闇
砂浜を歩くわたしの足は、自分ではない人間に制御されているかのように力がなく、おぼつかない。
自ら死を望むわたしの心は、今のわたしが唯一制御できるところだが、その心が制御を拒んでいてはもうなにもできない。
気づけばあたり一面が青で染まっていて、ここにきて初めて自分が海へと歩を進めていたことを知った。
空っぽの脳内に浮かぶ親友の涙
頭を横に振って必死にそれを殺す
このまま歩いていけばいずれわたしは死ぬ
驚いたことに死への恐怖がまったくもって生まれない
この世への望みなどない
いっそ生きているよりこのまま感覚のない世界へ旅立つほうが遥かに楽かもしれない
海は人類の母だとどこかで聞いた
帰ろう 母の元へ
だんだん踏み場がなくなってゆく感覚に今では気持ちよささえ覚える
誰かの叫び声が聞こえる。耳に入るのは切れ切れとした音のみで、言葉として認識するには音が足りない
いい どうせわたしにはカンケイのないこと
「――! ――――!!」
?
「涼夏!!」
うそ…
まさか……
なんで……?
疑問が生まれた今も、わたしの足は止まることを知らないかのように前へと進む。もう心さえわたしの制御下には残っていない
声の主がだんだん近づいてくる
「なかむ……
彼の名前を言い終わらぬうちに息苦しさが襲ってきた
直後、足が引きつり前に身体が傾き
身体が海の中へと投げ出される
意識が完全にシャットアウトする寸前、右手になつかしいあたたかさをおぼえた。