[62話]全てを統べる魂の王
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私が氷織を鞘の中に収めるとアルギアの首はもう胴体と離れていた。私はこの世界に現れた魂を喰らう化け物を倒すことができた。私は逃げて行った王様のあとを追いかけるために玉座の後ろにあった扉を開けた。
私が用心して進むとそこには大きな魔法陣のようなものと、大量の怨霊化の薬が積んであった。
「おや……君がここへ来たということは……アルギアは倒されてしまったようだね」
「お前が私から奪った魂は全て取り戻した……お前を守るものはもうない!」
私は王様が1人で何かをしようとしているのを見て少し警戒しながら会話を続けた。なぜかこの先に入ると大ダメージを負ってしまう。なぜかそんな気がした。
「おや……君には私がそんなに弱そうに見えているのか……心外だね。私はこれでもこの国の王様。力を守るすべが一つや二つあると思うんだろうが……」
「お前からは私が今まで戦ってきた強者たちの"圧"を感じない。お前からは"圧"ではない何かを感じる……」
「ほぉ強さを"圧"で表すか……確かに人の強さは圧で測れるかもしれない。ただそれはたった1人の力を見た時だけだ。」
「何が言いたい!お前は今は1人だろう!」
「君は何も覚えていないようだね……私、王の家系は魂を司ると言ったばかりじゃないか。君が感じた"圧"じゃないものはきっと魂の量だ」
私は大切なことを忘れていた。アルギアと戦うために精神上は1ヶ月以上は立っていると感じていたのだ。もう昔のことなど覚えているはずがなかった。けれど、私はその時思い出した。この王様は相手は数の暴力など関係ないということが。
「私はね……ずっと前から怨霊についての研究をしていたんだ。怨霊とは魂だけが残った存在。じゃあなぜ死んだ人間は魂だけになるのに、怨霊にならない?私はそのことが不思議で仕方がなかった。」
私は魂だけの存在だったが、その魂に感情が刻まれて今感情がある怨霊として生きている。けれど食事もできるし寝ることだってできる。魂だけの存在がなぜそんなことができる?私は今になって私の不思議さに気づいた。
「怨霊とは……ある強大な『意思』を持って生まれてくるのではないだろうか……怨霊は誰かに恨みを持っている。だからこそその復讐を完了させるために大きな意思を抱く。その医師こそが、怨霊を魂だけで生かしている理由なのではないかと」
「だったら意志の強さが怨霊になることがわかった。それじゃあ、魂が数億個引き継いている私の意志の強さはどうなる?君は魂を体の中に入れたことで少し怨霊の力が上昇していることに気づいているのではないか?」
図星だった。私は一人一人の魂を体の中に入れていることでなぜかいつもより力が出たり、憎しみの力の全体量が増えていたりした。ただ成長したのだろうと思っていた。けれどそれは違った。私は魂を取り込むことで意志が強くなっていたのだ。
「私は思うんだよ……私が怨霊になれば……この世の全ての生物より強くなり!この世界を壊すことができるかもしれないということをね!」
私は恐怖に思った。この言葉が冗談には聞こえなかったのだ。本当にこの男が怨霊になってしまったら、この世界を壊すことができるだけの力を手に入れるだろう。けれどなぜそこまで力を望むのか私にはわからなかった。
「なぜ……あなたは力を求めるの?」
「私は生まれてからずっと力を求められた!けれど私にはその才能がなかった。だから私は、この世の全ての力を手に入れる方法を模索した!そしてついにたどり着いたんだよ!怨霊になれば私でも最強になれるっていうことがね!」
「馬鹿げてる!力を求めたところで目標がなければその力はただただ虚しいだけ!」
「目標……?それならあるさ……私を認めなかったこの世界を私は壊す……私はただそれだけを達成するために今まで計画を練っていた。今、それが実現する!」
私は説得は無理だと悟り、すぐに王様の体を斬り刻み、この世から消し去る方法しかないと思い、攻撃を仕掛けた。けれどその攻撃は全て通らなかった。全て空中に壁があるかのように防がれてしまったのだ。
「無駄だ。私の体の周りは今人の魂で囲まれている。君には私が怨霊になるのを邪魔してほしくなくてね……」
私は必死に足掻いた。こんな化け物が生まれたら全てが終わってしまう。私はそう思いながら攻撃していると中から詠唱が聞こえるのと同時にしたの魔法陣のようなものが光だした。
『深淵の底に沈む我が魂の声よ…… 忘却に縛られ……名を失いし魂たちよ……
いま……我が呼び声を聞き届けよ……
凍てつく怨嗟の息吹……世界の狭間にて眠る黒霧……
その全てを歪め……絡め……ひとつの渦となして集え……
我は無念に沈みし魂……力を求める魂なり……
この身を焼く怒りを呪力に変え……魂魄を冥府の底より引き戻さん……
封じられし古の戒めを破り……断ち切られた叫びを再び縫い合わせよ……
嗚呼、忘れられし名の残響よ…… そのすべて……我が力とならん……
憎き者どもに永遠の恐怖を……
この世に永劫の闇をもたらす怨霊として 今、ここに再誕せん!
我が名は……アニマ・エギル……全ての力を欲するもの!』
王様が詠唱を終えた。その瞬間王様の体が光に輝き、私がいる王城が崩れ始めた。私はすぐに脱出するために背中から、羽を生やして近くの窓を破り、外へ出た。
「イシュディア……もっと距離をとって……!ここじゃだめだ!巻き込まれる!」
私はその言葉を信じてさらに距離をとった。崩れ落ちる瓦礫の音が私の耳の中を埋め尽くした。私は王城が崩れ落ちる様子を眺めていると、王城の中から何かだんだんと巨大になっていく一つのものを見つけた。
それは今崩れ落ちている王城の前の大きさと同じくらいで、まるで悪魔のような顔をしていた。
「私は力を手にれた!私はこの世で最強になったのだ!」
私は声を聞いてわかった。王様は意識は保てているが、数億の意志を使ったのだから人間の形を保つことができずに、悪魔のような形になってしまったのだった。
ただアニマが叫ぶだけで、王都の家が飛んでいく様子はこの世の終わりを指し示していた———




