表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/59

返り討ちと喰えない猫2

「マハ・エネコロさんですよね?」


 エクレールの後ろから顔を覗かせるような感じで、変な駆引きはせずにお名前を呼んでみる。

 マハさんはニャッと耳をピンとたてて此方を品定めするように見つめる。


「ニャハハ、シロエールさんはギルドに興味がなさそうでしたのに私の名前をご存じ何て吃驚ですニャ」

「ギルドに興味はないのですよ?」

「シロ?このぬこ知ってるの?」

「まさか、お嬢様…猫派なのですか?」


 エクレールの尻尾がしなーんと垂れ今にも泣きそうな眼で見ていました。

 大丈夫、私は別に犬派とか猫派とか関係ないです。

 後で撫でてあげるから泣かないで。

 アカネはなぜねがぬになるんだろう。


「この人達に私達が迷宮に入ることをお金で売ったんですよね?」

「え、こいつが元凶?」

「ぎるてぃ?」

「ニャ!?にゃーまいったまいった、其処まで見抜かれているとは申し訳ないですニャ~」


 別に反省はしてないんだろうなぁ、と形だけでもへこへこ謝ってくるマハさん。

 先ほどから何かしらマハさんを遠くに追い遣りたいのかエクレールが殺気立っている。


「いや~一部始終みておりみゃしたが凄いお手前ですにゃ~」


 つまり鍵魔法使っているのもしっかり見ていましたよってことかな?

 この人が何で私達の前にわざわざ現れたのか…。


「お嬢様、この猫どうなさいますか?」

「口封じしたほうがいいのかな~」


 ヤル気満々の二人にニャハハと苦笑いをするマハさん。


「アルフレッドの奴は秀才だけどおバカさんだニャ」

「こっちのお三方の方が今後の商売相手として申し分にゃいと思ったわけニャ、出来れば今後とも御贔屓にして欲しいにゃー」


 猫っぽい仕草でねだってくるマハ。

 エクレールには逆効果と分かっているはずなのだが煽っているのだろうか。


「あやしいですよ、このケットシー。お嬢様どうなさいます?」

「んー、私達の情報を売るとか使うならわざわざ前にでる意味がないのですよ」


 じーっと眼を見つめながら聞いてみるとぴくっと耳が動き尻尾がぴんと逆立った。

 眼の色が少し変わった気がする。

 何だろうこう、品定めされているような感じかな。


「元々、タダの情報だから1回だけのお金にするか、0になる確立より何らかの形で利益が出るなら顔を覚えて貰う為に私達の前に出てきたんじゃないんですか?」

「ここで私達の情報を売るか、情報を売らずにこちら側について後々の利益を天秤にかけた結果」

「ご挨拶に来ましたってことですか」


 図星だった。

 このマハは彼女達の秘密を最初は高値で売れると思っていたが、

 エクレールの戦いとシロエールの鍵をみて思い立った。

 あの貴族の坊ちゃんよりこっちについた方が、利益が出るんじゃあないかと。

 ここで結果、利益0となっても損失が出るわけじゃない。

 自分の事を覚えてもらえれば何かあった時使って貰える可能性がある。

 他人にそう見られれば彼女等とパイプがあると思わせられるだけでも後々お金に繋がると。


「ニャハハ、参ったニャ、その通りですにゃ~」


 最初に見た時の愛嬌のある眼に戻り頬をかきながら肯定した。

 アカネは少し考える、信用するかしないかはおいておいて使えるか使えないか。

 そして、ある事を思いついた。


「じゃあ、一つお願いしてもいいかな?」

「ニャ?」




 覇王竜滅騎士団の部室。

 接触させた7人が行方不明の報告を受け、その手に持っていたワイングラスを床投げつけ叩き割るアルフレッド。

 彼の癇癪はよく在る事なので慣れているメンバーは特に気にしていない。

 予定なら危ないところを俺様参上で華麗に助けてメロメロって寸法の子供らしい考えを脳内で妄想していたのだが結果はこれだった。


「どういうことだ、あいつ等だって盆暗じゃなかっただろ」


 計画が台無しだ。そもそもあいつ等何処に行った、やられたのか?

 イライラが収まらない、3人を甘く見ていたのだろうか。


「リーダー、お客様っす」


 自分がイラついている中に客を招きいれたらしい、

 空気よめよと怒鳴りつけようと思ったが客の顔をみて思いとどまった。


「いにゃ~随分とご機嫌が斜めのようですにゃ」


 マハの奴だ、こいつなら何か知っているか?

 いや、こいつは知っているからこそこのタイミングで此処にきたのだろう。


「なんのようだマハ」

「にゃはは、怖い顔にゃさらずに、行方不明の7名の所在をせっかくつかんだのににゃー」


 やっぱりか、この情報屋は相変わらず喰えない猫だ。

 部下を呼んで金庫から金を出そうとするとマハの奴は手を前にだし首を振る


「今回はロハでいいにゃーよ」

「あ?守銭奴のお前が何言っているんだ」


 怪しい、こいつ何を企んでいるんだ。

 金以外の報酬が必要ってことなのだろうか、金だけ受け取ってさっさと話してくれるほうが楽なのに。


「にゃー、7人はシロエールのメイド一人にぼっこぼこにされたニャよ」


 は?一人でだと馬鹿馬鹿しいがマハの様子じゃ嘘ではないらしい。

 ちらっと隅で自分の獲物である斧を手入れしているガルフを見る。

 ガルフならあいつら10人でもわけがない、つまりこいつに近いくらいの実力者ってことか。


「それでにゃ、明日あたりにでもお姫様が中等部にいる兄に相談するらしいにゃよ?」

「…レイヴン・ロートフェルト先輩か?」


 マハはそうにゃーと頷く、そうだったアカネ・ロートフェルトの兄だ。

 彼は優秀な先輩だった。

 最も自分が同じくらいの年齢になれば彼を超えると思っていた。

 あまり事を荒立てたくないが部下達が吐けばそれまでだ。


「で、ニャ。この廃屋敷に軟禁されているにゃーよ」

「先生に突き出されなかったのか?」


 ひらひらと地図を差し出すマハ。

 どうせ教師に突き出しても大抵の教師は貴族や王族の部下相手でも下手に手はだしたくない。

 何かと言いくるめて停学位で済ませるだろう。

 一人に返り討ちってことはあの役立たず達は未遂以前で終わっていると判断する。

 個人的制裁を加えるか此方への罠かもしれない。

だが、あいつ等如きでいい気になっているのかもしれない。

 実力差を教えてやらないといけないな。


「…情報感謝する」

「あの1年は今、潰しておかないと後々我々にも不利益なるにゃー」

「今の所、あの3人は仲間をつくってにゃいみたいだしチャンスにゃーよ」


 なるほど、こいつ的には野放しできないってことか。

 ガルフに視線を向けると黙って頷き立ち上がる。

 さて、どうするか100人位で脅しつけてやろうか。

いや、目立ち過ぎると後々面倒だしな。50…いや精鋭を使えば25人で十分だろう。

 アルフレッド的には気に入った女の子をいじめている程度の感覚だが周囲からすればやりすぎだ。

 しかし、貴族であるアルフレッドに逆らう事はできなかった。

 時間は午後10時。

 目的地へそれぞれ各自変装し5人編成で別々のルートから向かう。

 


 彼らを見送った後、悠々と自分のギルドに帰ったマハは自室へ戻る。

 そして、抑え込んでいたものを爆発した。


「ニャッハッハハ、あいつやっぱり馬鹿ニャ」


 ソファに座り膝を叩きながら笑い続ける。

 あいつのドヤ顔が、自分が奴らに思っている事が完全にブーメランになっている事に気付いてない。

 ルールも駒の性能もわかりきっているゲームでしか勝てないボンボンが調子にのるからこうなる。

 数分ほど笑い続け、収まった頃には商売人の眼をしていた。


「いにゃーまったく、いい商売相手になるとおもってはいたんにゃが君がいけにゃいのだよ」


 実力は確かにあるしあの傲慢な性格は敵を作りやすいし疑り深い奴だから情報を直ぐ欲しがる。

 ほんと、良いカモだったのに残念にゃ。

 

「まぁ、もっといい金の卵に巡り会えたからいいにゃぁ」



 ソファに寝そべり、マハは思い出す。

 あの怖いもの知らずの3人を、彼女の眼を見たときの自分の髭の反応を。


「ねぇ、じゃあさ、そのアルフレッドにこういう情報伝えてほしいかな」

「なんにゃ?」

「7人を返り討ちにしてアルフレッドの事なんてたいしたことないから逆に倒す算段をしているって」

「でね、近々私がレイヴン兄に取り次いで上から圧力をかける気だって」

「にゃるほどにゃるほど」


 アカネは鞄にいれていた紙に簡単な地図を描いてマハに渡す。

 学園から遠すぎて廃棄予定の屋敷があるところだ。


「ここに彼等を軟禁していて今夜尋問する手筈だっていってくれるかな?」

「アルフレッドも仲間もこいつらより可也手馴れニャよ?」


 眉をひそめるマハ、確かにこの3人は強いがアルフレッドは恐らく2~30人位のギルドの主力を彼女らにぶつけるだろう。

 果たして、本当に勝てるかどうかは判断しかねる所だ。


「いーのいーの、こっちには秘密兵器がいるんだから」


 アカネがふふふと笑う。

 視線の先にはシロエールがいた。

 指を唇にあてしーっと秘密ですよとジェスチャーをしている。

 この時マハは何となく悟ったのだ、こいつらと敵対してはいけないと。


 机へと向かい、筆跡がわからないよう色んなところの文字の紙を切り抜き手紙を作る。 

 ギルドに戻り、信頼できる部下の有羽種族ハーピーに匿名の手紙をライバルギルドへ送らせた。


「机上の空論しかできない奴は死ぬだけにゃーね」



 午後11時過ぎ。

 廃屋敷の前に集まったのはアルフレッドを含め16人、10人足りない。

 各自、見渡すがやはりいない。


「残り半分は何処にいった?」

「分かりません」

「お前知ってるか?」


 どういうことだ、既に街に敵がまぎれていたとでもいうのか?

 とにかく、まずは7人を回収すれば言い訳はつく。


「2番は乱魔ハスターとハーピーで組んで上空から監視」

「3番は裏から回りこめ。我々は正面から行く」


 3組、15人とアルフレッドが侵入を開始する。

 玄関前でドアの鍵をピッキングさせている中アルフレッドは今になって不安を感じていた。

 敵の数が3人だけだと決め付けていたのが裏目にでたのか?

 半分に減っている時点で撤退すべきだったのだろうか?

マハの奴の言葉を全部鵜呑みにしすぎて本当は仲間がいるのではないか?

 いや、マハの奴は正確さが売りなのだ1年間一度も誤差のない情報を提供し続けていたからこそ僕も認めていたのだから。


「リーダー、開きましたよ」

「あ、ああ。突入する」


 そんなに広い廃屋敷じゃない。見渡すと埃や蜘蛛の巣で一杯だ。

 ホールの真ん中に縛られて放置されている7人がいた。

 やられたというわりに外傷がない、治癒をかけられたのだろうか?


「他のメンバーが此方に来たら、運び出してとっとと帰るぞ」


 周囲を警戒するが静寂だ。

 ここに3人がいるなら戦闘になったとしておかしくないはずだ。


「アル、何かがおかしい」


 寡黙なガルフがアルフレッドに声をかける。

 彼なりにもこの状態はおかしいと判断したのだ。

 アルフレッドは眼でそんなのはわかっていると睨みつけた。

 何時までたっても裏口から入ったメンバーが顔を出さない。

 上空に見張りを置いているのだから、外側に伏兵がいれば直ぐに気づくはずだ。


「ひーふーみー、後5人か」


 後ろから声がした。

 アカネ・ロートフェルトだ。

 槍をくるくるバトンのようにまわし肩に添える。


「なっ、上の奴らは何をしていた!」

「え、コイツラの事?」


 アカネの足元にはボロボロになった5人の姿があった。

 アルフレッドは目を丸くする、5人は上空で監視をしていたはずだ。

 何故、どうやって倒したのだ。

竜人種族ドラグーンに飛翔系の固有特性ユニークスキルはない。

 アルフレッドの視界が歪む。

 自分の思い通りにならない事が一辺に起こり、傲慢の上に胡坐をかいていた自信が崩れて去っていく。


「ここは俺に任せろ」


 ガルフがアカネの前に立ち斧を構える。

 二人の戦いは始まった。


「おい、お前等兎に角は連れ出せるだけ運ぶんだ」

「は、はい!」


 部下の4人は捕まっていた7人をそれぞれ抱えようと駆け寄っていき

 カチリと音が鳴り11名全員床へと消えていった。


「な、なんだ!?」


 床をみても穴なんてないし罠の痕跡もない、一瞬にして自分とガルフの二人になってしまった。

 へなへなと膝をつき座り込むアルフレッド。

 自分の想定外の事しか起きない現状で頭が破裂しそうだった。

 ガルフが勝利しアカネ姫を取引の材料にするしか浮かばなかった。

 そして自分が捕まったら意味がないと頭を無理やり動かし起き上がる。

 今の今まで考えてなかった事がよぎる。

 こいつ等が自分達よりも圧倒的に強い存在という可能性を。

 金属同士のぶつかり合いで音が響く。

 しかし、何時も聞くガルフの斧で響くような重低音じゃない。

 2人の方を見ると理由がわかった。

 ガルフの攻撃はすべて見切られ、槍と接触しても綺麗に受け流されていたのだ。

 一方ガルフの方は素早く、演武のような槍捌きを何とか斧で受け止めている。


「は、はは!素晴らしいぞ、龍姫よ!」


 ガルフが笑う。

 あいつが笑う所を見るのは初めてだった。

 多分、アカネ・ロートフェルトは強いのだろう。

 僕ここで手を出したら、きっとガルフは怒り嘆くだろう。

 後ろに気配を感じた、振り向けば確実にやられるのは分かりきっている。

 ちくしょう、僕はこんな事で負けるのか。

 いざ負けてみると、少し憑き物が落ちた気分で意識を失った。


 ガルフ・ギュンター。

 子供ながら彼は武人だった、強者と戦える事を何度も望んでいた。

 アルフレッドは威勢がいい割に強いものを避ける傾向があった。

 それは多分、間違ってはいないのだろう。

 むしろそれが正解ともいえる、だが私は負けると分かっていても心躍る戦いがしたいのだ。

 今回は感謝しよう、こんなにも優雅で可憐な強者と戦えるのだから。

 ガルフは思いっきり彼女の脚へと斧を薙ぎ払う。

 彼女は槍を使い高くジャンプした。


「上空では避けられぬぞ!」


 上へ薙ぎ払えるように待ち構える。

 彼女を見ると目を瞑っていた。


「―エクスプローズン!」


 アカネとガルフの間で爆発がおきる。

 薄暗い所が急に照らされ、ガルフの目は一瞬閉じてしまった。

 だが、彼は斧を振り上げる。

 タイミングに一切のずれは無い。

 しかし、斧は虚空を切る。

 アカネはエクスプローズンの爆発により少し上昇しタイミングをずらしてガルフの後ろに着地していた。

 槍の石突が、彼の右腋を突き上げられる。

 その衝撃は右肺へと届き、その動きを一時的に麻痺させた。


「み、みご……と」


 膝をつきろくに呼吸がとれない状態となり朦朧とするガルフ。

 彼の頭上へ石突が振り下ろされ彼の意識はここで途切れた。



 次の日、覇王龍滅騎士団の精鋭25名とアルフレッド計26名は湖の畔に倒れ込んでいた。

 昨晩何をしていたのか、誰かと戦って惨敗した事だけは覚えている。

 でも、誰も思い出せない。

 この敗北は初等部の新聞記事でニュースとなった。

 お情けで勝った相手が名乗り出ない等散々な記事であり、アルフレッド自身も言い返せない状況に陥った。

 下の人間達は惨敗したアルフレッド達の記事に次々と脱退しその勢力は衰えていった。

 だが、アルフレッドもガルフも気分はやけに晴れやかだ。

 一から出直しだと、圧倒的な敗北にアルフレッドの心は大分成長していたのだ。


噂の勝利者であり、夜更かしをして寝むそうなアカネは何とか授業を受けていた。

そして、10人を鍵魔法で湖に高い所から落として気絶させ。

空飛ぶ5人を鍵魔法で背後に扉を造りだしエクレールに引きずり込ませ。

最後に全員の記憶を封じ、改竄を加えたシロエールは、


「ぅ~…」


 大量の精神操作による気分の悪さと夜中まで起きていた寝不足で部屋でグロッキーになっており、エクレールは平気な顔でシロエールの看病をしていた。

食えない猫ですにゃ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ