【はちみつレモンの臨時ラボ】
放課後。
名雪さんはレモンを二つ、すぱっと輪切りにして、ガラス瓶に重ねていく。
「本日の議題、“歌ってみた前の喉ケア”。——はちみつ、出番!」
「良い選択です。浸透圧で水分を抱き込みますし、酸味とのバランスで飲みやすいシロップになります」
「じゃ、このアカシアは常温抽出で、レンゲは40℃湯せん。マヌカは予算委員会で否決」
「正しい予算配分ですね」
マヌカは高すぎる。
湯せんの鍋がことりと音を立てる。部屋には、レモンの皮の青い匂いとはちみつの丸い甘さが混じった。
「ところでさ、プロセカの高音曲を連続で歌うと、喉が“クールタイム”に入るんだよね」
「連続は負荷が高いですって。はちみつレモンを小さめのペットボトルに分けて、曲間の“回復アイテム”にしましょう」
「アイテム欄に常備するタイプね。……あ、そういえばポケモンのミツハニー、見た目が完全に元気出る」
「三つの顔で和み効果がありますね」
名雪さんはスプーンで黄金色をすくって、瓶の内側にゆっくり描いた。光が粘度を可視化する。
「ん、甘い。舌の上で“丸い”って形容詞が成立する」
「では、この紙コップに一口分ずつ。——どうぞ」
「いただきます。……はぁ、喉が“撫でられた”感じ。優勝。これ、歌う前のルーティンに採用」
「では、僕も。うん、いい感じですね」
「先生、質問。レモンの皮ごと漬けると、苦味は出ない?」
「ワックスを落として薄切りなら大丈夫です。皮の油が香りでトップを狙えます」
「じゃ、冷蔵庫で冷やしておくねー」
彼女は瓶を胸の前で抱え、にやりと笑った。
蜂が花から運んだ時間の断片が、透明なガラスの内側で、ゆっくりと明日へと傾いている。
■ このアカシアは常温抽出で、レンゲは40℃湯せん
アカシア蜂蜜とレンゲ蜂蜜のこと。蜂蜜の種類の違いで調理法を変えたいお年頃
■プロセカ
プロジェクトセカイ。連続は歌うのは常人のすることではない。




