とある二人の世終踊館
これはニコニコ動画の wowakaさんの動画 初音ミク・巡音ルカ オリジナル曲 「ワールズエンド・ダンスホール」を元に執筆したものです。
URL:http://www.nicovideo.jp/watch/sm10759623
ちなみに一日クオリティ&夏休みの宿題&初投稿。
とある二人の世終踊館
「ここ、どこ?」
「知らねーよ。あたしに聞くな」
乱暴な口調とは裏腹に声は高く可愛らしく少女のものであることが伺えた。
「……白と黒しかないや、ここ」
「ほんと」
「色つきなの、あたし達だけだ」
「だな」
「あたしが青で、あんたが赤」
「髪の色、言っただけじゃん」
拍子抜けしたように青の少女が笑う。「笑うんじゃねー」と言い返しながら手を伸ばす。離れないようにしっかりと握り返した。
其処は酷い有様だった。モノクロームの景色。瓦礫の山。粉塵、焼け焦げた何か。形あるものなどなく、何もかもが破壊し尽くされている。台風、スーパーセル、津波、火事、地震、ゲリラ豪雨…地球に存在する全ての災害が一度に訪れたのかと錯覚するほどの光景だ。
「ね、ここ、さ」
ひしゃげた鉄骨を蹴り飛ばしてゆっくり平地に下りていく。ずいぶん高い山の上にいたらしい。
「つい四時間ぐらい前まであたしたちが住んでた街なんだよ」
「にわかには信じらんねーけどな」
自嘲するように赤の少女が力なく笑う。零した笑みに安堵したように先を続ける。繋いだ手を掲げて確かめるみたいに歩く。前を行く青の子はさながら姫をエスコートする王子様のようだ。
「こうなってくの、一緒に見てたくせに」
「見てたよ、この目で。自分家が一瞬で粉々になるのも、あいつらが死んでくのも」
「死にきれない子を自分達で葬るのも何度かやったね」
「……うん」
必然的に言葉が重くなってしまう。あまり思い出したくはない。
ぐしゃぐしゃと瓦礫が崩れる。寸前飛び降りた赤の少女の首根っこをつかんで受け止める。
「ちょっ、苦しいからやめろよ」
「それぐらい何ともないでしょー?」
「じゃあ離せっての……」
軽口を叩いてから改めて“世界”を見渡す。
凄惨。私達の愛したこの街は、世界の終りになってしまったのか。
「……箱庭」
「え?」
赤の少女がポツリ、とつぶやいた。
「いや、その、箱庭みたいだなーって。何となく」
「外れてはいないかもね。あたしたちが見てるとこしか存在しないみたいだもん。ロマンチックでいいと思うよ、その例え」
「そんな夢見る乙女じゃあるまいし」
けらけらと笑う。
「あんたの言うことがほんとだったらさ、」
くるり、反転してお互い向き合う。
「ここが世界の全てってことじゃん?」
「んー…まぁ、そうなる、か…?」
「そしたら世界にはあたしとあんただけ。死ぬまで二人っきり。凄くないこれ!」
「お前が一番夢見る乙女じゃねーか」
「むぅ、知ってたー?あたしが戸籍上女だってことー。乙女って言われなくても乙女なんだよ!」
「はいはい」
軽く受け流してまた歩く。行くあてもなく彷徨うように、二人っきり。どう転んだって二人っきり。赤と青で二人っきり。夢でなく事実なのだが。
「ねぇ」
「ん、何―」
「ほんとに何にもなくなっちゃったんだね」
「……そうだな」
「みんななくなっちゃって、地平線が見えてるよ。ほら、向こう煙上がってるし」
「あー…すげーな、改めて」
「ふふ、このまま地平線に向かって走ろっか。そんで世界の端っこには何があるのか見てくるの」
「何だよそれ。熱血教師か?なんかバカっぽい」
「誰も見てないし。それにほら」
ふわり、手を包む。
「“世界にはあたしとあんたしか居ない”んだからさ」
それは、魔法の呪文だった。彼女がそう言うだけで世界は白黒二人っきり。どこに行って何をしようが勝手で、彼女とどんな関係になったってきっと離れられない。お互い逃れられない呪文をかけて、かけて。
「…いーじゃん。乗ってやるよ。その案。どうせやることもないしな」
「そうこなくっちゃ」
目線があって、ニヤリ、と笑ってみる。
手を繋いで、お互いがお互いをリードするように引っ張って、走る。走る。走る!どうせこの世は二人だけ。はっちゃけたっていいんだから。溜まったものをぶちまけるように、狂ったように、走る。走る。走る……!
「―――!」
青の少女が赤の少女の名を呼ぶ。
「なにー?」
手を握りしめたまま。
「きっとさぁ!」
風圧に負けぬように声を張り上げる。
「あたしたち、誰にも見つけられずに!」
「うん!」
「死んじゃうんじゃないかなって!」
「二人しかいないからな!」
すぐ傍にいるのに全力疾走しながら大声で会話する光景は、赤の少女が言った通りバカっぽくって、滑稽だった。でも、世界に二人だけ、という言葉が、二人を繋ぎとめていた。
「そしたら!」
若干声がかすれてしまう。
「あたしたちの生きた証は残らないじゃん!」
「そうだな!」
「だからっ!」
急に止まって、揃ってバランスを崩す。くっついた手に力がこもる。
「証を、残そうと、思って!」
「はぁ?」
青の少女は先に体力が尽きてしまったようで、地面にしゃがみこむ。お互いが支えて、息が整うまでしばらくじっとしていた。
「……で?」
「え?」
「証がなんだって?」
「あぁ、うん、そうそれ」
女の子座りに直してぼーっと世界の彼方を見呆ける。
「きっとあたしたち長くないよね」
少女らしからぬ台詞を吐いた。
「年寄りかって……まぁ、実際問題なわけだけど」
「死ぬ前になにか残したいわけですよ。遺言みたいなさ」
「残す相手がいねーよ」
「細かいこと気にすると寿命縮むよ?」
「縮んだらあたしは即死だよ」
「…ぷっ、あははは!」
ツボにはまったらしい。ひとしきり爆笑してから
「ねーなにかしようよー」
「なにかしようったって……何もないし」
「何でもいいから!この際一発芸でもいい」
「シュールだな」
瀕死の状態で一発芸だなんて誰得。
「む……」
キラキラした目でこちらを見ないでくれ。そんな通常の女子と同じ価値観を持てずに育ったあたしにそんな回答を求めるな。
「早く、早く!」
「んー…」
数秒の沈黙の後に「……踊るとか?」
「へ?」
「え、あ、いや忘れてくれ……」
「踊りって言わなかった?」
「いや、言ったけど」
荒廃した土地で死に際に踊るって。確かに何もなくてもできるけど。
「いいね」
「え」
返ってきたのは意外な答え。
「いいねそれ。Let’s Dancing」
「え?おまっまさか本気に……!」
「踊ろう。どうせ誰もいないし。ほら立って立って」
さっきまでの息切れようはどこへ行ったのかと言うほどやる気に満ちた目があった。
「え?え?え?」
「れっつ・だんしんぐー!」
「え、ちょっ、ひゃぁぁぁあああ!?」
腕を掴まれ砲丸投げの前見たくぐるぐると振り回される。赤い髪が遠心力ではためく。
「ふははは!私は言質をとったぞー!付き合えー!」
「だからっ、やめっ、目ぇ回るっつの、ぎゃぁぁぁっ!」
気でも狂ったか。散々に振り回して、フラフラしているところを強制的に立たせる。
「次はー学校でやったやつ!名前忘れたけど」
「学校でダンスなんてするのかよ……」
「腰に手―当てて、こーして、あっ、あんた女役ね。あたし男役しかやったことない」
「もうどうでもいい……」
何度も何度も躓いて、回るところで延々と回す。赤い少女はもうされるがままになっていた。
三回ほど繰り返してから、飽きたのか別の踊りに変え、今度は覚えてなかったと元の砲丸投げに戻ってしまった。踊っているというより一方的に付き合わせているようだ。
「繰り返さなくったって、音がなくたっていいもんね!ふっふっふ、あんた振り回すの、たーのしー!」
「あたしは楽しくねぇー…」
少女二人の身体はボロボロだった。皮膚には無数の傷やら痣やらができていて服は裂けて原型をとどめていない。明らかに疲れ切っているのに動くことをやめない。これが使命なのだと言わんばかりに。
「なぁ?」
「なーにー?」
「もしあたしらが世界の全てだって言うならさ」
「うん」
「あたしらが死んだら世界は消えるのかな」
「んーそうかもね」
「随分軽いな……」
「だって楽しいんだもん。今が楽しければそれでいいし。あんたが居てくれるんならいつ死んだって構わないや」
「そりゃどうも」
世界の端で、途切れ途切れの言葉を交わす。リズムもない、はちゃめちゃな動き。
「ねぇ、今、楽しい?」
「……うん、楽しい」
「あたしも」
命が消えてしまう前に
世界が消えてしまう前に
私たちは踊る
狂ったように
証を残そうと
必死で足掻いて
『あたしたちはここに居る!』
二人っきり
「あたしたちは生きた!」
赤と青で二人っきり
「あたしたちは愛した!」
いつまでたっても二人っきり
きっとこれは、素敵な……
二人の視線が絡む。
『さよなら、世界』
最近の若者は文章でなく単語でしゃべるようになった。というのをどこかで聞いたんです。要するに語彙力が足りんと。自覚はあります。
でも短い言葉で繋がれるってことはそれ以前にもっと深いところで分かり合ってて、繋がってるんじゃないかって思ったんですよ。はい。そんな人が一生付き合っていける人なんじゃないかなぁ。きっと。
モデルは報われてほしい赤と青の子。
そうは言っても語彙力欲しい。