不節制な親切が招く混迷
これは数年前、67号がいくつかの案件を終えたばかりの頃の物語である。
「ねえ、一体どうしたいわけ?」 中学校のトイレで、数人の女子生徒がひとりの少女を囲み、執拗に突き飛ばしていた。
「どうもしようと思ってない……」
「じゃあ、なんであんなに彼に近づくの? 狙ってるんでしょ、この泥棒猫。」
「そうだとしたら何? 私が勝手にすることじゃない。」
「自分の立場がわかってないみたいね。」 彼女は強く突き飛ばされて床に倒れ込み、ひとりの女子に腹部を踏みつけられた。
「あら、制服を汚しちゃった。ごめんなさいね?」
67号の目には、その光景はあまりに既視感のあるものだった。 しかし過去の自分と違ったのは、彼女を助けに来た男子生徒がいたことだ。
「素華を放せ! 文句があるなら僕が相手だ!」
「わあ、ヒーローのお出ましね。逃げましょう。」
「ありがとう、阿敏。」 彼女はお尻の汚れと、踏まれた服を払った。
「いいよ。次にあんなことがあったら大声を出すんだ。教室にいても聞こえるから。あんな風に虐められちゃダメだ。僕が先生に言っておくから。」
「自分でも対抗できるわ。余計なお世話よ……」
「何言ってるんだ。さっき踏まれてたじゃないか。僕が君を助けるよ。」
「……じゃあ、これからもずっと助けてくれる?」
「約束だ。」
彼は彼女の小指を取り、指切りを交わした。 それは幸福な感覚だった。自分ひとりだけで戦わなくていい、守ってくれる人がいる。素華の心の中に、温かいものが流れた。
ある日の休み時間、素華はまたトイレで囲まれた。彼女は学習し、大声で阿敏の名を呼んだ。阿敏はすぐに駆けつけ、彼女たちを追い払った。
「ありがとう。」
「どういたしまして。先生に言ったんだけど、効果がなくて……」 彼は眼鏡を押し上げ、照れ隠しをした。
「あの子の親が学校の理事だからでしょ?」
「知ってるの?」
「うん、あの子が自分で言ってた。」
「それは厄介だな。僕が彼女と話し合ってみるよ。喧嘩より対話の方が平和的だろう? 君もそう思うだろ?」
「……ええ、お願い。」
「私と話がしたいの? じゃあ放課後ね。教室に残ってなさい、ゆっくり話しましょう。」 リーダー格の女子生徒は、阿敏にそう返した。
話し合いに応じてくれるなら、それが一番だ。 しかし、それが彼女たちの仕掛けた「罠」だとは、彼は思いもしなかった。
放課後。女子生徒たちは阿敏の机を囲んだ。 「話し合うって約束したんだ。人数で脅したって僕は怖くないぞ。」
「あなたが話し合いたいって言ったんでしょう? じゃあ、こうしましょうか……」 彼女はゆっくりと制服のブラウスとスカートを脱ぎ捨て、下着姿で阿敏の膝に跨った。
「私もあなたのこと、好きなのよ。謝敏政。」
思春期の男子が、その誘惑に耐えられるはずもなかった。 彼は「うっかり」と、心に決めた素華を裏切ってしまった。
翌日、素華はトイレで阿敏の名を叫んだが、誰も来なかった。 「阿敏、助けてくれるって言ったじゃない!」
「……ごめん。ごめん……」 か細い声だけが聞こえた。
「どうしたの? あなたも虐められたの?」
「違うんだ……僕は……ごめん……」
阿敏の助けはなかったが、素華は自分ひとりの力で女子グループをほぼ全員叩きのめした。彼女を取り囲んでいた小さな集団は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「助けてくれないならいいわ。自分ひとりで解決できる。でも、二度と私と約束なんてしないで。」
「ごめん、本当にどう謝ればいいか分からないんだ。」
「謝らなくていいわ。」 素華はそう言い残して去った。
阿敏は泣きながら学校の屋上へ駆け上がり、フェンスのそばに座っていた67号に出会った。
「ごめん、ごめん。僕が無能なせいで、好きな女の子も守れなかった。」
67号は目を閉じ、左目から一滴の黒い涙を流した。地面に黒い渦が広がる。阿敏の強い死への意志を感じ取ったのだ。
「死にたい?」
「いや……でも、素華を守りたいんだ。」
「どうやって?」
「素華に伝えて。ずっと愛してるって。」
そう言い残し、彼は屋上の縁から飛び降りた。 この事件は全校を震撼させた。
いじめの問題はついに調査されることになり、親が理事であるという理由で隠蔽されることはなくなった。
しかし、素華はひとり残された。
彼女も屋上へ行き、後を追おうとしたが、屋上はすでに固く施錠されていた。
67号はこの事件に過去の自分を重ねていた。 助けたいという思いはあっても、自分はただの案内人であり、現世の人間に何かを直接してやることはできない。
「彼が君に伝えてほしいって。『ずっと愛してる』とさ。」 帽子が言った。
「私のせい……私のせいで彼が……」
「ちが。」
「じゃあ教えてよ! 阿敏はどうして飛び降りたの!」
「愛情。」
「やっぱり私じゃない! 私が彼を殺したのよ! 彼は飛び降りることで社会の関心を引こうとしたんだわ!」
「……たぶん。」 67号は多くを語れなかった。自分自身が鮮血色の記憶を背負っている。あの惨劇が素華の身に重ならなかっただけでも、奇跡に近かった。
しかし、67号は屋上の扉を開けてやった。冬の冷たい風に吹かれれば、少しは罪悪感が和らぐかもしれないと思ったからだ。
「無駄……」 素華からは依然として強い罪悪感が溢れ出し、今にも飛び降りそうに見えた。
素華はフェンスの上に立ち、下の生徒たちは騒ぎ出した。先生を呼ぶよう叫ぶ者もいれば、悲劇の再来を防ごうとする者もいた。
「馬鹿な真似はよせ。こっちにおいで。」 帽子の言葉を聞き、素華はフェンスから降りて67号の前に歩み寄った。
67号は素華を力いっぱい抱きしめた。 自分の心さえも素華に押し付けるかのように、彼女の心を感じ取ろうとした。しかし、その内面は真っ暗闇だった。
「無理……」
「お姉さん、どうして抱きしめるの?」
67号はさらに強く抱きしめた。
「私たちは案内人。もし死にたいなら、手伝ってあげる。痛くないように。」
「死ぬのに痛くないの? 私、痛いの大嫌い!」
「でも、代わりにあなたの存在はこの世界から抹消される。誰もあなたのことを覚えちゃいない。」
「そう……それでも、別にいいわ。」
67号は彼女を抱きしめ続けたまま、目を閉じ、一滴の白い涙を流した。地面に白い渦が形成される。
「この中は、救済なの?」
「そうだ。」
「じゃあ……私もあなたみたいな人になりたい。もっとたくさんの魂を救えるかな?」
「たぶん。」
教師たちが駆けつける前に、少女は67号の白い渦の中へと沈んでいった。
異界会議。
「全く、67号。急なことばかりするな。この子が案内人になりたいと言っているのか?」
「そうだ。」
「67号のように記憶を残すか? 言っておくが、それは非常に苦痛だぞ。」
「いいえ、記憶はいりません。そんなの悲しすぎます……」
「まともな人間ならそう選ぶものだ。」 議長は含みを持たせて67号を一瞥した。
「でも、私を彼女と同じエリアで働かせてください!」 素華は67号を指差した。
「あちらのエリアは確かに一人欠員があるな。67号、どう思う?」
「いい。」
「では、この子を 68号 とする。以後、よく面倒を見るように。」
「わか。」
記憶消去と案内人の登録手続きが始まった。 議長が素華のそばへ行き、頭に手を置いて呪文のようなものを唱える。
30秒ほどして、素華は眠りにつくように倒れた。 その身にはいつの間にか、案内人の制服が纏わされていた。
「あなたは誰? 私は 68号 です。」
「67。」
「じゃあ、あなたが先輩ですね。これからよろしくお願いします!」
「かわ。」 67号は68号の頭を撫でた。
「もう、やめてくださいよー。」 明るく笑う彼女の表情は、ここに来た時とは完全に別人のようだった。




