シロエール
明日は聖王祭を迎えようとしていた。偉大なる鍵魔法師にして初代国王が誕生した日にして生涯を終えた日。
眼鏡をかけた長身の男がグラスに注がれた水を飲みながら待つ。
男はある瞬間を待っていた。もうすぐ初めての子供が誕生しそうなのだ。
多少の睡魔に襲われつつも今も頑張っている妻を想いながら時計を眺める。時計の長針と短針が重なり時計が日付が変わった事を告げると同時にその瞬間はやってきた。
赤ん坊の泣き声が上から聞こえて男が階段を駆け上がると、この時の為に専用に拵えた部屋のドアを開けると外見的には十代半ば位の森守種族の女性が赤ん坊を抱きながら男をみて微笑んでいた。
「旦那様、可愛らしい女の子でございますよ」
助産婦によるとどうやら女の子らしい。
森守種族の耳より半分ほど短いがピンとした耳が備わっている。希少と言われている半森守種族らしい。
「あなた、名前をつけてくださいな」
男の浮かれっぷりにクスクスと笑いながら森守種族。
いいじゃないか浮かれたって子供可愛いんだからさ。
「そうだな……よし、シロエールだ!」
男は前々から男ならシロノ、女ならシロエールと決めていたのだ。
シロエールがふと手を開いた時何かが落ちた。
綺麗な純白の鍵だ、素材は恐らく分からないだろう。
落ちたと同時に原理は不明だが通常の鍵と同程度か、少し大きく感じる程度の大きさへと変化した。
産まれた時に鍵を持つ子供は鍵魔法師の才を持つ特別な子である。
シロエール・ヴァイスカルト。
普人種族の父クロノワール、森守種族の母グレーシアとの間に産まれた半森守種族の少女である。
両親や家来は彼女を愛称でシロエ(様)又はシロ(様)と呼ぶ。
彼女を家来も両親も可愛がり放題であった。大抵甘やかされた女の子は我侭に育つものだと思うのだが、彼女は不思議と赤ん坊としては可也大人しく乳母の経験があるメイド長からするとシロエールは可也変わっていると評された。
何故なら泣くとしたらお腹すいた時とお漏らしをした時位なのだ。
少女が産まれてから半年の月日が流れた。
シロエールはいつの間にかハイハイを覚えており2階に設けたシロエールの子供部屋を抜け出したりとヤンチャぷりが見られるようになった。
周囲は今迄が大人し過ぎたんだと評し彼女が何処にいくのか常に監視をする者がつきながら、行動を日誌に書かれている。
○月×日シロエール様は本日は家を探索するようにハイハイなされている。
流石に階段は上がれないのか周囲をきょろきょろ見渡し通りかかったメイドにまるで上に運んで欲しいとせがむ態度をとられた。
◇月×日シロエール様はグレーシア様の私室、3階の窓からの景色を見るのが好きらしい。
街並みがよく見えるからだろうか晴れた日には海も見えるので週に何回かはいらっしゃられる。
△月×日シロエール様が1階に降りようとなされた。シロエール様が産まれてから1階への階段に柵が設けられフック式の鍵が掛かってるのだ。
それをシロエール様は柵にしがみつき立ち上がり開けてしまったのだ。
その場にいた私はすぐシロエール様を抱きあげる、柵の鍵の位置を高くするよう庭師のローエンに頼みました。
記録を見ながら我が子を撫でるグレーシア。
森守種族のグレーシアにとって娘が半森守種族というのは嬉しいものであった。
グレーシアは『アルテミス大公国』では可也の上位階級の人間であり、学園在籍頃は、国柄通りの性的観念の持ち主であり男性に対して嫌悪感を抱きながら育っている為。正直養豚場の豚を見るより酷かった。
現在、外交や今現在の世の中じゃ男と接する機会は必ず発生するだろう、一部の階級は子供を他国の学園へ入学させるルールが存在している。
大抵はカールディア大陸の懇意にしてる幾つかの国の学園にくじ引きで決まる。
彼女は治癒術師であり引いた学園は王立ガーランド学園魔術科だった。
ガーランド学園とは初代国王にして偉大なる大鍵魔法師であるガーランド・クロノスを称え、名付けられた学園であり10歳から入学を許可されている。
そんなグレーシアがクロノワールと恋に落ちたのは学園進級試験のダンジョンで事故により二人っきりで取り残された所から始まった。
只でさえ半森守種族と黒森守種族が産まれる確率は稀である。
お嬢様であるグレーシアは跡継ぎを作らなければならない。男と結婚すると決めた時は家が大騒動となったのは言うまでもなく、二人は駆落ち同然のまま卒業したのだ。
その後、クロノワールや仲間達と一緒に戦い勝利を収め今に至る。
彼女自身は家の事を嫌っておらずあのような形で仲違いをしてしまったことは今でも後悔はしていたのだ。
そこで半森守種族のシロエール産まれたことで状況は変わった。
この子は森守種族の国『アルテミス大公国』でもちゃんとした待遇を得られる。
グレーシアには妹がいたがおそらく現在は妹が跡取りに選定されているであろう。
愛娘のシロは鍵魔法師の才能があるのだ。
もし、彼女が才能を開花させれば両親もシロエールの存在を認めざるを得ない。
それは自分とクロノワールの結婚を正式に認めてもらえるということになる。
鍵魔法師とは
鍵魔法とは門を具現化し解錠する事で発動する魔法である。
鍵魔法は細かく分類されるが代表的なものはこの3つ。
1:別の場所へと道を繋ぐ 移動系魔法
2:守護精を召喚する 召喚系魔法
3:心や、記憶に関わる 精神系魔法
鍵を持って産まれる子供が1,000人に1人とし、更に才能を開花させる事が出来るのは更に少ない。
鍵魔法師は大抵この3つの種類から1つ選びスキルを磨いていって5段階の評価を受ける。
何処まで成長出来るかは不明だけが鍵を持っているだけで所謂ステータスになるのだ。
「シロはどんな鍵魔法師になるのかしらねー」
暖かい温もりを感じながら、元気に私の乳を吸っているわが子をあやす。
母親譲りの容姿に父親譲りの髪の色の少女は無邪気だ。
そして、シロエールが1歳になる頃、更に変化が起きるのであった。
私の名前は、シロエール。
最近やっとこれが私の事だと自覚した。
時々シロとかシロエとか端折られてる、愛称というものらしい。
段々言葉がわかるようになると同時に殆ど理解出来る様になった。
よく分からないけど、知識が頭に流れ込む感じだけど意図的に感じる。
今なら会話もできるかも?と思ったけど上手く発音できない。
(そりゃ、まだ無理さ もう少し大きくならねーと無理だわ)
頭に響く声、正直私はあまり好きになれないけど頭の中でなら会話ができるのだ。
人から見るとぼーっとしているようにしてるらしく気にも止められない。
(あなた誰 というか何処にいるの?)
私は少しだけ周囲を見渡す、私の部屋に今は誰もいない。
(俺か?俺はお前でありお前じゃない、なんつーかもう一人のお前というか似たようなもんだ)
多分言葉遣いから男性なのだろう、心の奥底から響く声。
少しずつイメージが沸いてきたのかおぼろげな輪郭が浮かび上がる。
私の考えてる事思ってることが伝わってるのか、男は苦笑いをしてる感じがする。
(あーまぁ、自己紹介しねえとな、俺の名前はガーランド 大鍵魔法師さ)
名前が黒 灰 白 となってます




