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踏破せよ、世界を  作者: 一ヌキ末
人篇 北大陸
19/36

破滅の棄却 2

3

 霞むような速さで繰り出される連撃。

 まるで空気を裂く音が聞こえてきそうでさえある。

 ヴァレイアの手元はコマ送りのようにぶれて、穂先だけではなくその反対側……石突と呼ばれる部分も十全に活用しレーヴへ秒間数発という脅威的な間隔で攻撃を繰り出していた。

 威力は速度の犠牲になっていてとても痛打は与えられそうのない軽いものだったが、相手が見るも柔らかそうな幼女となると話は別だ。

 おそらくたったの一撃でも、子供にとっては致命的な傷となる。


 だから一発でも綺麗に入れば、それで終わり━━━━とは双方まったく思っていなかった。


 レーヴは勿論の事、ヴァレイアも今更そんな愚考はしない。

 そもそも全ての槍先を余裕で回避せしめている時点で目の前の純白幼女が常人だとは口が裂けても言えなかった。

 『お兄さん』ことヴァレイアはそれをよくよく知っていたから、即ちこれは小手先調べというわけだった。

 ヴァレイアは凄まじい速さで次々と槍撃を繰り出す。

 しかしその全ては押し並べて少女の服に触れるにも至らない。

 予想通り。

 どころかそれ以上の反応速度を見せるレーヴにヴァレイアは自身の背が興奮で汗ばむのを感じた。空を裂き奇妙なリズムを刻む槍、それを手繰る両手の動きを変える。

 速度重視から、虚実緩急入り乱れる『当てる』ための動きへ。

 猛然と穂先を右肩に突き入れる━━━━と見せかけ石突で左側頭部を狙う。

 少女は見切っている、と言わんばかりの超反応で難なく(せぐく)み、頭上を通り過ぎる槍を面白そうに眺めた。

 恐ろしい事にレーヴは瞬きよりも短い時間で観察を終えたように槍から目を離し、ヴァレイアに余裕の視線を寄越した。

 悠久にも思える刹那、赤茶と白銀の視線が交錯する。


 ━━━━これは『素』じゃ到底駄目だな。まったくもって末恐ろしい子供だ。


 ヴァレイアは脳内嘆息などという器用な事をしつつ、槍に魔力を行き渡らせる。金属製の武具はヴァレイアの魔力を充分に宿し、赤く尾を引いてレーヴに襲いかかった。

 緩急でいうなら、特『急』。

 先ほどと比べ倍以上の速度で迫る、赤い燐光を纏った穂先。

 タイミング、速さ、威力。どれも申し分ない水準で放たれた一撃である。

 余りにも速く迫る赤刃にレーヴは目を見開き━━━━


 素手で弾いた。


 ギャイィィン! と刃と柔肌が打ち合ったとはとても思えぬ音が鳴り、刺突の失敗が痺れとなってヴァレイアの腕に響く。赤い魔力は後方に飛散する。

 飛び退るヴァレイアと、どこかバツの悪い顔でそれを見るレーヴ。


「……おい、さっきのは何だ」

「…………必殺技」

「嘘を吐け。魔力使ってなかっただろう」


 レーヴは顔を逸らす。

 目線の延長線上にいる貴族たちが頬を赤らめた。

 顔を戻す。


「……真剣にお前が何なのか気になるんだが」

「…………ひ」

「ひ?」

「……ひ、み、つ」


 愛らしさが形になって語尾に飛び散りそうな口調。

 上目遣いのあざとさ極まる仕草だったが、生憎と絶世の美(幼)女である。物凄くわざとらしいのに恐ろしいほど絵になっていて、ヴァレイアは思わずぐっと息を詰めた。


「……っ。誤魔化されはしないぞ」

「ちっ。……せいっ」

「のわッ!?」


 舌打ちして、レーヴは軽く足下の黒い砕片を蹴った。轟と唸りを挙げて砕片がヴァレイアの顔面目掛けて飛ぶ。

 脳天へ飛んで来た凶器をヴァレイアは間一髪で避けた。

 後方、開いたままの扉の先から壁にめり込むような音が生々しく鳴った。

 それが無魔力で為されたと悟り冷や汗を垂らしたヴァレイアはレーヴが僅かに脚を踏み込んだのを確かに見た。

 瞬間感じた看過できぬ悪寒に、殆ど反射的にヴァレイアは横合いに飛んだ。

 飛びながら見ると、つい先ほどまでヴァレイアがいた場所にレーヴが殴りかかる寸前の姿勢で止まっていた。


 ━━━━まるで見えなかった!?


「おぉ。避けた」

「『避けた』じゃあない……!」


 ヴァレイアは守勢に転じるのは不味いと槍に赤い光を纏わせ、猛然と突きかかる。

 これまでの応酬でヴァレイアにはある程度レーヴの『癖』とでもいうべき身体の動かし方が解ってきていた。


 ━━━━速さの割に素人くさい動きだ。


 そう。レーヴの動作には余りにも無駄が多かった。それでも擦りもしないのは、ただ単純にヴァレイアの攻撃がレーヴにとって遅いからだ。

 赤い槍が(ひらめ)き、空中に複雑な赤い軌跡が描かれる。

 十。

 二十。

 三十。

 凄まじい速さで槍が動き回り、レーヴを貫かんと宙に何十本もの赤い軌跡を残した。

 その全てを純白の少女は回避するが、ほんの少し、ほんの少しずつ、だが着実に赤い光と純白の距離は狭まっていく。

 いくら素早かろうと、人間ならば関節の曲がる角度、筋肉の働きにはそれ相応の限界という物がある。ヴァレイアはこの短時間でレーヴのそれを完全に把握しつつあった。

 主に胴体上部へ攻撃を続けながら、レーヴの意識が上方に逸れた瞬間を狙ってヴァレイアは魔力で編んだ刃で白い右足を強襲した。

 突如現れた赤色の魔力剣をレーヴは咄嗟に避け、代わりに赤い穂先がレーヴの腹に綺麗に入った。


「うごっ」


 間の抜けた声を挙げて吹き飛ぶレーヴ。後ろに立っていた貴族の塊に衝突し、巻き込んで派手に転倒した。


「…………」


 ヴァレイアは転がるレーヴに目もくれず、赤い光を灯す穂先をまじまじと凝視した。

 十歩分ほど背後の『紅騎士』━━━━ヴァレイアが槍を借りた騎士だ━━━━に話しかける。


「これ……刃引した練習槍か?」

「い、いえ! 『紅騎士』に支給される切れ味最高の鉄槍です!」

「だよな……」


 避けようのない角度、位置を狙い、命中させたのにまるで手応えがなかった。むしろ魔力を通していなければ槍が砕けていたような気さえする。


「…………」

「もう怒った!」


 レーヴが言った。ずかずかとヴァレイアの方に戻ってくる。

 途中で数人の貴族がちんまい足で踏まれ、恍惚とした表情をしていたのを発見したがヴァレイアは見て見ぬふりをした。


「何がだ」

「さっきの一撃は凄かったけど、どうやったのアレ? ってそんな事はいい……ちくちくチクチク鬱陶しい。せめてバーミットみたく派手な攻撃しろ」

「秘密だ。そして嫌だ」

「なら…………」


 レーヴは盛大にかぶりを振ると、ヴァレイアに指を突き付けた。その顔には苛立ちと、僅かな興奮が見え隠れしていた。


「『お兄さん』……お、か、え、し、だ!」


 その右手に白色の焔が宿ったのを見て、ヴァレイアは反射的に全力で魔力を槍に注ぎ込み、できうる限りの強力な"強化(エンハンス)"を施した。槍の両端近くを握り、目の前に掲げる。

 殆ど同時にレーヴの姿が掻き消え、ヴァレイアの眼前に突如出現した。人間としては最高級といって性能を持つヴァレイアの目を以ってしても瞬間移動にしか見えなかった。


「チョップ!」


 そんなヴァレイアの驚愕を他所に、手刀の形に揃えられた可愛いらしい手がレーヴの頭上から股間下まで一瞬で移動した。

 空気が裂かれるどころか音が割かれるような速さ。

 途中にあった、"強化(エンハンス)"されていたはずの槍は当然の如く断たれ、ヴァレイアの胸元の服にも鋭い線が入る。


「っく……」


 最早ヴァレイアの両手に残ったのは不格好な短槍と棒だけであった。

 愛槍を破壊された『紅騎士』の情けない声を背中に、ヴァレイアは手中の棒を投げつけた。

 レーヴは横にひょいと避ける。その後ろにリーヴィリアが見えた。奇しくも決闘当初の配置に戻っていたらしい。

 当たらなかったが余裕はできた。ヴァレイアは数歩下がり、レーヴとの距離を広げる。

 そして見た。

 レーヴの不満気な顔の向こうのリーヴィリア。その胸に光る異質な煌き。

 

「あれは……!」


 ヴァレイアは目を見開き、そして細めた。



4

「むぅ」

「レーヴ様……できればもう決着をつけて欲しいのですが……」


 背後のリーヴィリアが小声でレーヴに言った。レーヴは小さく肯いて、ヴァレイアを見た。

 中性的な美貌の優男。気怠げな声も幾分高めで、これで胸まであったらレーヴは間違いなくヴァレイアを女だと思っていただろう。

 今は折れた槍の先を持って、鋭くレーヴを睨んでいる。

 仕返しチョップを回避されたのは面白くなかったが、そろそろ終幕の時分だ。

 ヴァレイアを挽き肉にならない程度に打擲せんとレーヴは小さい拳を握った。

 踏み込もうとした瞬間、ヴァレイアは目ざとくそれに気づき、残る穂先の付いた短槍を投げ放った。


「む」


 赤い軌跡を空中に刻みながら飛んで来た槍の残骸を、レーヴは握った拳で殴り落とす。

 何片にも砕かれた元槍が石の床に深く突き刺さった。決闘開始時には立派だった槍が、哀れ今は鉄くずである。

 ヴァレイアは一本目とは違って大きく振りかぶって短槍を放ったために、レーヴに割かれた服が開いていた。

 揺れる服の切れ口。

 そこにレーヴは信じ難いものを見た、気がした。


「…………うぇ? 『お兄さん』?」

「『お兄さん』って呼ぶな」


 女性のような高めの声……否、男性のような低めの声。

 断たれた胸元の布がとうとう左右に広がりきり、その下に巻かれた包帯の如き布もその拘束力、束縛力をへたりと失った。

 つまり、奇跡的に保たれていた均衡が崩壊したのだ。

 そして抑えは消失し、膨らみが元の柔らかさを取り戻した。

 有り体にいえば、其処にはそこそこ大きな胸が在った。


「━━━━それを言うなら、俺は『お姉さん』だ!」

「ん、なぁっ!?」


 さしものレーヴも愕然とし、できた大きな隙にヴァレイアが赤い魔力剣を投げた。

 今までなら余裕で回避していただろう速さだったが、しかしその時レーヴの思考は完全に停止していた。

 よって切れ味よりも衝撃力を優先したと思われるヴァレイアの魔力剣は見事レーヴの左足に炸裂した。

 左足を後方に叩かれたレーヴは勢いよく半回転、盛大に頭から床に突っ込む。


「むぐんっ」


 突っ伏しながら続く攻撃を警戒したレーヴだったが、予想に反してヴァレイアはレーヴの脇をすり抜けた。リーヴィリアのいる方向である。

 レーヴが何とか顔を曲げて見ると、肝心のリーヴィリアは呆然とした表情で固まっていた。ヴァレイアが女だった事に驚愕を隠せないらしい。

 すぐそこにヴァレイアが迫っているというのに、ぽけーと口を半開きにしている。


━━━━何でお前まで驚いてるんだ!


 そんな間に接近したヴァレイアがリーヴィリアの胸元に手を伸ばす。首から下がったペンダントの鎖を赤く光った手で引き千切った。

 ヴァレイアはそのままの勢いで直進。段上の王座で立ち止まった。


「ふふふ。まさかリーヴィリアが『起動鍵』を持っているとは……」


 見つからないわけだ。ヴァレイアはそう言って、王座の後ろに飾られている古びた槍を手にとった。

 とても実戦には使えそうにない錆の浮いた長鎗。

 穂先には先へ窄まる一般的な両刃ではなく、極薄の矩形の刃が誂えられている。その薄さといったら、刃の腹にほんの僅かな負荷がかかっただけでもすぐにパキリと割れてしまいそうだ。

 金属というよりも石のような謎の材質だったが、不思議な事に金属光沢を持っていた。

  そう、まるでヴァレイアが奪ったペンダントのような。

 ヴァレイアはペンダントを鎗の刃と柄の接続部にある窪みに()めた。

 鎗が淡い光を帯び始めた。どこまでも透明な、魔力に似て非なる輝き。

 見るからに尋常の武器ではない。

 立ち上がったレーヴはヴァレイアへの性別云々の糾弾を飲み込んで、最新の疑問を言語化した。


「……なにそれ」

「ふん。これはセプレスに伝わる神槍『徹魔鎗』だ。十数年前に『起動鍵』が紛失してからは埃を被っていたがな」

「……神槍?」

「そうだ。まぁ、威力は……身を以って知るといい!」


 ヴァレイアはレーヴへと疾走する。


「お断りだ!」


 レーヴはリーヴィリアを下がらせ、右手をヴァレイアへと掲げて親指に中指を引っ掛けた。

 二指の接点に強烈な魔力が灯る。


「食らえ━━━━名付けて、"魔・衝撃波(で こ ぴ ん)"!」


 レーヴが指を弾くと同時に円錐状に魔力の波が打ち出された。超大量、純魔力製なので当たれば気絶は確実である。


「そのまんま、だな!」


 ヴァレイアは鎗で白い波動を真一文字に斬り裂いた。

 鎗に接触した場所から食い破られるかのように"魔・衝撃波"が霧散する。

 空中に溶け消えた魔力の霞の向こうから、ヴァレイアが赤茶の尻尾をなびかせながら現れた。


「え」

「そこだッ!」


 一閃。

 赤色の魔力は宿っていなかったので穂先の速度は遅かったが、吃驚していたレーヴは反応するのが遅れた。

 左腹部に鎗先が(かす)り、純白の貫頭衣がスパリと切れる。レーヴの左脚太ももから恥骨辺りまで大胆なスリットが刻まれた。

 だがレーヴの服は自作の魔力製。本来これほど簡単に傷つけられる代物ではない。

 先ほど"魔・衝撃波"を消した事といい、これは━━━━


「魔力に、鎗を、(とお)す……?」

「正解だ!」


 続けざまに放たれた一撃を、レーヴは片手で摘み上げた。

 『真っ当な決闘』をしようとしていたために、バーミット戦で使用した『真剣白刃どり』はレーヴが自ら反則技だと心中で定めていた行為だっだが、今は気にしていられない。


「なっ……」

「……何だこれ」


 神鎗とやらに触れさせている指に白い魔力を小さく灯す。

 すると驚くべき事に、鎗の刃に触れる端から消しゴムで擦るように魔力が消失していく。

 レーヴはこんな現象を見るのは始めてだった。

 試しに指に思いっきり力を込めてみるが、板というより紙のような薄さといった方が正しい極薄の刃は、しかし僅かな軋みもあげない。


「むむむむ……」

「おい離せ」

()だ」


 レーヴはこの不思議鎗が何らかのキーアイテムに思えてならなかった。

 欲しい。というか念入りに調べ回したい。でも奪うのはちょっと……。という場にそぐわぬ平和的な思考がレーヴの脳内で巡り、結論がでた。

 要はヴァレイアを買収すれば良いのである。

 レーヴは幼い顔をきりりと引き締め(ていると本人は思っている)、ヴァレイアに真剣な表情を向けた。


「……もういいだろうお兄さ……『お姉さん』」

「…………」

「お姉さんじゃ僕には勝てない。解っただろう? だったら降参してくれ」

「…………」

「後で再戦してあげるからさ」

「…………」


 ヴァレイアの秀麗な眉がピクリと動いた。

 レーヴはここが攻め所だと直感し、果敢に責める。


「幾らでも」

「…………」

「いつでも」

「…………」

「今ならお得、僕の満面笑顔付き!」

「……いいだろう」


 いいのかよ! という突っ込みをすんでの所で飲み下したレーヴは、顎をしゃくってヴァレイアに降伏を促した。

 ヴァレイアは鷹揚に頷き、口を開く。


「俺の負けだ。王の座はリーヴィリアに譲る」


 レーヴは穂先から手を離し、ヴァレイアも鎗を下げた。

 二人は振り返りリーヴィリアに視線を送る。リーヴィリアはビクッとしつつも、おかしな横槍が入る前にと急ぎ口上を述べた。


「お、王座を賭けた決闘の勝利により、リーヴィリア=セプレスの即位をここに宣言します!」


 この言葉に、やっと事態を把握した諸貴族たちは降って湧いた希望に皆顔を輝かせた。何しろこのままではセプレスは終わりだと思っていたのである。反対しようがない。

 だが勿論、これで納得しない者もいる。リプル大臣率いる旧ヴァレイア派閥だ。

 早速痩せた男が貴族たちの輪の内側に進み入る。淀んだ気を周囲に放射して、男は陰気な外見に相応しい(しゃが)れ声を挙げた。


「いえ、いえ。リーヴィリア殿下……いくら決闘に勝利なされたからといって、誰でも彼でも王位に就いて良いというわけではありませぬ」


 諭すような、馬鹿にするような。そんな口調である。

 痩せた男……リプル大臣は大袈裟に頭を振った。


「まして罪を犯し、贖罪のために『竜の試練』に向かった者ともなれば……」

「いや、私は結構だと思いますぞ、リプル殿」

「ええ。不肖(わたくし)めも」


 白髪の偉丈夫と、同じく高齢の貴婦人が不吉な声を遮った。


「……何?」

「『竜の試練』から生還なされたという事は、これぞ正しく『強さ』の証明」

「『竜熱の竃』攻略はなされていないご様子ですが、しかしそれでも殿下が『血染めの森』から脱出せしめた事は確実です。『贖罪』と言うのなら十二分でしょう」

「私もセピデジア婦人に同意見です」

「私も」

「私も」

「私も」


 続々と賛同するのは、特に上級と見られる貴族たちである。まるで示し合わせたかのような台詞の群れ。

 レーヴは大方クルセウスが手を回したのだろう、と胸の中で頷いた。口調から元々リプル大臣に敵対していた人間たちである事はわかったが、それでも国の主要人物を残らず味方につけるとは見事な手腕である。


「まだ何かおありですかな、リプル殿」

「…………」


 クルセウスが睨みを効かせる。竦みあがらずにはいられない重みを帯びた視線に、ついにリプル大臣も目を逸らした。

 クルセウスは円内に進み出て、周囲を見回した。


「では、ここにリーヴィリア殿下のセプレス王即位を認めるとしよう。異を唱える者はいるか? ……良し、いないようだな」


 クルセウスはリーヴィリアへと目配せする。

 目線を受けたリーヴィリアは、一瞬レーヴに視線を向けた。

 どこか不安気なリーヴィリアに、レーヴは少しふざけてウインクを送る。

 そんなレーヴに微笑んで、リーヴィリアは胸に手を当て、大きく息を吸い込んだ。


「……では、改めて」


 唇を開ける。

 背筋を伸ばし、幼くも凛々しく。


「私がセプレス国王、です!」

 




※青年

青年とは男女ともを指す。


※実力主義のセプレスでは男女の公的な立場の差が小さく、男女の両方を王や王子と呼ぶ。



4/25

修正。御指摘感謝

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