表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茨木くんと名雪さん  作者: 橘悠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/42

【ベンチの上のちいさな共和国】

昼休み、俺たちはゼミ棟の裏のベンチに陣取って、今日は「雑談だけする会」を開いた。議題はなし、結論もなし。ルールは三つ――研究の話はしない、未来の計画は立てない、反省会は禁止。


「最初の話題、“たい焼きはどこから食べるか問題”」

「俺は頭から派です。背徳感が少ないので」

「わかる。私は尻尾から。最後にあんこが来るとフィナーレ感が出る」


足元で鳩が二羽、ゆっくり行進している。名雪さんが真顔で言った。

「このベンチ、今日だけ共和国にしない?」

「賛成です。議長は鳩でよろしいでしょうか」

「異議なし。議題二、“コンビニのおにぎりは等級制度がある説”」

「ツナマヨは最強種です。梅は守護神、昆布は外交官ですね」


雲がちぎれて、空にアイスの形が浮いていた。

「見て、“ソーダバー型”」

「本当ですね。あちらは“最初から棒が抜けている型”です」

「悲劇……」


次の話題は“ポケットの中の小物選手権”。俺は消しゴムのカスを集めるミニケース、名雪さんは折りたたみのハサミ。

「このサイズで紙が全部従う感じ、権力を感じる」

「権力は切れ味に比例しますからね」


地面の白線に沿って、指でミニ四駆の真似をして走らせる。

「コースアウトしました。大破です」

「ならピットイン。ガムの包み紙でスポイラー作ろ」

スプラのギア、コログの落とし物、ワドルディのやわらかさ。全部、重くない角度で流れていく。


「ねぇ茨木くん、雑談ってね、地図の白地を散歩する靴音なんだよ」

「白地が減るたびに、世界が少し親しくなりますね」


ベンチ共和国の議会は続く。


「回転寿司で一皿しか食べないなら?」

「玉子です。コスパではなく、平和の味なので」

「私はえんがわ。噛んでる時間が長いから、世界が遅くなる」


アラームが鳴って、そろそろ教室へ戻る時間になった。


「本日の審議、結論ゼロで採択」

「議事録は心の中に保存されました」

「共和国の国歌は、ラムネのビー玉が鳩に当たらない音」

「平和そのものですね」


立ち上がる前に、名雪さんが空を指差した。雲のソーダバーはもう溶けて、ただの白い線になっていた。


「じゃ、解散。また白地を歩こう」

「はい。次回の議題は“サンダルの正式名称について”でいきましょう」


俺たちはベンチの背もたれを二回軽く叩いて、無意味の肯定みたいな合図を残した。肩の力が抜けたまま、午後のドアへ歩いていく。今日は意味がないから、ちゃんと楽しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ