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三年目の灯  作者: 禿鷲
影追編
9/12

08話 羽曳山のデッドスポット

 プルルルル、プルルルル…ガチャッ。


「も、もしもし」


「もしもーし、どなた?」


「僕です。磯野薫です。」


「薫?はて……あ、あぁ!あなたね!なるほど……私に電話してくれたってことはつまり、仕事を手伝ってくれるってことで、いいのよね?」


 どこか甘ったるい声だった。明るいけれど、どこか掴みどころがない。それでいて成人男性特有の低い声。でも口調は女。

 藤原まさやの声だった。まぁ当たり前っちゃ当たり前なんだけどね。

 てかこいつ、絶対今俺のこと忘れてたよな。


「……はい。よろしくお願いします」


「うふふ、そう畏まらなくていいのよ♡」


「は、はぁ……。そ、それで、詳しい話はいつ聞けばいいんですか?」


「そうねぇ……。明日とかって暇?なるべく早い方がいいわね。だから、明日の朝……は無理か。学校だものね。だったら……。1番早くて何時にこれるの?」


「1番早くて16時に家に着きます。」


「じゃあ17時ね。17時に今から言うところに来てちょうだい」


 なんかまるで、バイトの面接みたいだな。

 いや、仕事っていう以上バイトみたいなもんか。


「っていうか、なんでなるべく早い方がいいんですか?」


「それは明日説明するわ。仕事の説明も含めてね」


 なんか含みのある言い方だな。


「わかりました。あと、お金返してください」


「え?あ、あぁ、お金?う、うん、そうねぇ。」


 電話越しでも、動揺してるのが分かる。


「ま、まぁ、明日返すわ……」


「そうしてください、全く。」


「こ、コホン。それより、集合場所なんだけど………」


「え?そ、そこって……」



――――――――――――



 翌日。

 学校が終わり、言われた集合場所に行く。

 そこは、家からすぐ近くの、「羽曳山」と呼ばれる山なら麓にある神社だった。そこは、地元では有名ないわゆる心霊スポットであり、地元では「デッドスポット」と呼ばれている。

 もっと他に名前あっただろ、とは思う。


 さて、到着。

 

「薫く〜ん!ここよ〜!」


 到着するや否やオカマに声をかけられた。最悪の気分である。


「よく来たわね!今日も男前よ♡」


「ちゃかさないでくださいよ。っていうか、なんでこんなところに呼び出したんですか?もっと他に場所あったでしょう?古本屋とか」


「あまり聞かれたくない話だからよ。それに、ここは私の家……というか、拠点でもあるわ。」


「え!?そうなんですか!?」


「そうよ。ちなみに、ここら辺ではこの神社が心霊スポットなんて呼ばれてるらしいけど、全くの逆だからね!幽霊なんて出ないし、むしろ私が結界を張ってるから、他の神社よりも安全なのよ!」


「な、なるほど……」


「ちなみに、この神社の正式名称は……って、まぁいいわ。それより、中に入ってちょうだい。話を始めるわよ」


――――――――――――

 

 

 神社の中は、外から見た感じと比べ、かなり綺麗だった。本当に住んでるんだ……。

 2人でちゃぶ台を囲うようにして座る。


「さて。では、仕事の説明をしなきゃね。仕事といっても、普通のバイトじゃない。これから話すことは、きっと君の人生を変えるかもしれない……覚悟はある?」 


 さっきまでのまさやの態度はフッと消えて、急に真面目モード。切り替え早いな。

 まさやの視線が鋭くこちらを見据える。僕の心臓は高鳴り、覚悟という言葉が頭をよぎる。


「……よろしい。では、話しましょう。

私たち、"送灯師"について」


 そこからまさやは語り始める。


「まず、送灯師っていうのはね、この世に残る霊を、成仏の光――“灯”へと導く者たち。未練を抱え、この世に彷徨う魂に、最期の安らぎを与えるのが私たちの役目。まるで、迷い子に帰る道を教えるようにね。」


「灯?」


「幽霊が成仏する時に発する光のことよ。その正体は分かってないけれど、一説によると、"霊が残した、最期の感情の残響"と呼ばれてるわ」


「最後の感情の残響?」


「平たく言えば、その人の最後の気持ちが、光になって残ったもの、かしらね。後悔、感謝、愛情、安心……そういう強くて深い感情が、成仏の瞬間に“ふっ”と光になってあらわれる。それが"灯"の正体といわれてるわね」


 なるほど。その灯が霊の旅立ちを確かめる“最後のサイン”のようなものなのか。


「じゃあ、その成仏させるまでには何をすれば良いんですか?」


「そうね、まず、霊を探すところからね。まず、未練のある幽霊は、その未練を晴らしたいと思いながら現界にいるものでしょう?だから、そっちからきてもらうのよ」


「どうやって?」


「例えば、張り紙をするとか、霊にしか見えないペンキでどこかに書くとか……。いろいろ施して、幽霊がわかるようにするの。あなたの未練、晴らします♡ってね」


 いや、♡はいらない。


「実際それで来るものなんですか?」


「まぁそうね、1、2週間に1人とか?」


「まぁ、そんなもんですよね。そんな頻繁に人が死んでるわけじゃないし。自分からは探しに行かないんですか?」


「行かないことはないけど……まぁ、それはおいおい説明するわ。いっぺんに言われてもわからなくなるでしょう?」


 まぁ、確かにな。


「その後、来てくれた幽霊から話を聞いて、未練を晴らす手伝いをするのよ」


「なるほど……。というか、この神社って結界あるんじゃありませんでしたっけ?それは大丈夫なんですか?」


「あぁ、結界はあくまで悪霊向け。普通の幽霊にはなんの害もないわ。」


「ご都合主義的な……」


「失礼ね!結界の歴史は古いのよ!」


 まぁ、それはさておき。


「じゃあ、今はとりあえず依頼を待つ形ですか?」


「いいえ、もう仕事は決まってるわ」


「え?依頼来たんですか?」


「いいえ、そういうわけじゃないけど。あなた、最近変な夢見なかった?」


 変な夢……?うーん、思い当たるのは……


「あー、確かに見ましたよ。家の近くの公園で、自分が知らない女の子と話してる夢。妙にリアルだったから、覚えてますよ」


 まさか、それが幽霊のせい!なんて言わないよな笑


「それ、幽霊のせいよ」


「………え?」


「幽霊がね、あなたに語りかけてきてるの。この前言ったかもだけれど、あなたには"素質"があるから。幽霊から見てもあなたは異質だったんでしょうね。それより、早く成仏させないと、"悪霊化"するかもよー」


 だからなるべく早いほうがいいって言ってたのか!


「まぁ、よかったじゃない。初仕事の現場が自分の家で。さて、あなたの家に案内してちょうだい!!」


「いや、よくないですよ。それと、お金返してください」


「早速、しゅっぱ〜つ!♡」


「ちょ、無視しないで!」


 かくして僕は、送灯師?としての初めての仕事に向かうのであった。

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