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異世界からの召喚勇者が聞かされた魔王のぼやき

作者: 吉岡黒
掲載日:2026/02/17

 よくいらっしゃいましたね。

 さあどうぞ、座ってください、お茶を出しましょう。

 え?ええそうです、私があなた方が魔王と呼ぶ存在ですよ。


 ……お茶がこぼれてしまいましたね。

 まあ落ち着いてください。

 戦う?わかりました。ではその前に少しだけ愚痴に付き合っていただけませんか。


 ええ、愚痴です。もうね、私も限界なんですよ。


 おや、ありがとうございます。新しいお茶と……お菓子も用意しましょう。こちらにどうぞ。


 ふう、お茶を飲むと落ち着きますね。

 まずは自己紹介といきましょうか。私はこの世界の管理者です。


 いえ、神ではありませんよ。あくまで管理者です。世界を整えるための舞台装置のようなものですね。

 魔王役も仕事の一つなんですよ。人間の数と結束の調整にはとても便利なので。


 様々な種族の繁栄も衰退も見てきました。

 それぞれの工夫が見られてなかなか感動しますよ。


 人間は……大体百年か二百年おきですかね。魔王として調節していると強い人間が会いに来てくれる楽しいイベントだったんです。

 それが、もう随分と昔になりますか、とある人間の国が異世界からの勇者召喚に手を出しましてね。

 ご丁寧に特殊能力が自動付与される仕組みまでつけて。

 驚きましたよ。成長の速さが人間の強みですが、さすがに反則だと思います。


 ……大変でした。ええとても。

 召喚されたのはまだ子どもでしたから、一応倒された体にして、無事に元の場所にお返しして異世界との穴を塞ぎ……、チート能力でズタズタにされた生態系を時間をかけて戻し……。


 もちろんその国は消しましたが。でも聞いてください。

 何度潰しても別の国で勇者召喚されるんです。


 私、人間のことを愛しいと思って見守ってきたんです。

 けれど、異世界の住人は人間であっても私の可愛い子ではないんですよ。


 人間にとっての黒虫のようなものです。

 黒虫、知りません?台所によく出る虫です。

 繁殖力が強くて不衛生なので嫌いな方が多いのですよ。私にとっては可愛いですが、あの子たちは部屋を汚すので説得して近くの森に住んでもらってますね。


 しかもね、前回は三十人もいたんですよ。勇者。

 ちょうどあなた達くらいの若者でした。お揃いの服を着ていたので仲良しだったんでしょうねぇ。

 チート能力も三十個ですよ。

「空間を切り裂く」「次元を切り裂く」なんて能力もありましたから、すぐお帰りいただきました。


 はぁ……。

 切り裂き魔、本当に困るんですよ。

 楽しそうに生態系を破壊されてこちらはとても悲しいですし、たくさん次元に穴を開けられて。

 切り裂いた穴から世界がぺろんと裏返ったらどうしてくれるんでしょうね。

 開けたら閉める。常識ではないでしょうか。


 ……おや、顔色が悪いですね。ああ、あなたも切り裂く能力の持ち主でしたか。

 ああ、いいえ大丈夫、私の方で後始末しますから。


 人間の探究心とは凄いもので、何度国を更地にしても長い時間をかけて技術を復元するのですよね。

 伝説となった歴史を追い求める浪漫、でしたか。

 考古学者が古代の遺物を探し、過去の技術に新しい技術も加えて再構築……。

 時代を超えた天才のリレーとでも言いましょうか。

 それはそれでとても良いものですが、何度も召喚が繰り返されるとさすがにこちらも参ってしまいまして。


 というわけで、思い切って今後の管理の仕方を変えることにしたんです。


 え?……なんですかその顔。

 なにやら残酷な想像をしていませんか?


 違いますよ。魔王をやめて今度は神のふりでもしてみようかと思うのです。

 魔王がいなくなれば勇者を召喚する必要もありませんしね。

 姿を見せることで愚かな考えを起こす者もいるかもしれませんが、子ども達に教育すれば平和的に解決できそうですし。

 それでうまくいくかは知りませんが、ダメそうなら別の方法を試しますよ。

 時間はたっぷりありますから。




 いやあ、会話ってやはり楽しいものですね。

 もう少し……と言いたいところですが、仕事が溜まっていますのでそろそろお開きの時間としましょう。

 元の世界に戻ったら何も覚えていないでしょうが、お茶にお付き合いいただいてありがとうございました。

 大丈夫、一瞬で元の世界に戻れますよ。


 では、私は掃除をしなければいけないので。

 どうかお元気で。

人類は長い長い時間をかけて魔王討伐に成功した……ということになるのかもしれない。

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