「愛」を受け入れられない少年
「あーあ、いっそ死んでしまおうか……」
先ほど校舎で聞いた心の声が、今、再び響いていた。
声の主は、憂鬱そうな少年だ。
朝、家を出る前、母親に抱きしめられ「愛してるわ、学校気をつけてね」と言われたばかりだ。にもかかわらず、彼はその愛を一切感じることができなかった。「愛されている実感」が得られず、心は空虚感に満たされていた。この親からの愛は、幼い頃から彼の心に全く入ってこなかった。おそらく、幼少期から自立しすぎていたせいだろう。心の奥底では周囲の愛を渇望しているのに、まるで一匹狼のように、何でも一人でこなせると見なされ、他の子どもたちのように両親からの関心を多く得られなかったのだ。
さらに、先日、彼がお小遣いをはたいて買った少年漫画が、母親に「健全な心身の成長を妨げる」という理由で、誰かに贈られてしまった。資源ごみにならなかったのは幸いだが、彼は失ったものの孤寂感から抜け出せずにいる。
「愛、愛って一体何なんだ……」
少年は、何もない空を見上げ、独り言をつぶやいた。彼は「愛」を受け取れない少年だった。
彼にとって「愛」とは、単なる文字であり、複雑に書き綴られた記号であって、感情ではない。その感情は彼の周りに溢れているのに、彼の心の中には入れず、前へ進むための動力にもなり得なかった。
教室に着くと、そこもまた彼にとっては孤寂の場だった。今日は新学期が始まって五日目、ちょうど金曜日だ。クラスメイトたちが楽しそうに集まって話しているのを見ると、すでにグループ(小集団)が形成され始めているようだ。しかし、彼だけはどのグループにも属していなかった。
この「浮いた」状況に不安は感じるものの、彼自身がクラス全員を排斥しているようなものだった。クラスでのあらゆる交流が彼にとっては恐怖であり、それは深刻な心身の疲労をもたらす。そのため、彼は「陽気で明るい」学校生活を放棄せざるを得なかった。
「おはよう!」 「……おう。」
たった五文字のやり取りでさえ、彼は疲労を感じた。心の中では百回断りたかったが、クラスメイトとの最低限の人間関係を維持するためには、この挨拶に返事をしなければならない。
彼は席に着き、カバンを下ろした。新学期が始まったばかりで宿題も少ないため、窓際に立ち、一人で外の景色を眺める。青い晴天下で、彼は真っ暗な頭の中を空っぽにし、騒がしい教室の喧騒に反応するのを拒んだ。
キーンコーンカーンコーン……チャイムが鳴り響く。
ようやく一時間目が始まった。国語の授業だが、教科書はすでに配り終えていたため、教師はこの時間をグループ分けに充て、各グループに教科書のレポート課題を割り当てた。
教師は生徒たちに自由にグループを探させ、5~6人一組とする。クラスの人数から見て、だいたい六組に分かれる計算だ。先にグループができた組から、レポートする課文を選び、残りは教師が講義するという。
しかし、少年はグループを見つけられなかった。彼は自ら探しに行くことをせず、席で受動的に機会が訪れるのを待っていた……というよりも、運命の采配を待っていた。
教師は教室内を見渡し、すぐにグループに入っていない生徒が数名いることに気づいた。もちろん、少年もその中に含まれている。
これこそ、少年が期待していた――運命の采配だった。
「では、君はあそこのグループに入りなさい。」
教師は適当に一つのグループを指さした。少年は俯いたまま何も言わず、ただ運命を静かに受け入れ、そのグループへゆっくりと向かう。彼は、同じグループのメンバーからの「異様な視線」の洗礼に耐えた。
彼がクラスで常に居場所がないと感じる原因は、この「異様な視線」にあった。それが彼を深く苦しめるのだ。彼はただ、人との接触を恐れているだけだ。周囲からの「愛」を感じられないせいで、自分は異質な存在だと感じてしまう。さらに人間関係を深めることは、自分が傷つく原因になりかねない。だから彼は、人との過度な接触を常に拒み、まるでフグのように自分を装い、時折、人を刺すような棘を放つ。その行動の全ては、単に自分を守るためだった。
少年がそんなことを考えていると、グループのメンバーはすでに分担の話し合いを始めていた。その中に彼が口を挟む余地は全くなく、自分はどの部分を担当したいかなど、声に出す勇気もなかった。ただ俯いて教科書をめくるふりをするが、教科書の内容は全く頭に入ってこない。左目から入った知識は、そのまま右目から出ていくようだった。
突然、隣に座っていた女子生徒が教科書を彼の目の前に差し出し、尋ねた。
「じゃあ……作者紹介の部分は、あなたにお願いしてもいいかな?」
「あ、ああ、いいよ。」
承諾する以外に、彼はどう応じていいか分からなかった。何しろ、自分は教師に放り込まれたのだ。やるべきことをやるしかない。「なるようになるさ」という言葉通り、流れに身を任せるのが間違いないだろう、と。
「あなたと話すのは初めてだけど、信じているわ。きっとうまくできるよ、頑張ってね。」
この、かすかな「思いやりの愛」を含んだ言葉は、少年の耳には何のポジティブな感情ももたらさなかった。むしろ、感情的な恐喝を受けているように感じ、やりたくないことを強制されていると思った。
しかし、女子生徒の視点から見ればそうではない。彼女はただ、この少年をクラスに溶け込ませ、グループで良いパフォーマンスをさせたいと願っていただけだ。そうすれば、他のクラスメイトの目には彼の印象が変わり、クラスでの彼の立場が良くなるかもしれないと考えたのだ。
彼は自分が担当する作者の部分をめくり、皆が知っている「蘇軾」だと確認した。これなら難しくないだろうが、上手くやるには一工夫必要かもしれない。
「はぁ……」
少年はため息をつき、その女子生徒を一瞥した。特に悪意はなさそうだったが、心の中では「いい人ぶってんじゃねえよ」といったネガティブな形容詞が頭をよぎるのを止められなかった。
キーンコーンカーンコーン……再びチャイムが鳴った。まだ一時間目が終わったばかりだ。少年は、残りの授業でグループ分けが二度とないことを願った。それが彼にとって苦痛だったからだ。
なんとか放課後まで耐えて帰宅した。今日は確かにグループ分けの授業はなく、残りのホームルームも係のもの決めだけだった。それは自分に関係のないことだと、彼は机に突っ伏し、鉛筆でノートに落書きをした。頭を空っぽにして、そのまま深く眠り込んでしまう。目を覚ますと、ちょうど下校時間だった。誰も起こしてくれなかったのに、彼は定刻に目覚めた。これには少年も少し嬉しく感じた。寝過ごして気まずい思いをせずに済んだからだ。
彼の席は、前から二番目の窓側。目立たず、周囲の邪魔にもならない、絶好の場所だ。
放課後、彼はバス停へ向かい、バスで家に帰ろうとした。すると、なんと今日同じグループだった女子生徒も、偶然同じバスに乗るようだ。
少年は、どう話しかけていいか分からず、いっそ何も話さないことにした。もし女子生徒が自分と話したくないといったような気まずい状況が生まれ、双方に迷惑がかかるのを避けるためだ。
「ごめんね、今日は強引に作者紹介を押し付けちゃって。」
驚いたことに、女子生徒の方から話しかけてきた。
「あー、いや、ちょうど……ちょうどこの部分は僕も興味があってね。」
少年はどもりながら答えた。もちろん、実際は特に興味などなかったが、どう返事していいか分からない。適当にごまかす方が、素直に蘇軾に興味がないと言うよりマシだろう、と。
少年は顔を横に背け、そう考えた。
「もっとクラスで他の子と話した方がいいよ。そうしないと誰もあなたを知らないままで、高校生活がもったいないよ。」
女子生徒は励ますように、彼の背中をポンと叩いた。
「でも、僕……誰とも関わりたくないんだ。なんていうか、社交不安ってやつかな?」
少年は空を見上げた。その広々とした空間に温かさを感じる。それこそが彼が切望する場所――何も遮るものがなく、自由気ままに生きられる場所だった。
「それは良くないよ。知ってる?」
女子生徒は少年の耳元に顔を寄せ、そっと囁いた。
「伝説によると、あなたが死にたいと思ったとき、一人の少女が現れて、あなたの魂を吸い取り、死に至らせるんだって。」
女子生徒はそう少年に告げた。
「でも、これはただの伝説よ。私は知っている人にそんなことが起こってほしくない。自分をあまり卑下しちゃだめだよ。」
彼女は再び少年の背中を叩くと、バスに乗って去っていった。
これがおそらく、少年が初めて同級生から受けた励ましだった。それは、彼の闘志をわずかに掻き立てた。
帰宅後、彼は蘇軾の情報を調べ始め、それをWordファイルにまとめ、提出する準備をした。
その時、彼は気づいた。
他のグループメンバーの連絡先を知らないため、誰にもファイルを送れない。
仕方なく、彼はそのデータをUSBとスマートフォンに入れ、明日の朝が来るのを待つことにした……しかし、彼は明日が土曜日で学校が休みだということを忘れていた。結局、彼は月曜日を待つしかない。
「お降りの際は、後方から来る車にご注意ください。」
今日は両親が早く出勤したため、少年は一人でバスに乗って登校した。
彼は今日、USBとスマートフォンを持ってきたことを確認する。これで自分の作成したレポートをグループメンバーに渡せる。
月曜日の午前中、一時間目は数学の授業だ。教室にはため息が満ち、教師のロボットのような声が響く中、生徒たちは真剣に聞くか、机の上でもがいているかのどちらかだ。
休み時間になると、あの女子生徒が突然、少年の席の前に来て、手を組み合わせて俯きながら彼に尋ねた。
「あのね、レポート、できた?」
「あー、うん、今日持って……」
彼が言い終わる前に、女子生徒は遮った。
「ごめんね!私たちはあなたの連絡先が分からなかったし、今週が発表だから、みんなで土曜日にレポートを完成させちゃったの。あなたの担当の部分は、発表の時に原稿通りに読んでくれればいいから。」
突然の悪い知らせ?これは悪い知らせなのか?それとも良い知らせなのか?少年の頭の中は混乱した。この「励ましの愛」を与えたのは彼女なのに、たった三日後に話が変わってしまった。彼の心はそれを受け入れるのが難しかった。これは彼が初めて「愛」の存在に触れた瞬間だったかもしれないが、それがこんなにも早く消え去るとは思わなかった。
彼は手を伸ばし、空中に漂い散っていく「愛」を掴もうとしたが、全てが指の隙間からすり抜け、かけらさえも触れられなかった。これにより、少年は迷惘に陥る。
「うん、いいよ。」
少年は無理に気丈に振る舞い、これまで見せたことのない一番明るい笑顔で女子生徒に返事をした。
「ありがとう、本当にごめんね。時間を無駄にさせちゃって。」 「大丈夫、ちょうど知識が増やせてよかったよ。」
家に帰ると、母親はやはり彼を抱きしめて言った。「愛してるわ、学校で今日はどうだった?」
「まあまあ。」
少年はいつものように、適当に答えるだけ。母親もすでにこの返事に慣れているようだった。
少年はカバンをベッドに放り投げ、そのまま外に出た。少し風にあたりたい、と言って。
夜、自宅のアパートの屋上。
「どうして僕は、こんな世界で生きているんだろう……」
少年は自宅の屋上の手すりにもたれかかり、生気のない表情で下を見つめていた。高く、暗い通りは、常に底なしの引力を感じさせた。
人々が口にする「愛」とは、一体何なのだろう?それは愛情か?親子の愛か?友情か?少年は、いわゆる「愛」がますます分からなくなった。なぜなら、自分はそれを感じることができないからだ。毎回「愛」に触れるたび、彼は重荷を感じ、それが「愛」を変質させてしまっていた。
「みんな僕に愛を与えようとしているみたいだけど、どうして僕は感じられないんだろう?」
独り言を言いながら、彼は夜空を見上げた。一片の黒い雲が、星と月を覆い隠している。それは、まるで彼自身の今の心境のようだった。
物心ついてから今まで、彼は愛が何であるかを知らず、誰かを愛したことがあっても、自分自身を愛したことはなかった。
……夜風が吹く。
特に第六感があるわけではないが、少年は背後に「何か」が現れたのを感じた。彼は驚くことなく、静かに振り返り、その少女を見つめた。
防寒帽を被り、全身黒いマント、黒いブーツ。そして目を引く白い髪を持つその少女は、まるでゲームに出てくる魔法使いのようだった。
「君が、伝説の少女なのかい?」 「たぶ?」 「なんで疑問形なんだよ……」
少年は肩を落とし、少しがっかりしたような様子を見せた。期待していた「伝説の少女」ではないのではないかと恐れたのだ。これまでに積み重なった「失望」が、彼にはもうこれ以上耐えられなかった。わずかな希望の破滅でさえ、少年を深い淵に引きずり込む可能性がある。この淵は、彼が自殺するという意味ではなく、発狂して他者を傷つける可能性があることを指し、少年はそれが最も恐ろしかった。
突然、67号は少年を抱きしめた。そして、少年の耳元で囁いた。
「愛。」
少年が女子に抱きしめられたのは初めてで、彼は少し戸惑った。しかし、この「愛」を与えるかのような抱擁は、何の意味も持たなかった**。ただ相手の体温を感じただけだ。動揺したのは体表の温度だけであり、完全に零度の彼の内心ではなかった。**
「決断。」
67号は目を閉じ、少年を解放した。黒い瞳の右目から一筋の黒い涙が滴り落ち、地面に落ちると波紋を作り、少年の目の前に渦が現れた。
伝説とは少し違うが、少年は目の前の状況をすぐに理解した。
「伝説の少女」と「終わりのない渦」。これこそが、魂を吸い取るという「伝説の存在」なのだろう。
しかし、人間は未知のものを前にすると、やはり多少の不安と恐怖を感じる。
「あの、すみません、一つ聞いてもいいですか?これ、降りたら天国ですか、地獄ですか?」
少年は少しおびえながら尋ねた。
「地獄。」
67号が口にしたのは、少年が想像しなかった場所だった。
「どうして地獄なんですか?」
「心配するな、本当の地獄じゃない。単に人間にとって相対的に地獄なだけだ。お前たちが描くほど恐ろしくもなく、天国ほど幸福でもない。最も重要なのは、お前がここに入ることを選んだ後、現世におけるお前の存在の全てが抹消されるということだ。」
帽子が67号を補足した。
「それでもいい。」
少年は自分の胸を軽く撫でた。
「地獄である理由は、お前の選択だ。何の理由もなく自殺した者が天国へ行けるか?お前たちの経典でも、自殺者は地獄へ落ちると描かれているだろう?」
帽子は続けた。
「行こ。」
少年は一歩前へ踏み出し、黒い渦の上に立った。
「いい?」
67号が最後に尋ねる。
「ああ。」
少年は毅然と答え、別の世界へ足を踏み入れることを確信した。それでも、彼は涙を流した。それこそが、彼がこの世に残した最後のものかもしれない。
そして渦が回転し始め、少年はゆっくりと沈んでいった。ほんの半時ほどの時間、少年は一切もがくことなく、そのまま体を渦の中に沈ませた。
67号と帽子は、少年が目の前から徐々に消えていくのを静かに見つめていた。完全に消え去るまで、彼らは微動だにしなかった。ただ黙って、この儀式が終わるのを見届けるだけだ。これこそが、他者の最期を見送るプロフェッショナルな態度なのだろう。
「終わったな。今日はこれで終わりにしよう、休憩時間だ。」
帽子が67号の頭を引っ張ると、そのままその場を立ち去った。
翌朝、教室にて。
「先生、うちのグループ、人数が少ないんですけど、レポートを少し簡単にしてもいいですか?」
女子生徒が手を挙げて教師に尋ねた。
「勝手にしろ。どうせ出来栄えで評価するんだ。良くやった方が成績も良くなる。」
教師に放り込まれたあのグループから、少年の存在は皆に忘れ去られていた。まるでこの世に存在しなかったかのように。
確かに、彼はもうこの世には存在しない。
自宅には静寂が増した。両親はそれぞれ仕事へ向かい、子どもを学校へ送るという記憶は、もはや彼らにはない。
家の中に少年がいたあらゆる痕跡は残っていなかった。だからこそ、肉親である両親でさえ、家の中でかつて少年と交わした笑い、泣き、怒りといった一つ一つの出来事を察知できなかったのだ。
「あわ。」
「哀れな奴だ。」
帽子はため息をついた。
少年がかつて存在したことを覚えているのは、学校の屋上の手すりに座っている67号と帽子、ただそれだけだった。




