#2.1話
第2話直後のお話です。
先に第2話を読んでから読むことをおすすめします(たぶん色々わからないことだらけ)。
私と璃梨佳は生徒で賑わう昇降口で出た。下校時刻が迫り、昇降口は生徒で賑わっていた。
「<部活>には他にも誰か来るのかしら?」
「何人かはね」
それ以上は何も言わず、璃梨佳は靴箱を開けてローファーを取り出した。
---
靴を履き替えて外に出ると、遠くに摩天楼が見えた。東を象徴する巨大建造物、通称・人民宮殿。東側政府の省庁が数多く入居し、国際会議場もあるという。威圧するかのように私たち東京の西側地区の人間を見下ろすこの建物が私たちに与える影響は大きい。
なぜなら――人民宮殿には巨大な目のモニュメントがその頂上に取り付けてあるからだ。<目>は今、西日を照り返して不気味に赤く光っていた。
「お待たせ」璃梨佳が出てきた。「で、奢ってくれるの?」
「やーだね」私は頬を膨らませて見せた。「自腹で行くならいいよ」
「行く」
この学校は珍しく玄関が2階にある。おかげで駅の方へと流れていく生徒たちがよく見える。今日、私は誰にも言えない秘密を抱え込んでしまった。私はここにいる、他の平穏に過ごしている人たちとは決定的に違う道を今日選んでしまったのだ。その事実が私に迫ってくるにつれ、私は心がキュッとなった。
「何を一丁前に感傷に浸ってんのよ。行くわよ!」璃梨佳が珍しく強い口調で言った。
校門を出て、駅に向かう。
「我らが今宵目指すはアマゾンの奥地にある伝説のコーヒー...」璃梨佳が呟いた。
「いつからコーヒーチェーン店はそんなに大げさな存在になったんだ」
「知らん!」璃梨佳がニカッと笑った。
---
私たちが放課後によく行くのは、渋谷の「スターゲイザーコーヒー」である。私が千駄ヶ谷住み、璃梨佳が渋谷の近くなのでここに寄ることが多い。
璃梨佳はお望み通りキャラメルマキアート、私は普通にカプチーノをゲットし、席についた。
「私さ、東風谷先生のことあんまり知らないんだけど、どんな先生なの?」カフェでの会話の口火は私が切った。
「うーん、普通の人かな。別に取り立てて面白くもなければ、はたまた嫌な人って感じでもない」
私は今日の東風谷先生の様子を思い浮かべた。用意周到に、着実に逃げ道を狭めてくるような人間、それが私の知っている東風谷先生だ。名前と顔は覚えていたとはいえ、たかが数回授業を受けただけの人間のイメージなど簡単に上書きされる。表裏の顔を使い分けるような仕事の人間だとなおさらだ。
「あの人何歳?」
「50代じゃなかったかな。でも結婚はしてないっぽい」
「本当に中身が知れない人って感じがするわね。あの人を見て得られる情報が何も無い」
「いや大体の人に対してそういうものじゃないの?」璃梨佳は驚いた顔をしていた。
「そんなことはないと思うけど。だって見るだけで分かる情報って色々あるじゃない。例えば爪とか靴とか、言葉遣いのクセとか、息遣いとか、声のトーンとか」
「いや誰もそこまでは見ていないんじゃない?」
「そうかな。わざわざ考えなくても自然と見えてくるものじゃないの?」
「それは結衣の観察眼が鋭いだけでしょ。普段からよく他の人のことを見てるんだなぁ。私にはできない芸当だよ」
「いやいや、それほどでもあるわね。そりゃまあ、璃梨佳のことは何でもお見通しでございますから」
「へぇー。楽しみにしてる」
話は家族のことに移った。
「ところでさ、今日結衣のお父さん来てたじゃん?どんな人なの?真面目そうだなーって思ったけど」
「ごく普通のサラリーマンだよ。総合商社で働いてる。別に真面目じゃないよ。足臭いし、ソファで寝落ちしてるし、テレビ点けっぱなしだし。」
「でもイケメンじゃん」
「まあ、見てくれはね、いいよね。でもそれ以外はどこのご家庭にもいるごく普通の父親だよ」
「休みの日とか一緒に出掛けたりするの?」
私は口をへの字にした。「全然。いい年して父親と出掛けるとか無理。そもそも仕事でほとんど家にいないし。」
思えば私はあの日、少し饒舌になりすぎていたのかもしれない。
「そんなにひどいの?」
「ひどいよ、ひどい。朝ずっと寝てるのを起こさなきゃいけないんだけど、汗臭いし」
「大変なんだねー」
「大変よー」
---
その後、璃梨佳と分かれて電車に乗り、家に着いた。
家に帰って冷蔵庫を開けると、ケーキの箱とメッセージカードが、いつも私がお菓子を冷やしてある場所の一角に置いてあった。不思議に思い、メッセージカードを開けると、中には父からの短い手紙が入っていた。
「おめでとう。頑張れ お父さんより」
多分色んなことを考えて、最低限のことしか書けなかったのかもしれない。でも父のこの短いメッセージは、今日の出来事を受けてのことを指しているのだと思う。
東風谷先生との話が終わった後、父はこの後も仕事があるからと言ってそそくさと地下室から出ていった。朝わざわざ買いに行ったとは思えないから、たぶんあの後、忙しい合間を縫ってケーキを買いに行ってくれたのだろう。
夕食の後に食べたチョコレートケーキは、ちょっぴり罪の味がした。
お読みいただきありがとうございました。
本編とはまた違う雰囲気のお話です。これぐらいのお年頃の時ってついつい自分の親の悪口を言う人って結構いるんじゃないかな?思春期あるあるですね。
ちなみに、結衣は家に帰る前にいつもスーパーに寄ってから帰ります。タイムセールの時間は大体把握してる。
次回もぜひぜひ読んでください!感想・レビュー・リアクション・ブックマークがあると励みになります。
SNSのフォローもお待ちしています!
X: https://x.com/hkr_tskn
Bluesky: https://bsky.app/profile/hi-tsukino.bsky.social




