06話 師匠を名乗る怪しい人物
2020年4月13日 水曜日。
約束の日である。
学校が終わり、家に帰宅した時点で、時刻は16時。約束の時は確か、夕暮れ時だったはず。
まぁ、今から向かっても遅くないだろう。
そう思い、玄関まで向かう。持ち物は……何も持ってかなくていっか。
「薫〜?どこいくの〜?」
玄関先まできたところで、ばあばに話かけられる。
「え!?ちょ、ちょっとランニングでもしてこようかな〜って、、。」
これじゃ嘘ってバレバレだ!いや、嘘をつく理由もないのかもだけど。
「ふ〜ん、。まぁ、夕飯前までには帰っておいで」
「はーい」
そうして俺は家を出た。
家から駅前の古本屋までは、約10分ほどである。古本屋へと向かいながら、海の方を眺めつつ、考え事をしていた。
手紙の主、仮に母さんの師匠だとして、その人の手紙の中での口調は女性だった。ということは、女性の方なのだろうか。美人だといいなぁ〜。
なんてくだらないことを考えていたら、あっという間に着いた。
緊張した面持ちで、店に入る。
カランカラン
「おーい、こっちよ〜!」
店内から声をかけられる。声のする方を見てみると、こちらに手を振っている人物がいた。窓際の席だ。
その人の座っている向かい側の席に座る。
「初めまして。私があなたに手紙を出した者よ。
名前は藤原まさや。絶賛彼氏募集中よ!!」
その人は、銀髪のロングヘアをしていて、和モダンなスーツ風着物を着ていた。顔は整っており、中性的な顔立ちである。一見女性に見えなくもないが、そのガタイが男であることを物語っている。
そう、"男"なのである。
否、彼は、"オカマ"だった。
思考が停止する。ん?ドユコト?私?彼氏募集中?
「あら〜、どうしたの?そんなに見惚れちゃってぇ、そんなに見られたら、私キュンときちゃう♡」
「うげぇ〜〜〜〜〜〜!!」
「ちょっとちょっとぉ!人の顔を見るなり、それは無いんじゃないのぉ!?」
――――――――――――
コホン。気を取り直して。
「初めまして、藤原まさやです。絶賛かれ」
「いえ、その下りはもういいです」
スパッと遮る。
話が進まないからな。深呼吸深呼吸。
「初めまして。僕は磯野薫といいます。」
「あら、礼儀がいいわね。そういう坊やは好きよ♡」
「もう、そういうのやめてください。不愉快です」
「あら冷たい」
なにが、あら冷たい。だ。
「それで、なんで僕をここに呼んだんですか?」
「ええ、そうね。それを話さなくちゃね。まずはおめでとう。凪さん……いえ、お母さん、無事に旅立てたみたいね。私としても安心したわ。」
やっぱり。母さんを知ってるんだ。この人は。
「あの、母さんは、師匠に色々教えてもらったと言っていました。霊界のことや、成仏のことを。それってもしかして、あなたですか?」
「いかにも!あなたのお母さんがフラフラしていたので、私から声をかけたのよ。あなた、このままじゃ悪霊に成り果てるわよ?って。」
「なるほど……。それはどうも、ありがとうございました。」
「いいのよ。私はそれが仕事のような者なんだから」
「仕事?」
「ええ、まぁ。それはまた後で説明するわ。それより私があなたをここに呼んだ理由は、あなたの様子を見るためよ」
「僕の様子?」
「ええ。あなたのお母さんは、もし私が成仏することがあったら、もしそれで、傷ついていたら。どうか、息子の面倒を見てやってくださいってね。まぁそんな義理はないのだけれど、乗りかかった船だから、どうせならと思ったのよ」
母さん、そんなことまで心配してくれてたのか…。
少し涙ぐむ。
「そう言うことですか…。それなら、大丈夫ですよ。母さんの死を受け入れましたし、前を向くこともできています」
「そう、それなら安心したわ。んじゃ、私の仕事はここまでね。いい?このことは私たちだけの秘密よ?口外厳禁。わかった?」
「は、はぁ…。」
「それじゃ、元気にやりなさいよ」
そう言って帰ろうとしている。え?これで終わり?
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!何帰ろうとしてるんですか!?」
「なによ、私の出番はここまでよ。それとも、何か依頼があるの?悪いけど、依頼料はいただくわよ。」
ちゃっかしいな!!
「違いますよ!僕の質問がまだですよ!」
「あらあなた、私に質問したいの?ガキのくせに生意気ね。」
「ガキは関係ないでしょう!?僕が聞きたいのはあなたの仕事についてです!」
それを聞いた時、彼がニヤリと、一瞬笑ったような気がした。
「あら、気になるの?私の仕事。悪いけど一般人じゃ……あら、あなた……」
急に目を細めてじっと見てくる。なんだこいつ、気持ち悪りぃな。
「そんな露骨に嫌な顔しないの。それより、あなたもしかして、何か病気患ってない?」
「な、なんでそんなこと」
「わかるのよ、私には」
「その人が病気かどうか?」
「いいえ、違うわ。その人の死期よ。大まかにだけどね。」
ドクンと、心臓が跳ねるのがわかる。
「……実は、心臓病なんです。医者には、余命三年だって言われました」
「なるほどねぇ……」
そしたらそのオカマは、だったら、任せてもいいかも……。などと、ぶつぶつ独り言を呟き始めた。
「あのー、なんですか?それで」
そう話かけた瞬間、こっちを見るオカマ。
「あなたに耳寄りな話があるんだけど、どう?」
怪しい。実に怪しい。
「うーん、まぁ、母さんの恩もあるし、聞きますよ」
「あら〜、ありがとう♡話がわかる男は好きよ♡」
こいつ、合間合間に告白してきやがって。
無視無視。
「それで、聞かせてもらいましょうか」
それを聞いた彼は、こちらに向き直り、さっきまではなかった、真面目な面持ちになった。
……何かを悟ったように、まさやの瞳が細まる。
空気が一瞬、張りつめた。
「あなた、私の仕事を手伝わない?」
それが、僕と藤原まさやの、最初の出会いだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
それと、150PVありがとうございます……!
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私としても励みになります!
さて、次回からいよいよ、"霊のプロ"としての話に入っていきますので、お楽しみに!