[60話]ある逮捕者の少年の過去
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私が目を開けるとそこにはアルギアが立っていた。アルギアの背中から生えていた立派な羽は根本から腐り落ち、私の目の前に立っていた魂の集合体はもう見るも無惨な見た目をしていた。アルギアは苦しそうに私の方を見ていた。
「お前……また……体の中にある魂を奪った……返せ……返せ……」
「それはあなたの魂じゃない……あなたが勝手に使っていいものではない……だから返して」
私は残されている二つの魂を取り返すために鞘から炎織を抜いた。これは私が考えた技じゃない。フェンの友達が作り出して、フェンを一度死に追いやった技。
『広がれ……巻き起こせ。全てを焼き払え……煉獄』
私がそう唱えて、炎織を振り抜き辺りに全てを飲み込む、炎の竜巻を作り出した。その炎はアルギアを包み込んだ。けれどこれで終わらせる気はなく、さらに火力を上げるために私の怨霊の力を送り込んだ。
「殺せ……俺はもう……死にたい……」
アルギアの体から『逮捕者』オリヴァーの声が聞こえてきた。私は覚悟を決めて魂を救い出すために迷いなく火力を上げた。
「望み通り、救ってあげるよ……だから少しきついかもしれないけど……耐えろ!」
『青く……さらに蒼く……高音の炎で全てを包み込め!炎蒼』
私がそうやって力を送り込むとすぐに火炎の炎は蒼く、全てを包み込んだ。私はその瞬間に視界が光に包まれた。
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「ここは……オリヴァーの過去なの……?」
私は出た場所の場所が少し変だった。いつも地面の上に生まれていたが今回のタイムリープはなぜか空中に出たのだった。
「なんで……空中に出たの?まさか今回は……空中?」
私はそうやって空を見上げてみたがそこには何もなくただ青い空が広がっていた。辺りを見回しても空を飛んでいるものはないし、鳥すらも飛んでいない。私は今回は変な場所に出ただけで地面に何かあるかもしれないと思い、無意識のうちに広げていた翼を収納し、急降下を始めた。
私は地面に近づいてくるとそこは私が見慣れた王都だった。私はオリヴァーの家を探すために少し辺りを見渡してみた。
「オリヴァーの家は……どこだっけ……?いつも警察署にいるイメージしかなかったから家の場所を知らないや……」
私がお手上げだと思っていると地上から大きな声が聞こえた。
「お前!うちの家のパン屋からパンを盗んだだろ!お前のポケットの中にパンを突っ込んでるのが見えたぞ!」
そう言ってある1人の少年が大男の体の上に乗り、犯罪者を捕まえていた。その声と顔は見覚えがあった。私はその男を捕まえている少年がオリヴァー・アステロイドだと気づいた。
オリヴァーがパン泥棒を巡回兵に引き渡した後、王都の空気は再び穏やかさを取り戻していた。
「ありがとう、オリヴァーちゃん。本当に助かったわ」
パン屋のおばさんは皺のよった顔をほころばせ、焼きたてのライ麦パンを少年のお礼にと手渡した。オリヴァーは少し照れながらも、それを満足そうに受け取った。彼の周りには、活気に満ちた王都の喧騒が広がっている。
(昔からオリヴァーは正義感が強くて、人のために行動ができたんだね。)
上空に静かに留まっていた私は、見慣れた王都の光景を、しかしどこか違和感を持って見つめていた。オリヴァーの瞳に宿る、曇りなき純粋な正義感。それは美しいが、同時にあまりに無防備だ。この世の中の本当の悪を知らないような、そんな眼だった。
正義とは、常に誰かの「悪意」を呼び起こす。正義があればそれに伴う悪意も存在するのだ。朝、オリヴァーが捕らえた男の影が、私には笑っているような気がした。
時刻は夕暮れ。店のシャッターが下ろされようとしていたその瞬間。
店の奥、品出し用の裏口と思しき場所から、ガラスと木材がぶつかったような耳障りな音が響いた。王都の喧騒が一瞬にして途絶え、通りを歩く人々の視線が一斉にパン屋に集中する。
オリヴァーは持っていたパンを落とし、硬直した。ナイフを持った三人の男を視界にとらえてしまった。
次の瞬間、店の裏手から三人の男が、荒々しく店内に押し入ってきた。彼らの顔は汚れた布で隠され、腰からは鉄の筒ががぶら下がっている。顔つきは朝のパン泥棒の仲間であることを物語っていた。彼らの纏う空気は、町のゴロツキが持つそれとは違い、明確な殺意を含んでいた。
「おい、クソガキ!」
覆面の一人が、濁った声でオリヴァーを指差した。
「テメェのおかげで、俺らの仲間が今頃冷たい牢屋だ。仲間のケジメはな、テメェのお気に入りの店でつけてもらうぞ!」
その言葉は、オリヴァーの小さな正義が招いた、予期せぬ代償だった。パン屋のおばさんはゆっくりと歩き出し、オリヴァーの前にたった。
「この店に金なんかねぇことは知ってる。だがな……おばさんの指の一本くらい、代わりになるだろ?」
男の一人が、唾を吐き捨てるように言い放ち、オリヴァーのおばさんに向かって踏み出した。
「やめろ!俺のたった1人の家族なんだ!殺すことは許さない!」
理性よりも早く、身体が動いた。オリヴァーは、配達用に積み上げられていた硬い木製の箱を掴み上げると、それを男たちの足元めがけて全力で投げつけた。
ドンッ!
木箱は男の一人の膝に当たり、けたたましい音を立てて砕け散った。男たちが体勢を崩した、わずかな隙。
「おばさん、早く!裏口から逃げて!」
「オリヴァーちゃん!」
「いいから!俺がなんとかする!」
オリヴァーはパンを握る代わりに拳を握りしめ、二度と恐怖で顔を歪ませることはなかった。彼の背後には、彼が守ろうとするパン屋の明かりがあった。
「逃げるだと?笑わせるな、ヒーローごっこは終わりだ、ガキが!」
男たちは笑い、隠していた鉄の筒をオリヴァーとオリヴァーのおばさんに向けながら強盗は歩き始めた。
「それじゃあ、そこにいるおばさんが、先に死ね!」
強盗の1人は鉄の筒の下の持ち手のような部分の一部を指で引いた。その瞬間鉄の筒からボールのようなものが発射された。オリヴァーは目を閉じた。けれど聞こえてきたのは強盗の叫び声だった。
「誰だお前は……どこっから入ってきた……?なんで銃を受けて生きている?」
強盗は起きたことがわからなかったようだった。オリヴァーが目を開けるとそこには神の代理人のような美しい顔をした1人の少女が立っていた。
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私はパン屋の中から大きな音が鳴った瞬間に観察するのをやめ、パン屋の裏口からパン屋の中の様子を伺っていた。けれど強盗が持っていた、一つの鉄の筒の棒を見た瞬間私の警戒心はMAXになった。あれは人を簡単に殺すことができる銃だとわかっていたからだ。
私はすぐに助けることができるように体に身体能力強化を最大までかけていた。
「それじゃあ、そこにいるお婆さんが、先に死ね!」
私はそう言われた瞬間にパン屋の中に入り、おばあさんの前に立ち、銃弾を受け止めた。
「強盗であっても……人の命を奪っていいというわけではない……!お前らは裁きを受けろ!」
私はそう言って強盗の後ろに周り、峰打ちで全ての強盗を沈めた。私は腰を抜かしてしまっているオリヴァーに近づき口を開いた。
「君が動かなかったらおばあさんはきっと今ごろ……この世界にいなかった。君のおかげで1人の命が救われたんだ。誇りに思っていい。けど、心配をかけた分君がここで働くんだ。おばあさんを危険な目に合わせた罪は償う必要がある。」
私はそう言って立ち去ろうとした。けれどオリヴァーが私を引き留めた。
「あっ、あの……僕も正義の味方になれると思いますか……?」
「私たちがいる正義の世界は……犠牲の上に成り立っている悲しい世界なんだ。だから君はこちらの世界に来てはいけない。君はおばあさんの手伝いをしてやってあげて。まずは目の前にいる1人の人から救ってあげたらいいと思うよ」
私はオリヴァーにそういった。これでオリヴァーはパン屋の道に進むか、警察の道に進むかわからない。けれど、私がいた未来のように過ちを犯してしまう可能性はないだろう。私がそう思いながら店の外へ出ると、私の視界が白く光で包まれた———
NOCHESです。
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