[4話]墓標の丘で
宿屋の中で、ルヴァンシュが突然イシュディアに話しかけてきた。その内容は、イシュディアを怨霊化させるということだった。イシュディアはルヴァンシュから2つの道を提示され、王国を中枢から破壊して、クーデターを起こすという道を選んだ。イシュディアは王国の中枢に近づくために騎士団に入ることを決め、宿屋を後にしたのだった……
***
宿屋を出た後、私は城門へ向かった。
「君はどういうルートで王都へ向かうの?一応ルートを聞いておきたいんだけど…」
「1度アウムに戻って、そこから街を何個か経由して、王都へ向かうつもり。」
王都へは街を二つ経由するだけで着くことができる。私はだから、1ヶ月以内には王都に着くようにしたかった。
「なぜアウムに戻るの?僕は君の憎しみが食べられるからいいけど君はそうじゃないでしょ。」
「いや、私の家族の墓をせめて作ってあげようと思って。」
私は家族の遺体をそのままにしてこの街へ来てしまった。だから、お墓を作るために一度戻ることを決めていた。
「君は律儀だねぇ…僕はそんなことしなくていいと思うけどね。」
「せめてもの弔いだよ。私は何もできなかったから。」
私はこの話を切り上げるように早足で城門へ向かった。なるべくこの話は誰であろうと、して気分が良いものではない。
***
城門につくとギーデが門番として立っていた。
「おっその狐のお面はイシュディアか。もうこの街を出るのか?」
「そう、やる事が見つかってね。」
「アウムに戻って何をするんだ?」
「とりあえず1度アウムに戻って家族のお墓を建てようと思って。」
「そうか、けど気をつけろよ。アウムの方向に怨霊が出たっていう噂があるからな。」
前に怨霊が出た噂が聞いていたが、アウムまで来ているのは予想外だったけど、私も怨霊になったんだから、そこまで気をつける必要はない気がしていた。
「ありがとう、気をつけて帰るね。」
私はそう言って城門を出た。
***
アウムに向かって歩いているとルヴァンシュが話しかけててきた。
「怨霊が出るって門番が言ってたけど…どうするの?戦うの?」
「もしあったら戦ってみるよ。怨霊になった実力も知りたいし。」
私はルヴァンシュを振り回しながら答えた。こんなところで負けていたら、復讐なんて絶対にできない。
「戦うのはいいけど、イシュディアは戦った事があるの?」
「戦ったことがあるわけないじゃん_こっちはずっと平和な暮らしをしていたんだから。」
「そうだったね……アウムに着く前に槍の使い方を教えるよ。戦い方さえ教えたら戦えると思うからね。」
ルヴァンシュはやれやれという風に言いながら近くの森にやってきた。
***
「今から槍の使い方を教えるよ。」
「わかった。お願いします!」
今だけはルヴァンシュが先生で、私が生徒のように話を聞いた。
「事前に聞くけど槍使いの記憶って怨霊になる時に継承した?」
「継承って…?どういう…こと?」
私は聞いたことがない言葉を聞いて少し頭がこんがらがった。けれどすぐにルヴァンシュが教えてくれた。
「怨霊はみんな記憶を引き継ぐんだよ。君も記憶を探ってみたら体験したことがない記憶があると思うよ。」
私は頭の中に経験したことのない記憶の中から槍使いの記憶を探し出した。
「うん、あった。けれど…使っているのは私より身長が高い男性だね。これじゃあ、少しズレがあるから難しいよ。」」
「わかった。少し僕が君の手助けをしてあげる。ちょっと僕を握って目を瞑ってみて。」
なんだろうと思いながら私はルヴァンシュを握った。
「ほいこれで記憶を少しいじったよ。これで女性の記憶になってるはず。」
「本当だ…!これなら参考にしながら使えるかも!」
私の記憶の中にあった身長が高い男性は私と同じくらいの身長の女性に代わっていた。
「今日はここで野宿をしながら少し特訓かな。」
「寝るところはどこにあるの?」
私は辺りを見渡しながら尋ねた。ぱっと見てテントとか宿のようなものは一つもなかった。
「贅沢は言えない生活だから、木の上で寝るんだよ。襲われる心配も減るしね。」
私は嫌な顔をしながらも夜まで特訓を続けた。
「うーん?何か辺りが騒がしいような…」
鉄がぶつかり合うような音と人の声で私は目が覚めた。
周りを見てみると、馬車が盗賊に襲われていた。
「どうする?助けるの?」ルヴァンシュが聞いてきた。
「助けてみるよ。騎士団に入るために少しでも知名度を上げておきたいのと、実践の練習がしたいから。」
「怪我をしないようにね。相手は6人いる。僕がサポートするけど君は頑張って相手を倒してくれ。」
私は木の上から飛び降り馬車の元へ駆け寄った。
***
「大丈夫ですか?」私は馬車の方に呼びかけた。
「なんだ?誰だ!」盗賊は振り返ってイシュディアを見て、こっちへ走ってきた。
「バカか君は、死角からの一撃で1人は持っていけたのに!」
「真正面から戦わないと練習にならないでしょ!」私は覚悟を決めて盗賊たちの方へ走った。
盗賊たちは3手に分かれてイシュディアの方に向かって来た。
(誰から始末すればいい?挟まれるのが1番まずい。ここは左から始末しよう。)
私は左の盗賊たちの元へ駆け寄ると盗賊たちは私の首を狙って来たのを空中に跳んで躱した。
「なっ、眩しいっ」盗賊が私を目で追いかけて、太陽を直視した1人を空中から喉を突いた。
「まず1人。」
私はすぐさまもう1人の盗賊に向かって槍を振り、遠心力でスピードをつけ首を飛ばした。
「2人。」私は槍の先についた血を槍を振って血を飛ばしながら残りの盗賊を見つめた。
「かっ、囲め!一斉に攻撃して仕留めるぞ!」盗賊のリーダーらしき人が指示を出した。
「囲っても無駄だよ。」私は棒高跳びのようにルヴァンシュを地面に刺して、盗賊の頭上を飛び越えて囲われていたところから脱出した。
「これで終了。」私はそう言って盗賊のところに行き残りの盗賊の首を切った。
「ふう、人を殺した時、何も感情が湧かなかったな。」私はそう言いながら馬車へ駆け寄った。
「大丈夫でしたか?」私は馬車の中を見ると奥に小さくなって縮こまっている人を見つけた。
「とっ盗賊はどうなったんだ?俺は助かったのか?」
「盗賊は全員殺しました。もう安全だと思います。」
私は落ち着かせるように話した。
「そうか俺の名前はシアン。君は命の恩人だ。君の名前は?」
「私の名前はイシュディア。1つお願いがあるんだけど聞いてくれる?」
「もちろん。君は命の恩人なんだからね。」
「じゃあ隣街のアウムまで連れていってくれない?」
「別にいいが、そこはもう滅んだんじゃないのか?行って何するんだ?」
「家族のお墓を建てるの。私は巻き込まれ無かったらから。」
「そうか、それじゃあアウムに向かうから乗ってくれ。」
「ありがと。」私はそう言って、馬車に乗り込んだ。
数時間後
「ついたぞ。ここがアウムだ。お前さんはどこで降りるんだ?」
「ここでいいよ。馬車に乗せてくれてありがとう。」
「いいってことよ。命を助けてもらったんだからな。」
「またなー」そういってシアンは手を振りながら来た道を戻っていった。
「君の家はどこなの?」ルヴァンシュが聞いてきた。
「ここを真っ直ぐ行って、左に曲がって少し歩いたら私の家。」
震えた私を見て、ルヴァンシュが
「君は覚悟できているのかい?」と聞いてきた。
「私はまだ現実を受け入れられていないみたい。戻ったら、街が戻ってるんじゃないかって。何もかも私の見間違いなんじゃないかなって。けれど現実はそんなに甘くなかった。街は壊されているし、人の気配すらしない。神様なんていないんだね…」
「悩んでいてもしょうがないよさっさと君の家族のもとに行ってお墓を作ってあげよう。」
「それもそうだね。」
私は家のあった場所へ向かった。
「ここが私の家、家族もみんなここで亡くなった。」そういって私は瓦礫をどかし始めた。
「本当にこの街は家の原型を保っている家がないね。ほとんど焼け崩れている。」
数分どかしていると……
「うっ、、」すぐに3人分の骨が見つかった。私はそれを見た途端、目から涙がこぼれ落ちた。すぐに雨も降り始めた。
「どこにお墓を作るの?」
「城門を出た先に丘があるの。そこに埋めようと思っているよ。」私は涙を堪えながらそう言った。
丘に着くとルヴァンシュが「僕を使って穴をあけなよ。1撃で3人を埋めるくらいの穴なら作れる。」そう言ってくれた。
「ありがとう。」私は空に飛び上がって、地面にルヴァンシュを刺した。その時にできた穴に、家族の骨を入れて。上に墓石を建てた。『イシュディアの家族。ここに眠る』と書いて。
「今日は家族の元で寝るよ。久しぶりに会えたんだし、少し話したいこともあるから。」
そういって私は。墓石に話しかけた。
「私ね、王都の騎士団を目指すの。そこで騎士団で成り上がって、国の中枢を破壊して、この国を変えようと思ってるんだ。1人じゃ無理だけどね、武器のルヴァンシュが私に力をくれたの。私を怨霊にしてくれて、とても強くなったんだよ。1人で盗賊6人ぐらい倒せるようになって。あの時に私に力があれば、、。ごめんね。」
私はそう言って眠りについた。
「起きろ!起きろ!」ルヴァンシュの声で私の意識は覚醒した。
「とてつもない気配がこっちに近づいてる。怨霊に見つかったんだ。どうする。ここで戦う?」
「怨霊の実力がまだわかってないし、少しは強くなったと思うから戦うだけ挑んでみようかな。」
私は怨霊を見ながらそう言った。
第4話となりました〜NOCHESです。初めての戦闘回ということで若干変な描写が多いと思いますが、温かい目で見ていてください。日曜日は午前9時と午後9時に作品を投稿する予定ですので、午後9時の方の作品も見てみてください。




