初等科の七不思議
コッチの世界じゃはやいけど今だとシーズン到来ですね
「ねぇ、初等部の七不思議って知ってる?」
「何々?」
「知らなーい」
少女達が語り合うは、学園に伝わる怪談話。
新月の夜、総合音楽室のピアノが、かってに音が鳴る。
総合美術室の初代校長の絵画の目が動く。
教養科の廊下で真夜中にミイラが徘徊する。
初等部を通る水路から呻き声がする。
武芸科に飾られている騎士像が動く。
等、少し考えれば定番のものが多かった。
「最後の一つは魔法科じゃないの?」
「当ったり~」
「二つの科に怪談あるんだから魔法科にないと変だもんねー」
「でもでも、魔法科の怪談が一番本当って噂だよ」
魔法科の何処かに秘密の通路がある。
その通路の奥に隠された部屋にあるモノが眠っているらしく、その通路を20年前。
当時の魔法科の少女が発見して其のまま行方不明になった。
行方不明になってから満月の夜に、その少女の霊が魔法科の校舎の何処かに現れる。
「なんで、最後の一つだけ凄い設定が込まれているの?」
「知らなーい。でも、20年前に行方不明になった生徒はいるんだって」
「え、そこは本当なんだ…」
まだ怪談には少し早い時期だが、もうすぐ満月だったのだ。
この話を上級生から聞いた女の子はだからこそ、この話をクラスメイトに持ち込んだ。
「満月の夜に見に行かない?」
この噂は此処だけでなく色々な初等科1年の女子の中でブームになっていた。
満月の夜の学園。
静寂だけど雲ひとつない満天の星空と美しい満月が世界を照らす。
噂話に乗って入り込む初等部の生徒が何組かが玄関を潜り抜け中に入る。
中には既に校舎の中にいる生徒もいた。
赤紫色の髪の竜人種族の少女。
金髪犬耳の半獣種族狼耳尻尾科の少女。
銀髪碧眼の半森守種族の少女。
彼女達3人は魔法科の校舎にいた。
「シロ、このうわさ話本当なのかな?」
「実は学園に来る前にお母様からこの話だけ聞いた事があるのです」
「特に変わった匂いはしないですね」
シロエール達もこの話に興味を持ち探索をする事にした1人だった。
実際、噂の一つは保健室のラミー先生なのは確実だ。
母、グレーシアが初等科にいた頃は、七不思議では無く7番目の怪談話だけだったのだ。
「この一つの怪談話に他の怪談話が乗る形で七不思議が生まれたみたいなのです」
「つまりこの一つだけ由緒正しい怪談話ってわけかぁ」
学校の地図と見比べながら通路を歩く3人。
「しかしさぁ、何かこう夜の学校って不気味だよね?」
「そうですか?」
「余り気にしませんけどね」
普通こういう時小さい子は怖がるものだと思うアカネなのだが、実際アカネ的には正直怖い。
シロエールとエクレールは大して怖がる素振りをみせなかった。
静寂な廊下を歩いていたら、風でガラスがガタガタっと震える。
「ヒャッ」
吃驚したアカネは思わずシロエールに抱きついた。
再び訪れる静寂、アカネの頭を撫でるシロエールだった。
「アカネさんって実はこういうの怖かったりするんですね意外なのです」
「一番ノリノリで探索する人だと思ってました」
「怖がらない貴方達のほうが変なんだってば」
他の校舎では夜勤のヤミー先生に驚き泣き喚くもの。
試験用武器庫の監視をする守護人形に追われるもの。
怪談なんて大抵はそういうものである。
一通り回ったけど、隠し通路らしきものは見つからなかった。
「うーん、ないねぇ」
「何処を見てもみつかりませんね」
「んー…」
地図をみて気になる箇所が一つある。
魔法科初等部中央、鐘の真下の通路、現在いる場所だった。
鐘は外から整備をしているらしいがその下の部分に妙なスペースがある。
天井を見上げるとわずかに鍵穴らしきものがあった。
「ねぇ、エクレール、ちょっと肩借りますね」
「上?…鍵でございますか。かしこまりました」
エクレールがしゃがみその上に足を乗せて二人の身長を足せば天井まで届いた。
バランスの訓練は昔からこなしていた為、シロエールも綺麗に立っていた。
「……」
見上げるアカネは少し口惜しそうにしていた。
明るかったら見えるんだけどなあ。
シロエールのスカートの中は真っ暗で何も見えなかった。
カチリッ
シロエールの鍵は扉に通り鍵を回す。
何も考えてはいない、でも鍵は回ったのだ。
おそらく、鍵魔法の鍵なら開くようになっているのだろう。
上からがたがたと隠し階段が降りてくる。
「上ですね」
「隠し通路って話でしたが、これ隠し階段ですよね」
「盲点だわー」
階段を上がるともう一つ扉がある。
その先は通路も地図にはない、多分鍵魔法専用の扉だろう。
再びを鍵を通すと扉が開くとそこは、洞窟だった。
ひんやりとしていて、暗く、あかりをつけて進むと、切れ目から月が照らしていて少し幻想的に、荒々しい絵画のような場所だった。
散乱した武器に竜帝種と思われる白骨。
そして黒い棺に白い杭のような骨が突き刺さっていた。
「これ、何の骨だろう」
「多分……ドラゴンの骨だと思うのです」
「ドラゴンなんて500年以上も前から各大陸の奥から出てこないってききましたけど」
「あれ、開けてみましょう」
「大丈夫かな?」
棺だけが他のものより新しく感じさせ、骨を引き抜き蓋を開く。
中には何もない。
いや、灰のようなモノが入っていた。
「空?」
「空ですね」
「何もないですね」
二人が何もないを見て周囲を見渡してる間、私は棺桶の灰に触れてみた。
冷たいと思った灰は少しだけ暖かかった。
灰が人の形を形成しだし、手を掴み引っ張り込む。
「んっ!?」
唇が塞がれた、人はそれをキスという。
「んっ、んぅ…んっ…ぅ…」
相手の舌がシロエールの歯をなぞり、混乱する舌を吸い、逃さぬよう絡めあわされていく。
逃げようにも両手でしっかり後頭部をおさえられ、身体全体が熱くなり変な感覚に引きずり込まれる。
息継ぎで唇が離れるととろりと互いの唾液が交じり合った糸を引く。
「ちょっ!何してるの!」
「シロお嬢様から離れなさい!!」
周囲を見渡していた二人がいろんな意味で襲撃者に気づき、二人は一斉に黒い棺ごと蹴飛ばした。
キャッと声を上げシロエールを襲撃した謎の存在は転がり落ちる。
「い、いまべろちゅーだったよねっ」
「ああ、お嬢様が穢されてしまいまいした、ギルティでございます」
二人の凄い殺気がビリビリと伝わる。
かという被害者こと、シロエール本人は相手が女の子だと言う事と昔アカネとキスした事があったのでそんなに気にしていなかった。
「イタタ、長年死にすぎていたせいでちょっとばかり生気が必要だっただけなのじゃ」
ぱんぱんっとスカートについた埃を払い、起き上がる。
初等科の制服だが少し古い感じがする。
真っ白な肌に漆黒の髪と真紅の瞳、まるでシロエールを反転させたかのようだった。
見た目も麗しい美少女といって過言はないだろう。
だが、身体の一部が不安定に蝙蝠のようなものになっていた。
「あー、すまぬが、キスはせんからもうちょっと協力して欲しいのじゃ」
「ギルティ!」
「イエス、ギルティ!」
ギルティってなんじゃよ?って顔をしながら少女は霧状になり私の後ろにいた。
どうやって移動したのか分からない、ただこの芸当をできる存在は『知識』にあった。
「ちょっと、血が必要なのじゃよ」
彼女が舌なめずりをして、エクレールの白い首筋に牙を立てる。
少し、シロエールに痛みが走り、身体を流れるちうちうと吸われだす。
「っ、貴女、吸血種族ですね…」
「ひょうひょう、わらわは、じゅる、ひゅーへつひ、ちゅる、じゃ」
二人が完全に殺気立っていたので手で静止しながら終わるのを待つ。
ヴァンパイア、この世界の七種族のうちの一つであるが学園でも今現在、在学者は0のはずだった。
とある戦いにて急激に激減したためか、南の大陸東側にあるニュクス自治区にしかいないと本に書かれていたのを覚えている。
十数秒ほど血をすって満足したのか彼女が唇を離すと傷口は消えていた。
「いや~、ハーフエルフの血なんて初めて飲んだのじゃが大変美味じゃのう」
すっかり完全な姿になった少女は少し血行がよくなった感じで艶々になっていた。
逆にシロエールはちょっとだけ貧血気味になってしまった。
「あなたが20年前行方不明になった生徒ですよね?」
「え、外見かわってないじゃん」
「ギルティです」
エクレールはギルティを連呼するだけの状態となり、可也のポンコツになっていた。
シロエールは後で撫でて落ち着かせないと、本気で殺しにかかりそうだなと思いつつも知っていた。
襲撃者の少女を殺す事は不可能なのだと。
「おや、もう20年もたっておるのか?」
「そうですよ、できればお名前教えていただけますか?」
「うむ、妾の名はヒュッケ・ノクターン・シュバルツ!真祖の吸血鬼の一人じゃ」
ふふんと髪を靡かせながら答える少女。
吸血鬼は何千年も生きる種族であり、決して殺害することは不可能だとされている。
「お主等が来るのは見ておったのじゃよ」
「見ていた?」
「うむ、だって、今宵はこんなに満月が綺麗なのだから」
真紅の瞳が一際輝いていた。
満月、吸血鬼は全ての力を引き出せる。
ゆえに、仮死状態のままでも魂が一部だけ切り離され夜の学園の一部を見ていたのだ。
まるで夢をみているかのように。
「吸血鬼って死なないと聞きましたが」
「死ぬ時は死ぬが絶対に殺されないのじゃよ、例えばこのように」
棺桶の裏を叩くと隠し蓋が外れ中から珍しい武器が出てきた。
巨大なライフルに大型のブレードが合体した武器、銃剣。
遠・中・近、全ての戦域をこなせる武装をコンセプトに開発された武器なのだが、一つにした所扱い辛い武器となり今現在では廃棄された武装だ。
一部の使いこなせる愛好家には今でも愛用されているらしい。
「こんなふうに、のっ」
銃剣のストックを地面に固定させブレードを自身の心臓部に突き刺す。
赤い鮮血を噴出し、地面が銃剣が紅く染まる。
ヒュッケの身体の一部が霧状に散り、身体が蝙蝠のようなモノになってばらばらに散っていった。
「えっ」
「これがヴァンパイアですか…」
「自分からギルティ?」
エクレールは当分ダメそうだと二人は思った。
これが最大の強みであり、最強と呼ばれる由縁の一つ。
吸血種族は寿命以外では死なない。
3人の後ろで悠々としているヒュッケがいた。
「あはは、びっくりしたかのう?自殺も出来ぬ種族なのが玉に瑕じゃがのう」
「復活したばかりで大丈夫なんですか?」
「うむ、いやぁーお主のマナも血も生気も最上級じゃったからのう」
目を輝かせながら私に抱きつこうと飛んできた。
死なないと分かったエクレールが本気で雷鳴魔法の『飯綱神威』による全力蹴りで吹っ飛ばした。
「い、いや、痛みはちゃんと感じるから…のう?ぶっちゃけ即死のほうが痛くないし」
ごふっと血を吐きながら壁に若干めり込みながらも普通に立ち上がった。
真祖クラスになると身体能力も6種族の中でも最大クラスになる。
「ヴァンパイアってなんで強いのに数少ないの?」
「いや~それわねぇ」
「理由は簡単なのです」
シロエールはドラゴンの骨を拾いあげて、ヒュッケの頭にぷすりと軽く刺した。
「ピキャアアア」
さらさらと灰になるヒュッケ。
シロエールの行動に吃驚する二人だが大して何か言うなどはなかった。
やられても自業自得と思っているからである。
数秒後、何事もないかのように元に戻っていた。
「いきなり殺すでない!びっくりするじゃろう」
そういう問題なのかっとアカネは心の中で突っ込みをいれた。
シロエールは興味深そうに骨をみて鍵をあけたかとおもうと何処かに放り込んだ。
え、何処に放り込んだのシロと骨が消えた場所を交互にみやるアカネ。
「ドラゴンの骨は白木の杭と同質の効果を齎したみたいですね」
「うむー、ドラゴンの骨に効果があるとは思わなかったのう、骨自体手に入ることないしな」
「え、えーっとつまりどういうことなのかな?」
アカネは白木の杭の言葉を聞いて薄々は気づいていた。
もしかしてヴァンパイアとは。
「ええ、彼女たち種族は沢山といっていいほどの弱点が多いのです」
「いやー、日光なんて浴びたら即死なのじゃよ」
「やっぱりそういうことかー」
「弱点だらけなのです?」
エクレールが元に戻ったのを見て少しほっとする一同。
吸血鬼は最強の種族にして最弱の種族である。
昔は弱点が露見しなかったために昼しか対抗が出来ないと思われるほどの強さを誇っていたが、弱点の数々をつかれ一気に敗退。
挙句にある戦いの時に魂ごと浄化されるという被害を蒙ってしまったのだ。
そのため種族は激減し、自治区で静かに暮らしていたという。
「死んでる間は寿命進まないからお主等と同じ1年からやり直しじゃろうなぁ」
「でも、20年も前だから学籍外されてるんじゃ…」
「ああ、ないない種族的な意味でこうなった場合は休学処置という契約で学園におるからな」
一々何かあると仮死状態になる吸血鬼だから仕方ない処置だといえる。
しかし、何故ここにいたのだろう?
不思議に思ったシロエールは思い切って質問してみた。
「ここにいる理由かの、そうじゃなぁまずはこれじゃな」
鍵だった。
シロエールと同じ鍵魔法の鍵であり色は綺麗な艶のある漆黒だった。
「鍵魔法師。もっとも、妾はその名前を持つには至らないがのう」
「つまり、学園の生徒だとここは鍵持ちしかこられない場所ってことですか」
「その通りなのじゃ、日光が弱いから学園内で何処か拠点をおけないか探しておったらここを偶然みつけてのう、拠点に決めて眠っておったら地震が起きて骨が刺さったのじゃ」
いやー、まいったまいったと笑うヒュッケに3人は何ともいえない雰囲気になった。
オチとしては可也酷いものだったが20年前の失踪の原因を知ることとなった。
この死にっぷりは某存在を思い出し笑いそうになるアカネがいた。
エクレールは何度も死ぬヒュッケをみて削がれたのか、今はだいぶ落ち着いていた。
「それでしたら一緒に来ます?」
シロエールの発言に3人の目が一斉に彼女にむく。
一人は目を輝かせ、一人は動揺し、一人は泣きそうだった。
「おお、本当かえ?お主は鍵魔法師としても凄腕とみたのじゃそれなら通学で死ぬこともあるまいて」
「も、もしかしてキスで惚れちゃったとか!?」
「お嬢様こんなギルティな奴を引き込むのですか!それともアカネ様の言うとおりなのですか!?」
「え、えっと、ここに一人じゃ寂しいでしょうし、彼女には今友達がいないでしょうから」
元ぼっちのシロエールには吸血種族という存在に周囲がどんな目でみるか、このような体質だと人付き合いが出来るのか等不安を感じ、出来れば力になってあげたいとおもったのだった。
「ね?」
シロエールの笑顔にアカネはしょーがないなーとヒュッケを迎え入れることに賛成し。
エクレールは渋々従うことにした。
「うむうむ、感謝するのじゃシロとやら」
「えっと、私の名前はシロエール・ブランシュ・ヴァイスカルトです」
「アカネ・ロートフェルトだよー」
「……エクレール・ゲルブでございます」
「うむっ、よろしく頼むのじゃ」
シロエール達の拠点の北側の部屋の一つに、黒い棺が入ることとなった。
パーティは4人になった。




