異国情緒
「僕、本当は台湾が大好きなんです」 一人の留学生がそう言った。
彼は現在、語学学校に通っている。目的は台湾で就職し、本国の実家にいる両親を養うことだ。
しかし、所詮は異郷の地。多かれ少なかれホームシックにはなる。特に気候が全く異なるため、適応するには人一倍の努力が必要だった。
「コリン、台湾での生活はどうだい?」 同郷の友人が彼に尋ねた。
「ここはとても良い所だと思うよ。買い物も便利だし。ただ……どうしても異国での生活に慣れなくてね。」
「早く慣れた方がいいよ。君、ここで大学に入るんだろ?」
「ああ、それが悩みの種でさ……」
「中国語は上手じゃないか。ここならやっていけるはずだよ?」
「同郷の君がいてくれなかったら、とっくに国に帰っていたかもしれない。それくらい、ここの生活に馴染めていないんだ……」
「それならどうする? 先生に相談してみたら?」
「とりあえず、自分で医者に行ってみるよ。台湾の医療水準は高いから、僕の心の病も治してくれるといいんだけど……」
「そうか。お大事に。僕は先に帰るよ。」
「ああ、またね。」
コリンは重い足取りで家路についた。道中、ずっと故郷へ帰ることばかり考えていた。そんな風に考えてはいけないと分かっているのに。
自分の中国語は、台湾で心理カウンセリングを詳しく受けられるほど流暢ではない。結局、ホームシックを抑えるには薬に頼るしかないのかもしれない。
そもそも、ホームシックは薬で解決できるものなのだろうか。台湾では故郷の料理を見つけるのが難しい。せめて料理でも食べられれば、郷愁も癒えるかもしれないが。
とにかく、まずは医者に行こう。少なくとも薬はもらえるはずだ。
しかし、コリンの予想に反して、服薬を始めてから容態はむしろ悪化した。
感情が薬によって完全に抑え込まれ、内面のストレスを発散できなくなったのだ。それはまるで、ダムの堤防だけが高くなり、内側には水がどんどん溜まっていくような、耐え難い苦しさだった。
翌日も、いつも通り授業に出席した。
授業中、彼は全く集中できなかった。机の下でずっとスマホをいじり、故郷のニュースや故郷の言葉を眺めていた。それは彼を安心させたが、同時に「帰りたい」という焦燥感を募らせた。
「コリン、授業中にスマホをいじらないように。」
先生に注意され、コリンはしぶしぶスマホをしまった。
これは重要な中国語の授業だ。教えられている内容の八割はすでに理解していたが、授業中にスマホを使うのがいけないことくらい自覚している。それでも彼は、スマホの情報に依存しなければ心の平穏を保てなかった。
寮に戻ると、買ってきた弁当をかき込み、薬を飲んで寝る準備をした。授業の復習さえしなかった。この辛い時間をやり過ごすには、眠る以外に方法がなかったからだ。
薬は睡眠を助けてくれる。飲むことで内面が悪化していく感覚はあるが、飲まなければ帰郷したいという強い思いに押し潰されてしまう。それは、せざるを得ない選択だった。
コリンはベッドでスマホを眺めながら、本当に帰るべきかどうかを考えた。
このまま帰るのは情けない行為だという自覚はある。しかし、そうすることでしか、枯れ果てた自分の心は救えないのではないか。
ほどなくして、コリンは眠りについた。
その夜の夢は、故郷での思い出ばかりだった。とても安らかな眠りだった。目覚まし時計が鳴っても起きたくない、ただずっとこの夢の中にいたいと願うほどに。
だが、授業をサボるわけにはいかない。優等生でいなければ、良い大学には入れない。家族をより良い生活へと導くこともできない。
コリンが背負っているのは自分自身の前途だけでなく、家族の期待そのものだった。だからこそ、簡単に帰るわけにはいかなかった。
その責任感と帰郷願望が心の中で激しくぶつかり合い、まるで一歩も譲らない綱引きのような状態が続いていた。
今日の授業も、ほとんど頭に入ってこなかった。これでは良い大学どころか、優等生ですらいられるか怪しい。
ついに耐えきれなくなったコリンは、寮の屋上へと向かった。そこには67号が立っていた。
「誰だい? 君、ここの学生じゃないだろう。」
「案内。」
コリンは67号をじっくりと観察し、ふと何かに気づいたようだった。
「僕の故郷にも、君たちのような存在の伝承がある。本当に実在していたんだね。」
「全世。」 67号がそう言ったのは、01号がソマリアにいることを知っており、世界中に案内人が存在すると推論していたからだ。
「世界中にいるのか。それは随分たくさんいるんだね。でも、本物を見るのは今日が初めてだ。」
「そう?」
「ああ。君たちに会うのをずっと恐れていたんだ。でも今日、これが一種の『救い』なのだと気づいたよ。」
「救?」
「怖いんだ。家族に『帰りたい』なんて言えない。故郷の人たちは、きっと僕を軽蔑するだろう。」
「それ?」
「だから、不安で、怖くてたまらないんだ。僕という存在を抹消すれば、世界は僕がかつて存在したことさえ忘れてくれるだろう?」
「多分。」
67号は目を閉じ、左目から一滴の黒い涙を流した。それは地面に滴り、渦を形成した。
「確?」
「確定だ。僕は台湾の社会で生きていくには向いていない。かと言って、家に帰りたいとも言えない。家族は僕を留学させるために、あんなに大金を使ってくれたんだ。僕が消えた後、そのお金が彼らの口座に戻ることを願っているよ。」
「希望。」
コリンはそう言うと、黒い渦に足を踏み入れた。徐々に沈みゆくその表情には、一言では言い表せない複雑な感情が入り混じっていた。
「確?」 67号は珍しく二度目の確認をした。沈んでいる最中であれば、まだ引き戻せる可能性があるからだ。
「ああ、間違いないよ。」
「達者。」
翌日、世界からコリンという人間はいなくなった。
家族が費やした学費はすべて彼らの口座へと戻った。 それは、ある意味では「めでたしめでたし」の結末だったのかもしれない。




