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帰りたい入学式

 今日は入学式。

 総勢2400人の生徒が大聖堂のようなホールに集まる。

 融資をしている国のお偉い様や富豪が貴賓席に参列しており、一部の上級生の姿も見え隠れしていた。

 ステンドグラスが日差しを浴びて鮮やかな光を照らす中、校長先生の有難い言葉が響いている。

 広いホールに声が響き渡る、音響石という振動を拡大する魔法石を使っているからだ。

 真面目に聞くものもいれば、聞き流すものも、居眠りするものも千差万別。

 校長の話が長いのはどの世界でも共通だった。

 

「続いて、三学科より生徒代表の挨拶」 


 進行役の先生の言葉で、三人の少年少女が壇上へ登っていく。

 魔法科・武芸科・教養科の3つの科の入試成績1位の生徒が代表の挨拶をする事になっている。

 武芸科からは、普人種族ヒューマンのダイキ・トゥーサカ。

 教養科からは、有羽種族ハーピーのブリジット・クトゥーリア。

 そして…魔法科からは。


 拝啓、お母様。家を出てからまだ2週間も経っていませんが、今私は凄く家に帰りたいと願っています。


 シロエール・ヴァイスカルト。


 彼女は、ついこの間の入試試験でわざと手を抜いてまで、ある程度の立ち居地は抑えつつも目立たないように考えていた。

 人前で喋るのが余り得意ではない少女である。

 彼女がこの場に立つはめになったのはつい先日の事。


「シロ~、伝書梟の手紙が着てるよ」


 伝書梟、様々なバリエーションはあれどハーピーの固有特性ユニークスキルの一つ鳥の自由操作を用いた連絡ツールである。

 足に括り付けられた手紙をシロエールが読むとピシリと固まってしまった。

 手紙の内容は、


 魔法科代表として挨拶してください


 という簡潔な文章であった。

 余り人と喋りたがらないけど話しを聞くのが大好きなシロエールは聞き上手な方であり、人前で喋るのは苦手であった。

 悪人を裁くとかたいそれた事を幼少時から出来た癖にこういった事には弱い子だった。


「私明日お休みするのです」

「ダメですよ」

「ダメだよ♪」


 逃げられないよう始終抱きつかれる。

 シロエールは両手を押さえ込まれると流石に鍵魔法が使えず、戦闘系の二人に捕まってはどう足掻いてもどうする事もできない。


「私がこういうの苦手なの知ってるでしょう?」

「何事も経験よ、大丈夫失敗しても可愛いからどじっこ萌えですむし」

「私はお嬢様の立派なお姿がみたいです」


 味方はいなかった。



 3人並んでいる状態の中、シロエールの目は若干虚ろで顔が青かった。

 元々の白い肌や銀髪に細い体つきからでる儚げさ。

 少し目を細めている様が子供ながらちょっぴり色気があり、半森守種族ハーフエルフという特殊な面が際立って病弱そうなお嬢様としてフィルターが掛かっていた。

 隣にいたダイキが大丈夫?と急に声をかけてきたのでシロエールはゆっくり頷いた。

 その様子にふんっと苛立ちを露にしながら壇上に立つ教養科代表。


 ブリジットはディオニュソス神聖皇国の神官の娘である。

 淡い金色の髪に三つ編みで容姿は悪くもなくが良くもない。

 ただ、背中の羽が少し金色交じりの白い羽が神々しさをもっていた。


「世界の秩序をもたらしたのは知識あるもの達が常に上にいるからです。力だけで調子に乗っている連中はそれが分からず学力しかないものを見下す、そんな事は罷り通っていい筈がありません」


 武器を持って戦う人達を野蛮人としてみいている彼女は知識や勉学こそ最も重要だと語りだす。

 彼女の所属する文学部や錬金学部の生徒がそうだそうだーと叫びだす。

 武芸科を敵に回すかわりに、自分の周囲での立場を固めていく。

 神官の娘だからかは分からないが、人を扇動するのが得意なタイプだった。

 武芸科からブーイングを受けながら後ろに下がる。


 文芸科代表のダイキは参ったなーと苦笑いしつつ頬を掻きながら壇上に立つ。

 エクレールはともかくアカネが手加減して試験を受けたわけではない。

 なのに代表となったのは彼が一般で合格したのとその特異性にあった。


「あー、うん、俺は別にがり勉が悪いとは思ってない。すっげー勉強して難しい事をやってくれてるのは感謝してるけどだからと言って、さっきみてーに自分が納得がいかないと思ってることこっちに押し付けてほしくないんだよねぇ」


 ダイキは自分達が上なのに蔑ろにされるなんてというブリジットの言葉をブーメランのように切り替えした。武芸科は勿論、他の科の一部も歓声を上げる。

 中にはキャーダイキー!という黄色い声もあがっていた。

 どうやら彼はモテるらしい。 

 先生はというと別段止める事もなくこういった言い争いは昔かららしく之も恒例行事扱いだ。

 拍手を貰い やー、どうもどうもと手をふるダイキはブリジットにウィンクをして下がる。

 ブリジットの方は顔を真っ赤にして睨み付けていたが。


 シロエールが壇上に立つと周囲が物珍しそうな眼を向け始めた。


「あれ、何か耳がちょっと短いなハーフエルフって奴か?」

「あの子可愛いー」


 私は周囲の声と視線が恥ずかしく俯くとごんっと何かにぶつかり大きな音が鳴った。

 どうやら音響石の付いた魔法具マジックアイテムに額をぶつけてしまったようだ。

 周囲から含み笑いが聞こえ魔法科の方から辛辣な視線が突き刺さる。

 悪い意味で目立ってしまった。

 之は何とかしないと後々に酷い影響がでるのは必死だ。

 負の気持ちが自分の中でぐるぐる渦巻き気分が悪くなる。

 どうしよう、でも心が落ち着かない、心?

 なら…鍵魔法を使えば。


 カチリッ


 自分の心を操作する。緊張を封じ、私は大衆の場でも凄く落ち着いて喋れるはずだ。

 そうイメージしてからゆっくりと顔を上げた。

 後から聞いたけど、その時私の表情は凄く凜としていたそうだ。


「勉強ばかりしていたから。身体を動かしてばかりだったから。

 正反対の相手が分からないのはしょうがありません。

 ですが、分かろうともせず排他するその怠慢が気に入らないです」


 周囲が一斉に静かになる。

 先程とは打って変わって落ち着いた態度に息を呑む。


「自分の才能に合っていたから、その生業を選ぶのは、必ずしも幸せになるとは限らないのです。

 ただ、才能があるから。ただ、実家がそうだから。それだけで動くようなら特に、です。

 本気で魔法を、武を、学を極めようとする人達よ、極めたいのでしたら他を蔑む暇があるのなら、

 全てを振り絞れるものが人間の真価なのです」


 この言葉は若干自分にも言い聞かせた言葉だった。

 ガーランドの『知識』があるから今ここに私がいる。

 じゃあ私の本来の真価は何だろうと。

 

 殆どの学科から拍手がきた。

 周囲の視線が一斉にこっちに向いている。

 冷や汗がでてきた。無理やり心を落ち着かせてるせいか身体の方は今にも倒れそうだった。

 この世界に胃薬はない。それに近いハーブはあるが。

 3人とも壇上から降りて元の席に座る。


 その後幾つかの業務連絡を行って閉会式の挨拶の後、各自解散となる。

 それを待たずにシロエールは近くの先生に気分が悪いと伝え、保健室に連れて行ってもらう。

 巨大なこの学園には、各区域に保健室がある。その中で一番近い教養科2階の保険室に連れて行ってもらった。


 静かに先生がドアを開けると、つんと鼻にくるアルコールの臭いがした。

 椅子にもたれ掛かりながら、此方に視線を向けてくる一人の男性。


「ラミー先生、彼女が気分が優れないとの事なので宜しいでしょうか?」

「ここは保健室だ。体調の悪い生徒を見る場所何だから問題はあるまい」


 連れてきてくれた先生がそれじゃあ、と引継ぎをして戻っていった。

 保健のラミー先生はなぜか包帯で全身をぐるぐる巻きにしていて種族は分からない。

 包帯の理由を尋ねると、


「こうしていないと、内なる俺が疼き出すからな」


 と、答えてくれた。

 『知識』から最初に浮かんだ単語は『中二病』だった。

 しかし、この『中二病』とう単語は何時もひっかかる。

 この世界はガーランドにとって『中二病』そのものなのかもしれない。


「貴様は確か第七学部の生徒だったな。保健委員に興味があれば是非きてくれ、歓迎する」

「気が向いたら…えっと、気分が悪いので、その」

「そうだったな、そこにベッドがあるから好きにしたまえ」


 ベッドで横になり、心に仕掛けた魔法を戻すと抑え込んでいた感情があふれ出す。

 可也きついけど、あの状況に比べたら遥かにましだと思った。

 眼を瞑り、不安定な心が落ち着くまで待ち続けた。

 あ、何か暖かい…。

 眠っていたのだろうか、今は凄く落ち着いている。

 眼をあけるとエクレールが手を握ってくれていた。


「エクレール…私眠っていたの?」

「まだ30数分程ですが、ご気分はいかがでしょうか」


 ゆっくり身体を起こしベッドから出る。

 汗のせいでちょっと身体がべたつく気がするけど、ここは我慢するしかない。


「しかし、あのタイミングで保健室は丁度よかったかもしれません」 


 エクレールが窓の外を見ながらため息一つつく。

 何だろう?同じように窓から外を覗くと、うわぁってなった。


「抜け駆け解禁、と言ったところでしょうか」


 沢山の人達が新入生を取り囲んで色々話し込んでいる。

 部活ギルド勧誘だ。

 戦闘系、生産系、と様々なギルドが立ち並び新入生を一人でも多く手に入れようと躍起になっている。

 新入生もパイプを作るため、または有望なところに滑り込むためにも駆け引きを行っている。

 確かに普通に帰っていたら巻き込まれていたかもしれない。

 アカネがドアを静かに開けて、保健室に入ってくる。


「エクレール、シロの様子はどー?」


 どうやらアカネもなんとかアレを巻いてきたようだが、ぐったりしている。


「今起きたところですよ」

「アカネ様、その後様子だと…」

「あー、うん多分ここも嗅ぎ付けられてる。シロを勧誘したがってる人達が外で張り込んでるっぽい」


 代表というのは勧誘しておきたい対象なんだろう。

 シロエールは沢山の見知らぬ年上達に囲まれるのを想像すると溜息が漏れた。

 3人の様子を見ていたラミー先生が、ハーブティーをトレイに載せて手渡してきた。

 ハーブティーを飲むと暖かく胃も心も落ち着いてきた。

 

「ギルド勧誘は時間帯が決まっている。帰りたいなら後2時間位ここにいればいい」

「つまり、時間帯を過ぎるまではこんなのが毎日続くって事なんだねえ」

「そうだ、私は少し外に出るのでどうするかは自分達で決めたまえ」


 ラミー先生は白衣からパイプをとりだし、一服してくるとジェスチャーをして外へ出る。


「とりあえず…帰りましょうか」

「異議なし」

「異議なしで御座います」


 家への扉を開くシロエール。

 こういう時本当に鍵魔法が使えて良かったなと思うシロエールだった。

 お風呂入りたい。


 3人が扉を通り帰っていった直ぐに、ラミー先生が再び保健室の扉を開ける。

 一服といのは嘘だったらしくパイプにも彼にも煙草の臭いはついていない。


「やはり鍵魔法師キーウィザードかあの子」

ダイキ:アカネ達を差し置いて1位に輝く少年。主人公属性っぽい

ブリジット:リア充と脳筋はしねばいいのにと思ってる

ラミー先生:ミイラ男

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