5話 ギルド
心臓の鼓動が速くなるのを感じる。
ドッドッドドッ
「ぷはっ」
ノリオが勢いよく目覚める。目の前には大きなテーブルがあり、どこか懐かしさを感じる。
空間がまばゆく光り、いけ好かねえ女さんがそこにはいた。
「ノリオ様、おかえりなさいませ。プレイヤーランク20おめでとうございます」
「これからカードをお配り致しますね」
「この時を待っていたんだ~~~~!成敗じゃあ~~~~!!!!!!」
ノリオは靴擦れをしていたが走る。さらに擦れても走る。
寝起きの体はガチガチでとてもじゃないが見ていられない。
ファがノリオの頬を軽く触ると、ベッッチーーーンという音と共に体ごと地面に叩きつけられた。
ムヌムヌと動いている姿がまるでイモムシのようだ。
「大人しくしてください、それでは配ります」
数多のカードが高速回転し、ノリオの元にスーとカードが2枚置かれる。両方緑色のようだ。
Ⅽ ただの杖
Ⅽ ただの杖
「杖w両方また杖のようですねw、本当に可哀そうなお方です」
こいつは僕が不幸になった時に言葉遣いが荒くなるようだ。
「それと、前回のダンジャナグラで戦利品があるようですよ、拾ってボックスに入れておきました」
なんだこいつはと思いながらもイモムシの態勢を維持したままボックスを開く。
鍛冶屋が作ったネックレス
赤い球体
「赤い球体!?!?神ドロップきた~~~~~!!!!」
球体を飲めば魔力が生み出される不思議なアイテムと本に記してあった。これでようやく本当の冒険を始められる。
「僕は君のことを誤解していたかもしれない、拾ってくれてありがとう」
先ほどまでの般若のような顔が嘘のようにノリオはにこやかである。
ふぁを地獄に叩き落すなんて滅相もございません。なんたってレアアイテムを拾ってくださったお方なのですから。
僕が優しく包み込んでみせますよ、珍獣からも守って見せますよ、えぇ。
「私は何もしていませんよ、なにもね」
「ほんとにありがとう!それでは、球体飲んでみたいと思いまーす!!!」
「こいつは多重人格なのでは?」というファの視線をよそに、興奮冷めやらぬノリオは球体を口に運ぶ。
ゴクンッ
飲み込んだ瞬間、赤い蒸気がノリオの体中を覆いつくす。
「なんかすごいぞ、強そうぞ!!!!」
一段と興奮するノリオと共に蒸気は、より一層あたりへ広がっていく。
数分かけて蒸気が収まり、ノリオは茹で上がったタコのように真っ赤であった。
その様子がファのつぼに入ったようで「ぶほっ、ぶはははははは、茹タコじゃーん」と豚のように大笑いしている。
「いいのですよ、あなたの笑顔は美しいのですから、存分に笑ってください」
「茹タコいっきまーす!」
ノリオは杖を構え、喉ぼとけを揺らす。
「エンブレム・フレアーーーーー!!!!!!」
…………
無様な恰好をしただけのノリオがそこにはいた。
「盛大に炎が出る流れでしょうが~~~~!!!!!!」
「ステータスオープン!!!!」
プレイヤーレベル21
HP70
攻撃力27
防御力23
剣力6→25
魔力0
「ん?んはい??ま、魔力0???」
「ぶははは~さっき飲み込んだのは魔力じゃなくて剣力を上げる球体なのよ~残念~w」
「赤色の球体だったでしょ、あなたが求めてたのはこれ、紫色」
ファの右手には紫色の球体が掲げられている。
「ちなみに~ふぁさん、その球体貰えることとかってできたり~しますかね???」
「むりむり~、渡しちゃったら意味がないじゃない」
「あなたがゲットできてた紫色の球体と私が持ってた赤色の球体、入れ替えたんだもの」てへぺろ
脳が理解を拒むが、体はノリオをファのもとへ導いていた。
「なにしてんだ~~~~!!!!こんの、豚ペテン師くそ野郎が~~~~~~~!!!!!!!」
いつも癇癪を起していたが今回はいつもと違っているようだ。血の涙を流し、よだれを垂らし、前進する。
先ほどの床に叩きつけられた衝撃で、骨が数か所折れていた。
「苦しい」
「痛い」
「帰りたい」
「死にたくない」
「けど、許せない」
呼吸を止め、全力で杖を振りぬく。
「ブンッブンッブンッーーーー」
かすりもしない、攻撃がすり抜けるのだ。
「あーあ、笑ったら疲れちゃった~、それじゃまたねノリオ様っw」
「まて、まってくれ…」
闇に吸い込まれていくふぁをノリオは目線で追う事しかできなかった。
全身の力が抜けて、自分の細胞が崩れさっていくようだ。
「もういいや」
空間が割れ、ノリオも闇に吸い込まれていった。
……………
「おいおい、こいついつまで寝てんだよ、死んでんじゃないんだろうな」
「さすがにこんだけうなされてたら生きてるでしょ~」
「ほーら起きたみたいだよ~」
大量の汗
全身に稲妻のような痛みが走り、ノリオは生を実感する。
「こ、ここは?」
「ここはね~、ギルド「シュタルク」」
「私が副ギルドマスターのハイレンで横にいるのは、見習いのグラディウスだよ~」
可愛らしい猫族の女の子が話かけてくれる。
本当に、本当に、いい匂いがするんだ。
「だーれが見習いじゃ!俺も副ギルドマスターをしている、名前は紹介の通りだ」
肉、肉、筋肉!そんな見た目でなおかつ、男前なのが非常に腹立たしい。
「君の名前は?ギルドの前で倒れてたからびっくりしたよ~」
「ノリオ、ただのノリオだよ」
「なにがあったのかあんまり思い出せなくてね、ははは」
大嘘である、彼の脳内はふぁの憎たらしい顔で満たされているようだ。
「ふーん、まあいいやっ!ダンジョン行こうよ!丁度メンバー募集しててさ、いこいこっ」
「け、けど僕は魔力が」
「はいはい、ごちゃごちゃ言わない!はいっ、いっくよ~」
話を完全に聞かないタイプである。
むぎゅ
手だ、手を握られたんだ。もう痛みとかないんです、本当に。
行くしかないんです、ダンジョンに。
ノリオに今だ春は訪れていない。
けど確かに感じたんだ。
春の温もりをね。




