[53話]強さを求めるのは強さではない。
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「オルターあなたには一度負けたけど今回は負けない。今回こそは私があなたを屠る」
私はそう言ってオルターへと切りかかった。オルターの戦い方は無駄な動きを無くした攻防で相手をじわじわと追い詰めていく。けれど私はその戦い方が出来ない行動に出た。
「セイバー、風を!私にスピードをちょうだい!」
私はそう言ってセイバーの風の強化を受けて走り出した。私の武器は刀4本だけだが、相手の武器は重量級のバトルアックス。
私が走り始めるともう目では追いかけられるが攻撃が当たらないという状況を作り出した。
「ちょこまかと動きやがって……ゴキブリか……?これなら避けられねえだろ!重力操作『グラビティアップ』潰れろ!」
オルターはバトルアックスを背中に預け、私の方へ手を向けたかと思った瞬間私がさっきいた場所に大きな窪みができた。
「嘘でしょ……ここまで重力を操ることができるの……このスピードだったらいつかは追いつかれるだったら」
私はそう言って氷の結晶を作り出した。この結晶の名前は氷囮
この能力は相手の攻撃の対象を無理やりこの氷の囮に向ける。能力を発動した結果私が思っていた通りに氷の結晶がいきなり地面に落ちて潰されていた。
「オルターあなたの攻撃は防いだ。さっさと出てきて降参でもすれば……?」
私は相手の精神状態を乱すためにわざと相手を煽るような言動を取った。
「降参……?いいかもなぁ。俺がじゃなくお前がだがな!」
「私は降参しない。私が戦いをやめるのは死んだ時だけ。手足を失っても私はあなたを殺す」
私はひどく冷徹な声でオルターに向かってそういった。オルターは少し恐怖を感じたようで疲れによる汗以外の汗が首元から垂れていた。
「あなたたちはなぜ街を襲い人を薬に変えるという作業をしていたのそれが罪だということを認識していなかったの?」
私は今になって調停者が悪事に手を染めていたのかが分からず、今実力が拮抗している時に尋ねた。
「俺の生まれのもとははるか東の方にある小さな国だ。父親は生まれた頃からお前は強力な戦士になる。お前がこの世界の王になると言ってくれた!」
「俺は確かに強かった。王都以外のところの街ではすべての実力者に勝った。けれど最後に王都に来た時とてつもなくデカい壁に当たった。」
私はオルターが誰のことを言おうとしているのかが分かった。オルターより強い人はこの王国では1人しかいない。
「……そのデカい壁は、国王陛下のこと?」
私の問いに、オルターは憎悪に満ちた顔で答えた。
「そうだ! 俺の力を見抜きながら、ただ『お前は弱い』だと? 馬鹿なことを! 俺はただ、この世界で一番強くなりたかっただけだ!」
「あなたの言う『強さ』とやらは、無関係な人々を苦しめていい理由にはならない! あなたがしてきたことは、決して許されることではない!」
オルターは顔を歪め、バトルアックスを再び構える。憎悪と狂気が渦巻く瞳が私を射抜いた。
「戯言を! 俺の邪魔をするなら、王様に見せられた地獄のような、光景を見せてやるよ!」
彼の身体から、どす黒いオーラが噴き出した瞬間、地響きが起こった。それは、この世のものではないような、おぞましい気配。空気は鉛のように重く冷え込み、呼吸すら苦しくなる。
「これは……まさか、怨霊化……!?」セイバーの叫びが、耳鳴りのように響く。
オルターの肉体が悲鳴を上げながら膨張し始める。皮膚は黒く岩のように硬質化し、ひび割れた隙間から黒煙が炎のように立ち上る。顔には角が生え、瞳は血のような赤に染まり、理性を失った獣の唸り声が大地を震わせた。彼は、もはや人ではない。怨霊、純粋な悪意と破壊衝動の塊と化した。
「うおおおおおおおおお!」
巨体となったオルターは、その巨大なバトルアックスを風車の回転のように振り回した。風圧ではない。怨霊の力が込められた質量そのものが、私のいた場所を叩き潰す!
回避した私の背後で、地面が深さ数メートルにもわたるクレーターと化した。凄まじい衝撃波が襲い、私の全身の皮膚が悲鳴を上げる。
「セイバー! 全力で私を強化して! 風を、私の存在そのものにして!」
私の脚はすでに最高速だったが、セイバーの力が加わることで、さらに次元の違う加速を得た。視界から景色が流れ去る。私は、怨霊化したオルターの周囲を、まるで光の筋のように駆け巡った。
彼の強力な重力操作が、今やフィールド全体を覆っている。一歩踏み出すごとに、足にかかる重力が千倍にもなるような錯覚。少しでも動きを止めれば、その場で潰されかねない。
「ちょこまかと!潰れろ、『グラビティ・ノヴァ』!」
オルターが天に向かって巨大な拳を突き上げた瞬間、周囲の空間そのものが歪んだ。私は即座に2本の刀を地面に突き立て、全身の筋肉を硬直させて耐える!
キィィィィン!
全身の骨がきしむ。体重は倍、三倍、十倍と増していく。この重圧から逃れるには、彼の懐に入り込むしかない!
「氷囮!」
私は最後の力を振り絞り、自身のわずか数メートル前方に、巨大な氷の結晶を出現させた。怨霊化したオルターは、その氷の存在に無意識に攻撃の意識を奪われる。彼の重力の中心が、一瞬だけ氷に向いた!
その一瞬こそ、私が求める全てだった。
私は刀を抜き、重圧を乗り越えて跳躍する。風の力で肉体の負荷をねじ伏せ、彼の巨体へと真っ直ぐ飛び込んだ。
「あなたを止める! 炎氷一閃!」
右手に握った氷織で彼の胸部の硬い皮膚を裂き、左手の炎織でさらに深く、彼の怨念が最も強く渦巻いている核へと突き刺す!
『ギィヤアアアアアアアアア!』
怨霊と化したオルターから、断末魔の叫びが上がった。黒いオーラが、傷口から噴水のように逆流する。私の刀は、怨念の核を正確に捉えていた。
彼の巨体は、一瞬でしぼみ始める。黒い皮膚は剥がれ落ち、角は砕け散り、血の赤だった瞳は力を失い、濁った元の色に戻る。
私は地面に着地し、荒い息を整える。目の前には、血と泥にまみれ、巨大なバトルアックスを握りしめたまま横たわる、一人の男がいた。その顔は、憎しみから解放されたような、静かな死の表情をしていた。
「……これで、ようやく……終わったんだ」
私の足元には、オルターの体から抜け落ちた、濃縮された怨念の残滓が黒い霧となって消えかかっていた。オルターは強かったけれど強さを求めるばかりに自分を壊してしまった。
戦いは終わった。次は王様を殺すそれで全てが終わるなら———
NOCHESです。
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