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英雄伝説  作者: かなたみ
三章
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 最近は学校に行かなくなった。

 商店街をふらついた足取りで、なちは歩き続ける。

 たまに人とぶつかるが、彼女の顔を見たとたんに小さな悲鳴を上げて走り去る。

 極まれに、突っかかってくる人物もいたが、顔を思い切り殴るとさっさといなくなってしまう。

「…………」

 何にも興味がわかない。今は唯一つ、目的が達成されれば良い。

 リーアをイマナが助けたあの日から、なちは一つの影を探していた。

『正義の味方』

 他に彼を形成する名詞が見つからない。なので、なちはいつもそう呼んでいる。

 彼が全ての始まりであった。

 英雄などと、自分が呼ばれるようになったのも、面倒なことに首を突っ込むようになったのも。重ならない強さを手に入れてから。

 しかし、なちは既に嫌気が差していた。いや、ずっと前から差していたのだ、本当は。

 それを言葉にしたのが、あの時だったわけで。

 利戸那と出会ったとき、初めて力の強さ以外の強さを見せ付けられた。彼女が英雄と呼ばれるようになった時のことは忘れていない。

 しかし、その英雄もあっさりと崩れ去った。内部からの裏切りによる心神喪失。立派な城は、ただの砂の城であった。

 結局、強さが物を言うのだった。殴って、言うことを聞かせて、力による支配が一番だったのだ。

 自分が正しいとは思わない。けれども、間違っているとも思わなかった。

 ただ、空しさだけが胸を穿った。

 高校に上がってからはそこまで出しゃばることは無かった。ただ、一度だけ。偶然にも一人の男と出会うまでは。

 新田塔利。八方美人。人のことを詳しく調べようとする愚か者。

 広く、深く、他人を調べようとした彼は案の定、その姿勢に勘違いした女性から刺されそうになった。

 偶然その場面を見かけたなちは彼を助け、思い切りぶん殴った。(とは言っても打撲程度で済む怪我だったが)

 それからの知り合い。以降、なちは彼を通して学校で起こるいろいろなことを知った。(その頃には彼の情報は浅く広くなっていた。情報に命をかけるのが嫌になったか、はたまたなちのパンチが彼のボディをえぐったからか)

 深く、面倒そうなことになりそうなことには口を出し、そのサークルの中で完結するなら、手は出さない。そんな取り決めを、自分の中でしていた。

 けれども、そんな時に見つけたのが、イマナ。

 アルビノと呼ばれる太陽の下には決して対策なしでは出られない、白い女の子。

 思えば、あの話はあの中で終わるはずだった。

 髪が白く、内気な性格のイマナは格好の虐めの対象であった。

 虐めはなくならない。無くなるとすれば、対象が、変わるか、登場人物の中身が、全て挿げ替えられるか、そのどちらかだ。

 塔利と話すようになってからは、周りの様子なども伺うようになっていたなちは、イマナはまさに格好の的にしか見えなかった。

 虐められた人物は大抵、抗おうとしても抗えず、泣き崩れるか、諦めているかのどちらかだ。

 まるで、その二つしか選択肢の無い人形のように。

 ――そう、その瞳を見るまでは。

 息を呑んだ。爛々と輝く、赤い、焔のような瞳。

 その瞳が、きっと彼女らを見据え、噛み付いた――――。そんな風に思えた。

 彼女は非力だった。それでも、諦めるという意思を見せずに、立ち向かった。

 それを、無謀とも、蛮勇とも彼女は呼ばない。

 彼女は、間違いなく勇者だった。

 たった一人の、誰にも認められない孤独な勇者。その姿は、なちを共感させるとともに、一瞬だけ、知り合いと重なった。

 だから動いた。彼女の代弁者として。

 もう一度だけ、信じてみよう。そんな気持ちが、あふれていった。そう、リーアと出会うまでは。

 自分を好意的に思わせるというリーアの力は、なちの思考を破壊した。思考とは感情の揺れ動きに対してひどく顕著に動く。

 自分がどう動くにしても、それは思考、引いては感情にひどく左右される。

 どんなに感情を押し殺して進もうとも、いつかそれはボロが出てくる。

 けれども、リーアの力――――彼女の行動を全て好意的に解釈するというのは、まさに自分を失い、操り人形になってしまうのと同義であった。

 リーアと出会ったのはつい最近であったが、その力はなちの行動全てに疑問を持たせるのにそう時間は必要なかった。

 自力で違和感に気づき、糸を断ち切ったには大きな代償であった。

「―――」

 生気を失った眼で辺りを見渡す。帽子を被った正義の味方は見当たらない。

 鼻から軽く息を吐き、なちはまた進み始める。

 今の彼女を動かすものはたった一つ。

英雄をやめる。

 始まりを作った男に、終わらせてもらう。

 それだけであった。


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