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茨木くんと名雪さん  作者: 橘悠


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【夜更けの二択がほどけるまで】

大学の野音がオレンジ色に染まるハロウィンの夕方、ゼミの有志で「トリックオアトリート」回遊をやることになった。

俺は紙袋に個包装のキャンディを詰め、名雪さんは小さな魔女帽を斜めにかぶって、黒いマントを風に遊ばせている。仮装は控えめでも十分に雰囲気が出る。

合言葉をかけられた相手に、俺たちは二択を差し出す。トリートならお菓子、トリックなら雑談の小ネタ。地味だけど楽しい仕掛けだ。


「最初のお客さん、来るかな」

「来ますよ。掲示板に時間を書きましたし、ルートも地図にしましたから」


角のベンチで待っていると、仮装した一年生たちが近づいてきて、「トリックオアトリート!」と声を揃えた。俺は笑って頷く。


「どちらにされますか。お菓子でも、ちょっとしたネタでも」

「じゃ、トリックで!」

「承知しました。今日のラインナップは『ホワイトトリック』と『ブラックジョーカー』です。お好みでどうぞ」


白いミニホワイトボードを取り出す。

『ホワイトトリック』は、一筆書きで描けるかどうかをあててもらうシンプルな図形パズルだ。条件を満たすコツだけ教えて、答えは自分で導いてもらう。

一年生がペンを走らせて成功すると、名雪さんがぱちぱち手を叩く。


「コツは交差点の数ですね。頂点から出ている線が奇数のものが二つのとき、一筆書きが可能です。——クリア記念に、こちらもどうぞ」


結局キャンディも渡す。ハロウィンは優しい。


次のグループには『ブラックジョーカー』を出した。ポケットから小さなカード束を取り出す。ジョーカーは一枚だけ、黒い絵柄のやつだ。


「引いたカードを見せてください。黒ジョーカーならトリート二倍、他は通常一個。確率のゲームです」


「当たる気がする!」と手を伸ばした学生は、スペードの5で肩を落とす。もう一人が緊張気味に引いて——見事に黒いジョーカーを掲げた。歓声が上がり、名雪さんは二個目のチョコをそっと手渡す。


「お見事です。運のいい方は体温が少し上がりますね」

「それ科学的なの?」

「統計の授業で扱える程度には。心理の話です」


通り過ぎたあと、俺たちは小休止。ベンチに腰掛けると、名雪さんがマントの端を揃えながら笑った。


「『ホワイトトリック』は賢さの喜び、『ブラックジョーカー』は運の跳ね。いい二択だね」

「命名はスクライドからですけどね。無常矜侍です」


あれは是非、全男子に見てほしい。


人通りが途切れ、風が木の飾りを鳴らす。名雪さんはふいに、帽子の影から俺を見上げて言った。


「仮装ってね、借り物の自分で歩くんじゃなくて、ほんとの自分が一瞬だけ見通しよくなるための灯りなんだよ」


妙に胸に残る言い方だった。俺はうなずく。


「良い言葉だと思います。非日常にこそ、本音が見えることもあります。——もう少し回りましょうか。次は図書館の脇を通るルートです」

「了解。あ、そうだ、小ネタをもう一個増やそう。『ホワイトトリック』の派生で、紙ナプキン一枚でできる折りのやつ。知ってる?」

「知っています。裂け目を“傷”に見立てる手品ですね。ただ、驚かせすぎないように調整します」

「そこは茨木くんの手つきで」


再び「トリックオアトリート!」の声が響く。俺は袋の口を開きながら微笑んだ。


「ようこそ。選択はあなたの自由です。小さなトリックか、甘いトリートか——もしくは両方でも構いません」


彼らの笑顔が、夕闇のキャンパスに明かりを増やすみたいに広がっていく。ハロウィンの二択は、他人任せの運と自分で掴む知恵、その間を行き来させるための遊びだ。

俺は黒いカードの束を指で整え、白いボードのペン先を点検する。どちらを選ばれても困らないように、静かに準備を整える。甘さと驚きがちょうど半分ずつになるよう、入り始めた夜の帳の上で計算しておく。

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