学園都市
控えていた馬車に乗りながらホテルへと向かう二人。
今回、護衛数名とエクレールという編成で王都に来ている。
両親はというと、シロエールが受験失敗なんてありえないと思っていた。
なので、今回はいってらっしゃいと見送るだけだった。
そして、彼女の双子の弟妹は、正反対な反応をしめしていた。
弟のゴルディは少しそっぽを向きながら行ってらっしゃいとはいってくれた。
女性の方が比率が高く強いこの家系では若干姉に対して苦手意識を持っていた。
妹のシルヴィアの方は抱きつきながら別れを惜しむくらい姉にべったりだった。
前に王都に来たことがある二人が鍵魔法で直接向かわず馬車を使って王都に着たのには理由がある。
王都の検問をすり抜けて試験を受けたら後々、気づかれた時に面倒な事になるという単純な理由だ
「エクレールは王都に、いい思い出がないけど大丈夫です?」
「大丈夫です。今となってはお嬢様に拾われる事となった切欠ですし」
「今は二人っきりだから名前でいいのですよ」
こほんとエクレールが軽く咳をしてから笑顔で答える。
「シロには本当に感謝しているんですよ、私は今幸せです」
昔と変わらず人懐っこい笑顔で語りかけるエクレール。
シロエールその笑顔を見てから軽く視線を下へと向ける。
「……ほんとエクレールのそれはギルティなのです」
「そ、そんな事言われても仕方ないじゃないですか~」
顔を真っ赤にして両手で隠すそれは隠しきれていない。
エクレールは9歳にして身長154cmにDカップという9歳離れした体つきをしていた。
そして、シロエールは9歳歳相応の背格好である。
そうこうしている内にホテルに到着する。
子供のころは気づかなかったが、このホテルも可也の人数が泊まっている。
ここから試験会場は遠くにあるため満室ではなかったが、試験会場周辺のホテルは満室だ。
一般受験枠は下町のホテルや外で野営をするらしい。
「シーロー、エクレ~~~ルッ!」
ロビーのソファに座りその周囲を屈強な騎士に囲まれた一人の竜人種族の少女が二人を見るや否やシロエールに抱きつく。
シロエールは何とか受け止め、少しくるくると回る。
「ひっさしぶりー」
「アカネ様、御機嫌よう」
「…ついこの間あったばかりなのです」
エクレールとは身長差が激しく出た為、同じ位の背丈のシロエールのみ抱きつく。
アカネ・ロートフェルト、シロエールの幼馴染でありドラグーンの国、アーレス帝国のお姫様だ。
「でも、こういう再開シチュって大事よ?」
「相変わらずですね」
アカネはお姫様なのに凄い気さくで、国でも大人気を誇っている。
自分は第七王位後継者だし、上に立つとかそういった事は一切考えてないそうだ。
大人気であるが故にあんな事件が起きたのかもしれない。
と、シロエールは思う事がある。
「お二人とも明後日の試験がんばってくださいね」
「もっちろん、へーきへーき」
「お嬢様の名に恥じぬよう頑張ります」
ふと、何時もの第四騎士団のメンバーではなく見覚えない騎士達がちらほらいた。
肩の腕章も違っていて七枚の羽が描かれてるようにも見える。
「アカネ、この方達は第四騎士団ではないですよね?」
「あ、気づいた?これはね私の第七騎士団よ」
ドヤァといった顔でアカネが語る。
ああ、そういえば第四騎士団は元々アカネの兄レイヴン王子の配下でしたね。
「……学園に入る前に編成ってよっぽど第一王位のイーグレット王子に疎まれてますね」
前々から編成が遅れた理由には第一王子の暗躍が見え隠れしていた。
第一王子は今一ぱっとせずカリスマ性も並だったのだ。
そんな中、女中や民衆にまで人気のあるアカネは疎ましい存在の一人だったのだ。
「器が小さいというか小物なのよ。まぁ私自身王位に興味ないって言ってるんだけど逆効果みたい」
自分は興味ないよっていう素振りが逆に怪しく感じ疑心暗鬼になっているらしい。
何というか、鍵魔法で精神操作したほうが手っ取り早い気がするとシロエールは苦笑した。
二人の試験は明後日なので明日はのんびりしよう。
ちなみに、私の友達はこれで全員です。
エクレールも街で知り合った友達が何人もいるらしい。
曰く、窓際のお嬢様は高嶺の花とのことらしい。
別に二人がいるから寂しくないのですよ?
後日、あっけなく二人は合格した。
アカネは勿論の事、エクレールはその体躯の為、異様に目立ったらしい。
入学式まで少し間があるけど早めに学園に向かうことにした。
勿論理由はある。
3人は騎士団と護衛のメイド達を別れを告げ船に乗る。
数年前レイヴン王子が通った道を3人で進む。
船で上流へ移動する事3時間。
大きな特殊な金属の門が見えてきた。ここが学園の入り口らしい。
周囲は巨大壁で覆っており何重にも自然のマナを使った魔法陣による結界を敷き詰めている。
この門以外からの侵入は、可也難しいと思う。
入った事のある鍵魔法師以外は。
門が開くと街だった。
そう、街である。王都を模してあるこの学園は完全に隔離された世界だった。
ガーランド学園は所謂、学園都市である。
一般人で合格したものが学費をどうするかという事で、学園都市を造り上げそこで仕事をしながら金銭面を遣り繰りするのだ。
学園の厳選した面接の結果、中に店を構える一般の人も存在している。
だけど、大半は商業学部の人間が経営しているのだ。
学校のお金から利益を出せば徴収されるものの、失敗した時のデメリットを無視して自由にノウハウ学べる環境がここにはあり、沢山の新しい商いが生まれている。
この学園に入って成功を収めた生徒は、学校の外でも援助金がもらえるので直ぐに商いを行えるのだ。
その為、商業学部が一番人数が多い。
船から降りると其処には懐かしい顔があった。
「レイヴン兄!」
「久しぶりだなアカネ」
アカネが小走りで駆け下りて抱きつく。
レイヴン・ロートフェルト、アカネの実兄にして第四王位後継者である。
彼は今年から高等部で背丈も大分伸びている大体180位だろうかアカネを簡単に抱き上げている。
「久しぶりだな、シロエールと…エクレールか?」
レイヴンがエクレールを見たのは3年位前だろう。
一気に成長しているエクレールをみたら普通に疑問系になる。
「お久しぶりなのです、レイヴン王子」
「お久しぶりで御座います」
船から降りてからシロエールは気付いた、やけに人気が少ない。
学園の生徒数からしても作為的なものを感じた。
「暗黙のルールでな、新入生には入学式まで極力接触し無い事となっている。抜け駆け禁止という奴だ」
「抜け駆けですか?」
「ああ、確か派閥とかグループとかって奴だねー」
やれやれといった感じでレイヴンはアカネを降ろしてからメモを渡す。
「例のお前達のいう条件に合いそうなのを知り合いの伝手で調べておいた。参考にするがよい」
「ええーっ折角の兄妹の再会なのにー」
「どうせこれからは同じ街にいるんだ問題ない」
アカネを軽くあやしてから手をふって帰っていくレイヴン。
大分、大人になって成長した彼は大分大人って感じだった。
アカネがメモ帳を開いてみる。細かくきっちりとメモが書いてある
「相変わらずマメな人なのですね」
「妹のお願いだからねー」
「関係あるのでございます?」
二人は多分違うと思うという視線をなげかけるがアカネは気にせず地図を広げる。
この学園は生徒数に対して寮が少ない。
貴族や王族は、特別区画の使われてない所を買い取り、商業学部の人間に建築を頼んで屋敷を構える。
一般区画ではアパートやシェアハウスを作る生徒達もいる。
アカネやシロエール達はというと、特別区画で生活した場合は息苦しい付き合いの毎日が始まると予想している。
特に一国の姫君であるアカネはその対象だろう。
なので、卒業して空きが出来る中で比較的良い所をレイヴン王子の伝手で調べてもらっていたのだ。
大抵、学園に近い所じゃないと通学に時間を大幅にとられ大変な眼にあうのが、広い学園都市の問題点でもある。
「本当にこういう時シロの魔法ってチートだと思うわぁ」
「お嬢様はチートなので御座います」
「チートなのですか」
シロエールの鍵魔法なら簡単に移動できる為、どんなに離れていても問題ないので立地条件を無視して場所を選べるのだ。
しかし、アカネからは何度かこの世界で聞いた事がない単語がぽんぽん出てくる。
だが、知識の方からは意味は浮かんでくる。
ガーランドとアカネは何か関係があるのだろうか?
何件か回って最終的に選んだ場所は、卒業生が住んでいた場所で大きなリビングのシャアハウスだ。
部屋の造りもしっかりしていて建てたメンバーの中に潤沢な資産を持っている人間がいたのだろう。
7部屋あったのだが今年で0人になる。
本来は予約も殺到していたのだが、アカネがあっさり建物自体を買い取った。
レイヴンも話をつけていたため王族相手に多勢に無勢ということで諦めたのだろう。
「築9年でしたっけ?広くて中々いいですね」
「掃除はまだまだで御座います」
「何かメイドなのにまるで小姑みたいね…エクレール」
ちゃんと定期的に掃除されているため中は綺麗だった。
家具も幾つかは残っている為、すぐに住める状態を保っている。
だけど、エクレール的にはまだまだですと窓際に指をつつーっとなぞり僅かな埃に眼を細める。
こうしてシロエール達は拠点を手に入れた。
こっちはモノレールや電車、バスがあるけど無いと通学は大変そうです




