選択肢のための選択肢
一本道を歩いていました。自分が“一本道を歩いている”と自覚した時にはもう、歩いていました。
歩き続けていると、分かれ道にさしかかりました。
「どの道が正解なんだろう」
ポツリとつぶやくと、
「正解はないさ」
応える声がありました。
見ると、帽子を被った人が立っていました。
「あなたは?」
「示すもの、見守るもの、傍観者。まあ、何とでも好きに呼ぶといい」
しばらく呼び名を考えて、しかしよくよく考えればここには2人しかいないのだから“あなた”で事足りることに気付き、思考を止めました。
「……正解、ないんだ」
「そう、正解はない。あるのは幾つもの意見」
「意見?」
パチン。その人が指を鳴らすと、目の前に段ボール箱が現れます。中にはぎっしり詰まったボイスレコーダー、紙の束、画面に文章が並ぶパソコンや携帯電話など。木簡もあります。
「各々、己の視点に立って意見を述べている。選ぶ時の参考にするといい」
箱を漁って意見を聞き、読み、それでも決めかねて立ち尽くしてしまいます。説得力のある意見、納得のいく意見、破綻が見られる意見。色々あって、どの道を行くのも良いように思えて、結局選ぶことが出来ません。
「……どれくらい、ここで考えていいの?」
するとその人は、また指を鳴らして、タイマーをぽとぽと降らします。既に0になったタイマー、あと数分のタイマー、数日のタイマー。何十年も残っているタイマーもあります。
「これは、一体……?」
「意見だ。猶予はいかほどあるか、という」
口を閉じ、唇を噛みます。ここにも正解はなく、意見だけ。
「わからない。どれを選べばいいか、わからない。……戻ることは可能なの?」
「後ろを見てごらん」
うながされるままに振り向き、息をのみました。こちらにも幾つもの道があります。来た道はどれでしょうか。
「……どうすれば、いい」
「それは君が決めること。私は手助けとして複数の意見を示せるが、それだけ」
淡々と、言葉が突き放しました。
――さて、君はどうする?