何時もの場所で食事を取っていると、今日こそは死なぬと豪語していた彼女だが急な風で木がざわめき出し不意に出来てしまった木漏れ日の直撃をくらいヒュッケさんがまた死んだ。
「ヒュッケさんがまた死んだのです…」
「日傘かローブ脱がなければいいのです」
「無謀な洞窟探検者並の弱さね」
これから暑くなるし新しい場所探すか一度拠点に帰ろうかな?
午後は迷宮探索を申請、現在30層にきている。
15層のボスはというとエクレールが一人で倒してしまった。
「妾も30層に来るのは久しぶりじゃなー」
「きたことあるのです?」
「うむ、ここのボスはそこそこ手ごわいのじゃ魔法無効じゃし」
ネタをばらされると全員ちょっと複雑な気分になった。
ちょっとむかついたのかアカネさんがニンニクを押し付けてる。
涙目になりながら謝るヒュッケさん、彼女はニンニクの臭いに弱い。
扉をあけると、巨大な亀がいた。
リフレクトタートル、全長6mの亀で甲羅が虹色の鏡のようになっている。
「魔法を使うならあの亀の甲羅壊せばいいってことなのかな?」
「では参りましょうか」
「シロエールは後方で回復援護かえ?」
「偶には私も前にでますよ」
シロエールは鍵魔法で穴を開け手を入れてごそごそとしてると綺麗なレイピアが出てきた。
鞘から剣身を抜き、軽く振ると軽快な風切り音が鳴る。
レイピア、槍、銃剣、短刀と各自違う武器を手にし戦いに挑む。
最初にヒュッケが銃剣を構え足に標準をあわせてトリガーを引く。
彼女のマナも可也高く多めに魔弾の薬莢にマナを込めたのか可也の轟音が鳴り響き、亀の足が吹っ飛んだ。
吹っ飛んだのだ、片足が捥がれバランスを崩してしまう亀。
反対の足をエクレールが二つの短剣で一度は厚い皮を切り裂き、もう一つで中の繊維を切り裂く事で無力化した。
《グォォォォオオオオン》
亀が叫び声を上げ頭を上げていると、高々と跳んでいたアカネの槍が亀の頭を貫いていた。
折角、秘蔵の武器の一つをだしたシロエールだったのだが、一瞬のうちに戦いは終わってしまった。
「まだ私何もしていないのです」
「ま、まぁ次の層があるよ」
「この程度お嬢様の手を煩わせる価値もございません」
「いや~、皆こんなに強いとは思ってなかったからのう」
むーっと頬を膨らませレイピアを元に戻すシロエールを3人で宥めながら今日の迷宮探索は終了した。
20年前だと30層を攻略しだすのは初等科1年生の最後辺りが一般的だったらしい。
毎回30層まで往復しないといけないのだから当然だろう。
ボスを倒して次の層でやられて戻るという方法を多様していた生徒がいたらしく、生きて帰ってこれない奴は相応しくないと契約迷宮に追加条例としてドロップも戦歴もリセットされる仕組みが生まれた。
強くなれば下層の敵は近づいてもこないので距離はあってもある程度は問題はなかったらしい。
そして、シロエール達の前には未だにモンスターは一向に出てこない。
「妾が思うのじゃが、どう考えてもシロエール、お主のせいじゃな」
「あーやっぱり?」
「そうでございましょうね」
ヒュッケ一人は二人の反応に少し疑問を抱いた。
この二人は本当にシロエールの異常性に気づいているのだろうか?と
本人は隠しておるし黙っておくことにした。
「そういえば、シロの武器って何だったの?」
「ああ、さっきのですか?」
もう一度、鍵で開きレイピアを取り出す。
ふわりと軽く、風と羽の装飾となっていた。
名前は『フレースヴェルグ』ガーランドの集めた神話級の武器の一つだった。
「これ、何で出来てるの?」
「さぁ?私もよく知らないのです」
三大金属の一つ、精神感応製金属
持ち主の精神力に影響を及ぼし、強度とマナの伝達率の高い金属。
聖剣や魔剣等の類はこの金属で作られているといっても過言ではない。
へー、と深く考えず武器を見ているアカネ。
お嬢様が持つ武器ならきっと素晴らしい物だと目を輝かせるエクレール。
フレースフェルグの材質に気づきつつも取り合えず黙っておくヒュッケ。
3人其々違う考えでシロエールへの評価が上がっていった。
迷宮の入り口近くまで鍵魔法で移動し、誰も見てないのを確認してから外に出る。
入り口にある入退出の証明にアカネが記載している。
皆で夕食何を食べようかと話をしている時、注意深く見ないと普通なら気づかない様な中庭の奥の森でシロエールはある光景を遠目だが確かに目撃してしまった。
一人の初等科の女の子が高等部の女の子に囲まれていた。
様子はあからさまに変だと思いシロエールはそっちに向かい走っていく、近くまで来ると罵声の様な声が聞こえてくる。
さらに駆け寄っていくと足元の木が折れ音が鳴なってしまた。
その足音に気づいたのか高等部の先輩達は此方に目もくれず別方向へ走っていった。
「貴女、大丈夫なのです?」
彼女の近くまで来ると彼女の周りには教科書やノート等の本が無残な姿で散らばっていた。
シロエールは被害者の少女へと手を伸ばす。
しかし、シロエールを見た少女は彼女の手を振り払うように叩いた。
「うっさいわね!あんたには関係ないでしょ、偽善者エルフッ!」
鞄に落ちていたものを無造作に詰め込み走り去っていく。
皆もシロエールが走ったのをみて付いてきていた。
「あの子どうしたの?」
「お嬢様を馬鹿よばわりとはギルティでございます」
「……何かあったのかえ?」
「あの人、泣いていました」
虐めていた人達は確か言っていた、キュリディーテ様に歯向かった反逆者の妹。
やったねシロちゃん、新キャラが増えるよ




