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英雄伝説  作者: かなたみ
一章
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その時の二人

 まなかとイマナが会話している頃



「ったく……なんでこんなことを」

 喧騒にまみれていた廊下は、いつしか静寂を取り戻していた。

 荒れきった呼吸を整え、一息つきながら、畠瀬なちはひざに手を置く。

 時間を稼ぐだけのつもりが全部倒してしまった。

 自分はそんなに強くはない。せいぜい一発で成人男性を殴り倒すことくらいしか出来ないのだ。

 それ以外は、どこにでもいる少女と何の変わりもない。

「ほんと、なんでかなぁ……」

 あはは、と乾いた笑い声。十人ほどいた不良たちを倒した今でも手は活力を持っている。

 しかし体は酸素を必死に求めていた。

「っ、はぁ……もう起きてんでしょ?」

 視線を下に落とし問いかける。

 そこには自分で人間ミサイルとして使った伊豆奈栄治が倒れていた。

「あ……あはは……気づいてたんですね」

 明らかに作った笑い声とともに体を起こす栄治。

「どうせ最初から起きてたんでしょ? 加勢してくれても良かったじゃない」

「自分で気絶させるような要素を作った人が言いますか……」

少しおびえた様子で栄治は応対する。何せ自分を躊躇なく投げつけた人物だ。警戒もする。

「とりあえず……ここから離れません?」

「賛成だ。今こいつらが起きてこられても困る」

 二人はそそくさとその場を離れて行った。



「さて、とりあえずマナと合流しなきゃな」

「あ、僕もまなかさんの元に戻らなきゃ」

 早く戻らないと何言われるかわからないからなぁ。そう言って栄治は苦笑する。

「……お前はあのチビと幼馴染なのか?」

「えっ? いえ違いますけれど……」

 突然どうした? と言わんばかりの表情でなちを見つめる栄治。

「すると小学生か、中学生からの知り合いか?」

「いえ……この高校で知り合いましたけれど? 何かおかしいでしょうか?」

「……あの『口撃の女王』がお前みたいな草食動物を連れているなんて珍しいなんて思ってな」

「そうしょ……」

 ぞんざいな言い方に少しだけ栄治は絶句する。

「ふむ」

 顎に手を置いて立ち止まるなち。

「あの、どうかしまし……」

 すると突然、なちの拳は栄治の腹部へと襲いかかった。

「っ!?」

 それを間一髪で栄治は手で受けためた。

「いっ……何をするんですか!?」

 受け止められたことを知ると、なちはすぐに拳を外し、再びふむ、と呟いた。

「なるほど。少しだけしか力を込めなかったが、運動神経はいいな」

 感心したかのように栄治に対して少し笑みを作る。

 それに対して、彼は少しだけ不機嫌そうな顔をした。

「なんで殴りかかってきたんですか?」

「なに。女王が側に置く人間がどういう人物か少しだけ気になっただけさ」

「ああ……そうですか」

 栄治はため息をつく。そして、あなたもかと言った風に目を細めた。

「……その様子だと、似たような行動をする人は多いみたいね」

「まあ、そうですね。今じゃ『口撃の女王』とかまで呼ばれているみたいですし」

 有名ですもんね、と自重気味に笑う。

 その様子から、栄治が決してまなかの行動に乗り気ではないということに気づく。

「……あいつは、何をしたいんだ? あのクソチビは見るからに貧弱で口が悪いだけにしか見えないが」

「言いたい放題ですね。否定できないですけど」

 はぁ、とまた大きくため息をつく。苦労しているようだ。

「正義の味方ですよ」

「……正義の味方、だと?」

 なちは眉をひそめる。

「そうです。彼女は本物の正義の味方になろうとしている」

「はぁ」

 気の抜けたなちの返事に、栄治は少しだけ笑みを浮かべる。

「最初はみんなそんな顔をします」

「だろうな。突拍子がない」

「ええ。僕もそう思ってますよ。今だって、そう思っている」

 けれども、彼はそう続ける。

「あの人なら、出来そうな気がするんです。それを出来るくらい、パワーを感じる時があるんです」

「ふうん……」

 なちは前髪をいじりながら、相槌を打つ。

 それからしばらくの間、沈黙が続いた。

 二人とも話しかけようとせずに、ただひたすら歩き続ける。

 やがて、なちの方から口を開いた。

「私はどっちかというと、お前の方がなれそうな気がするがな」

「え?」

 栄治がなちの方に振り向くと、先ほどと同様に殴りかかるモーションを取っているなちがいた。

 すぐさま、その拳を受け止める。

「悪態は誰でも吐けるが、体はそうはいかないからな」

 同時に、栄治が受け止めた拳が一気に重くなったような感触がした。

「ぐっ!?」

 すぐさまに重心を腰に落とす。それでも、少しだけ位置をずらされた。

「お前は強いよ。それこそこの学校の誰よりもね。救える人間だ」

「あなたは……!?」

 と、栄治の受け止めた拳がふっと軽くなる。

「すまんね、二回もやっちゃって。もうこれ以上はしないから安心していいよ」

 そうして、なちは口だけにんまりと笑みを作る。

 それを見た栄治は少しだけ茫然とした後、なちに眼差しを向ける。

「……あなたこそ、そんな風に思うなら行動したらどうです? 彼らのことを、快くは思っていないのでしょう?」

「んー? 確かに気にくわないけど、ああいうのはどこからでも沸くんだ。いくら私が潰したって、そこから分裂するように沸いて、沸いて沸きまくる。仕方ねーのよ」

 その時、栄治には彼女の見えない瞳に陰りが差した気がした。

「……さっ。さっさと行こう。また変なのに絡まれる前に、ね」

 そう言って、先ほどよりも元気よくなちは歩きだす。

 栄治は何も言えずに、ただ彼女の後をついていった。

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