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[58話]研究者とある少女の過去

******


 私が目を開けるとアルギアの右側の翼が消えていた。相手も半分の魂を抜かれたことで自分の体を維持することができなくなっているようだった。けれど相手の圧は強く怒り狂っているようだった。


「お前……今度は……何をした……!?」


「あなたの体を作っている魂を抜き取った。それはあなたの魂じゃない。すぐに返してもらうから……」


 私はそう言って鞘から氷織を抜き出した。氷織は眠っていたが私が声をかけるとすぐに起きてくれた。私は氷織を掲げながらある魔法の言葉を大声で響き渡るように叫んだ。


凍る薔薇の花園アイス・ローズ・ガーデン


 私がその言葉を唱えると氷織の剣先から真っ白な薔薇の花が咲き始めた。


 一つ一つ本物の薔薇のように見える氷の花は一直線にアルギアの方向へ向かってアルギアの体を縛り上げた。そして私がもう一つの言葉を言った。


咲け青い薔薇(オープン)


 その言葉は薔薇の花が自分の蕾から冷気を吹き出し対象を捕まえ氷の檻を作り出す。その氷は如何なる敵を持ってしても破壊することはできない。そう思っていたのだが……すぐに解かれてしまった。私は忘れていた。今アルギアには私よりも氷織の扱いに長けていたフェンがいることを。


「なんで……攻撃技が効かない……なんで今回はこんなにも過去に行く時間が長いの!」


 私がいくら待っても光に包まれず、負けそうになっていた。私はムカついて大声で叫んでみると急に視界が真っ白な光で覆われた。


******


 私が目を開けるとそこには2人の男の子が立っていた。兄のような人は弟に研究を教えているようだった。


「スカーレット……ここはこうだって何回も言ってるじゃん……」


「兄さんの説明が下手のなの!なんで教える時に『これ』だから『あれ』って言うんだよ!わからないよ……」


 そう言ってスカーレットは外へ飛び出してしまった。暗殺者の兄弟と違ってこちらの世界の研究者は仲良くしていないようだった。私はとりあえずスカーレットを見失わないためにすぐに後を追った。


 私が辿り着いたのはある一つの公園だった。兄と喧嘩たスカーレットは1人でブランコを漕いでいた。私はとりあえず接触を測ろうとし、話しかけようとすると反対側から大声でスカーレットを呼ぶ声がしたので私はすぐにその場所から離れた。


「もう……またこの場所にいる……スカーレット……さっさと研究所に戻ろう?お兄さんが待っていたよ……」


「セリアか……兄の方が研究者として立場が上なんだ……僕がどんだけ頑張ったて兄には勝てないよ……」


セリアはゆっくりとスカーレットの隣に腰を下ろした。


 夕日の色が幼い彼の横顔を照らし、影と光の境目が震えているようだった。


「スカーレット、才能ってね……比較するためにあるんじゃないよ」


「でも……兄さんはなんでもできる。僕はいつも追いつけない……」


 その声は怒りではなく、疲れきった悔しさだった。セリアはすぐに慰める言葉を探さず、彼の言葉が落ち着くまで待った。


「ねえ、君が作った計算式、私も見たよ。完成度は兄さんと違う。でも、君にしかできない考え方だった」


「僕にしか……?」


「そう。兄さんの模倣じゃなく、君の研究だった」


 スカーレットは顔を上げたが、まだ納得はしきれない表情だった。兄との決定的な差を知っているのだからそう思ってしまうのは仕方がない。私はスカーレットを元気づけるために一芝居打つことにした。


「スカーレット……君は、将来立派な研究者になる。私はそれを知っている。だから自分を蔑むことはないよ。」


「あ……あなた誰?」


 突如として現れた私にスカーレットは驚いているようだった。けれど私の言葉を未だ信じないようだった。


「ただの研究好き。未来……じゃなくて、遠くから君たちを見てきた人間……君はちゃんと努力をしている。だから気負わなくて大丈夫」


 私が言いたいことは言い切った。あとはセリアとスカーレットの2人がもし道を外しかけたのなら私が修正するだけでいいだろう。私はそう思いながらその場所を離れた。


「スカーレット、君は間違ってない。君の兄さんは“早く理解できる天才”で、君は“深く理解する研究者”なんだ」


「深く……?」


「同じ式を扱っても、別の角度から答えを見られる人。それは欠点じゃなく役割だよ」


 スカーレットの手が少しだけ震えた。兄に追いつけない自分へ向けていた苛立ちが、形を変え始めたようだった。スカーレットは泣きそうな顔をしていた。


「君が今日逃げ出したのは、弱いからじゃない。“自分の考えを認めてほしかったから”だ」


 スカーレット自身ですら気づいていなかった核心を、セリアは静かに言葉にした。セリアはスカーレットと長く付き合って彼が何を言ってほしいのか全てわかっていた。彼の目から静かに涙がこぼれ落ち始めた。


「……僕は、兄さんに認められたかったのかな」


「うん。でもね、君は誰かの影で終わらない。未来には——君の理論を必要とする人がいるから」


 歴史を変えるほどの指示でも、結果を動かすほどの強制でもない。ただ、彼という人間が立ち止まらず進むための言葉。セリアがスカーレットの肩にそっと手を置いた。


「戻ろう、スカーレット。君がいない研究所はちょっと静かすぎるからね」


「……うん。少しだけ、頑張ってみる」


 その返事は小さく、けれど確かだった。スカーレットとセリアが研究所へ歩き出し、私は公園に一人残された。夕焼けは静かに沈み始め、世界が橙から夜の青へ切り替わる。


「——大丈夫。君は将来は立派な研究者になれるさ……」


 私はそう呟いて2人の後を追いかけた。スカーレットが怨霊を作る『研究者』となったのは必ず何か大きな事件があったはず。私はその大きな事件の結末を変えるために2人の後を追いかけた———

NOCHESです。研究者スカーレットの過去を描き始めてしまうと4000文字を超えてしまったので前編後編に分けたいと思います。今日のは前編です。明日後編を投稿するのでぜひ見てください!

次回も頑張って投稿するのでよろしければブックマーク登録、感想、評価お願いします。それでは、次の作品へ行ってらしゃい

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