ただ、あなたに会いたくて!
「命の恩人よ! ついに、ついに会えた!」 一人の中年男性が叫んだ。
「何?」 67号は、目の前の男を不可解そうに見つめた。 彼女は死の気配を感じてここへ来たのだが、男はまるで宝くじにでも当たったかのように大喜びしており、自ら命を絶とうとする人間には到底見えなかったからだ。
「さあ、早く俺の魂を連れて行ってくれ! もう限界なんだ。ついでに、この借金も一緒に持っていってくれ!」
「おや、なるほど。そういうことか」 帽子が言った。
「おわっ、今の男の声はどこから聞こえたんだ?」
「帽子。」
「へぇ、喋る帽子なんて珍しいな。高く売れるんじゃないか?」
「非売。」 67号は、自分の頭に乗っている防寒帽を死守するように押さえた。
「冗談だよ、冗談。命の恩人さん。」
死をもたらす存在である自分が「命の恩人」と呼ばれ、67号の頭の中は疑問符でいっぱいになった。
「67号、この男は『抹消』されることで、自分の借金を帳消しにしようとしているんだよ」
「なる。」
「そう、そうなんだ! お願いだ、助けてくれ。俺は死んでもいい。その代わり、借金を全部消してほしいんだ」
「不能。」
「できないのか?」
「それは確率の問題だ。お前が抹消された後、その金が完全に無に帰す保証はない。すべては『上天』の思し召し次第だ」
「上天? あんたたちの世界には、もっと上の存在がいるのか?」
「居る。」 議長自身の位階が67号より高いのはもちろんだが、その議長でさえ「上天」という言葉を口にしていた。おそらく議長よりもさらに高位の存在が、これらの事象を操作しているのだろう。信仰がある者なら、それを神や仏と呼ぶのかもしれない。
「だったら、その上天とやらに頼んでくれよ。絶対に通してもらわないと困るんだ。借金取りに家族が怯える毎日はもうこりごりなんだよ」
「無理。」
「……なら、この一回に賭けるしかない。さあ、地獄へ連れて行ってくれ!」
死への強い意志を確認した。
67号は目を閉じ、右の黒い瞳から一滴の黒い涙を流した。地面に落ちた涙は、黒い渦を形成した。
「頼む、成功してくれ。必ず成功してくれよ!」
「そんなに家族が大事なら、なぜこれほどの借金を作ったんだ?」 帽子が余計な一言を投げかけた。
「投資に失敗したんだ。借金をして損を取り戻そうとして、また失敗して……」
「欲。」
「ああ、その通りだ。欲に目がくらんで、引き際が分からなかった。その結果がこれだ」
中年男性はそう言い残すと、不安を隠しきれない表情のまま、ゆっくりと黒い渦に足を踏み入れた。
「上天様、どうか……命と引き換えに、借金を消してくれ!」
しばらくして、彼は黒い渦の中へと沈んでいった。
数日後、67号は再び死の気配を嗅ぎつけた。マントに引かれるままに向かった先は、屋上に立つ一重の中年女性の前だった。
「命の恩人よ! ついに会えたわ!」 彼女の叫び声が響く。
どこかで聞いたことのあるセリフだった。
「何?」 67号は、前回と同じように不可解な表情で相手を見つめた。
「私をこの世界から抹消してくれるんでしょう? 噂で聞いたわ。あなたのような、全身黒ずくめでオッドアイの女の子がやって来るって。見間違いじゃないわよね?」
「不。」 おそらく、そうなのだろう。67号は自分たち案内人の噂がどのように広まっているのか知らなかったが、話の内容が一致するなら、否定する必要はなかった。
「ああ、命の恩人さん! いえ、そう呼ぶのは少し変かもしれないけれど、とにかくあなたは私の救世主なのよ」
「何?」
「夫が山のような借金を私と子供たちに残して、忽然と姿を消したのよ。本当に、なんてひどい男かしら」
「それ?」
「だから、死のうと思ったの。もしこの借金が消えるなら、それは子供たちのための救いになる。両親を失うことにはなるけれど、数億円もの苦しみを背負わされるよりはマシでしょう……」
「なんだか既視感があるね……」 帽子が呟いた。
「同感。」 67号が答えた。
「子供を置いて消えるなんて、あなたも旦那さんと同じことをしているとは思わないのかい?」
「いいえ! あの人はどこかで遊び呆けているに違いないわ。そういう男なのよ。結婚相手を間違えたわ」
「そう?」
「そうよ! あなたたちはあの人を知らないからそんなことが言えるの。臆病者のあいつが、死ぬなんて考えるはずないわ。毎日、宝くじでも当たらないかしらって夢見てるような男なんだから」
「さあ。」
「何を知っているっていうの? まさか、あの人に会ったことがあるとでも? あの男に死ぬ勇気があるって言うの?」
「多分。」
「冗談はやめて。とにかく、早く地獄へ連れて行って。そうすれば、家の借金も霧のように消えてなくなるんでしょう?」
「不能。」
「すべては上天の意志次第だ。運命がどう転がるかは、我々にも分からない。借金が消えた例もあれば、消えなかった例もある」 帽子が補足した。
「上天……生死を司るあなたたちよりも、さらに高い存在がいるのね?」
「居る。」
「構わないわ。とにかく、この借金を消して。地獄へ落ちる覚悟はできているから」
67号は目を閉じ、右の黒い瞳から一滴の涙を流した。地面に黒い渦が広がる。
「家族を愛しているのに、なぜ死にたいなんて思うんだ?」 帽子がまた、余計な問いを重ねた。
「愛しているからよ。遺書は残したわ。相続放棄をするようにって。あんな男と結婚して子供を産んでしまった私が馬鹿だった。二十歳になったばかりの子が、奨学金に加えて親の借金まで背負わされるなんて、あまりにも残酷すぎるもの……」
「あなたが抹消されれば、遺書も一緒に消えてしまうよ。あなたに関連するあらゆる物事が消えるか、あるいは連鎖反応として他者の負担に転嫁される。それが『抹消』の仕組みだ」
「それでも、決心は変わらないわ。どうか上天が私の決意を聞き届けてくれますように」
彼女はそう言うと、67号が作り出した渦の上に立った。
「確?」
「さよなら、最低な世界。」
数瞬の後、彼女は渦の中へと消えていった。
三日後、67号の前に現れたのは、一人の二十歳前後の青年だった……。




