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アタラシイセカイ

  私が眼を擦りながら部屋への扉を開くと、アカネがベッドの上で仁王立ちしてました。

 どう見ても御冠になられてらっしゃるのです。


「えっと…その……」

「何してたのかなー?」


 さっきまであんなに眠かったのに、眼がぱっちりと冴えてしまった。

 悪い人達より仁王立ちしているアカネの方が怖い。

 だって、顔が笑ってないし嘘を付いても無駄だよと眼が言っているのです。


「わ、私は何もしてないですよ?」

「こんな時間に魔法で抜け出しておいてー?」


 悪い事してないなら言えるよね?という視線に視線が泳ぐ。

 予想通りの反応にアカネは微笑みを浮かべて追い込む。


「シロ、身体は正直ねぇ。私は嘘を付いてますよって言ってるわ」

「!?」


 アカネは艶やかな笑みを浮かべてシロエールの頬を撫でる。

 眼をぱちぱちさせながら、え、何で、どういう事?と混乱するシロエール。


「ほら、シロちゃん。お姉ちゃんに全部話しましょうね?」

「お、同い年なのですよ」


 頬から顎へと指を滑らせて、くいっ、と顔を寄せてくる。

 吐息が掛かる位の距離まで顔をよせ、見つめあう二人。

 後ろに下がろうとするシロエールの先を読んだのか、腰に手を回し引き寄せるアカネ。


「私はシロちゃんの友達で味方だよ?だから全部話して欲しいなぁ」

「ぁ…ぅ…」


 理由の分からない恥かしさと、鼓動の高鳴りに眼を回しながら混乱するシロエール。

 まるで自分が精神操作系の魔法を受けているんじゃないかと錯覚しそうになった。

 一方、アカネはシロエールの反応を楽しみつつもちょっと興奮している。

 同い年でも、知識があるだけの幼女と中学生まで生きていた転生幼女とでは、差は歴然だった。

 観念して一通り話してみるとアカネの表情が見る見る険しくなったり話の途中で吃驚してめまいを起こしていた。


「いやいやいや、全員仕留めたって」

「一人は生かしていますよ?」


 アカネのいた元の世界では考えられない事でも、シロエールは子供でもこっちの世界の人間だ。

 幼い子があっさり人を殺せるというのが信じられなかった。

 シロエールも何故怒るのって顔をしていた。

 前の世界、特に日本とこの世界じゃ倫理観も違うのだから。

 アカネだって分かっている。

 こんな魔法や力がある世界で、生易し過ぎたら自分が死ぬかもしれない。

 それでも、こんな子が平然と人を殺せるのは寂しいアカネだった。


「無駄な殺生はダメ、絶対」

「……はいなのです」


 どうしてアカネは殺しちゃダメっていうんだろうね。

 私が頷くと、アカネは嬉しそうにいい子いい子と頬ずりしてきました。

 くすぐったい。

 さっきの妖しいアカネとはうってかわって何時ものアカネで安心します。

 良く分からないけどアカネが喜ぶなら対処法を少しかえるのです。

 一区切り付いたところで、彼女をどうしてあげるべきかアカネに相談ました。


「んー、狼耳尻尾科ワーウルフねぇ」

「どうにかできないです?」


 私のお願いにアカネは目を瞑り唸りながら一つの案を提唱する。


「じゃあ、トールマンに聞いてみましょう」

「トールマンさん?」


 第四騎士団の団長さんでしたよね?

 とりあえず朝聞いてみるからとアカネにいわれ、眠気を思い出した私はアカネさんに着替えを手伝って貰い、そのままベッドに眠り込んでしまいました。


 朝、街では詰所に落ちた死体と、実は結構有名な組織だったらしい『暁の牙』のメンバーが自首してきた事により一騒ぎになっていました。

 アカネ達を襲ったのも暁の牙ではないか?と余罪を調べるために動く事になった。

 トールマンさんも確認の為に出てしまい。2人は外出禁止となっていたのだが。


「おぉ~ゴールデンレトリバーみたいで可愛い!」

「!?!?」

「アカネ、彼女吃驚しているのです。落ち着いて下さい。」


 一目見た途端、アカネがぎゅ~っと彼女を抱きしめる。

 引き離すと私の後ろに隠れて威嚇しています。


「ふぇぇ、ケモミミちゃん御免ねぇ~」


 抱きつき癖でもあるのだろうか。

 威嚇されて半ベソかいて土下座するアカネ、自業自得かなぁ。

 パンと飲み物を買って、鍵魔法で倉庫へと移動してきた私達は彼女を含め3人で密会中なのです。


「そういえば、あなたのお名前は何ですか?」

「それ、何語?」

「半獣種族語ですけど……」


 何で喋れるの。という視線は一旦無視してパンを頬張る彼女に質問を続ける。


「……エクレール・ゲルブ」

「エクレールですか、よろしくお願いしますね」


 私がにっこりと微笑むとエクレールも少しはにかんでくれた。

 最初は気付かなかったけど人懐っこい笑顔の可愛い子なのです。

 アカネの事は大分警戒していますが多分そのうち心を開いてくれると思います。

 頑張れアカネ。


「そういえば名前まだ教えていませんでしたね。私はシロエール、彼女はアカネです」

「しろえーる。…あかね」


 2人を交互みながら名前を呟くエクレール。少しずつ心を開いてくれている気がする。


「うーん、エクレールちゃん家族ももういないんだっけ」

「だからどうしたらいいのかなって…」


 こっちだとつらい記憶があるから静かに暮らせたらいいんだけど。


「ねえ、シロの家で雇ったりは出来ないの?」

「……できるのかな?」


 会話が分からずきょとんとするエクレールをしり目に悩む子供二人

 彼女がうちで働いてくれたら確かに嬉しいかなと思うけどメイドとして働きたいかどうかも分からないし。


「そうですね、不肖ながら私がテストをして差し上げましょうか?」


 突然の提案に3人一斉に振り向く。

冷や汗がだらだらと流れ注視したその先にいたのは、現在ヴァイスカルトの留守を預かっている羊耳尻尾科ワーシープの執事、メリー・ゴードンだった。


「い、いつから気付いていました?」

「気付かないと思っていらっしゃいましたか?」


にこにこと初老のこの執事は3人を見つめている。

メリーはシロエールがエクレールを匿っていたその日から気付いていた。

彼は毎日、家の至る所を点検する真面目な男だった為、夜に倉庫に賊が忍び込んでいる賊に気付いた彼は、捕まえようと入った所。

無防備に眠る少女とシロエールが泊まっている王都のホテルに隣接しているパン屋の包をみて連れてきた主がシロエールだと確信した。


「お嬢様は同年代どころか、そもそもご友人がおらず、ついこの間アカネ姫様という1人の友人が出来たばかりの状況ですからねぇ」


 確かに私には友達はアカネしかいませんよ、ええ、だって家から出た事が無いんだもの仕方ないじゃないですか。

 あー、やっぱりという目でアカネが私を見ていました。私は悪くないのです。


「ちなみに合格すれば今回のお嬢様の魔法の件も私の胸に留めておきましょう」


 あ、つまり不合格なら扉使わない鍵魔法の事ばらしますってことなのですね。

 光霊魔法ルミナスもある程度セーブしているのに鍵魔法の事ばらされたらどれだけ目立つことか。

 メリーはエクレールに話を聞いている。

 国に帰るか、メイドとはどのような仕事でそれをやれる自信があるならテストをする旨を伝える。


「私は…シロエール……様と一緒にいたいです」

「よろしい、ではお嬢様が王都から帰られるまでの間、テストをしてさしあげましょう」


 不安なのです。

だって、うちのメイドの募集求人って空きが出るたび結構、沢山の人が応募しているのですよ?


「では、お二方は王都へお戻り下さいませ。試験の間は此方にお戻りにならぬようお願い致します」


 ね?と釘を刺されました。多分、ばれるでしょうし我慢して一時お別れになりました。


「エクレール、頑張ってね」

「応援してるからね」


 扉を開きエクレールにお別れを告げて戻る二人。

 二人が見えなくなった後、メリーが告げる。


「私の試験は甘くないですからね?」




 ホテルに戻った二人は、大人しくしていたフリをして昼食を取っていると騎士団とシロエールの両親が帰ってきた。

 誘拐事件の犯人は別件という事が判明した。

 犯人は精神が若干汚染されてるものの素直に喋り、その内容を統合すると襲った犯人とは別にいるということになった。

 結局誘拐犯の目星はつかないが一先ずは王都でも警戒してくれるという事になった。


 それから3日程家族とアカネで王都見学となった。

 色んなお店で食事をとり、新しい服からアクセサリーまで買う始末に。

 家族とアカネと2種類のペアルックを買ったりした。

 少々父親の財布が寂しくなったのは気にしない。

 王都を出てからも特に何も問題もなく帰路へと進む。


 何故か帰路では静かになってしまった。

 帰り着いたらアカネとお別れになるのだ。

 お姫様だからそう簡単に何度も会えたりはできない。

 そう思うとシロエールは切ない気持ちで一杯になる。

 寂しそうにしてるシロエールに気づいたアカネが軽く小突く


「どうしたのそんな顔して」

「お別れだなーって思ったら少し寂しくて」

「……シロが一度こっちきたら問題なくない?」


 その言葉にあっとなってしまった。

 そういえば鍵魔法で行き来すればいいんだ。

 今度遊びに行けるようお願いしよう。


 炭鉱都市を通りヴァイスカルト領に到着したシロエール。

 家に帰り着くと、メリーの隣にメイド服をきた犬娘が立っていた。


「お帰りなさいませご主人様」

「オ、オカエリナサイマセ」


 たどたどしく共用語を語るエクレール。

 初々しくて良しと頷くアカネだった。


「この子は?」

「私の知人の子でしてね、どうやら知人に不幸が御座いまして私に頼るよう手紙を残していたそうで」


 メリーの口から出任せたっぷりの説明が語られる。

 よくもまぁそんな嘘をさらさらと言えるなぁとシロエールは関心してしまう。

 こういう涙もろい話に弱いのかクロノワール号泣してた。

 しかしグレーシアはというと可也冷静だった。


「その子はメイドとしてちゃんと働けるのかしら?」

「無論、私が数日テストした上で戦闘面にも才覚がございました。何れはお嬢様の専属メイドとして取り立てるつもりで御座います。ちょうど同い年故後々役に立つかと」

「…なるほど、才覚があるなら学園にも連れて行けそうね。貴方がちゃんと認めたのなら私は良いと思うわ」


 グレーシアはよろしくねーっと何時もの優しい笑顔でエクレールを撫で撫でした。

 認めてもらった事に気づきほっとするエクレール。

 私の新しい友達は私のメイドになった。


 そして、友達とのお別れ

 アカネとお別れする時私は堪え切れず涙をぽろぽろ零した。

 同い年なのにアカネはうんうん、大丈夫また会えるよとあやしてくれた。

 こういう時、アカネはとてもお姉さんだった。

 私だけ泣いてるのは何か恥ずかしくなって目をぐしぐしと拭き またね と約束した。


「じゃあ指きりしよう」

「指きり?」


 指を切るの?何か怖い。

 アカネが小指だけのばしてきたので私も真似をすると、アカネが指を絡めてきた。


「ゆーびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます」

「針千本も飲めないのです」

「だから嘘ついちゃだめってことよ」


 なるほど、と納得した私は復唱してゆびきりをする。

 もう大丈夫、私も笑顔でアカネをお見送りするのです。

 寂しそうにしてた私を気遣ったのか後ろからエクレールが抱き着いてきた。


「大丈夫?」

「ん、大丈夫ですよ。また会えますから」


 私はエクレールの頭を撫でて屋敷へ戻った。





 あれから数年の年月が経った。


 エクレールの特訓をしたり、アーレス帝国に遊びに行ったり。

 母方のブランシュの名を継いだりと随分濃い数年間だった。


「シロエールお嬢様、そろそろ出発のお時間ですよ」

「わかったわ、エクレール」


 トランクケースを転がし馬車へと乗り込む。

 シロエール・ブランシュ・ヴァイスカルト 9歳

 ガーランド学園の試験へと向かう。

次回から学園編が始まるのです

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