[44話] 化け物使いアルベール
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「やったか…?」
ルヴァンシュの声と共に竜巻は落ち着き、中の様子が見えた。けれどそこにはまだ数百体の動物が残っていた。やはり、爆弾程度では怨霊に強化された動物は倒せないらしい。それを見た私は一度セイバーとルヴァンシュを鞘の中に入れた。
「セイバー、ルヴァンシュ。少し本気を出すよ…身体能力50倍…起きろ!」
私は呪いで5倍憎しみで10倍まで身体能力を引き上げて、周りの動物のことを切り刻んだ。そうすると相手は私の方へ歩み寄ってきた。
「すごいね…君、やっと面白くなるような相手が来た…!今まではずっと強くない弱いだけの相手が大量に来ていたからもうつまんなかったんだよね。だからさっさと戦おうよ。僕の名前は…アルベール…怨霊の君が僕を倒しに来ている理由がわからないけど…面白い戦いをしてくれるなら、僕はそれでいいよ。」
相手はそう言い終わると、とんでもない光景を私に見せてきた。相手は私の目の前の空間を歪ませて、中から10体以上の肉食獣を出してきた。
『合体…融合…進化…』
相手がそう三つの単語を言い終わると私の目の前にいた10体の肉食動物は一箇所に集まり、融合し、新たな生物へと生まれ変わってしまった。
相手はなぜか動物を組み合わせたはずなのに、私の目の前には人型のものが立っていた。そして相手は体から斧を2本取り出して私に攻撃をしてきた。
「これで2対1だ…!君はどう対応するのか…やってみてくれよ…そうしないと死んじゃうよ…!」
相手は生み出した化け物と一緒に切り掛かってきた。私はそれを空中で避けながら、次の攻撃の一手を考えていた。
「私が1人に集中しようとしたら、もう1人が私のことを倒しに来るっていうことね…どうやって倒そうか…とりあえず…殺される前に一体殺し切ろうかな…」
私は、相手のことを慎重に見て2人が少し距離が離れた瞬間を狙い、化け物の方の首を切り飛ばした。けれど相手は首を飛ばされたにも関わらず、首を自分からもう一度つけて私にこういった『9』と。
(何の数字なの…頭を切り飛ばしても生きている生物がいていいの…!?けれど、相手が言った9っていう数字がヒントだと思うけど…)
私は殺しても死ななかった相手のことを考えて、どうにか攻略方法を考えていると、ルヴァンシュが私に話しかけてきた。
「イシュディア…難しいことは考えなくていい…あいつは合成に10体の動物を使った。そして僕たちが倒したのは1体、だから後9回倒せば倒れると思う。僕に主導権を譲ってほしい。一撃で9回屠るから。」
私はルヴァンシュに半強制的に体を奪われ、奪われたかと思うと私の目の前に化け物が崩れ落ちた。一瞬何が起きたのかわからなかったのだが、私はルヴァンシュが9回も私が気づかないうちに切り刻んだのだ。私は相変わらずのルヴァンシュの最強さを感じながら、主導権を返してもらっていた。
「これであなたの手駒はいない。これでどうするつもり…?」
私が主導権を取り戻すと、ルヴァンシュが化け物を屠った光景を見たアルベールは、一瞬目を見開き、そして愉快そうに笑った。
「はっはっは!素晴らしい!本当に素晴らしいよ、怨霊の君!今の僕の手駒は、確かに君一人だけになったね!」
彼はそう言うと、持っていた二本の斧をカランと地面に落とし、両手を大きく広げた。
「あの程度の存在は、僕の力からすれば指先で遊びで作ったものだ。けれど、君のその力は、僕の予想を遥かに超えている!そうだ、その力こそが、僕が求めていたものだ!」
アルベールは目を細め、全身からぞっとするほどの怨念のオーラを立ち上らせた。それは先ほどの化け物が生み出していたものとは比べ物にならない、深く、重い、純粋な悪意の塊だった。
「僕が君を倒しに来ている理由がわからない、と言ったね?それは僕も同じだ。怨霊である君が、どうして同族であるはずの僕を倒しに来たのか。だが、もうどうでもいい。君が僕を倒しに来たのなら、僕はただ、君を殺す。そして君のその素晴らしい力を、僕のものにするだけだ!」
彼は右手を勢いよく振り上げ、空中に五つの魔法陣を同時に展開させた。
「見せてあげるよ、僕の本気の攻撃を…こい…5たいのバケモノよ…」
五つの魔法陣から、それぞれ異なる色の光の奔流が放たれた。青、赤、緑、紫、そして黒。それらは私の周囲の空間を瞬時に覆い尽くし、一体の化け物となって私の目の前に立ち塞がった。そして相手は私の目の前の空間を歪めた。
(まずい…空間を歪曲させる呪いなんて、初めて見た!この中から自力で出るのは…!)
私が脱出方法を探っている間に、アルベールは次の行動に出た。彼は右の掌を私のいる空間の檻へと向けたまま、静かに口を開いた。
「君のその呪いは、身体能力を向上させるものだね。呪いと憎しみで50倍…僕も同じ怨霊だからわかる。それはとてつもない力だ。だが、どんなに速く動けても、どんなに力が強くても、触れられなければ意味がない。」
彼は笑みを深くした。
「空間を…伸ばせ…」
アルベールがそう命令すると化け物は私のいる空間を伸ばした。
その言葉と共に、私の体の動きがピタリと止まった。正確には、動いているつもりなのに、全く進まない。身体能力を50倍に引き上げた私でさえ、一歩を踏み出すのに永遠とも思える時間がかかっているような感覚に陥った。
(これは…重力の呪い…!?いや、違う!私の周りの空間の流動性が、極限まで引き延ばされている…まるで、永遠に続く道を突破しようとしているみたい…!)
アルベールは勝利を確信したかのように、ゆっくりと私の目の前まで歩み寄ってきた。
「君は空間を切り裂けない。空間の流れも操作できない。ただ身体能力を引き上げるだけの君の呪いは、僕の呪いの前では、あまりに単純すぎる。さあ、大人しくその力を僕に譲ってくれ。君の憎しみも、怨念も、全て僕が受け取ってあげよう。」
彼はそう言って、無防備に私の額に手を伸ばした。
(くそ…このままじゃ…!身体能力をいくら上げても、この呪いを上書きすることはできない…何か…何かこの呪いを打ち破る方法は…)
絶望的な状況の中、私の脳裏にある記憶が蘇った。かつて、セイバーが私に語った言葉だ。
「ルヴァンシュ、セイバー…」
心の中で二振りの剣の名を呼ぶと、私はわずかに動く口の筋肉を使い、静かに、そして決意を込めて言った。
「…私の憎しみは、50倍で終わるようなものじゃない…」
瞬間、私の全身から溢れ出る怨念のオーラが、アルベールが作り出した黒の檻を青白く輝かせた。
「身体能力100倍…起きろ!」
私の体は、呪いの限界値を超えてさらに加速しようともがいた。そして、ルヴァンシュが私に語りかけた。
「…イシュディア。僕の力が、今こそ君の憎しみに応える。」
体の中のルヴァンシュが、私の怨念の奔流に共鳴した。そして、一瞬だけ、空間の流動性を上書きするほどの、絶対的な切断の力が私に宿った。
「…起きろ。」
私がそう呟いた次の瞬間、私の動きを止めていたすべての空間の呪いが、一文字の亀裂となって砕け散った。
「なっ…バカな!私の呪いを、力で…!?」
驚愕に目を見開くアルベールに対し、私はすでに彼の目の前に立っていた。手には、鞘から抜き放たれたルヴァンシュが、冷たい青い光を放っている。
「…触れられなければ意味がない、と言ったのは、あなたの方よ。」
私はルヴァンシュを一閃。それは、彼の胸を切り裂き、彼の心臓へと直撃した。
「ぐっ…あ…」
アルベールは膝から崩れ落ち、私を見たまま口元から血を吐いた。
「…素晴らしい…本当に…面白い…」
彼は最後にそう言い残し、怨念の塊となって霧散した。
私がその場所に崩れ落ちると…いつしか私が聞いた、鐘の音が聞こえてきた。
NOCHESです。
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