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茨木くんと名雪さん  作者: 橘悠


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28/42

【昼に見る星】

期末レポートの資料回収の名目で、俺たちは市立科学館のプラネタリウムに来た。午後一の回。ドームは冷房がよく効いていて、座席の角度がやたら良い。解説員の人が「本日の星空へ」と低い声で言うと、天井がふっと夜になる。観客のざわめきがすっと引いて、暗闇が音を吸った。


「こういう暗さ、落ち着くね」


「分かります。視界が整理されます」


春の大三角、こと座、はくちょう座。指し棒の代わりに光点が流れ、星の線が結ばれてはほどけていく。合間のBGMが聞いたことのあるイントロに変わった。ギターのアルペジオ、「バンプの『プラネタリウム』」だ。


「これ中学の文化祭で合唱したなあ」

名雪さんが小さく笑う。

「俺はカラオケでサビだけ毎回キーを誤ります。あの入りの一拍、いつも迷子になります」


囁くみたいな会話が、暗闇でだけ許される秘密みたいに軽くなる。解説は夏の天の川へ移り、天頂に白い帯が架かった。粒立ちが絵なのに生々しい。最近見た『ぼざろ』のライブライトの海とか、『宇宙よりも遠い場所』の夜空の静けさとか。連想は止まらない。


「ねえ、実際はこんなに見えないよね、街じゃ」


「光害が強いですから。ですが、投影だからこそ“見える経験”を配布できる。学芸員の編集の妙ですね」


「編集、か。バンプの歌詞もそうだよね。星をそのままじゃなくて、記憶ごと持ってくる感じ」


「同意です。あの曲は、星の光に“離れた誰か”を重ねて、届かない距離や時間をそっと縁取ってくれる歌だと俺は感じます」


「茨木くん、急に文学部」


投影は季節をまたぎ、秋の四辺形から冬のオリオンへ。解説員が「明かりを少し戻します」と言うと、微かな光がドームの縁を起こし、観客の輪郭だけが浮かんだ。暗がりで息を整えながら、俺は名雪さんの横顔の影を確認する。星座線のように、線でつなぐ場所を探してしまうのは悪い癖だ。


上映後、売店で星座早見盤を手に取る。透明プラ板のカチカチした感触が懐かしい。


「今夜、河川敷で試す?」と彼女。


「はい。雲がなければ、夏の三角形はギリギリ見えます」


「じゃあ、帰りにコンビニで麦茶と羊羹」


「完全に遠足ですね」


エントランスを出ると、外は白い光が溢れていた。見えない星々を背に、現実は相変わらずにぎやかだ。俺は唇の裏で、さっきのアルペジオを小さくなぞる。口笛がちょっとだけ外れる。


「今の、たぶん半音ズレてる」


「耳が良すぎます。次は正解しますので」


「じゃあ、今夜の河川敷で採点しよ」


見えないものを見せてくれる天井と、見えるようで見えない会話。その両方を抱えたまま、俺たちは昼の街に出た。星は昼にもある、と誰かが言っていた。きっとそれは、今日の俺たちにも当てはまる。

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