【当たり】
気づけば学内の自販機が「当たりつき」の機種に入れ替わっていた。
ボタンの横には小さく“777が出たらもう一本”の文字。名雪さんの目が光る。
「来た、リアルガチャ」
「確率は低いと思いますけど……」
「低いほど燃えるのが人のサガ。では、推し缶——桃ソーダ!」
ピッ。ゴトン。
取り出し口のプラ板を押し上げると、缶はコロンと転がってきた。
——その直後、LEDがチカチカと瞬いて「7」「7」「7」。
「きたぁぁぁ!」
「本当に当たりましたね!」
「世界、私に甘い!もっと甘やかしていいんだよ!」
さすが、"「自分に甘く人に親切」 思いやり 最重要よ!"を至高の歌詞と崇める人が言うことが違う。
まぁ、自分のこの歌すごい好きだけども。
追加の一本は何にしようかと、先輩はボタンの海で溺れるフリをする。
「こういう時の正解は何?」
「カフェオレなど無難な……」
「いや、ここはコーンポタージュ」
「正気ですか...いま真夏なんですけど。胃が異文化交流しますよ」
ていうか、なんで真夏にコンポタ売ってんだこの自販機。ロックすぎるだろ。
もう一度、ゴトン。
だが缶は取り出し口の途中で、斜めに引っかかった。
「うわ、トラップ」
「叩くのはだめです。注意書きに『揺らさない』とあります」
「しょうがない、優しく説得するか」
「機械に口説き文句は通じません」
二人で慎重にプラ板を押し下げ、缶を指先でそっと回す。
小さな角度で抵抗が解け、すべての力が抜けて落ちる。
ゴロン。救出成功。
「ふぅ……今の一瞬、人生を取り戻した気分」
「それは言い過ぎです。けれど、引っかかっていたものが外れる感覚は、少し気持ちいいですね」
「ね。自販機の口から未来が滑り出してくる、みたいな」
「コンポタがなんの未来を暗示しているんですか......」
「大富豪かな」
「???」
ベンチに腰をおろして、すこし休憩する。
先輩はコーンを一粒、缶の口から覗かせて
「見て、金運の粒。これだけ取り込めば大富豪間違いなし!」
「コーンって金運なんです?」
「風水においては、そうらしいよ。茨木くんもいっぱい食べるといいよ」
ちなみに、色や形的に理想的らしい。
「ところでさ、自販機の当たりって“もう一本”でよかったのかな」
「他に何があるんですか」
「“もう五分”とか。昼休みが一本増える自販機」
「それは学生が殺到して壊れます」
「だよね。でも、昼休みが一本増えるなら、私は——」
「寝ますね、先輩は確実に」
「正解!」
笑い声の向こうで、当たりランプはもう消えている。
機械は無表情のまま、また次の誰かに等しく時間と缶を配る。
俺は缶のプルタブを指で弾いて、細い音をひとつ鳴らした。
■"「自分に甘く人に親切」 思いやり 最重要よ!"
アイドルマスターの「i」の歌詞。自分に厳しいよりも自分に甘い生き方が好き。




