【スマホ】
「見て見て、じゃーん。あいぽん」
名雪さんの手にはiphone握られている。
黒い本体がピンク色の可愛いカバーに包まれている。
こういうところは女子だよな。
……それでも、壁紙はラブプラスなんだ。名雪さんは凛子派か。
「そんな、野中藍みたいに言わなくても」
「いやー、あいぽん可愛いよねぇ」
「それはどっちの事を言ってるんですかねぇ」
「両方かな」
確かに、自称癒し系ボイスセラピストだけあってあいぽんは可愛いと思う。
iphoneが可愛いかどうかは微妙だけど。
「ともかく、スマホにしたんだよ!スマホに!」
「や、スマホにしたって言っても名雪さん今までもレグザフォンだったじゃないですか」
今までもスマホだったのに、初めてスマホにしたみたいに言われても困る。
「レグザはスマホっていうかドジホだったから……」
「東芝に謝って下さい!」
「いくら私でも、あのドジっぷりには萌えられなかったっていうか……」
「確かにアラーム鳴らないとか、メール受信しないとかって聞きますけど、そんなにひどかったんですか?」
「私はこっそり、ヘタレグザって呼んでた」
「ほんとに謝って下さい!」
ヘタレっていう属性には確かに萌え要素はあまりないが。
「テレビのレグザはすごい好きなんだけどねー。やっぱり優秀な兄貴がいると弟はグレちゃうのかねぇ」
確かにテレビレグザの外付けHDD録画とか、番組表とか起動の速さとかはマジで素晴らしい。
俺は理系だからよく電化製品とかのオススメを訊かれるのだが、テレビの場合はレグザを勧めるほどだ。
「でも、最近はアップデートして普通になったって聞きますけど」
「それはそれで、萌え要素が無くなったっていうか。やっぱり、イラスト擬人化されなかったのが痛かったよね! Meたんとか秀逸すぎるもんね! わたしあのイラストのおかげでWindows Meを4年くらい使ってたもん!」
「Meたんのデザインはほんとにいいですよねー。俺は2000の方が好きでしたけど」
「お、おっ? 茨木くんはできる女がタイプなのかなー?」
うわ、すごいニヤニヤ顔でみられている。ぐ、話を逸らそう。
「俺のタイプとかどうでもいいじゃないですか。と、ともかく、最近はマイクロソフト自体で擬人化してますよね。クラウディアさんとかななみとか」
正確に言うと、擬人化というか公式キャラクターだが。
「まさに公式が病気とはよく言ったものだよね」
「最近は公式がやりすぎってパターンもよくありますもんね。とらぶるとかよくSQに掲載できるなって思いますもん」
「えっちなのはいけないと思います!」
「あれはえっちていうかエロです」
ひらがなで可愛く言えるようなレベルじゃない。
「エログロだよね」
「グロの要素は無いですけどね」
「グッ、ローリアス~♪グッ、ローリアス~♪」
名雪さんが突然歌い出した。GLAYの名曲とは懐かしい。
「れぼりゅーしょん、おーいえー」
「そこからバンプ!?」
「そういえば、茨木くんスマホにはしないの?」
「まぁ、タッチとモバイルルーター持ってますからね。ぶっちゃけ必要無いです」
家のネットもモバイルルーター使っているので、回線を統一できる分安くすむのである。
「えー、スマホにしてスマートになろうよー」
「や、別にスマホにしても、自分がスマートになるわけじゃないでしょ」
「ほら、お店とかさっと調べてからの決め台詞! 『スマートだろ?』って言えばスマートっぽいじゃん!」
「単なるバカにしか見えませんが」
「いーじゃん、茨木くんの携帯古いし、そろそろ機種変しようよー」
今日はやけに絡むな。なにか俺にスマホにして欲しい理由でもあるのだろうか。
とはいえ、特に機種変したいとも思ってないしな。どうしたものか。
「……もういいよ。あーあ」
名雪さんは手の中のiphoneをなにやら操作し始めた。
「何やってるんですか?」
「ゲーム。……一緒にやりたかったなぁ」
最後のつぶやきはよく聞こえなかったが、なんのゲームをやっているのか興味があったので、名雪さんの後ろに周りこみ画面を見てみる。
そこには、俺も最近見慣れた画面があった。ネットワークを使って協力プレイができるゲームで、最近ハマっている。
「ああ、このゲームなら俺も最近やってますよ。っていうか、協力プレイしましょうよ」
「ほんとっ!?」
ぐるんっとすごい勢いこっちを振り向いて確認された。
「え? でもなんで? 茨木くん、あいぽんじゃないでしょ?」
「や、だからタッチ持ってますし」
「……タッチでもできるの?」
「電話以外ならわりとなんでも」
「もー早く言ってよーーー!!!」
え、なんで怒られてるの、俺。理不尽すぎる。
「じゃあ、さっさとログインしようよ!」
まぁ、いいか。
名雪さんの嬉しそうな顔も見られたし。