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返り討ちと喰えない猫

「気に入らないなぁ」


 一人の少年が呟く。

 

「折角、僕の部活ギルド。覇王竜滅騎士団からの勧誘を蔑にするなんてね」


 ワイングラスを片手に、注がれた赤紫色の液体を飲む。

 ちなみにワインではなく、ブドウジュースである。

 この少年。隣国の貴族であり名前をアルフレッド・セルヴェ・オーヴァンという。

 武芸科の戦術学部に所属しているエリート候補生だ。

 彼は初等部2年で、初等部内では五指に入るギルドを作っていた。


 アルフレッドは家庭教師等の英才教育により、8歳で風乱魔法ハスターを中級まで取得。

 戦術ゲームでは同年代で負け知らずの成績を収める秀才として、将来を期待される地位にいた。

 元々傲慢な性格の彼は、案の定増長し天狗になっていた。

 そんな彼を見た両親は彼をこのままにしていてはいけないと思い、

 国の学校ではなく全世界から生徒の集まるガーランド学園へ勉強させることにした。

 井の中の蛙とはいかぬとも同じ位の実力者がゴロゴロいる事を教えるために。

 結果はというと、同い年で自分に匹敵する才覚を持っていると認めている3人がいた。

 

 自分のギルドに所属している炭鉱種族ドワーフのガルフ・ギュンター。

 身長が既に170を超え筋骨隆々の体躯を持ち、巨大な斧を振り回す脳筋である。

 

 情報ギルド『長靴の猫』のマスター、半獣種族ワービースト猫頭人科ケットシーのマハ・エネコロ。

 有名な貿易商の子で、既に高等部の有名商業ギルドの傘下に入り同盟を結んでいるやり手の猫だ。


 そして森守種族エルフのリーゼロッテ・アクア・ヘルブラウ。

 水氷魔法イシスの使い手でアルテミス大公国の公爵家令嬢という下手に手を出せない存在だ。

 高等部の知り合いを引き連れ、学園奥の庭にある地下迷宮に挑戦中の為、現在は不在となっている。


 自分の専門分野とは違う3人だけだったのだ。

 そのせいで、彼はこの学園でも上級生に関わらなければやりたい放題だと錯覚していた。

 そんな彼が部下に指示してからおよそ1週間、部下から届く報告は全て惨敗。

 自分の地位や立場を挙げる為にギルドに入れようとしたのは、今年入ってきた魔法科と武芸科の1位であるあの二人だ。

 

 新しく入った武芸科の1年に聞いてみたところ。ダイキ・トゥーサカは明るく元気だけが取り柄の庶民かと思えば可也強く、女子に受けのいい容姿で武芸科1年の間じゃ一種のカリスマ的存在となっているらしい。


「あ、俺ら既に自分のギルド作ったんで誘ってもらって悪いですけどすみません」


 と、既に何人もの女子や男の子を仲間に引き入れギルド『ペンドラゴン』を設立させ、勧誘をあっさり断ってきたのだ。自分に楯突いたとして皆の前で捻り潰して泣いて詫びを入れさせようかと考えていた。


 もう一人の方は少し事情が違っている。

 シロエール・ヴァイスカルト。

 入学式の演説で全学科から高評価だったらしく少しどじっこで儚げな美少女だそうだ。

 彼女のお付のメイドはお姉さん的な外見をしていて中々良いアレの持ち主らしい。

 現状の情報で唯一彼女らと行動しているのはアーレス帝国のお姫様らしく、彼女も1年の五指に入る美少女の三人が揃っており、既にファンクラブが存在するらしい。

 ちなみに報告している新人はアカネ姫のファンクラブの会員No9だそうだ。

 一人でも誘うことに成功すれば、全員釣れる可能性の高い物件だ。

 是非ともモノにしたい、思春期に入っていた彼は煩悩に溢れていた。

 しかし、彼女等の所在を掴めないのだ。

 授業には出ているらしいが昼休みや登下校の際、何処にいるか確認が取れないらしい。

 張り込みをさせるも視界から逸れた時には既に居なくなっているというのだ。

 

「マハの奴に金を積んで情報を買ってこい」


 銀貨十数枚入った袋を部下に投げ渡し、椅子の背もたれに身体を預ける。

 初等部の帝王が誰か教えてやる。



 市販の魔法書では可也劣化していると思った魔法は、学園用の教科書を開くと少し劣化しているものの殆ど伝承できている。

 特に注目すべき点は、結界等の属性に関係なく使える魔法の研究である。

 私の持つ『知識』よりも進歩しているのだ。

 試作の移動用魔道具の研究等も進んでいて、大学部では実際に試作品を作っているのもあるようだ。

 汎用的な各属性の魔法はほぼ完成されていると考えると、個人で作り出した特殊な魔法があるとしても一子相伝や一代限りとすると本に載ってないのも頷ける。

 鍵魔法の方は相変わらず情報が欠落し過ぎていて、劣化の一途を辿っている。


「で、あるからして―――」


 先生が次のページに移るように指示を出す。

 皆がそのとおりページを捲り、表のマジックボートに書き込まれた内容をノートに写し取る。

 シロエールは光霊魔法ルミナスの授業中に無属性魔法についての本を開いていた。

 現在、光霊魔法の授業は中級をやっている。

 既に中級をマスターしている彼女は、先生に事前に伝えて自習を行っていた。

 隣の席からの視線には気づかず、窓辺の席に座っているシロエール。

 窓の外では第一種魔法学部。炎獄魔法アグニの第一学部が実技授業を行っていた。


 派手な火力と、轟音。

 戦場の華とも言われる炎獄魔法は、精密さに難点があるが威力は高い。

 大規模戦闘等では重宝されている。

 無属性の魔法を使う時にマナを結界に変換するのではなく炎に変換したら炎獄魔法になるのではないかと色々ノートに浮かんだことを書いていく。

 『知識』を持っている私は、魔法に関してだけは無理という概念を捨てて、どうにかしたら出来るようになると思うようにしている。

 鍵魔法は特にそういった無理と思う事がマイナスに働いてしまう。


 針が回り学園中に昼休みを告げる鐘が鳴る。


「ふむ、明日は実施授業をやるからしっかり予習しておくのだぞ」


 授業が終わり、教科書を仕舞うと小走りで教室を出る。

 昼休みになると静かな廊下は賑わいをみせ、一部では勧誘の話も聞こえてくる。

 人の視界から逸れた場所へと隠れ、鍵魔法で武芸科の魔法複合学部の近くに扉を開いて移動する。

 

「今日はちょっとはやかったねー」

「授業はどうでしたか?」


 扉をくぐると既に二人が待っていた。

 二人は同じクラスではないが同じ学部で私だけ違う事に少し寂しさを感じている。


「今、中級なので別のことを少し…」


 それでも午後の授業は選択式の為、何時も3人で同じ授業を受ける。

 再び扉を開き、都市の端の森林にある穴場。

 大樹の下でここのところ、お昼はここで摂ることにしている。

 学園からも離れているので他の生徒と遭遇する事もないのでゆっくり食事がとれるのだ。


 エクレールがバスケットからシートを取り出し優雅に広げて草の上に敷き、おしぼりと手洗い用の水、紅茶に本日のランチのサンドイッチを並べていく。

 メイドとして仕事をこなすエクレールの動きは、無駄が無く優雅だった。


 エクレールは当初。制服を着ようとせず、お嬢様のメイドなのでメイド服を脱ぐわけにはいかないと言って聞かなかった。

今はシロエールの説得に応じて制服を着ているがカチューシャだけは譲れなかったようだ。


「ほんと、エクレールって何でもこなすメイドさんになったよねー」

「そうですね…今では自慢のメイドなのです」

「御二人に言われるととても嬉しゅうございます」


 本来ならメイドと主人は食事を一緒にとらないが他人の目がない時は一緒に食事を摂っている。

 シロエールにとって彼女は自分専属のメイドであっても大事な友達なのだ。


「ところで、シロ。クラスメイトと仲良くしてる?」


 ピシッと石のように固まるシロエール。

 一週間経ったが毎日休憩時間も本を読み昼休み放課後はこうして3人で行動している為、殆ど喋った事もなかった。

 このままだと教室でぼっち確定のルートを辿っているシロエールにため息をつく2人。

 2人は少なくとも休み時間や実習の際、クラスメイトと仲良くしている。


「少しは話しかけてみたら?何か進展が起きるかもしれないよ」

「わ、私には…その、2人がいるから寂しく……ありません」


 もじもじと真っ赤になって俯きながら答えるシロエールは2人の保護欲をそそる。

 しかし、そう言ってもらえるのは嬉しい2人だが社交性を育まないとダメになると考えているので彼女の為にも、少しは話し相手が増える事を望んでいる。


 3人は午後の授業に迷宮探索を指定した。

 学園の奥の庭に存在する地下迷宮は最下層不明の現在も探索が続いている。

 現在最高到達は178層、大遠征の末たどり着いた結果だ。

 この迷宮は契約迷宮といわれ、死亡判定を食らったら即座に在席中の保健室に運ばれる。

 全滅しても追い討ちは仕掛けてこないので他のパーティに助けられることもある。

 迷宮内に扉をこっそり作り鍵魔法で行き来するという例もあった。

 3人は現在7層を進んでいる。

 契約迷宮内では力量差を感じると魔物は隠れるという性質が付与されている。

 今現在、シロエール達は魔物と一度も遭遇していない。


「…今日も探索だけで終わりそうですね」

「なんていうか、つまらないわ」

「階層を重ねればその内遭遇しますよ」


 結局、15層まで辿り着いたが結局遭遇できずに終わった。

 他の1年生は既に最近みておらず、2年生や3年生を避けるように進んでいた。

 この時間は生徒が多い、敵と戦ってるタイミングで通り過ぎる等を繰り返していた。

 奥に来たところで15層にはボスがいる。

 どうやら他のパーティが戦闘中のため入れないようだ。


「今日はここまでにして明日にしよっか?」

「ここで待ってると遭遇率上がりそうですしね」

「意義なしです」


 シロエールが扉を開こうとするとアカネに肩を叩かれる。

 その表情は少し険しく手に持っていた槍を強く握り締めていた。

 エクレールも腰にベルトで固定してある2種のナイフに手をまわしている。


「囲まれてる」 


 耳元せ囁かれた一言でシロエールも7~8人程だろうか囲んでいるのに気づいた。

 此方が気づいたのと同時に姿を現す、ガタイのいいドワーフが4人、ヒューマンが3人といった所だ。

 制服からして初等部なのは確かだろう。ネクタイの色で2年生だとわかる。


「先輩方、私達に何かご用件でしょうか?」

「ちょっと僕達と一緒に来て欲しいだけなんだよねー」

「残念ながら本日はもう予定が決まっておりますのでご遠慮ください」


 少しちゃらそうな先輩に対して堂々としてるアカネとエクレールと、

 二人の後ろでどうしようか考えているシロエール。

 先輩達からすると脅えるシロエールを庇う二人の構図に見えている。

 シロエールを捕まえれば簡単に終わりそうだと考えたのかゆっくり近づこうとする一人の少年。


「そんなに脅えなくても大丈夫だって、別に変なことはし―――」


 少年の視界は反転し、顔面に激痛を伴い暗転した。

 エクレールが伸ばした手を掴み取り、顔面を地面に叩きつけるように投げたのだ。

 最初の犠牲者はぴくぴくと足を震わせてから倒れる。


「失礼。お嬢様に汚らしい手を触れようなんて思わないでください」

「なっ、このガキっ」

「一つ違いなだけでそんな態度はないんじゃいかなぁって私は思うけどねー」


 アカネは自分の間合いにいたドワーフの喉を槍の石突で突き潰す。

 相手の呼吸がヒューヒューと鳴り膝を震わせ喉を押さえると同時に、急所を蹴り上げる。

 ぬぐおぉぉと悶え苦しみ、相手が膝をついたところで柄を回転させ、穂先が前になるように勢いをつけた槍の太刀打ちの部分が脳天に叩き落とされた。


「な、こ、こいつ等、強えぇ」


 じりじりと間合いをあける5人。

 入ったばかりの1年の女子3人相手なら問題ないと高をくくっていた2年達は武器を取り出し戦闘モードに切り替わる。

 本気を出せば簡単に捻ってやると思っていたところに煽りをいれた一言が発せられる。


「エクレール、一人意識を残して後は戦闘不能にしてください」


 シロエールのこの一言で彼等の運命は決した。

 アカネはしょうがないなーといった感じでシロエールの隣についた。

 5人はその言葉の意味を悟った、一人で倒せと。

 彼等も2年の中じゃ中々成績が良いほうだったのだ。

 そこそこ出来上がっていたプライドが刺激され激昂しだす。


「てめえ、こっちが下手にでりゃ調子つきやがって!」


 最初に言葉を発した少年から犠牲者となった。

 エクレールの細長いしなやかな足から発せられた蹴りによって顔面を打ち抜かれ、壁に後頭部を若干めり込むほどの衝撃は簡単に意識をとばさせた。

 次に、隣にいたヒューマンの少年がその光景が瞳に移った瞬間。

 エクレールの指が彼の額に触れていた。


「ディバインヴォルト」

 

 中級クラスの電流が走る。

 全身を小刻みに震えさせ、ショックのあまり眼はぐるんっと回転し、倒れながら若干泡を吹いてぴくぴくと痙攣している。

 エクレールはシロエールの訓練により上級雷鳴魔法師クラスの実力を持っていた。

 故に、魔法一つで相手を倒すくらい平然とやってのける。


 一瞬で二人を倒され、その事実に思考が追いつかず一瞬固まってしまったドワーフの少年の肩にナイフが突き刺さる。


飯綱神威イヅナカムイ


 肩に広がる痛みに我慢しながら、突き刺さったナイフを引き抜こうと手にしたら、何時の間にか反対方向にいたはずのエクレールが目の前にいた。

 シロエールが彼女に教えた『知識』の秘蔵魔法の一つで、身体を雷鳴魔法シヴァで覆い一時的に雷の如く瞬間的に移動できる魔法だ。

 この魔法は身体能力と反射神経が優れてないと速度に振り回されてしまうがエクレールなら問題ない。


 そのまま勢いにまかせた彼女の膝がドワーフの少年の顔を打ち抜き意識を刈り取る。

 彼の肩を使いぐるりと体勢をかえて、そのままもう一人の頭に雷鳴魔法を注ぎ込んだ踵落しを直撃させて倒した。


 十数秒で4人が戦闘不能となった。

 残る一人は、もう戦える状態ではなかった。

 仲間が一瞬のうちに、顎が外れた者、鼻がありえない方向に曲がっている者、前歯が幾つもぼろぼろになっているの等、見るに堪えない状態になってしまったのだ。

 膝ががくがく震え、まだ10歳の少年は恐怖のあまり失禁してしまった。


 エクレールが近づくと ひっと悲鳴をあげ


「ご、ごめんない、すみませんでした。ど、どうか許してください」


 と、涙じゃくりながら腰が抜けたのか座り込んでしまった。


「エクレール、顔はちょっとやりすぎじゃない?」

「お嬢様にちょっかいをかけようとした時点でぎるてぃーで御座います」


 このメイドはシロエールの事になると若干融通が利かない。


「まぁ、この状態なら簡単に出来そうだからいいのです」


 シロエールは残った一人の少年の近くにより、


 カチャリ


 と彼の心を開いた。


「2年生の大型ギルドの人達らしいですね」

「ぁー、聞いたことある脅してでも引き込みたいって感じだったのかな」


 勧誘から逃げていたらこんな風な事にもなるのかと溜息をつく。

 このまま引き下がればいいけど、ギルドマスターの情報を見る限り難しそうだった。

 んーっと唸っているなか、パチパチパチと拍手が響いてきた。

 3人は一斉に振り向くとそこには猫がいた。正確には猫人間がいた。


「ニャハハ、そう警戒にゃさらずに、私は怪しいものじゃございませんニャ」


 あ、さっき心調べた時に、この人の情報もあったのです。

 私達が午後に迷宮に入ることを彼等にリークした長靴の猫のギルドマスター、マハ・エネコロさんだ。

評価やブックマークが増えるのを見るとテンションがあがりますね。

読んでいただき何時もありがとうございます。


7/19 石のように固まったのはエクレール→シロエールですね修正しました。

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