表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄伝説  作者: かなたみ
四章
30/57

変化

 なちは、利戸那を部屋に通していた。

 叔母は特に何も言わなかった。以前のなちが呼んだのか、記憶には無かったが叔母がやわらかい笑顔で対応していたので、もしかすればそうなのかもしれない。

(私は、知っている)

 なちは、目の前で部屋を見渡す利戸那を見て思う。

 長い黒髪。銀縁の眼鏡。優しげだが、意思の強そうな瞳。

 全て、自分の記憶の通りだった。何故か、記憶の通りだった。

 見たことがないはずなのに、見ていたと頭が訴えかけてくる。

「久しぶり。この部屋に入るのも」


「へっ!? そ、そうだっけ……」

 利戸那に話しかけられ、どもりながら返すなち。そもそも、久しぶりも何も無い。親切なことに、なちの記憶は姿と名前しか教えてはくれなかった。

 彼女の人となりなど、何一つくれなかった。彼女は自分の友人であった、それだけで。

「どうして私の家に……?」

 人と、面と向かって話すのは、少し苦手だった。それは、懐かしさを感じる彼女に対しても同じだった。なちは目を見て話せなかった。

「なーちゃん……髪、切ったんだ」

 しかし、利戸那はそんななちの問いかけに反応せず、自分の疑問を投げつけてくる。

「うぇっ!? う、うん……少し邪魔だったし」

「そう……邪魔だったから」

 そう言って、利戸那はじっとなちを見つめる。眼鏡の上から、裸眼で、彼女を見つめる。

 なちは合わせない。

「え、えっと……そんな風にじっと見られたら少し恥ずかしいんだけど……」

「…………」

 しばらく見つめていた利戸那は、唐突にふっと、笑みを浮かべた。

「なんだか、変わったね。なーちゃん」

「……えっ?」

「ほんの少し前に会ったばかりなのに、すごく変わった」

「そう、かな」

 彼女の言う『なーちゃん』という存在を、自分は知らない。変わったなんて言われても、その記憶が無いのだ。この時になって、なちは自分の行動を後悔し始めていた。

 過去の知り合い、これほど今の自分を縛り付けるものだとは。

「そうだね……」

 なちは、利戸那の目を見る。というより、驚きによる条件反射だろうか。まるで心を読まれたかのような相槌を打たれた。けれども、それはどちらかと言えば、自分自身に対して言っているかのように見えた。目を伏せていた、からなのだろうか。

「……うん!」

 すると、今度は元気よく頷いた。一瞬見せた、憂うような表情は既に消えていた。

「私、今日はもう帰るよ。なーちゃん、なんだか体調良くなさそうだし」

「えっ、そ……そう見えるかな……」

 なちは、少し表情に出ていたのかと、少し自分の頬に触れる。

「やだなぁ、なーちゃんそんなに焦ることじゃないでしょ?」


「っ!」

 銀縁眼鏡の彼女、温海利戸那。かつて畠瀬なちの友人だった少女。

 けれども、彼女に対して知っているのはそれだけ。柔らかな笑みを浮かべた彼女の表情は、見えない。

 笑っているはずなのだ。確かにそこで彼女は笑っているはずなのに、分からない。今、彼女がどんな表情をしているのか。

 利戸那は歩き出した。なちをすり抜け、扉へ。帰ると言ったのだから帰るのだろう。見送りをしないといけない。けれども、体が動こうとしない。

 表情の見えない彼女が、何かに見えた気がして――。

「なーちゃん」

 利戸那の声がする。振り返らなければ、違和感を持たれてしまう。そうすればこの時間がもっと続くかもしれない。早く振り返らないといけないのに、首が動こうとしない。

 焦りがなちを埋め尽くす。しかし利戸那は、先程と変わらない声で。

「私、英雄になる」

 英雄。

「なるなっ!」

 言葉を聞いた瞬間、認識したと同時に声が出た。首が動いた。何かは全て吹き飛び、なちは一つの感情に囚われた。

 利戸那の口元は笑っていない。表情は分からない。急に声を出した自分に驚きを示しているのかもしれない。分からない、けれどなちはきっ、と利戸那を睨みつけた。

「そんな……得体の知れないものになる必要なんて、ない」

 どうして? なぜ自分は思うのだろうか。しかしそれを考える暇も無く、なちは言葉を発し、伝えた。自分の気持ちを、変わった自分の、変わらない何かを。

 けれども、利戸那はそんななちを見て、ふっと笑みを、再び柔らかな笑みを浮かべる。

「そう、そんななーちゃんが好きだから、決めたの」

 そこでなちは、初めて利戸那の顔を見た。

 銀縁眼鏡の彼女。温海利戸那。かつて畠瀬なちの友人だった少女。

 彼女は、自分の記憶よりひどく変わってしまっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ