ぼくがちょっと失敗した話
あなたはヒラメとカレイの違いを知っていますか。
どちらも平べったいサカナで、目が片側によっています。
左ヒラメに右カレイと言いまして、口を上にした場合にヒラメは口より左に目があり、カレイは口より右に目があります。
ヒラメはさっぱりした味で、刺し身やムニエルになります。
カレイは脂がのっていて、煮付けや唐揚げになります。
しいな ここみ様主催の『華麗なる短編料理企画』参加作品です。
ぼくは、パン屋さんを出たあと、ちょっとだけ『しまったかな』って思った。
手さげぶくろの中には、ほかほかのカレーパンが2つ入っている。
ほんとうは1つだけ買うつもりだったんだけど、今日まで使えるおまけ券を出したら、1つおまけでもらえちゃったんだ。
でも、小学生のぼくには2つはちょっと多いかもしれない。
家に持ってかえってもいいけど、できたてが一番おいしいんだよな。
「こんにちはなんだよ、タケルくん。どうしたの?」
声がして、ぼくはふりかえった。
そこにいたのは、長い髪の女の子がいた。クラスの友だちのコヨミちゃんだ。
「やあ、コヨミちゃん。カレーパン、1つ食べる? ぼく、よけいに買っちゃってさ」
「いいの? じゃあ、もらうんだよ!」
ぼくたちは、近くの公園のベンチにすわった。
木のかげで涼しいし、ふんすいの水もきらきらしていて、いい気持ちだ。
ふたりとも、水とうにお茶を入れてきていた。
ぼくはカレーパンをひとくち食べた。カレーのにおいが口いっぱいに広がった。
からすぎず、あまくもなくて、ちょうどいい味。
コヨミちゃんも、おいしそうに食べていた。すぐに食べ終わって、ぼくに話しかけてきた。
「ごちそうさま。おいしかったんだよ! ねえ、タケルくん。カレーパンってどこの国でうまれたか知ってる?」
「え? インドでしょ?」
「ぶぶー。ちがうんだよ。日本なんだよ」
コヨミちゃんが教えてくれた。
カレーは、むかしイギリスから日本にきた料理で、日本人が『パンにカレーを入れて油であげる』っていうアイデアを思いついたんだって。
だからカレーパンは、日本の発明なんだってさ。
コヨミちゃんって、ほんとうに物しりだなあって思ったら、コヨミちゃんがニコッとわらった。
「何でも知ってるわけじゃないんだよ。知ってることだけ、なんだよ」
「うわっ。心を読まないでよ、コヨミちゃん。ちょっとこわいからさ。……でもさ、カレーってイギリスから来たの? インドじゃなくて?」
「うん。昔はインドって、イギリスに征服されてたんだよ」
インドでは、スパイスをまぜてつくる、しゃばしゃばのスープみたいなカレーが食べられていた。
そのカレーに、とろみをつけてごはんにかけるようにしたのは、イギリス人なんだって。
「へえー。あ、そうだ。インドといえばさ、カラテとかスモウも、もともとはインドからきたって聞いたことあるよ」
「えっ!? あたし、中国からきたと思ってたんだよ」
「ダルマさんって、あるでしょ? あれのモデルになったお坊さんが、インドにいたんだって」
「それは知ってる! お寺で、ずーっと座ったまま修行してたお坊さんでしょ?」
「うん。そのお坊さんが、体をうごかす修行もしたんだってさ。
それが中国に伝わって、拳法っていう体のうごかし方になったらしいよ」
「なるほど~。じゃあ中国から日本に伝わったってことだね」
さっきコヨミちゃんが言ったことも、まちがいじゃなかったみたいだ。
「ダルマさんって、ころんでも起き上がるでしょ? そういう強い心が、武道にもつながってる気がするな。たしか『七転八倒』っていうよね?」
「それを言うなら、『七転び八起き』なんだよ、タケルくん!」
コヨミちゃんは笑った。
ぼくも、つられて笑ってしまった。